カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群の特徴を強く持つ人のパートナーに生じる可能性の高い二次障害のことです。
発達障害のある人と健常者には、よくも悪くも「常識のずれ」があります。
「ずれ」を意識して行動に移せる健常者は、発達障害者と共に生活をするうえで、我慢や妥協をしなければならない場面に遭遇することがしばしばありますよね。
その我慢や妥協の積み重ねが、健常者であるパートナーの心を徐々に傷つけてしまい、カサンドラ症候群を引き起こしてしまうのです。
発達障害者は場の空気を読むことが苦手だという場合が多く、また、相手が何を考えているのか推測することを苦手とする人も多いことから、【健常者であるパートナーに我慢をさせている】ということに気づいていないケースが多いのです。
今回はカサンドラ症候群の症状やきっかけを、私の体験談を交えながらお伝えしていきます。
もしも「私が抱いている違和感は、カサンドラ症候群の前兆かもしれない」と感じたら、改善に向けた行動に移していくことをお勧めします。
カサンドラ症候群とは -具体的な特徴-
カサンドラ症候群は、発達障害、特にアスペルガー症候群の特徴を持つパートナーと過ごすことによって、健常者が精神的、肉体的に苦痛を感じるようになり、パニック障害になったり、抑うつ症状が現れたりするものです。
男性であるか、女性であるかは関係がなく、発達障害者と密接にかかわる中で引き起こされる「二次障害」です。
カサンドラ症候群には現段階では詳細な診断基準はなく、主に心身に現れている症状に対処する治療が行われています。
症状の例を以下に挙げます。
📌体の不調
風邪などの内科的な病気ではないのに、体の不調を感じる、うつ病の前兆のような症状です。
- 体が今までよりも疲れやすい
- やる気が出ない状況が続く
- 料理が面倒になってしまった
- 今までは好きでやれていたことをやろうという気持ちが起こらない など
📌うつ病
肉体的な不調だけでは原因がどこにあるか気付けず、ストレスが解消されないまま重症化し、うつ病になってしまうことがあります。
うつ病の症状としては、上記の体の不調に加えて、
- 強い倦怠感
- 食欲がない、味がよくわからない
- 忘れっぽくなった
- よく眠れない
- テレビを見るのがつまらなくなった
などがあります。
📌パニック障害
精神的なストレスから引き起こされる病気で、発作のように、いくつかの身体症状が一度に現れます。
- 動悸が激しくなる
- 息苦しさ
- のどに何かつかえているような感じがなくならない
- 手足の先が冷え、ひどい寒気を感じる
- ブラックアウトする
- めまい、気が遠くなる
- このまま死んでしまうのではないだろうかという恐怖感 など
なぜカサンドラ症候群になるのか
発達障害者は社会生活を営む中で、たくさんの違和感や不快感を抱いています。
- 周囲の大多数の人と自分との感覚や考え方の違いに戸惑う
- 周囲の人たちとは違ったところを気にする
- 自分の困り感をわかってくれる人がいない
など、悩みごとがあるにもかかわらず、その悩みごとを解決することができない状態が続くと、「二次障害」としてうつやパニック障害を発症する場合があります。
カサンドラ症候群は、上記の「二次障害」が本人には現れず、パートナーに起こる状態をいいます。
アスペルガー症候群の人と健常者のカップルの場合、健常者だけが感覚や考え方の違いに戸惑うケースが大半を占めています。
健常者は、無意識のうちに自分の周りの人たちと同じようなコミュニケーションをパートナーにも求めているため、「当たり前のことをしてくれない」「暗黙のルールを破られる」といったことが繰り返されるうちに、自分というものを見失ってしまい、身体的、精神的に症状が出てしまうことがあるのです。
これが、カサンドラ症候群になってしまう主な要因です。
私が振り返ってわかった、きっかけとなりうるできごと
日々の何気ないコミュニケーションの中で健常者が無意識に求めてしまっている事柄のうち、発達障害者が苦手としていることがたくさんあります。
例として、私の体験談を交えながらお伝えしていきます。
ぜひ参考にしてくださいね。
日常会話
健常者は無意識のうちに会話の中でも相手に対して、相槌、共感を期待しています。
愚痴を言っているときは特に「そうなんだ、大変だね」「わかるよ」という共感を求めて話していることが多いですよね。
アスペルガー症候群の特徴の強い人は、共感するという行為が苦手だといわれています。
見えないものはない、話されていない部分はない、と捉えてしまうため、相手がどんな返しを望んでいるかを考えず「それならこういうふうにしてみたら?」と改善策を話し始めてしまうのです。
ただ愚痴を聞いてほしかっただけなのに、「それは君が悪いよ」と怒られてしまうことすらあります。
