「毎朝、学校に行くための用意ができない」
「連絡帳など何も書いてこないので翌日の準備や宿題ができない」
「放課後の予定を忘れて、家に帰ってこない」
ADHDの特徴としてよく知られている忘れ物や集中力の持続など以外にも、学童期の子どもには様々な問題が起こりますよね。
「当たり前のことが習慣化できない」「どのように対応すれば良いのか」と悩んでいるのではないでしょうか?
ここでは、実際の事例を取り上げながら朝の準備を習慣化するために有効であった方法を紹介していきます。
今まで、悩みながらも解決に至らなかった出来事が良い方向へと進むかもしれません。
できないこと、難しいことは習慣化して行う
まず、上手くいかないことやすぐに忘れてしまうことは、その度に急き立てて奮い立たせるよりも、習慣化して自然に行えるように身につけることが良いです。
今まで何度挑戦しても上手くいかなかったことが自分で出来るようになり、習慣化して行えるようになると子ども本人に自信がつき、同時に、保護者の負担も減りますよ。
習慣化したいことといえば、次のようなことが挙げられますね。
- 朝の用意を時間通りに行う
- 宿題を忘れないように取り組む
- 忘れ物をしないように確認する
- 連絡帳を書いてくる
- 予定のある日は早く帰ってくる
それでは、「学校に行くための朝の準備」を例にあげてみていきましょう。
学校に行くための準備が一人でできないときに
学校へ行くために家を出る時間はだいたい決まっているため、その時間に間に合うように起きて準備をすれば良いのですが、ADHDの子の場合、それがなかなかうまくできません。
健常児であれば、毎日同じ時間に起床し、同じ流れを繰り返す訳ですから、自然と「○時にトイレに行けば間に合うな」などの時間配分も自分の中で見出して、時間を見ながら自分で行動できるようになりますね。
高学年にもなれば、親が仕事でどもよりも早くに家を出てしまっていても、自分で用意をして時間になったら家を出ることは出来るでしょう。
しかし、「なんで、いつまでたっても自分で用意ができないの?」となるのがADHDの子どもです。
我が家の息子も随分と一人で進めるようになったものの、未だにところどころでフォローが必要です。
では、なぜ毎日決まった繰り返しの行動をするだけのことが身につかないのでしょうか?
朝、学校に行くための準備は、実は複雑な工程だった
起きて学校に行くための準備は、実はたくさんの行動・要素が含まれています。
- 朝、自分で起きる
- 顔を洗う
- 服を着替える
- 朝ごはんを食べる
- 歯を磨く
- トイレに行く
- 学校の用意の確認をする
この一連の行動が習慣化すると、いちいち自分の頭で次の行動を考えなくても、自然と体が動いて次の行動へと進んで朝の準備が進められていきます。
時間を気にしながら工程を一つずつ進めていくわけですが、もしも、どれか一つの工程に時間がかかってしまった場合でも、≪他の工程の時間を削る≫、≪動作のスピードをあげる≫、≪工程の一つ省く≫など時間配分を考えて、家を出る時間に間に合うように自然と調整しようとするものですよね。
このような臨機応変な対応を行えば、たとえ途中の工程でいつもとは違う出来事が起こったとしても、家を出る時間は守られるのです。
しかし、その臨機応変な対応が難しいのがADHDです。
しかも、準備を行うのは自分の家。
周りにはテレビや本、おもちゃなど気になるものが多くある環境です。
魅力的なものに注意を奪われながらも、自分のやるべきことを遂行しなくてはならないのです。
💡 【行動を積み重ね、習慣化する】
ADHDの苦手なことができるようになるための対応方法としても、「行動を習慣化する」という対処法がよく挙げられていますが、この習慣化こそがADHDの苦手とすることなのです。
なぜADHDの子どもが朝、学校に行くための準備が難しいのか
ADHDの子どもは下記を苦手とするため、準備をすることよりも他のことに注意が向いてしまうことによって、準備が進まなくなったり時間を気にして準備を進めることが難しかったりするのです。
- 注意を集中させる
- 必要な注意を選択する
- 注意を持続させる
- 注意をあちらとこちらに振り分ける
- 注意をあちらからこちらに切り替える
また、次に行うことを想定しながら順序を考えて行うことも苦手とします。
