自閉症スペクトラム(ASD)の特徴と療育

自閉症スペクトラムASD

発達障害」という言葉が広く知られるようになり、それに伴って「自閉症」や「自閉症スペクトラム」など症状を表す単語もテレビやインターネット上で取り上げられるようになりました。

しかし、発達障害の区別の仕方は研究が進むにつれ変化しています。

また、馴染みのない呼称であることや同じ診断名でも個人差が大きく、社会の理解が進みにくいため、受け入れ体制やフォロー体制が整わない一因にもなっています。

発達障害が広く知られ、正しく理解されることは、『多種多様な人を認め合う過ごしやすい社会』の実現に繋がります。

今回は自閉症スペクトラム(ASD)の特徴や必要なサポート、効果が望める療育について紹介します。

自閉症スペクトラム(ASD)とは?

自閉症皆さんは自閉症にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

他者と対話することができず、ブツブツ何かをつぶやき続けている人、唐突に奇声をあげたり飛び跳ねたりする人…そんなイメージがあるかもしれません。

また、自閉症スペクトラムASDと聞いて、どういったことを指しているかわかりますか?

恥ずかしながら、自閉症スペクトラムと診断された娘を持つ私でも最初は全く理解できていませんでした。

📌自閉症スペクトラムとは…

  • いわゆる自閉症はもちろん、それに通じる症状をひっくるめた総称。
  • 下記全部ひっくるめて自閉症スペクトラム(ASD)という。
    1. アスペルガー症候群(知的障害はないけれど、人付き合いの面で不得意・苦手なところがあるタイプ)
    2. 知的障害があり、他者と意思疎通が難しく強いこだわりを持つ自閉症

発達に遅れや障害がない子どもと見た目が変わらず、パッと見た感じでは行動にも違いがない自閉症スペクトラムの子どももいますし、「あ、この子は手助けが必要な子だ」と見た目ですぐに解る自閉症スペクトラムの子もいます。

前者のタイプは症状が目立たない分理解されない点も多く、誤解されて生きづらさを強く感じることがあります。

自閉症スペクトラムの特徴

いろいろなタイプの子どもがいる自閉症スペクトラムですが、代表的な特徴として次のようなものが挙げられます。

言葉の遅れ

自閉症スペクトラム_言葉の遅れ自閉症スペクトラムの子どものうち、7割に言葉の遅れや知的な障害があると言われています。

言葉の遅れは具体的に「言葉を発しない」「単語だけ話す」「文章を作れない」というもので、乳幼児期から見られます。

だいたい2~3歳くらいになっても会話が成り立たない、ということで親や周囲が気付きます。

自閉症スペクトラムの子どもは言葉で意志を伝えられないので、相手の手を掴んで欲しい物のところへ持って行くことがありますが、これをクレーン現象といいます。

クレーン現象が見られることで、気付くこともよくあります。

他にも「本を読みながら内容を理解することができない」ということもあり、就学後の学習の遅れに繋がることもあります。

音やにおいに敏感

自閉症スペクトラム_音やにおいに敏感多くの人は、同時に複数の音を聞いても、聞き取るべき音と雑音として聞き流す音を脳が自動的に判別しています。

しかし、自閉症スペクトラムの子どもには、全ての音が同じ大きさで聞こえてしまうケースがあります。

あらゆる音が大きな騒音として聞こえてしまうことがあり、耐えられなくなってその場から逃げだそうとすることがあります。

また、嗅覚も敏感で、多くの人が気にならないにおいでも耐えることができず、苦痛さえ感じてしまうケースがあります。

特定の感覚が鈍感なことがある

自閉症スペクトラムの子どもの中に、暑さや痛みをほとんど感じない子どもがいます。

💡注意!そういった子は命の危機に直結するため…子ども_犬

  • 気温が25℃を超える日は、帽子をかぶる、水分補給をする…など具体的に伝える。
  • 定期的に体をチェックし、出血している時は手当が必要。

上記のように「感じないこと」に対して知識や状況判断で対応し、行動することを教える必要があります。

場の空気や行間を読むことができない

困った顔その場の雰囲気から状況を判断したり、相手の気持ちを察する…、また、日本人に代表される『白黒付けない文化』や『本音と建て前』を、自閉症スペクトラムの子どもは判断したり理解することができません。