そのため、健常者は「パートナーに話をしてもすっきりしない」「何か物足りない」といった印象を受けてしまうのです。
子育て全般
子どもは1歳半を過ぎると、だんだんと本人の自我が出てくるようになりますよね。
歩けるようになって抱っこを嫌がったり、逆に歩いてほしいときには抱っこしてと泣いたり。
夫が最も機嫌悪く過ごしていた期間が、我が子のその「イヤ」という意思表示がはっきりしてくる頃でした。
夜勤のある仕事をしていた夫は、夜勤明けで寝ているときに子どもが大きい声で泣くと「何で泣かせているんだ!」と怒って降りてくることがたびたびあったのです。
「この子の泣き方はこんな感じなのだから仕方ない」と何度説明しても、「きつく言ったから泣いているのだろう」「お前の接し方が悪いのだろう」と怒られ、「泣きたいのはこちらなのに」と思いながら、夜勤の間は、できるだけ子どもを泣かせないように公園や図書館などに行くようにと夫に気をつかい、つらい思いをしていました。
また、夫は休日に自分が出かけたいところに家族で出かけることが好きでしたが、子どもが嫌がると途端に怒りだして「俺が行きたいところはそんなにいきたくないのか! もういい!」と声を荒げ、一日中機嫌悪くパソコンの前に座って過ごし、その日が終わる頃になっても「お前が泣いたからせっかくの休みが無駄になった!」と子どもに怒鳴る始末……。
泣く子どもに対して夫が怒り、そのたびに私の恐怖感も増していったのです。
子どもを泣かせないようにと必死になり、夜勤や夫の休日が怖くなりました。
夜勤はひと月のうち三分の二あり、気の抜けない日々になっていきました。
「もう限界」そんな言葉が口をついて出そうになる毎日。
「夫に話を聞いてもらいたい」と思っても会話が成り立たないことが多く、私はそのたびに孤独感に苛まれていました。
夫に子どものことで話を聞いてもらいたいと思い、「今日は学校からこんなことで電話がかかってきて、長男はこんなにパニックになって、それでもきちんと相手の家に電話をして謝ったんだよ」と話しかけたことがありました。
私が求めていたレスポンスは「大変だったね」という一言だったのですが、なんと夫は長男を呼びつけて、その出来事について延々と説教を始めたのです。
長男はすでに先生と私、二回にわたって話をきかされ、やっとのことで落ち着いたのに、またその話を、誰よりも強く怒られ、怒鳴られ、再びパニック泣きに。
「私が求めていたのはそんなことじゃない」「長男を正しい道にという気持ちはあるのかもしれないけれど、時間が経ってから話を蒸し返しても効果的ではないし」とがっくりしてしまい、それ以来学校からの電話の内容や困っていることを、夫に話すことはやめることにしました。
私が疲れたからといって夫に愚痴を言うと、長男が泣くことになってしまうのなら、私ひとりが我慢すれば子どもは泣かされなくてすむのだから……、そう考えたのです。
日々の食事
私の元夫は食事に対してこだわりが薄いため、趣向を凝らした料理をしても「美味しそうだね」と言ってくれることがなく、食事の感想もほとんど聞けることはありませんでした。
毎日がんばって同居している三世代全員が食べられるメニューを考えて作っても、記念日に豪華な料理を作っても「どんなに努力をしても、夫は私を認めてくれないのだろうな」と思っていました。
毎回特別おいしいものを作れるわけでもないですが、それでも自分と自分の両親、子どもたちが生きていくための食事を毎日毎回作っていることに対して、たまにはねぎらいの言葉があってもいいのではないか、そう考えてしまい、認めてもらえないというネガティブなイメージを持ってしまいました。
家庭のルールの変更が難しい
発達障害者は自分の育った家庭状況しかわからず、他人の家庭状況にはそもそも興味がないため、知ろうとしないことが多いです。
たとえば、
- 食器を洗ったら拭くのか、乾燥させるのか
- 洗濯ものはタオルと衣類を分類するのか、しないのか
- お風呂のお湯は最後の人が抜くのか、いれる直前まで入れたままにするのか
上記のような、何気ない日々の行動ひとつひとつのずれはどのようなカップルにおいても起こりうることですが、ルールの変更が難しいアスペルガー症候群の人は、健常者がいくら「自分の家ではこうだったんだよね」ということを主張しても、それを否定し、「こちらが正しい」と言って譲らないことが多いのです。
彼らにとっては、それが生まれてからずっと変わらないルールだったからです。
健常者同士のカップルであれば、その時に話し合いをして「我が家はこういうルールにしていこう」と決めることができるのですが、発達障害者と健常者の夫婦やカップルではそれができず、健常者が譲歩しなくてはなりません。
しかし、そのような状況ばかりが続くと、健常者は自分の生きてきた家庭状況までも否定された気分になってしまいますよね。
