東日本大震災をはじめ、熊本の震災、広島の水害や北海道の大規模停電は記憶に新しい災害です。
災害などの非常時は、ふだん当たり前にあることが、当たり前ではなくなってしまいます。
電気、水、ガス、物流のライフラインが絶たれた生活というのは、大人でもつらいものです。
こだわりの強い発達障害児にとってはなおさら、いつもと同じように電気が使えない状態や、避難しなくてはいけなくなるような状況は大きなストレスになります。
私と子どもたちは、東日本大震災の起こった時、北関東に住んでいました。
内陸だったため津波の被害はありませんでしたが、停電、断水、物流の麻痺を経験しました。
当時今ほど発達障害の知識のなかった自分は、本当に苦労しました。
また、先日の台風でも二日間にわたって停電し、東日本大震災から7年分成長したはずの子どもたちが戸惑う姿に危機感を覚えました。
経験していないことは想像することが難しく、見えないものは「ない」と感じてしまうことの多い発達障害。
そのため、存在することが当たり前の目に見えないライフラインがストップすることは、発達障害児には理解に苦しむ出来事なのです。
この記事では、我が家の子どもたちが東日本大震災と台風による停電の時にどのようなことで困ったのか、また、どのように説明することで理解してくれたのか、そして、発達障害児を育てるうえで子どもたちにできる災害時の備えについてお話しします。
災害は怖いものですが、「怖いもの=よくわからないもの」であるのは大人も同じことですよね。
親御さんが災害についての備えを知ることで、子どもたちにも落ち着いて対応することができるようになります。
我が家の被災体験
我が家の子どもたちは、東日本大震災と台風による停電を経験しました。
✓2011年3月東日本大震災
当時、長男は小学一年生、アスペルガー症候群とADHDの診断を受けて半年程度で、次男は3歳でした。
小学校の下校時間頃の地震だったため、長男は学校にいて、下校の用意をしているときに地震にあいました。
最大震度7の余震もあり、迎えに行った時にはグラウンドに避難していた生徒たちの中でも、学年が上の子ほど、怖がって泣いていたのを覚えています。
当の長男はというと、地震の怖さがわからないのか、ケロッとしていて早く家に帰りたいと騒いでいました。
次男は3歳になったばかりで、自宅で被災しましたが、台所の食器棚からたくさんのものが落ちて割れる音や、金魚の水槽が揺れて水が飛び出したりするのをみて怖かったようです。
電気は3日ほどで通電しましたが、浄水場が被災したため、水道は2週間ほど地区ごとに時間を区切って配水されました。
高速道路の通行止めもあり、物流が滞って、ガソリンや商品が入荷しない状況もかなり長く続きました。
✓2018年10月台風による停電
台風が原因で、市内全域で停電が発生しました。
長男は中学3年生、次男は小学5年生。
台風が来ることはわかっていたので早めに雨戸を閉め、お風呂もいつもより早い時間に済ませて早目に寝るようにしました。
停電が起きたのは日付が変わる前ぐらいだったので次男は寝ていて気がつかず、また、長男も布団に入っていたのでそれほどの不便を感じることも無くそのまま寝てしまいました。
翌朝確認してみるとガスや水道は使えたため昼間は問題なく過ごせたのですが、夜が真っ暗になってしまうため困りました。
また、周囲の家の屋根瓦が飛んできて、我が家の軒先のトタンを突き破って庭に散乱、長男の部屋の雨戸は、瓦が直撃したのか大きくへこんでいる箇所があり、雨戸を閉めていなかったらと考えたらぞっとしました。
発達障害児にとって非常時はどのようにつらいのか
「非常時」とは、字のごとく、「日常では非ず」、の状態です。
いつもは当たり前にあるライフラインが絶たれるという状況は、もちろん、健常児でも大人であっても不安でストレスフルな日々です。
そんな大人でもストレスになる非常時のつらさは、子どもにとってはさらにストレスになります。
また、発達障害児は健常児よりも辛く感じてしまうのです。
その理由は、発達障害の特性にあります。
「いつもとおなじ」が安心
発達障害児の多くは、「いつもとおなじ」ことにこだわります。
たとえば、
- 登園ルートや、お買い物に行くときの通り道がいつもと違うと落ち着かない
- いつもやっているテレビ番組がやっていないだけで不安がってしまう
- NHKの幼児番組など、春の番組改編で番組の順番が変わったことになかなか納得できない
発達障害児は「いつもと違う」状況に陥ってしまうと、何が起こるかわからない不安が先立ってしまい、普段ならできること、我慢できることも「いつもと違う」という理由だけでできなくなってしまいます。
それは、障害特性によって「いつもとおなじ」であることに安心感を求めているからなのです。
