春になると子どもが何だか落ち着かない、いつもよりイライラしている、パニックになりやすい、ということはありませんか?
我が家の二人の子どもたちも、毎年三月からソワソワしはじめて、新年度が始まってからゴールデンウィークあたりまでは浮き沈みが激しく、いつもなら大丈夫なことでパニックになってしまいます。
進学の年は仕方ないのかなと考えていましたが、ただ進級するだけの年でもやっぱり春は落ち着けないのです。
子どもたちにとって、宿題の少ない春休みはウキウキするものですし、四月からの新しいクラスや友達が楽しみだったり、新しいことが始まることにふわふわした気分になったりすることもあるでしょう。
しかし、発達障害児にとって、それらは大きな不安となってしまうのです。
なぜなら、自閉症スペクトラムの特徴が強い発達障害児にとって一番落ち着くことは「いつもと同じ」ことであり、「いつもと違う」ことが多く起こる春に彼らは落ち着くことができないから。
子どもたちを取り巻く環境の変化が大きいこの季節に、落ち着けない状態でいる発達障害児たちはいつもなら平気なことでもパニックになってしまうのです。
我が家の子どもたちの「いつもと違う」の捉え方も発達障害児ならではで、なかなかわかってあげることができなかったのですが、何度か春を乗り越えるうちに、自分では思ってもみないようなことに「いつもと違う」を感じて不安になっていることが少しずつわかってきました。
どんなことを不安に思っているのか、親はどのような対応をしてあげたらよいのかを、我が家の実例をもとにお話しします。
1.春が苦手な子どもたち
春は子どもたちの周りの環境が大きく変化する季節。
卒園、卒業をする子どもたちにとっては、毎日通う場所が変わってしまうわけですからもちろんのこと、進級する子どもたちにとっても、最高学年の子どもたちが卒業して学校に行かなくなることで、学校全体が静かになったように感じるかもしれません。
四月には、クラス替えがありますよね。
担任の先生が変わることもあれば、今まで他の学校にいた先生である場合は顔も名前も知らない人が担任の先生になる可能性だってあります。
また、期待に胸を膨らませた新一年生たちが入ってくることも、学校の雰囲気を大きく変えてしまうことになりますよね。
新年度のそんな“当たり前”のことですら、我が家の発達障害のある子どもたちには大きなストレスなのだということがだんだんわかってきました。
2.子どもたちがストレスを感じる春の出来事:最大の変化-過ごす場所が変わる
2-1.入園、入学
発達障害児の中には全く人見知りをしない子もいますが、反対に、人見知りをしすぎる子もいますよね。
我が家の次男は人見知りも場所見知りも大変強く、初めて行く場所では私の陰から出てこられないというほど、場所にも人にも緊張してしまう子でした。
特に、人生最初の入園については、数回体験入園をしただけでよく知らないところに行かなくてはいけない、ということがとても怖かったらしく、毎朝泣いてばかりいました。
2-2.卒園、卒業
毎日通っていた保育所、幼稚園、それぞれの学校……それらを卒業するということは、何年間かかけて子どもの中に作りあげてきた「いつもと同じ」生活からも卒業するということです。
いつも通っていた場所にはもう行くことができない、これからは違う場所に行かなくてはならない、ということについて子どもたちは大きな不安を覚えていたようです。
2-3.対策
幼稚園入園前から人見知りと場所見知りには気が付いていましたので、少しでも慣れてもらうために、予め小学校や幼稚園の雰囲気を次男に感じさせるようにしました。
- 小学校の行事にもできるだけ次男を連れて参加
- 散歩がてら幼稚園の近くまで行き、園庭で楽しそうに遊んでいる子どもたちの姿を見せる
これらを行うことで、体験入園だけでは目にすることができないところも本人に見せることができました。
上記のような準備をしていても毎朝泣くことは簡単には止みませんでしたが、私が帰ればそのうち泣き止んで楽しく過ごしていたので、体調が悪いとき以外はどんなに泣いても必ず登園させることにしていました。
私のそういった対応から、「泣いても行くのをやめてもいいとは言わない」「行かなくてはいけない」ということは、本人も理解していたようです。
先生としっかり連絡を取ることができ、園での様子に心配な点がないようなら、親のほうが「泣きわめく子どもをつれていくのが面倒だから今日はもういいや」という対応をしないことが大切です。