洗顔や歯みがきなどの一つ一つの行動は行えても、起きるのが遅かった時やトイレに時間がかかった時など、いつもとは違うイレギュラーな出来事が起こった時に、「早く行動して家を出る時間に間に合わせる」という臨機応変な対応が難しいのです。
そのため、気分が乗らず、気持ちの切り替えが出来ない等の問題が起こってきます。
集中力も途切れ途切れになるため、「学校に行くための準備」という一連の流れが身につきにくくなってしまいます。
ADHDの子どもは、言葉の概念や行動が身につきにくい、経験を積み重ねて実行することにつながりにくいという特徴を持っている場合や、身体の不器用さを持ち合わせている場合、それから、感情をコントロールすることが苦手な場合が多いのです。
【なぜ、皆が当たり前のように行っていることが習慣化しないのか?】
個々の注意の問題や、イレギュラーなことが起こった時の問題解決能力、感情のコントロールの問題なども含まれますが、そこには上手くいった体験・経験が少ないことも原因になっているのではないかと筆者は考えています。
「集中が途切れて、行動が止まってしまっている」「他のことをしている」「一つのことに時間がかかり過ぎている」等が起こると子どもは、保護者から「早くしなさい」「今、○○時よ」「○○して!」と急き立てられることが多いため、その子には「注意されている、怒られている」という経験が強く残り、学校に行く一連の行動が「失敗した経験」となってしまうのです。
成功した体験や達成感を得られた経験は「次も同じようにしてみよう!」と次回へのモチベーションへとつながりますが、怒られた・注意された等の失敗した体験はモチベーションにはならず、何回も同じ失敗を繰り返してしまう原因となってしまいます。
学校の準備を習慣化するためには
まずは、成功体験をもたらさなければなりません。
成功するためにはどうすれば良いのか、ぜひ下記を参考にしてみてください。
📌やるべきことを書き表す
ADHDの対応の仕方などでよく見られるのは、「やるべきことを書き表す」ことです。
朝起きてから何をしなければならないのかを順番に書き出し、簡単な文か絵で表して視覚化するとよいですよ。
視覚から訴えかけること、今何をすべきなのかを具体的に簡単に明確にすることを促し、親がいちいち「○○しなさい」と言わなくても、子どもが自ら文や絵を見て自分で行動することに繋げるためです。
我が家では、そろそろ自分で学校の準備をして欲しいと思い始めた小学4年生の時に取り入れてみました。
初日は早速、貼ってある紙を見て、次は「歯磨き!」「トイレ!」と楽しそうに取りかかりはじめました。
しかし、いい調子だなと思ったのも束の間、調子が良かったのは2日目まで、3日目からは元通りになり、すぐに動作が途中で止まってしまったり、違うことをしたりと時間が過ぎているのに動かなくなりました。
なぜ続かなかったのでしょうか?
それは、「紙を見るという工程がひとつ増えたことを面倒に感じた」のだと考えました。
はじめは目新しいものがあるため、興味を持って貼ってある紙に注意を向けることが出来ましたが、すぐに飽きてしまって紙を見ることが面倒になったのです。
☝「すぐに飽きる、面倒くさがる」……これもADHDの特徴のひとつです。
就学前などの早い時期に取り入れれば、視覚的に訴える方法で習慣化に成功することもあるでしょう。
しかし、我が家のように上手くいかなかった場合は、次のことを試してみてください。
📌注意をそがれるものをとり除く
家にいるとテレビや本、おもちゃなど、気がそれてしまうものはたくさんあります。
たとえ気になるものが目に入っても、今やるべきことを優先することができれば問題ありません。
しかし、ADHDの子どもにとって、「興味があるものが周りにありながらそれを背景として置いておいて、やるべきことを遂行する」ことは難しく、やるべきことも、興味があるものも同じボリュームとして入ってきてしまうのです。
まずは、気になるものがなるべく目に入りにくい環境をつくることがおすすめです。
以下は、我が家で実践していることです。
- 朝にテレビはつけない
- 床に漫画やおもちゃなどを置きっぱなしにしない
- 朝の準備に必要ないものに手を伸ばしていたら、そっとしまう
- 他のことへ気がそれそうになったら、次にやるべきことの方向へと身体を誘導する(トイレへ行かなければならないのに、他のところに向かっていればトイレへと体の向きを動かす)