その安心を下支えに、頑張ることができているのです。
「いつもと違う」の感じかた
周りの状況を適切に読むことが難しい発達障害児は、非常時についても察することが難しい子が多いです。
ニュースや会話で、表面上はわかっていても、本当の意味での理解をすることが難しいのです。
我が家の子どもたちも、知的には問題がない発達障害ですが「停電しているから電気が使えない」ことについて納得することができず、困ったものでした。
発達障害児は、たとえ非常時であっても自分がいつも通りに頑張る下支えのために「いつもとおなじ」ことを求めており、それが満たされないとできることもできなくなってしまい、パニックになってしまいます。
このことから「いつもとおなじ」にこだわるポイントが多い子ほど、非常時のストレスは増えてしまうことでしょう。
非常時に実際に困った「いつもとおなじ」
ここからは、我が家の子どもたちが実際に被災した際にこだわってしまって困っていた「いつもとおなじ」と、その状況にどう対応したのかをお伝えします。
電気
停電すると使えなくなるものがたくさんあります。
東日本大震災の当時、まだ肌寒い時期だったのもあり、暖房を使う必要がありましたが、我が家ではメインの暖房器具が石油ファンヒーターでした。
子どもにとっては、どの機器が電気がないと使えないのかを理解するのは難しいものです。
「何で使えないの!」という子どもに、いちいち「ここから電気を入れて使っているからだよ」と説明しなくてはいけないことになり、お互いにイライラしてしまうことになってしまいました。
しかし、こればかりはその都度なぜ使えないのかをしっかり説明するしかありません。
現在は、電力会社のホームページで停電の状況を見ることができ、また、復旧予定がわかっている場合にはそれも記載されています。
はじめは停電しているエリアが表示されているだけですが、時間を追うごとに復旧したエリアも復旧時間が表示され、電気の通っているエリアが増えていくのが目で見てわかります。
今回の台風による停電のときには、子どもたちにもそれを直接見せて説明しました。
次男は、復旧時間が深夜早朝だったときに「こんな時間まで直してくれていたんだね」と感謝していました。
目で見たほうが理解しやすい発達障害児が多いため、オススメです。
具体的にどのような範囲でどのぐらいの戸数が停電しているのか、復旧しているのかを知ることで、自分の家ももうすぐかな、と少し落ち着くことができていました。
学校の予定
東日本大震災後から春休みまでの数日間、停電と断水が続いたため、学校の予定が大幅に変更になりました。
授業時間の変更、授業内容の変更、電気が付かないなど、学校も万全の体制ではありませんでした。
しかし、家の中もぐちゃぐちゃになっている状況では、子どもを学校に行かせて、その間に家を片付けることができるのは大変ありがたく感じましたが、学校に行く長男本人にとっては、非常に大きな変更を強いられることが大きな不安でストレスだったようです。
家でも学校でもいつもと違うことばかりで困っていた長男のために、再開された学校に一緒に行くことにしました。
一年生で小さかったこともあり、クラスの生徒たちみんな、落ち着きがない状態になってしまっていました。
そんな状況でしたので、朝の会に付き添って、
- 先生が授業内容や授業の開始終了時刻の変更などを、全員への指示として口頭説明
- 用意したメモ用紙に、長男がわかるように必要なことだけを抜粋して書き留める
- それを筆入れの中に貼り付けておく
というサポートをしました。
長男は目で見てわかるようにしてあれば理解ができる子でしたから、これで落ち着いて過ごすことができました。
非常時、家でもいつもと違うことを強いられ、学校でもいつもと違うことが起こるとなると、子どもは落ち着く場所がありませんよね。
少しでも安心して過ごせるよう、学校に足を運んで子どものサポートをするのも、保護者が与えてあげられる安心感の一つです。
テレビ番組
東日本大震災の頃から、NHKでは教育テレビはいつも通りの放送をしてくれるようになりました。
おかあさんといっしょの歌のおにいさんおねえさんの交代も、子どもたちのストレス軽減のために先延ばしにされたと聞きます。
震災によって日々不安とストレスだらけの生活をしている子どもたちにとって、「いつもの時間に、いつもと同じ番組がやっている」ということが、どれだけ大切なことかということを考えてのことでした。
災害が起こった時には各局のテレビ番組が変更されて被災地のニュースを放送し続けることも多くあります。
そのため、これは大きな災害が起こった被災地のみならず、他の地域でもいえることですね。
