私には25歳になるADHDと自閉症併用型の最重度発達障害の息子がいます。
息子のIQは20程度、障害の判定は最重度ですが、感情豊かに表現やお話をしてくれる姿を見て、こんなに幸せな日がやってくるとは思わなかったくらい毎日平和に過ごしています。
息子は幼い頃より様々な療育を受けてきました。
その中でも特に有効だったと感じる応用行動分析学や、言語療法、音楽療法、スポーツについてご紹介いたします。
「子どもが発達障害かもしれない」と不安な親御さんや、お子さんが発達障害と診断されたばかりの親御さんの希望の光になることが出来れば幸いです。
発達障害の診断
発達障害が発覚するのは1歳半検診の時が一番多く、筆者の息子も1歳半検診で「発達障害の疑いあり」と言われ、発達療育センターへ行き正式な診断を受けました。
当時の診断名は「広汎性発達障害」(自閉症の疑いあり)でした。
「まさか自分の子どもに障害があるなんて」とショックを受けましたが、何とか気持ちを切り替えて進むしかありませんでした。
祖父母たちもショックを受けていました。
「子どもの発達障害を受け入れる」ということは、一番難しいことではないでしょうか。
子どものありのままを受け入れることができた時、私は自分のことも子どものことも本当に愛することができたのです。
療育の始まりと新しいST(言語療法)指導者との出会い
発達障害がわかった時点で息子に療育を受けさせることを決め、発達療育センターにて「ST(言語療法)」と「OT(感覚統合訓練)」を月に2回ずつ受けるようになりました。
しかし思うように成果は上がらず、個人的に言語療法を実践されている指導者を見つけ、そこで新しい言語療法を受けることで飛躍的に言語が発達していきました。
息子は3歳まで言葉が何も出ませんでした。
3歳を過ぎてやっと単語が出たのですが、それからもスローペースの習得でしたが、新しいST指導者との出会いで急激に発語の成長が見られるようになりました。
週1回の言語訓練をする中でその指導者から言われたことは、「息子さんにとっては親御さんが1番のセラピスト。週1回の療育だけでなく、家庭で1日15分毎日お子さんとプラクティスすること」でした。
「1日のうちたった15分でいいから続けてみて」と励まされて、私も息子と家庭内療育をスタート。
「療育で習ったことを1週間家庭でも継続して療育する」という家庭と療育施設の連携スタイルはとても効果が上がり、やがてはそこへ学校も加わり、家庭・療育・学校が大きく関わりながら、ひとりの子どもを育てていくベースになります。
親が発達障害児を抱え込み、一人で悩むという時代は終わりました。
その代わり、親御さんも指導者任せにせず積極的に療育に関わることが、発達障害児の未来を大きく変えることに繋がります。
文字カードで習得
息子の可能性を引き出してくれた言語療法は、五十音の文字を5cm角のカードにゴシック体で印刷し、カードの文字をランダムに読んで覚えさせるということから始まりました。
いつも同じ並びでは彼らもその通りに覚えてしまうので、ランダムな配置にすることで文字自体を覚えていくという方法です。
「う」「こ」「せ」「ま」「や」等の文字カードを、日々ランダムにフラッシュカード(目の前に短時間カードを見せて、大量の情報を脳に記憶させる)のように文字を覚えていくことで、1ヶ月もしないうちに五十音の文字を覚えることができました。
発達障害の療育にフラッシュカードは有効で、これは指導者が週1だけ療育をするのではなく、親が毎日続けて療育をすることがカギ。
毎日この療育をすると言っても、カードの訓練は1日15分だけ(それ以上は親子共に集中力が続かないため)。
しかし、この15分を取ることで、息子の人生も私の人生も大きく変わったのです。
家庭でも出来る感覚統合療法
発達障害児の中には、神経過敏という特徴を持っている子もいます。
ヘアカットを極端に嫌がったり、突然人から触られることを激痛に感じたりと、他人とは少し違う感覚を持っていることもあります。