正直過ぎたり自分の感情を優先してしまったりすることが相手を傷つける言動に繋がり、円滑な人間関係を築くことが難しいという特徴があります。

また、皮肉や比喩を理解できず、言葉をそのまま受け取ってしまうので場違いな行動を取ってしまうことがよくあります。

興味を持つ範囲がとても狭い

自閉症スペクトラム_興味を持つ範囲がとても狭い自閉症スペクトラムの子どもは、興味を持っていることに対しては非常に高い能力を発揮することがよくあります。

しかし、興味の範囲が非常に狭く「その能力を他のことにも活かせばいいのに……」といわれることもしばしばあります。

なお、自閉症スペクトラムの子どもの中には興味があることに関して驚異的な記憶力を発揮する子どももおり、これはサヴァン症候群といわれます。

例えば、一瞬で本の内容を全て記憶できたり、何年も前・何年も先のカレンダー(年月日と曜日)を答えることができたり、一度聞いただけでピアノを演奏できるという能力です。

どうしてこうした能力があるのか、理由は解明されていません。

  • 予定変更が受け入れられなかったり、ルールを守らずにいられない。
  • 朝起きて顔を洗い、トイレに行き、水を飲んでから食事をする…といったマイルールがある。
  • 学校へいく道順が決まっている。(変更するとパニックになる)
  • 学校から帰宅した後の行動が決まっている。(別の予定が入るとパニックになる)
  • 決まったルールは絶対に守らなければ気が済まない。(臨機応変に対応できない)

このように、予定が変わることを受け入れられない子どもがいます。

ルーチンワークは得意でも、なにかあった時に対応できなかったり、対応できないだけで無く、パニックに陥って周囲のサポートを請けられる状態になるまで時間がかかるということがあります。

更に、ルールを厳格に守るということを、自分だけでなく相手にも求めてしまう傾向がみられます。

このため「A君はまだ3歳だから鬼ごっこの鬼は免除」というような特別ルールを受け入れられなかったり、臨機応変に対応することができないことで人間関係がぎくしゃくすることがあります。

自閉症スペクトラムの療育

自閉症スペクトラムの療育自閉症スペクトラムの子どもで、一人では社会に適応することが難しい場合であっても、特定のサポートがあれば不都合さなどを感じること無く生活できる場合があります。

左利きの人が左利き専用のハサミを利用すると楽に作業ができるとか、耳が聞こえにくい人が補聴器を使うとか、目が悪い人がメガネを使うのと同じと考えてください。

自閉症スペクトラムの子どもにどんな特徴があり、どういった方法でどれくらいサポートすればいいのか、また、できるだけ少ないサポートで自立できるように導いていく…、こうしたことが療育です。

療育内容

療育は大きく分けて次のようなものがあります。

・理学療法(Physical Therapy):理学療法士による運動機能の発達を促す療育

・作業療法(Occupational Therapy):作業療法士による手の運動や操作能力をアップさせる療育

・言語聴覚療法(Speech-language-hearing Therapy):言語聴覚士によるコミュニケーション能力や聞き取る力をアップさせたり、飲み込み方(口や舌、喉の動かし方)に関する指導・療育

・ソーシャルスキルトレーニング:臨床心理士などの指導員の下、少人数のグループ(模擬小学校のようなグループ)で人との接し方や集団生活について学ぶ療育

こうした療育の中でも、自閉症スペクトラムの子どもが受けたいのは言語聴覚療法とソーシャルスキルトレーニングです。

やはり、言葉の遅れに対するサポートと、対人関係や集団生活に関するスキルを身に付けることが重要になります。

療育を受けられる施設

療育施設療育を受けられる施設は、自治体の療育施設、民間団体が運営する療育施設、病院、民間の塾や家庭教師、サポート体制を整えている私立の学校など、様々です。

一番身近な施設は、自治体の療育施設(発達支援センター)です。

☝[参照]全国の発達障害者支援センター一覧

費用も安価なため、最初に相談する人が多いと思います。

病院の中でも小児神経医が在籍していて、発達診断や検査と合わせて療育も受けられるところがあります。

また、リハビリ施設を持っていて、療育をメインに実施している病院もあります。

そして費用は高くなりますが、民間の塾や家庭教師の中にも自閉症スペクトラムなど発達に遅れがある子どもを指導してくれるところがあります。

他にも、発達に遅れや障害がある子ども向けの学童保育施設のようなところ(放課後デイサービス)でも療育を受けられることがあります。

まだまだ数が十分でなく、療育の質(受けられるサービスの質)が施設によって異なったり、子どもに合ったサービスを見つけ出すのが大変という問題点がありますが、情報を集めて探せば身近な所に療育施設を見つけられることがあります。

