自閉症スペクトラムの子どもの集団生活を楽にする!SSTのススメ

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自閉症スペクトラムの子を育てる親としてつらく感じることは、障害そのものより、障害によって子どもがつらい目にあったり、困っている姿を目の当たりにしたりすることではないでしょうか。

子どもが成長していくとともに、自分たちは老いていくことはどうしたって変えられないことですよね。

子どもたちが自分で生きていく力をつけてあげることが、何よりも大切です。

今回は、障害が原因で発生する問題を解消していくために役立つSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)についてお話していきます。

ぜひ参考にしてみてくださいね。

友達関係のトラブルから子どもを守るSST

発達障害児_友達関係のトラブルから子どもを守るSST自閉症スペクトラムを抱えている子どもの多くが、学校生活で深刻な友達関係のトラブルを経験します。

子ども同士の人間関係は年齢とともにだんだん複雑になりますが、自閉症スペクトラムの子は特に下記のようなことがあり、小さいうちから友達づきあいの中でトラブルに発展してしまうことが多いのです。

  • 相手の子の欠点を執拗に指摘する
  • 冗談を真に受けてしまう
  • 場の雰囲気を読むことが苦手

中にはいじめの被害にあい、そのせいで不登校や引きこもりなど深刻な二次障害をきたしてしまう子もいるのです。

しかしその一方で、早期に自閉症スペクトラムの診断がおり、適切な支援を受けることで、学校生活や社会に出てからも、集団生活に適応し、問題なく社会生活をおくっている人もたくさんいます。

発達に偏りがあるお子さんには、トラブルを予防し、円滑に人間関係を結べるように、「SST」と呼ばれる訓練を受けることをおすすめします。

SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)とは、人が他人と関わりながら、社会で生きていくために必要な技術を学ぶことを指します。

例えば

  • 「おはようございます」や「いただきます」などのあいさつを自発的にする。
  • 身だしなみを整えるなど、ごく基本的なもの。

  • 人の会話に割り込まない。
  • 相手の欠点や身体的な特徴を指摘したりしない。

など、少しずつ社会のルールを身に着けていきます。

「学校の遊具を順番を守って使う」「授業中は出歩かないで椅子に座っている」といった動作もソーシャルスキルのひとつです。

💡苦手なことや、理解しにくいことがある

健常児の場合、ソーシャルスキルは、親や兄弟などの家族や友達、まわりの人のふるまいを見て真似をしながら自然に身につけていきます。

一方、自閉症スペクトラムの子どもの場合、自分の感情や行動をコントロールすることが苦手であり、また、目線やジェスチャーで、自分の気持ちを表現することも不得意としています。

相手の表情や仕草から人の気持ちなど、目にはみえないものを推測したり、暗黙のルールを理解したりするのが困難な側面もあります。

そのため、気持ちを相手に伝えることがなかなかできず、自分の中にストレスをためてしまうケースも多いです。

SSTでは、自閉症スペクトラムの子が理解しにくいといわれている「きちんとしなさい」や「相手の気持ちを考えなさい」などの”あいまいな言葉”を使わず、理解しやすい言葉を使ってトレーニングをして、社会のルールを身に着けていきます。

SSTはどこで受けられる?いつから始める?

SST✓自閉症スペクトラムの診断がおりている場合

発達センターや病院のプログラムで、SSTを受けることができます。

✓自閉症スペクトラムの診断がおりていない場合

子どもの発達に気がかりな点があるけれど診断がおりていない場合や、保育園や幼稚園に通いだしてもお友達とうまく関われないお子さんにも、SSTはとても役に立ちます。

集団生活にうまくとけこめない様子が見られる場合は、自費で受けられる病院のプログラムが自宅近くで受けられないか探してみましょう。

SSTに関する情報は、自治体の発達障害者支援センターや病院、発達障害の人や家族を支援するNPO団体などから得ることができます。

SSTを始める時期は早ければ早いほど良い影響があらわれるため、ぜひ一度検討してみてくださいね。

お子さんに自閉症スペクトラムの診断がおりていなくても、適切な方法ですすめられたSSTは子どもにとって害になることはなく、結果的に快適に社会生活を送るために役立ちます。

