子どもが小学校に入学することは多くの親子にとって嬉しく心躍ることですが、発達に遅れや障害のある親子にとって、入学前は不安や心配事が募る時期でもありますね。
先生の手厚いサポートを受けられた幼稚園や保育園と違い、小学校では子どもが主体となって動く上に子ども同士の繋がりも強く深くなっていきます。
「勉強についていけるか」「友達ができるのか」「楽しい学校生活を送れるか」……こうした数多くの疑問や不安、学校に対する要望をぶつける場、それが【就学相談】です。
就学相談を上手く活用して、子どもにとってベストな就学先を見付けるようにしましょう。
就学相談とは
就学相談とは、就学前の子どもとその保護者、教育委員会、学校関係者が面談して就学について話をする場のこと。
保護者は就学について抱いている不安や疑問、要望を遠慮なくぶつけることができます。
以前は法律によって、一定の障害がある子どもは支援学校に行くことが望ましいとされていましたが、法改正によって子どもの希望を尊重する(支援学校以外の就学先を幅広く選べるようにする)こと、と変更されました。
就学相談は夏~秋頃、開催されます(おおむね、就学時健康診断の前後が多いです)。
発達に遅れや障害があるため自治体に相談を持ちかけたことがあったり、親が積極的に自治体に働きかけたりしている場合は、就学時健康診断の前に行うことが多いです。
就学時健康診断で発達の遅れや障害が疑われた場合は、健康診断後に保護者の元に連絡がきます。
就学相談の流れ
自治体によって流れが異なりますが、相談は大体次のような流れで進みます。
就学相談の流れ
- 自治体の発達支援センターや就学担当課などから保護者のもとに連絡がくる(夏頃)
- 就学相談を希望する場合、保護者が教育委員会に面談を申し込む
- 子ども同伴(もしくは保護者のみ)で教育委員会の担当者と面談する
- 教育委員会と面談後、就学予定の学校に見学希望を出し、校長や教員と意見交換を行う(日時は学校側の都合に合わせる)
- 教育委員会から「就学先の希望に関する書類」の提出を要求される(秋頃)
- 教育委員会が5の書類を審査会で審査し、就学先としてどこが適当か判断する
- 教育委員会から審査結果(就学先はどこが望ましいか)保護者の元に連絡がくる(年内が目安)
就学相談は「親が希望する場合に実施する」形なので、なにがなんでも絶対に相談しないといけないわけではありません。
教育委員会から強制されるものでもないため、親になんの不安も疑問もなく、校区の小学校(普通学級)に進学させる意志が固まっているのであれば、相談の必要はありません。
しかし、不安や疑問が全くない場合でも、発達に遅れや障害がある子どもを持つ場合は、就学相談で教育委員会や学校と繋がりを持っておくと何か問題を感じたときに、すぐに相談できるため、心強く感じますよ。
就学相談で必要なもの
就学相談のときは、次のようなものを準備しておくと相談がスムーズに進みます。
就学相談で必要なもの
- 親が抱えている不安や疑問、要望をまとめたもの
- 子どもが抱えている不安や困り事
- 子どもの発達の程度を示す資料(発達検査・知能検査の結果)
- 療育に通っている場合は療育担当者の意見
- 幼稚園や保育園に通っている場合は、先生の意見
こうした情報を予めまとめておき、頭に入れておくと話がしやすいです。
特に、療育の担当者と幼稚園や保育園の先生からのもらった意見は、ひとつだけではなく、複数の意見を頭にいれておくとよいですよ。
小学校に進学すると、先生・児童・他の保護者・地域の人々など、数多くの第三者の視線を強く感じるようになります。
親が気付いていない子どもの様子・特性などを知ることができるため、必ず聞いておくようにしましょう。
なお「就学相談の流れ」で紹介した「5.教育委員会から「就学先の希望に関する書類」の提出を要求される(秋頃)」では、次のような書類を教育委員会に提出することになります。
- 子どもと保護者が希望する就学先を書いた書類(希望調書)
- 発達検査や知能検査の結果
- 幼稚園や保育園の先生が作成する、園での様子に関する書類(身の回りのことがどれくらいできるか、園の活動の参加度、友達との関わり方などを先生がチェックし、評価した書類
1.と3.は比較的すぐに準備できますが、2.について困る人も多いのではないでしょうか。
発達検査や知能検査は小児神経医や臨床心理士、言語聴覚士など専門家が実施して結果を出しますが、検査を希望しても予約が取れなかったり、検査を受けられるのが数ヶ月先だったりということがよくあります。
さらに、検査を受けてから結果が出るまで数週間の時間が必要です。
子どもが体調を崩して検査を予定通り受けられないこともあるため、発達に不安や障害がある場合は、年長になったら夏までに一度は検査を受けておくことをおすすめします。
就学先の選択肢
発達に遅れや障害がある子どもは、その特性に合わせて就学先を選ぶことができます。
次からは、「特別支援学校」「特別支援学級」「通級学級」「通常学級」「交流学級」の5つの選択肢について、詳しく説明しています。
ぜひ参考にしてみてくださいね。
特別支援学校