その神経過敏さを和らげる療育が、感覚統合療法です。
療育施設では、感覚統合訓練を受けることが出来ます。
しかし「感覚統合訓練も月に2回受けるだけでは効果が少ないかもしれない」と思い、我が家では息子の自室にボールプールを設置し、家庭に療育プレイルームを作りました。
ボールプールと言っても安価なビニールプールにカラーボールを敷き詰めただけですが、それでもとても喜んでくれました。
ボールプールの刺激は彼らの皮膚を通じ、たくさんの五感を刺激することに繋がります。
また、発達障害児を育てる上で、療育の開始時期が肝心です。
療育を通して小学校入学前までにたくさんの経験をすることが、それ以後の対応力に繋がるのです。
応用行動分析(ABA)に基づいた療育と子育て
応用行動分析(ABA)では、発達障害児が起こす不適切な行動や問題行動(思い通りにならないと暴れる・騒ぐ・暴力等)が、子ども本人だけが原因ではないと考えられます。
発達障害児と支援者や、環境との関わりの相互作用で問題行動が起こるというメカニズムから、問題行動の原因を子どもに求めず、支援者の対応や周囲の環境を整えていくことで問題行動が起こりにくくするという療育です。
応用行動分析の概念を知るまでは、息子にパニック症状が出て泣きわめくたびに腹が立つ時もありましたが、「息子も環境に適応出来ず、苦しんでいるのかも」と見方が変わりました。
幼少期はパニックで大泣きをする、かんしゃくを起こして暴れる、腹いせに食べたものを嘔吐するなど様々な問題行動がありましたが、応用行動分析に基づいた療育では、彼らの問題行動そのものが起こりにくくなる様に環境を整えることから始まります。
この応用行動分析に基づく接し方は、子育てだけでなく私の物の見方を大きく変えてくれる概念でした。
💡息子の例:イライラすると椅子を投げる → 成功体験を積み、メリットに気づかせる
我が家では、息子がイライラすると自分の椅子を投げてしまうなどという衝動性があり、家族はみんな困っていました。
でも、「椅子を投げないで!」と言っても本人には伝わりません。
それで、「椅子は座るもの」ということを教え続け、椅子に3分座っていることができたら○としてシールを貼っていくようにしました。
最初はこの3分が長く、何度もイライラして椅子を投げていましたが、何度かするうちに待てるようになってくるのです。
「シールが10個たまると、本人の好きなブランコをする」というシステムにし、親子で成功体験を味わいながら楽しい遊びがご褒美になっていました。
やがて「椅子を投げないと、みんなが喜ぶ。自分もブランコに乗れて嬉しい」と椅子を投げないことのメリットが本人にわかるようになり、椅子を投げるという問題行動はなくなりました。
このようにしながら、数々の問題行動をクリアしていった息子は、人への他害も格段に減ったのです。
学童期の療育
学童期に入ると、発達センターでの療育は終了することが多いです。
しかし、学童期からこそ療育の本番です。
ここからは本人に合う療育を見つけていくことが重要でした。
ノードフ・ロビンズ音楽療法
息子は6年間、音楽療法でのセラピーを受けました。
音楽療法とは、音楽を通して喜びを感じ、自らも表現することで心の安定を図るセラピーです。
日本では音楽療法は国家資格ではないためあまり馴染みのないセラピーですが、音楽療法は発達障害児(者)にとてもオススメの療育です。
息子は「ノードフ・ロビンズ音楽療法」を6年間受け、表現する喜びや音楽の楽しさを体感しながら、絶対音感があることや彼の中に流れる独自のリズム感を開花させることができました。
ノードフ・ロビンズ音楽療法は、1対1もしくは少人数グループのセッションが基本ですが、息子の場合は息子1人にセラピストが2人ついてくれたのです。
セラピスト1人がピアノを即興演奏し、もう1人のセラピストが息子のサポートに付いて一緒に歌う・演奏するなどの実践をしながら、音楽を一緒に作り上げる喜びを味わっていきました。