また、SSTは大人の自閉症スペクトラムの人でも受けることが可能です。

SSTの基本的な進めかた

発達障害児子育てSST病院や発達支援センターでSSTを受けると、子どもの近くにいる時間が一番長い保護者に自宅でもSSTを進めていくように指導されます。

難しくとらえずに、自閉症スペクトラムの子が受けいれやすいかたちで躾をすると思って始めてみましょう。

📌スモールステップ

SSTを進めるうえで、専門家が大切にしていることのひとつに「スモ―ルステップ」という考え方があります。

「スモールステップ」とは

現状から目標に到達するまで、細かくいくつもの小さな目標を設定し、焦らずににひとつひとつをクリアしていく方法のこと。

授業中に出歩いてしまう子どもに対して、まずは「椅子に座れること」からはじめ、「5分間座っている」「10分間座っている」と座っている時間を少しずつ長くしていきます。

目標は本人とSSTを行なう人が話し合って決め、子どもが自分で見て分かりやすいように、色画用紙などに書き出して見えるところに貼ります。

💡スモールステップのねらい

  • 子どもが小さな目標を達成する毎に、達成できていることを子どもに知らせてほめる。
  • → 達成感を与え、やる気を引き出させる。

また、SSTを進めるうえで、出来ないことを指摘するのではなく、出来たことに着目してほめることも大切なポイントです。

褒められることで子どもの中で自尊心が芽生えて育ちます。

ごほうびシールを利用したり、祖父や祖母、ご近所の人にも協力してもらって小さな課題をクリアできたことをこまめに褒めてもらったりしながら、SSTを進めていきましょう。

イメージは英会話!身につくまで繰り返す

発達障害児子育てSST集団生活で必要なスキルを学ぶSSTですが、SSTのトレーニングの方法は、よく英会話の学習に例えられます。

「授業中」や「子ども達同士で遊んでいるとき」など場面ごとに分けて、想定されるふるまいの仕方や言葉のやり取りを、ひとつずつ学んでいきます。

「こんなふうに話しかけられたら、こんなふうに返事をする」と訓練することで、スムーズに集団生活を送る上での必要なスキルを身につけることができます。

知識として知っているだけでなく、色々な場面で適切なふるまいができたり場面に応じた言葉をなめらかに出すことができたりするように繰り返し訓練をすることが大切です。

そのため、SSTでは、ロールプレイングやゲームを取り入れて学ぶこともあります。

家庭内でトレーニングをするときは、親御さんが学校の先生や友達の役をつとめ、会話形式で実際にやり取りを練習してみるとよいですよ。

自宅でSSTをするときに参考になる教材

自宅でSSTをするときに参考になる教材自宅でSSTをどう進めていいか迷った時は、SSTの教え方や進め方について紹介されている本がありますので、それらを参考にするとよいですよ。

専門家向けの難しい内容の本もありますが、家庭でSSTをすすめる親のために書かれた本もいくつか出版されています。

SSTについて書かれている書籍はなかなか書店の店頭に並んでいることが少なく、また、値段も一般の育児書に比べて高額なものが多いのが現状です。

一度図書館で借りてみて内容を確認し、親が読んで分かりやすく、自分の子どもにも合った内容だと思える本を書店で注文する方法をおすすめします。

ここではSSTについておすすめの書籍を2冊紹介します。

  • 高機能自閉症・アスペルガー障害・ADHD・LDの子のSSTの進め方
  • 黎明書房 田中 和代 (著), 岩佐 亜紀 (著)
  • はじめてSSTを進める人向けに書かれている本で、具体的で分かりやすい入門本です。巻末に絵カードがついていて、子どもに絵を見せながら望ましい会話や行動を教えることができます。
  • 学校が楽しくなる!発達が気になる子へのソーシャルスキルの教え方
  • 中央法規出版 鴨下 賢一 (著), 中島 そのみ (著), 立石 加奈子 (著)
  • 学校の先生向けに書かれた本ですが、家庭で使うのにも向いている本です。親がしてしまいがちな間違った対応なども載っていて参考になります。