我が家では、先に小学校にあがっていた長男が色々と困ったことを抱えている子だったこともあり、長男の担任の先生と話しをする機会が多くあったため、そのときに次男も連れて行っていました。
話している姿を見たり聞いたりして、小学校の先生も幼稚園の先生と変わらず優しい、怖くないかもしれない、という印象を次男に与えたかったのです。
長男の担任の先生にも、「次男も自閉症スペクトラムだろうと言われています」と伝えていました。
また、小学校のスクールカウンセラーさんや、特別支援の巡回指導担当の先生とお話しするときにも、次男のことを話題に出しました。
このように早めに学校関係者に次男の存在を伝えることで、次男が入学するときにはどのようなことをしたらよいのかを、前もって相談することができたのです。
もし我が家のような事前のつながりがなくても、教育委員会に直接相談をすれば、入学前にスクールカウンセラーさんと面談をすることができる場合もあります。
長男の場合では、中学入学前の春休みに面談をして、「長男本人を連れてくれば学校の中を案内することもできますよ」と言っていただきました。
初めてのこと、初めての人、初めての場所、すべてに緊張する発達障害児にとっては、大変ありがたかったことを覚えています。
3.進級でも感じる春の変化
3-1.通学班のメンバー
3月には最高学年が卒業し、班のメンバーが少し減りますね。
そこからは新しい班長さんとの登下校になります。
今までの班長さんと新しい班長さんの雰囲気が違ったり、仲の良い上級生がいなくなったりすることで、我が家の子どもたちは不安になることがあるようでした。
4月になると、その不安なところへ一年生が参加して、また班のメンバーがかわり、雰囲気も変わります。
初めてのことでドキドキしているであろう一年生の元気がよすぎることや、一年生の保護者が一緒に歩いてくれることなどが、人見知りの強い次男は特につらかったようでした。
班のメンバーが変わるということは、朝一番に顔を合わせるメンバーが変わってしまうということです。
朝、家を出てから最初に会うわけですから、一日の印象を左右するといっても過言ではありません。
💡[対策]
次男に、自分が知っている限りの新しい班長さんのよいところをお話ししました。
知らないお子さんであれば、担任の先生に不安がっているということを話して、学校で班長さんとお話ができるようにしてもらいました。
仲の良い友達が同じ班にいれば、そのことを話して、変わらないところを印象付けるようにしたのです。
また、「一年生は初めてのことだらけだから間違えてしまうこともあるよ、そんな時はどうしたらいいのか優しく教えてあげるのがいいよ」と接し方も教えました。
次男は、人見知りの中でも“怒られたらどうしよう”が一番の心配事なので、「一年生のお父さんやお母さんも一年生のみんなが心配だからついてくるだけで、次男くんが悪いことをしたら怒ろうとか思っているわけではないよ。そもそも、悪いことなんてしないじゃん、大丈夫だよ」とも話をしました。
3-2.クラス替え
それぞれの学校や子どもの人数によっても違うことですが、我が家の子どもたちが通っていた小学校、中学校はどちらも毎年クラス替えがあり、小学校でも、担任の先生が持ちあがることがほとんどありませんでした。
クラスのメンバーが変わることによって、クラスの雰囲気も大きく変化します。
それは子どもたちにとっては大きな不安となるようでした。
特に春休みの間は「仲の良かった友達と同じクラスになれなかったらどうしよう」「話せる友達がいなかったらどうしよう」「担任の先生が知らない先生や厳しい先生になったらどうしよう」と、普通級だけに所属している中学生の長男のほうが強く気にしていました。
多学年学級の支援級所属の次男は、クラス替えについてそれほど心配する様子がありませんでした。
「普段過ごす教室は支援級で、今までと変わりがない」ことが、彼にとって大きな安心感をもたらしていたからだと感じています。
このことからも、「いつもと同じ」がいかに子どもたちの安心につながっているのかがわかりました。
💡[対策]
- 想像することが難しく、嫌だった思い出ばかりを覚えている(不安なことを目の前にして明るい楽しい気持ちにはなかなかなれない)
- 漠然とした不安にさいなまれて何も見えなくなってしまうことが多い(目で見てわかるように具体的に表してあげることが必要)