- 時計を目につくところに置いておく
- ランドセル置き場、学校用品置き場は玄関のそばにつくっておく
これらを実行するためには家族の協力が不可欠ですので、全てを実践しようと思うとなかなか難しいですが、環境を整えることは有効であると実感しています。
朝起きてから学校の用意をして玄関に出るまでの動線をなるべく短く、真っすぐにし、周りに注意をそがれるものがない環境に整えることも有効です。
📌できたらほめる
褒めるって意外と難しいことですよね。
特にADHDの子どもの場合、親は「○○しなさい」と注意することが多いです。
我が家でもそうですが、出来た時も当たり前のことが出来ただけであり、「やれやれ、やっとできた」と褒めずに終わらせてしまうことが多いかもしれません。
なかなか意識しなければ褒めることはできません。
「時間通りにできたね!」「今日はいいね!」「すごいね!」など、子どもが嬉しくなるような言葉を口に出してみましょう。
子どもが「できた!」「上手くいった!」と思うことで、次も同じようにしようというモチベーションが生まれます。
上手に子どものモチベーションを引き出して、「上手くいった!!」という成功の経験の場をつくるようにしたいですね。
これは保護者である私自身の課題でもあります。
学校の準備を習慣化することは、他のことにも応用できる
学校に行くための準備が出来るようになれば、帰宅後に宿題をやることや、放課後に習い事に行く時など、なかなか習慣化できない行動も同じように対応することが可能です。
ただ、学校から帰ってきて一息ついてしまうと動かなくなってしまう、やる気が起きなくなってしまう子どももいます。
一度止まって休んでしまうとエンジンがかかりにくくなるんですね。
そのため、ブレーキをかけてしまう前に、宿題などのやるべきことを済ましてしまうことがおすすめです。
例えば……
- 学校から帰ってきたらすぐに手洗い&うがい
- おやつの前に先に宿題をする
親子でルールを決めておくことも有効です。
「宿題をしなければならない」ではなく、「宿題をしたらおやつ」「宿題をしたら遊べる」など、「やるべきことが出来ればご褒美が待っている」というように、モチベーションを促すことも良いですね。
もちろん宿題をする環境は、注意がそがれるものを取り除いておくことが大切です。
最近では学校で宿題をしても良いところもあるようなので、どうしても家では難しいという場合は学校で宿題をするというのもひとつの方法かもしれません。
我が家では、連絡帳を書いてこず、宿題や時間割や明日の持ち物が分からない状態が続いた時には、先生に連絡帳のチェックをお願いすることもありました。
予定があるのに、放課後に学校でいて遊んで家に帰ってこない時には、
- 連絡帳に「今日は遊ばず帰る」ということをあらかじめ書いておく
- 週間で遊べる日と遊べない日を○×で記したメモを貼り付ける
これらを続けていると、先生にチェックしてもらうのが面倒になったのか、はたまた子ども自身の意識づけになったのか、連絡帳をきちんと書いてくるようになりました。
以前は習い事や用事などの自分の予定を知ろうともしなかったのが、「○曜日は●●があるから早く帰る」など、意識できるようになりました。
まだまだ忘れることはありますが、自分のスケジュールを意識することにはつながったようです。
まとめ
一日の生活が、親からの呼びかけやお小言がなくてもスタートできるようになるためには、自分の一日のスケジュールを子ども自身が把握し、次にやるべきことを想定しながら動けるようになることが必要です。
そのためにはまず、朝の準備をスムーズに行えるかどうかが重要となってきますね。
短期間で解決することではないので、分かってはいるものの「どうしてできないんだろう……」と落ち込むことも多いですが、
- 環境を整えること
- やるべきことを記すこと
- できたら褒めること
を続けて、「この手がだめなら次はあの手で!」と試行錯誤しながら色々と実践するのも楽しいものです。
良い兆しが見えたときには、親の努力も大きい分、とても嬉しく感じます。
是非、ほんの小さなことでも「できた!」という体験をお子さんと一緒に喜んでほしいと筆者は思っています。
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