番組はそのままで、放送画面を小さくして縦横に災害情報を流している場合もありますが、我が家の次男は東日本大震災がトラウマになっているようで、自分がいる場所が災害の影響のない地域であっても不安がって怖がってしまうので、番組を見ることそのものが無理でした。
そんな子にはぜひ、好きな番組を録画したDVDを用意しておくことをお勧めします。
電気が使えない可能性も考えて、HDDではなく、DVDやBDのディスクに移しておくとよいですよ。
ポータブルDVDなどの再生機器があるとなお安心ですが、車のナビなどに再生機能がある場合はそちらを利用するのもいいでしょう。
動画サイトやSNS、ニュース
今回の台風による停電で、テレビが見られない、部屋の電気がつかないことについては、子どもたちは特に問題を感じていない様子でした。
しかし、丸一日たった頃から、動画やSNSが見られないということに不安を覚えてイライラしはじめていました。
我が家では、Wi-fiに繋いで動画やサイトを閲覧できるようにしたタブレットをそれぞれが持っています。
しかし、停電によってWi-fiルーターが使えないため、タブレットの充電があっても「いつもとおなじ」動画を見ることやSNSを見ることができなくなってしまったのです。
長男に至っては、「フリーWi-fiがあるところまで行ってくる」と出かけていってしまうほど、電波がない状態に不安を覚えているようでした。
次男はひとりで出かけることが難しいため、私のスマホからテザリングをしていつものタブレットでいつもの動画を見ることで安心していました。
テザリングとは、回線につながっているスマホをWi-fi親機として利用し、その回線に子機に当たるタブレットなどが相乗りする通信方法です。
その状態になっても、親機にしたスマホも通常通り通信できます。
設定は各スマートフォンによって異なりますが、
- 親機とする機種で〔設定〕-〔インターネット共有〕などの表示がされている箇所を開くと、パスワードが表示される
- 接続したいタブレットなどからWi-fiスポットとして表示される親機を選ぶ
- 親機に表示されているパスワードを入力する
これで、親機の回線に相乗りすることができます。
テザリングは、電波の届く範囲が狭いため、二台が近くにある必要があります。
また、親機を通して通信するため、親機のバッテリーも消耗します。
充電の心配がある場合には、長くは使えません。
モバイルバッテリーを用意しておく、乾電池から充電できる充電器を用意しておくなどの準備も必要ですね。
我が家では、東日本大震災のときにも携帯の車載用充電器をもっていたため、車のエンジンをかけて温まるついでに充電をしていました。
現在は、車載用のUSBポートを用意しています。
USBポートがあればいつもの充電ケーブルを使って充電することができるので、車載専用の充電器を用意するよりもいろいろなものの充電に利用でき、便利です。
最近の自動車には、直接家庭用コンセントを挿して使えるようになっているものもありますので、一度チェックしてみることをお勧めします。
トイレ
東日本大震災当時、ウォシュレットのついた便座を使っていました。
子どもたちはトイレについては自立していたのですが、手先の不器用さからきれいにお尻を拭くのが苦手でした。
そのため、普段からウォシュレットでお尻を洗うことにしていたのですが、水も電気も止まってしまい、これが使えないことには相当困りました。
その経験をもとに、その後はウォシュレットが使えなくてもお尻をきれいにできるように、トイレに流せるタイプのおしりふきを常備するようにしていました。
トイレットペーパーをいつも通り取った上におしりふきを重ねてから拭くことで、便が手につくリスクも減り、流して捨てられるタイプを選ぶことで、不潔なゴミを減らすことができます。
今年の台風による停電でも、ウォシュレットの電源が入らないため使うことができませんでしたが、子どもたちが成長していたこともあり、今回は特に不便を感じなかったようです。
東日本大震災の時、お風呂の残り湯でトイレを流すことができ、大変助かりました。
その教訓をもとに、我が家では、翌日お風呂に入る直前に掃除をすることにしています。
特に、家族が多いほど、トイレが流せないというのは大変なストレスになります。
お風呂の手桶では水量が足りないので、持ち手のある大きめ、かつ、一人で持ちあげられるサイズのバケツを用意しておくこともお勧めします。
食事
東日本大震災当時、ガスはプロパンガスを利用していました。
プロパンガスは、外にあるメーターの復旧ボタンを押せば利用再開はできたのですが、余震が怖かったことと、電気も来ていなかったためガス探知機が働かず、ガス漏れなどが怖かったため、電気が通るまでは利用しませんでした。