こういった長男の特性から、二人で一緒に計算をしてみることにしました。
長男の通う中学校は、私の暮らす市内では生徒数が多い学校です。
長男の学年は8クラス、約280名。
小6の終わりに転校してきた長男にとってはほぼ全員が知らない子、の環境です。
そんな大人数の学年ですから、3年間で同じクラスになれる人数は100人程度、全体の約1/3です。
ほかの2/3の子は、部活や委員会で同じにならないと、知らない子のままでいることもあり得ます。
まして、前学年で同じクラスだった子とまた同じクラスになれるのは、5名程度と、ほんの数名だということを、一緒に計算して導き出しました。
各小学校の人数に偏りが大きく、一クラスしかない小学校出身の子では、長男と同じように、ほとんど知らない人だらけ、という子がいること、そんな不安な状況が自分一人ではないということも確認しました。
そうすることで、息子は、友達と同じクラスになれる確率が低い代わりに苦手な子と同じクラスになる確率も大変低いということ、みんな同じスタートラインであることがわかって少し安心したようでした。
3-3.教室の場所の変更
学年が変わると、昇降口も変わることが多いですよね。
そして、教室の位置が変わることによって、特別教室への道のりも変化します。
学校によっては通路が決められていることもありますが、方向音痴の極みである長男にはこの移動教室の場所が分からなくなるということも大きな不安要素だったようです。
入学時であれば特別教室への移動も指導してもらえますが、進級でそこまで指導してくれる学校は少ないです。
💡[対策]
言葉だけでの指導ではよく理解できない長男には、見取り図を使っての説明や現地での説明が必要です。
具体的に「教室を出て左に進んだところの階段を使う」など言葉を使って説明をしてあげられれば良いのですが、そこは中学生なのもあって親が学校に来るのを大変嫌がり拒否されてしまいました。
そこで、下記のように工夫をしました。
- 移動教室の時間をしっかりチェックする癖を付ける
- 用意を早めにできるようにして、クラスメイトについて移動するようにする
- 用意が早くできるよう、教科書、ノート、資料など、各授業で毎回持っていかなくてはいけないものを、それぞれの教科ごとに100円ショップで購入したファスナー付きの書類袋に入れてまとめた
移動教室の時はクラス全員が移動しますから、他の子が移動するときに自分も一緒に移動できるよう、授業の準備が簡単にそろうように工夫して机の中にしまう、ということで移動教室のルートを克服しました。
これらの工夫をすることによって、各授業で必要なものをサッと取り出すことができるので、時間割をそろえる時間も短くなり、一石二鳥となりました。
3-4.今までの先生はこうだったから今度の先生もこうかな、ができない
自閉症スペクトラムの特徴のひとつに『汎化することが難しい』というものがあります。
例えば、コンビニエンスストアのコーヒーの販売。
アイスコーヒーを注文すると、Aのコンビニチェーンでは氷の入ったカップを渡してくれて、セルフサービスでコーヒーを注ぎます。
初めての購入がそのシステムだと、次に、他のBやCのコンビニチェーンに行った時も、同じようにセルフでコーヒーを注ぐんだろうな、と無意識のうちに思いますよね。
それが“汎化”と呼ばれる脳内の処理です。
「コンビニエンスストア」「アイスコーヒーを買う」という同じ条件がそろっているから他のコンビニチェーンでもそうなるであろう、と、想像して身構えることで不安を感じにくくなります。
汎化が苦手な自閉症スペクトラムの人にとっては、それぞれのコンビニに入るたびに、初めてアイスコーヒーを注文したときと同じドキドキを味わうことになります。
それが大きなストレスとなってしまうのです。
我が家の子どもたちにとっても汎化はとても苦手なことで、“同じ学校”の、“担任”を務める先生、という条件がそろっていたとしても、担任の先生が変わったばかりの年度始めは、少しのことでも「怒られるかもしれない」とびくびくして、悪い想像をしては不安になってパニックを起こすことがよくありました。
子どもたちにとっては、ゼロから先生との信頼関係の構築を始めなくてはいけないということになるのです。
3-5.怒られることが怖い次男への対策