日常生活を送るうえで、特にこの点に悩み、苦しんでいる夫婦やカップルは多いのではないかと私は思います。
周囲に理解されにくい
アスペルガー症候群の人たちは経験からうまく社会に適応しており、そのうえ対人能力以外の能力に長けている人も多いため、周囲の評価が高い人も多く、周りの人にパートナーの話をしても、理解してもらうことができず、自分がわがままを言っているように思われてしまうことすらあります。
私の元夫も家の中ではアスペルガー症候群の特徴が出ていましたが、それを外で出すことは得ではないという学習をしてきていたのか、外では「いいお父さん」と思われるような行動を取っていました。
周りに、私がいろいろなことに困っていることを話そうとしても「いいお父さんね」と言われていたため、話すことができず、また、話してみても分かってもらうことはできませんでした。
それが長い年月続くと、周囲に話してもわかってもらえないことから「自分がダメなのではないか」と自信喪失し、また、地域でも家庭の中でも孤立していってしまって、精神的に疲れてしまうのです。
カサンドラ症候群になるのは誰のせいか
ここまで読んでいただくと、健常者であるパートナーをカサンドラ症候群に陥れてしまうアスペルガー症候群の特徴を持つ人が悪いように感じてしまう人も多いのではないでしょうか。
しかし、発達障害はまだ解明されていない部分も多く、対応の仕方を私たちは教わることなく育ち、発達障害者もまた、私たちと同じく、健常者とどのように交流すればお互いが困ることなく過ごせるのか、ということを知らないまま育ってきたケースが多く、お互いがお互いのことをわからないまま、大人になってきてしまったのです。
そのため、どちらか一方が悪く、どちらが正しいか、という問題ではないのです。
発達障害のあるパートナーと過ごすうえで、その点を忘れないようにしておいてくださいね。
カサンドラ症候群にならないために
アスペルガー症候群の特徴がある人と過ごしているパートナーが、カサンドラ症候群に陥ることなく過ごすことはできるのでしょうか?
カサンドラ症候群に陥る人は、もともとまじめな人が多く、一人で考えすぎてしまう人が多いのではないかと思います。
私も、自分さえ我慢すればいい、と考えてしまっていました。
そのため、一人でなんでもやることになり、抱えるものが大きくなりすぎてしまい、あるとき糸が切れたようにパニック障害の発作が起こってしまいました。
カサンドラ症候群に陥ってしまってから解決することはなかなか難しいため、それ以前の段階で、外につながっていくことが必要となります。
人に相談する
これは健常者同士でも同じように言えることですが、自分のパートナーのことを相談できる相手を作っておくとよいでしょう。
親しい友人などでもいいですが、パートナーに漏れ伝わる心配もあるため、都道府県や市町村で行われている窓口相談や、電話相談なども活用されることをおすすめします。
どちらの知り合いでも無いほうが、客観的に事実を捉えて相談に乗ってもらえるからです。
また、今ではSNSというツールがあります。
その中で同じ悩みを抱えている人たちを見つけ、自分が抱いている違和感に共感してもらうことで、「この違和感は間違ったものではない」と思え、自信をもらうこともできますよ。
カウンセリングをうける
心療内科、精神科につながりがある場合は、カウンセリングをお願いすることももちろんおすすめです。
自分の主治医でも、パートナーの主治医でも問題ありません。
カウンセリングは実費となることが多いため費用がかかりますが、地区町村が無料でカウンセリングを実施している場合があります。
広報やホームページをチェックして無料相談などがないか、確認してみてくださいね。
まとめ
今回はカサンドラ症候群について、私の体験談を交えながらお伝えしてきました。
この記事を読んでいるあなたにも思い当たる節があるのであれば、一度カサンドラ症候群を疑ってみてもよいかもしれません。
重症化してしまう前に、なるべく早めにカウンセリングに通うことや、病院へ行くことを検討してみてくださいね。
- カサンドラ症候群は、発達障害のパートナーを持つ健常者がなり、パニック障害やうつ病に至ることもある
- 発達障害がある人と健常者との違いからカサンドラ症候群に陥ることがある
- パートナーがカサンドラ症候群になってしまう原因は発達障害者にあるが、どちらか一方が悪く、どちらが正しいか、という問題ではない
- カサンドラ症候群を防ぐためには、ひとりで抱え込まず周りに相談することが必要
あなたがもしパートナーとの関係に違和感を抱き、そしてひとりで悩んでいる状況なら、ぜひ一歩踏み出してみてください。
それはとても勇気のいることですが、その一歩は、あなたの命を守ることにもつながります。
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