また、我が家では災害への備えが不十分で水の買い置きをしていなかったので、震災後、急いでホームセンターに買いにいきました。
電気がないためお店の人は大変そうでしたが、何とか手に入れることができました。
台所に入れないのと、子どもたちが断続的な余震を怖がって屋内に入れなかったため、カセットコンロを屋外で利用していました。
セットコンロは風があると火が安定しないため屋外での使用には十分気をつける必要がありますが、防災グッズと一緒に用意しておくとよいですよ。
次男も高学年になり、火の危険性が十分理解できるようになった現在は、普段から機会を見つけて屋外調理をしています。
火おこしの段階から子どもたちに手伝ってもらい、どのように調理の準備をするのか、どのように後始末をするのかを教えています。
もちろん非常時にも七輪やバーベキューコンロを利用できるよう、炭や着火剤を常備しています。
ガソリン
東日本大震災のときは、石油コンビナートの被災と、物流がストップしたことが重なって、ガソリンや灯油などの燃料がスタンドに届かず、営業しているところには長蛇の列ができる事態になっていました。
私は実家が400キロほど離れた遠方だったこともあり、長男の小学校が春休みになると同時に実家へ避難しました。
このように、非常事態が長引く際や遠くへ避難する必要性が予想されるときに、車のガソリンが少ないのは不安です。
車のガソリンに不安がなければ、様々なことが賄えます。
- エンジンをかけて冷暖房を使うことができる
- スマホ、ゲームなどを充電することもできるので、それで遊んでいる間は少し落ち着いていてくれる
- テレビが見られる、DVD再生機能があれば好きなものを見て時間を過ごすことができる
我が家では、非常時に備えて、ガソリンが半分になったら給油するようにしています。
食品
食品も流通が止まり、お店には在庫以外の商品がない状態が長く続きました。
生鮮食品はもちろんのこと、賞味期限が短いものは軒並み入荷せず、品切れ状態が長く続きました。
次男は牛乳が大好きなのですが、東日本大震災のあとは牛乳がなかなか戻らずに苦労しました。
その時にはじめて常温保存できる牛乳を飲ませてみましたが、「味が違う!」と怒ってしまってダメでした。
また、次男は毎日投薬しているのですが、薬を飲むときに牛乳でなくては飲みこめないという癖がついてしまっています。
そのため、我が家では東日本大震災のときの教訓から、冷蔵庫には未開封の牛乳パックが必ずある状態にしています。
それでも、一日に二回薬を飲むときに使うとかなり減ってしまいます。
5年生に成長した先日の災害時には、工場が停電してしまって牛乳が生成できないことを説明すると、「工場の人も牛さんも頑張ってるんだね」と納得してくれました。
次男は他にも強い偏食があり、食べられるものがとても限られています。
しかし、非常時にはいつもと同じものが用意できるとは限りません。
次男の小学校では、非常時のために学校で備蓄している非常食を年に数回、給食で提供します。
味に敏感なお子さんも多いですから、家で備蓄している非常食についても、一度食べさせてみることをお勧めします。
現在では長期保存できるパンや、水を入れるだけで食べられるアルファ米にも味付きのものもあり、お菓子類もいろいろな種類が販売されています。
自分の子どもが必ず食べられるもの、そして、喜んで食べるものを一つは備蓄しておくことが必要です。
非常時に備えて
家で生活することができない状況になった場合、避難所などに寝泊まりする必要も出てきます。
そのようなときに備えて、我が家ではキャンプに出かけて非日常を体験させています。
- 狭いテントで寝袋に寝ること
- 夜になったら電気がなければ暗いこと
- 外で食事すること
- お風呂に入れないときがあること
これらを平常時に安心して体験しておくことで、「キャンプの時みたいだね」と安心して過ごせた経験を思い返すことができます。
家で安心して過ごせることはもちろん大切ですが、家とは違う環境でも安心して過ごせた「経験」があれば、発達障害児にとってこんなに心強いものはないでしょう。
まとめ
我が家の子どもたちが被災したときに困ったことと、その時の対処法を紹介しました。
最近では、子どもがいる家庭での非常時に対する備え方などを紹介している講座も開催されています。
一般的に紹介されていることとかぶる部分もありますが、発達障害児がいるご家庭では、そこにさらにひと工夫加えることが必要になってきます。
自分の子どもが非常時に少しでも落ち着いて過ごすことができるよう、家庭で用意できることは何なのか考えてみることをお勧めします。
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