音楽療法で学んだ協調性
音楽療法中は、機嫌がいい時だけではなく、時には機嫌が悪くずっと泣いている時もありました。
泣き続ける息子に対して、無理に泣き止ませようとするのではなく、柔軟に接してくれたセラピストの対応をご紹介します。
- 息子の泣き声に合わせてピアノでリズムを取る
- 音楽で会話をするように、泣き声に合わせて音を鳴らす
- 「エーン」と言う泣き声に音階を合わせていく
どんな時も息子に寄り添ってくれるフリースタイルの音楽セッション中に、だんだんと息子も心を開くようになり、やがて自分から体を揺さぶったりハンドドラムを鳴らしたりとアクションが見られるようになりました。
発達障害児は体内に独特のリズムが流れていると言われており、基礎的な音楽教育を受けていなくても、和太鼓やドラムなど曲に合わせて叩くことや、絶対音感やソルフェージュ感覚が身についている場合があります。
また、発達障害児はマイペースで協調性がないと思われていますが、音楽療法を通してセッションをすることで、音楽を作り上げていく喜びが勝った時に、彼らにも協調しようとする心が見られるようになるのです。
音楽療法を通して開いた心は、だんだん音楽だけでなく「家族やきょうだいと気持ちを合わせてみよう」という様子が見られるようになり、毎日が驚きの連続でした。
発達障害児に協調性がうまれてくるということは本当に奇跡であり、それは本人にとってもスムーズで過ごしやすい暮らしを送ることに繋がるのです。
息子は、週に1回1時間の音楽療法の時間を心待ちにするようになり、セラピストとの関係性も築けて本当に恵まれた時間を過ごすことができました。
思春期の療育
発達障害児が思春期である中高生になると、心の成長と体の成長が伴わずにイライラすることも多くなります。
年齢的に性的欲求も出てくるようになり、イライラしやすいだけでなく、性的欲求から原因不明の癇癪に苦しむことも多々あります。
そんな時、スポーツでイライラやモヤモヤを発散させていくことが、とても画期的な療育となりました。
陸上にチャレンジ
息子の思春期はとても大変で、毎日壁を殴って穴を開ける、腹いせにガラスや電球を割るなどイライラを物にぶつける八つ当たりの連続でした。
息子も苦しいけれど、私もかなり苦しくて、「思春期が永遠に続くのでは」と恐怖に思っていました。
「息子の中のイライラやモヤモヤのエネルギーを発散させてあげたい」と思い何かスポーツをさせようと思ったところ、学校の先生からマラソンを勧められたため、陸上部に入部することにしました。
スポーツの効果
発達障害のことを専門に勉強されている陸上選手とのご縁があり、息子にマンツーマンで指導してもらうためのコーチをお願いしました。
ゆっくり長く続けられる長距離走が良いだろうというアドバイスをもらい、週に1回2kmを走るトレーニングをするようになりました。
400mのトラックを5周走るというプログラムで2km走るのですが、最初はいつまで走り続けるのか不安で走るのを嫌がっていました。
その後、視覚支援としてカラーゴムを5つ腕にはめ、1周走るごとにゴムをコーチに渡すという方法で、ゴムがなくなったら終わりだとわかるシステムにしたところ、終わりが見えるトレーニング方法が気に入ったようで黙々と走り続けるようになりました。
発達障害児は自分がする行動に終わりが明確ではないと不安になってしまうという傾向があるため、視覚支援のカラーゴムはとても有効なサポートになりました。
ゴールがあるという達成感は息子の中でも大きな達成感に繋がることと、単純にエネルギー発散になりよく眠るようになったため、イライラして暴れることが急激に減っていきました。
また、発達障害児は、思春期になるとだんだん多動も落ち着いてくる時期で、その分動きが鈍くなってきます。
高校へ進学する頃になると、発達障害児は太り始める子が多いため肥満に気をつけなければなりません。