怒られることが怖い次男は、「今度の先生は、宿題ができないと怒るかもしれない!でも難しくてわからなくてできない!だけどやっていかないと怒られる!」とパニックになってしまい、宿題ができないだけではなく、寝る時間も遅くなりさらに疲れてしまう悪循環に陥ることが多くありました。
そのため、下記のように手順を追って話をしました。
- 「宿題ができなかったらどうしたらいいのか、お母さんが先生に聞くね」と言って、次男を落ち着かせる
- 「今日はお母さんが宿題をやめさせて寝かしましたと話して、次男くんが怒られないようにお願いしておくから、もう寝てね」と言って、その日は宿題をやめて寝かせた
- 連絡帳に「宿題ができないと怒られるかもしれないと不安になってしまい、寝る時間もどんどん遅くなってしまいます」と現状を書き、先生へ伝える
すると、翌日先生から「次男くんの体調のほうが大切なので、宿題が難しすぎてわからないときは、寝る時間を過ぎてまで宿題をやる必要はありません、と話をしました」と返事があったため、次男はその後、安心して『難しくてできない問題は考えすぎない』ことができるようになりました。
4.対策を考えるヒント
4-1.他の子よりも大丈夫だと分かるまでの時間がかかる
子どもたちが春に不安定になる理由が春独特の変化にあることが解ってからは、目に見えているパニックに対して「どうしてこんなことで!?」と驚いたり疲れたりすることが少なくなりました。
汎化が苦手な子どもたちにとっては、一度うまくいったから次もうまくいくという前向きな捉え方をするのも苦手で、他の子どもたちよりも大丈夫、と思えるのに時間も経験も必要なのだということがわかりました。
そのためには、やはり焦らずしっかりと子どもの観察をする必要があるのです。
ただ親に甘えたいだけでそう言っているのか、子どもが本当に困っているのかを見極めるには、学校との連携も欠かせません。
4-2.春は担任の先生と連携をとっていくべき時期
支離滅裂になりがちな子どもの話を聞くのは少し大変なことですが、春は本人の口から出る言葉に注意して、気になる単語や気になることがらがあった場合には、担任の先生に確認をしたりお願いをしたりと、丁寧に連携を取ることが大切な時期。
私は、特に、普通級のみ所属の長男が小学生のときには、発達障害についての資料や長男の特徴をまとめたものを用意して、毎年、担任の先生にこのような子です、と説明をしてお願いしていました。
支援級であればそのようなシートを用意してくれる場合もありますが、ない場合は自分で用意しましょう(ネットでダウンロードし、記入できるものもあります)。
お子さんが学校でその特性を強く叱られることで学校が苦手になってしまわないためにも、先生と丁寧に連絡を取っていくことが、ひいては子どもたちのためにつながっていくのです。
4-3.前年度できたことができなくなる場合もある
前年度できていたことでも、不安定になることによってできなくなってしまうこともあります。
朝の着替えや、翌日の授業の準備などが我が家ではそれにあたります。
一人で着替えられず着替えさせてほしいと言ったり、勉強道具をそろえることができない!と言ったり。
前年度はできていたことなのだから、それはできないのではなくやらないのではないか、とつい思ってしまいます。
朝や夕方の忙しい時間、疲れているときなどには、イラッとしてしまうことも。
そんな時には「前はできていたじゃない!」と突き放すよりも「手伝ってほしいのね」と言いながら一緒にやってあげるほうが、子どもは安心するようで落ち着いてくれます。
手伝ってほしいというのは甘えているサインだと考えているので、そんな時には一緒にやってあげることで本人の甘えたい気持ちも満たされてやらなくてはいけないことも片付き、一石二鳥になりますよ。
まとめ
私の子どもたちが春に起こす不調とその原因、対策について書いてきました。
私の経験上、担任の先生と密に連絡を取って合理的配慮をしていただけるようにお願いすることで、子どもが学校に行きやすくなることは確かです。
連絡をこまめに取り、親が先生との信頼関係をまず築くことで、子どもも、文字通り、先生を信じて、頼っていけるようになります。
できないことは誰かにお願いする、助けを求める、それができるようになることが、発達障害を持つ子どもたちが将来自立するうえでとても大きな力になってくれると私は考えています。
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