こうした情報はインターネット以外に、特別支援学校や特別支援学級に子どもが在籍している保護者などの口コミがとても有力です。

一人でも多くの人と繋がっていると、より新しく活かせる情報を手に入れられますよ。

療育の効果

療育の効果療育は薬ではないため、療育を受け始めたからといって、あっという間に症状がなくなる(自閉症スペクトラムが治る)わけではありません。

「療育を受け始めて直ぐできることが増えた!」という子どももいれば、一年経ってから振り返ってみると「少し進歩したかもしれない」と感じる子どもなど様々です。

療育には、いつまでどんなことをすれば終わりにしていいのか、といった目安もありませんし、受けている療育の内容が子どもに合っているかどうかも判断しにくいものです。

      • 本人が心身に苦痛を感じず、通うことができる。
      • 親が療育施設に対して不信感を抱いていない。
      • 療育方針や発達の状態について、相談することができる。
      • 通っている親子が過度な負担を感じていない。

上記のような点を判断ポイントとして、子どもの状態を定期的に振り返ってみてください。

自閉症スペクトラムの子どもの発達はゆっくりで、目に見えにくいので、定期的に発達検査を受けると把握し易いですよ。

自宅でできる療育

言語聴覚士自閉症スペクトラムの子どもの特徴は色々あり、療育の内容も多種多様です。

適切なフォローには言語聴覚士や臨床心理士といったプロの手を借りることが一番です。

ただ、医師も療育施設も不足していて、希望したときに希望した内容の療育を受けられないという現状があります。

このため、できるなら家庭療育を実施したいものです。

保護者による家庭療育によって、子どものできることが増えることもあります。

自閉症スペクトラムの子どもには応用行動分析学(ABA)に基づく家庭療育がお勧めです。

応用行動分析学(ABA)とは、人の行動とその人を取り巻く環境を結びつけて考えること。

どうしてそういう行動に至るのか行動に至るまでの過程を把握し、別の行動を取るよう促すにはどんな環境を整えればいいのか、といったことを考えます。

応用行動分析学を知ることで自閉症スペクトラムの子どもが取る行動について理解を深め、違う行動に子どもを導くためにどんなアプローチをすればいいのか考えることができます。

私は応用行動分析学(ABA)に関する本と出会うことができ、2歳の娘に家庭療育を実践していました。

自閉症スペクトラム娘はいくら先生が促しても、椅子に座って指示された行動を取ることができませんでした。

この、椅子に座らない大きな理由は「先生の言葉の意味が理解できない」「椅子に座って作業することを知らない」のふたつでした。

このため「座って」と言われたら椅子に座るということを教えるところから始めました。

座れるようになったら、座って本を読んだりお絵かきをする練習をしました。

やり方は簡単です。

      1. 母親が「座って」と言い、座ったらご褒美のお菓子を一口あげる。
      2. さらに、座った状態でお絵かきができたら、ご褒美のお菓子を一口あげる。
      3. 座ること、座って作業することが「楽しいこと!」と覚えさせ、徐々に座る時間を長くし、ご褒美なしで作業できるよう気長に練習を続ける。

ご褒美で意欲を引き出し、何度も同じことを繰り返すことで言葉と行動を結びつけて記憶させます。

こうした何でもないようなトレーニングを自宅で続けることが家庭療育であり、その積み重ねで子どものできるを増やしていくことができるのです。

まとめ

自閉症スペクトラム(ASD)まとめ自閉症スペクトラム(ASD)は、知的な遅れを伴わないアスペルガー症候群から、言葉の遅れや知的障害のある自閉症まで幅広い発達の遅れを包括したものです。

同じ自閉症スペクトラムと診断された子どもでも特徴は大きく異なることがあり、必要なサポートも違います。

適切なサポート方法は療育によって知ることができます。

自閉症スペクトラムの子どもにお勧めな療育は、言語聴覚士による言語聴覚療法や、少人数の集団で受けるソーシャルスキルトレーニングです。

療育施設や病院、民間の塾など、様々なところで受けることができます。

さらに保護者が指導者となって行う家庭療育というものもあります。

自閉症スペクトラムの子どもには、応用行動分析学(ABA)に基づく療育がお勧めです。

家庭で保護者が実施できるよう解説された本もあるので、家庭でもトレーニングを積むことをお勧めします。

自閉症スペクトラムには治療方法や薬がある訳でなく、子どもに合ったサポートを模索しながらうまく付き合っていく必要があります。

少しでも多くの人に自閉症スペクトラムを知ってもらえて、サポートする体制が整っていくことを待ち望んでいます。

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