肥満になると見た目だけでなく、体に様々な悪影響を及ぼします。
息子はマラソンをすることで肥満防止だけでなく、健康の向上にも役立ちました。
子育てを通して親がしてあげられること
発達障害は病気ではありません。
私たちにも得手不得手があるように、子ども達にも当然得意なことと苦手なことがあります。
発達障害児は苦手なことがいくつかあり、また、その中でも完全に欠如している概念もあります。
彼らが世の中で生きやすくなるように、苦手な部分をサポートしてあげることが発達障害児に寄り添った子育てだと言えるのではないでしょうか。
子育ては、出来ないことを出来るようにするサポート
子育ての基本は「できないことをできるようにするサポート」です。
これは健常児も発達障害児も同様です。
もちろん頑張ってもできないこともありますが、それも健常児も発達障害児も変わりません。
できることやできないことがあってもいいのです。
自分にとって苦手なことでも、誰か得意な人がいたら、その人がそこを担当してくれます。
全て自分でしなくてもいいのです。
発達障害児は、他の人より少し生きづらい部分があります。
そんな彼らがこの世で少しでも生きやすくなるために、たくさんの療育があるのです。
ぜひ、お子さんの年代ごとにできる療育を見つけて、親子で楽しみながらチャレンジしてくださいね。
誰からも愛される子どもになるように育てる
息子を指導してくれた応用行動分析学を専門としている先生から、息子が3歳の頃「発達障害の子を持ったら、まず子どもが将来みんなから愛される子どもに育てることが親の責任」と言われたことがありました。
私の心のエゴは「どうせ息子は、発達障害があるだけでみんなから嫌われてしまう」と面倒になってしまいそうでしたが、「息子が、みんなから愛される子に育ててみたい!」と思い、それだけを目標に育ててきました。
発達障害児がみんなから愛される子になるための具体的な方法を、下記に挙げます。
他傷行為がある子は改善させる
人へ暴力を振るう子は、どうしても嫌われてしまいます。
他傷行為は本人にとっても周囲にとってもメリットはありません。
また、暴力をただ抑制するだけでは、逆に衝動性が増すこともあります。
応用行動分析に基づいて、「本人と相性の悪い子どもとの接触を避ける」「一人になれる空間を提供するなど」環境を整えてあげることで他傷行為はかなり軽減します。
お子さんが通う学校や施設の環境を変えてもらうことが親御さんの意見だけでは難しいと思うならば、福祉事務所や地域の相談支援センターに相談して、相談員さんに間に入ってもらうとスムーズに進みますよ。
他傷行為は年齢が上がるにつれて、問題が複雑になってきます。
自分一人で悩まずに、早めに相談することも大切なことです。
肥満に気をつける
見た目の印象は、周りへかなり大きな影響を与えます。
発達障害児に限らずですが、スリムで清潔感があると、第一印象が良くなりますね。
いつも好きなだけお菓子を食べているような生活では、即肥満に繋がります。
親御さんがしっかりと栄養バランスを考えた食事を用意し、肥満にならないように幼少期から心がけていきましょう。
また、自分で「お腹がいっぱい」だということに気づきにくいお子さんもいますので、量を決めて食事をする癖をつけておくことも大切です。
まとめ
発達障害はひとつの個性です。
療育を通して彼らの得意なことや、たくさんの才能を見つけてあげられることもできるのです。
息子は言語療法や音楽療法、陸上など様々な療育を通して、驚くべき成長をしました。
いわゆる病院で受ける一般的な療育とは少し違う療育でしたが、たくさんの療育という体験を通して息子の世界が広がっていき、いろんな場所への適応力も随分つきました。
その結果みんなから愛される子どもに育ったと思っています。
親御さんも彼らの視点に入り、彼らの世界を広げていくお手伝いをしていくつもりで療育を楽しんでみてくださいね。
コメント