他にもドリル形式になっているSSTのワークシートや絵カード、子ども用の道徳を教える絵本や教育番組やDVDなどもSSTの教材として活用できます。

自宅でSSTをするときに困ったときは

発達障害児子育てSSTSSTの成果の現れ方は、お子さんの発達の特性や性格によってそれぞれ違います。

家庭の中で時間を割いてSSTを続けているのになかなか成果が現れない、と思い悩むことがあるかもしれません。

それでも、根気よくSSTを続けてきた親御さんたちは「子どもが少しずつ変わっていくので手ごたえを感じた」「家庭でのSSTを続けて本当によかった」といった感想を持つ場合が多いと言われています。

焦らずに、将来のお子さんの困りごとを減らしてあげる気持ちで、ゆっくりと。

親子ともに負担にならないペースで、SSTを進めていきましょう。

しかし、自宅でSSTを自己流で続けていると、どうしても上手くいかないことも出てきますよね。

「どのように子どもに教えれば効果的なのか」など、知りたくなることがいくつも出てくることがあることでしょう。

そういった場合は、心理の専門家から「ペアレント・トレーニング」を受けたり、自閉症スペクトラムの子どもを育てた経験のある「ペアレント・メンター」の支援を受けたりすることをおすすめします。

専門家やペアレント・メンターからSSTのやり方やコツを学ぶことで、効果的に進めていくことができるようになりますよ。

💡感情的になって子どもの自尊心を傷つけないために

家の中でSSTを親子一対一でおこなっていると、教える側がつい感情的になってしまうことがあります。

親御さんが自閉症スペクトラムの特性について正しい知識を専門家から学んで身に着けることで、その対応の仕方が変わっていきます。

  • 身近にいる保護者が自閉症スペクトラムについて理解を深める。
  • → 不可解だった子どもの行動や発言が、その子なりに意味があることを理解できるようになる。
  • → 理解ができると、苛立ちがやわらぎ、子どもの自尊心を傷つけない方法で、対応できるようになる。

親である自分の悩みを聞いてもらうことが、不安や苦しみを解消することにつながるのです。

気をつけること

気をつけること家庭でSSTを進めていると、その効果に驚いて夢中になる親御さんもいます。

インターネットでSSTを検索にかけると、非常に高額な教材や、SSTが受けられる塾や家庭教師などの宣伝に辿り着くことがあります。

その中には、自閉症スペクトラムの子どもを持つ家庭の不安をあおるような悪質なビジネスも散見します。

高いお金を払えば、質のよいSSTを受けられるとは限りません。

SST教材やセミナーを選ぶときは、悪質な発達障害ビジネスに引っかからないように、冷静さを失わず、どのようなやり方でSSTをすすめていくのか家族内でしっかりと相談してから決めることをおすすめします。

最初は親が見守りながらお友達づきあいを深めよう

発達障害児子育てSST今回は家庭でおこなえるSSTの内容や進め方、参考になる教材についてご紹介しました。

SSTに興味を持たれているお父さんやお母さんの中には、すでに児童館や公園、幼稚園や保育園、学校などで、自分のお子さんがまわりの子ども達と上手く関われなかったり、トラブルになってしまったりとつらい経験がある人もいらっしゃるのではないでしょうか。

子どもが傷つき、孤立している様子を見るのがつらくて同じくらいの年齢の子どもが集まる場所から足が遠のいてしまってはいませんか?

SSTの目的は健常児を真似させることではなく、子どもが障害を抱えていても困難を感じずに、生活する力を身につけることです。

SSTを実践してみて、少し勇気が出たら、親子でぜひもう一度お出かけしてみましょう。

実際に人と関わる体験を通して、ソーシャルスキルはさらに磨かれて身についていきます。

子どもが安心できる場所で保護者が見守る中、ごく少ない人数のお友達と遊ぶかたちでお友達づきあいを再スタートしてみましょう。

無理のないペースで少しずつ交友関係を広げていけるとよいですね。

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