特別支援学校は、障害ある子ども(一定レベルの障害が認定されている子ども)が通う学校です。
「視覚障害」「聴覚障害」「知的障害」「肢体不自由」「病弱」という5つの区分があり、子どもの障害の種類や程度によって所属先が決まります。
しかし、全ての自治体に全部の学校が揃っているわけではないため、複数の障害や特性を持つ子どもが在籍する場合もあります。
自治体によって学校の数や種類、入学基準や入学できるところが異なること、また、学校を見学できる日時も限定されていることから、各自治体に事前に確認しておくことが必要となります。
特別支援学校を希望する場合は、年中くらいから自治体と連携して情報を収集しておくことをおすすめします。
特別支援学級
特別支援学級は小学校の中に設置されており、1クラス最高8人という少人数であること、そして担任以外に介助の先生が付くことから、手厚いサポートを受けることが可能です。
特別支援学級も子どもの障害の内容によって複数の区分があります。
「知的障害」「肢体不自由」「病弱・身体虚弱」「弱視」「難聴」「言語障害」「自閉症・情緒障害」の7つの区分があり、子どもの障害や特性に合わせて所属学級が変わります。
ただ、全ての小学校に全部の区分の特別支援学級が設置されているわけではありません。
知的障害と自閉症・情緒障害の学級は比較的多くの学校に設置されていますが、それ以外の障害について独立した学級を設置している小学校は少ないことが実状です。
特別支援学級に所属を希望する場合は、まず、校区の学校に希望する区分の特別支援学級が設置されているのか確認する必要があります。
もし、校区の学校に希望する区分の特別支援学級がない場合は、通常学級でどのようなケアが受けられるか、校区外の学校に希望する区分の特設支援学級が設置されているか、そこに通うことができるか、などを確認する必要があります。
通級学級
通級学級とは、不定期に開催される特別な学級のこと。
通常学級に在籍している子どものうち、発達に遅れや障害のある子どもが通級学級が開催された時にだけ通うという形になります。
通級学級の内容は学校によって異なります。
学習障害を対象にしていたり、ソーシャルスキルトレーニングを行ったり、言語聴覚療法を実践していたりと様々です。
残念ながら通級学級が設置されている学校は数が少なく、子どもが通う学校に通級学級が設置されていない場合は別の学校へ移動しなければならないというデメリットがあります。
通級学級の送迎を親が行わなければならない場合もあり、現実的でない選択肢である場合もありますので注意が必要です。
通常学級
通常学級は一般的に、特別なサポートが必要でない子ども達が所属する学級で、1年生の場合は1クラス最大35人になります。
発達に遅れや障害がある子どもが通常学級に在籍する場合、介助者を付けてくれる自治体もあります。
「介助者が付くか、付かないか」また、「何年生まで付くか」ということは自治体によって異なります。
私の娘が通う学校では、通常学級に在籍する子どもに介助者は付きません。
発達の遅れや障害が軽度で、介助者が付いてくれる場合は通常学級も不安なく通常学級を選択できます。
交流学級
交流学級とは、特別支援学級に在籍している子どもが通常学級に行って授業を受けたり、給食を食べたりすることです。
特別支援学級に在籍しているため、介助者のサポートを受けながら、通常学級の子ども達と一緒に学んだり行事に参加したりできます。
学校によりますが、本人と親の希望で交流学級の時間数などを選ぶことができ、子どもの成長に応じて変更することも可能です。
就学先を判断する時の5つの注意点
発達に遅れや障害がある子どもには就学先が複数あり、その判断は本人の希望と保護者の意向が強く反映されます。
色々と迷う点はあると思いますが、次の5つの注意点に気を付けながら判断してください。
【注意点1】本人の特性を正確に把握する
絶対に外せないことは、子どもの特性です。
子どもの特性を知り、必要なサポートがなにかを把握した上で就学先を選ぶことが絶対条件です。
必要なサポートを把握する上で発達検査・知能検査は欠かせません。
可能な限り、年長になってから受けた検査結果を参考にして就学先を検討しましょう。
発達検査・知能検査の結果は教育委員会に提出する必要がありますから、早めに準備しておくことをおすすめします。
私の娘は4歳と5歳の時に発達検査を受けており、その結果を見て特性に合わせた療育を実施していました。
「特性に合わせた療育を受けているから大丈夫」と思っていましたし、就学相談というものがあること、そして就学相談で検査結果を教育委員会に提出しないといけないことを私は知りませんでした。
10月に教育委員会から就学先を判断する参考となる発達検査・知能検査の結果を提出するよう要求されてビックリし、大急ぎで通っている療育施設に相談して臨床心理士になんとか都合を付けてもらって検査を実施、頼み込んで一週間で検査結果を出してもらいました。
費用も1万円以上かかりましたが、結局、書類の提出期限に間に合わず、後から追加で提出という形になりました。
発達検査や知能検査は自治体の療育施設や教育センターで受ければ無料ですし、総合病院などの小児神経科・小児科で受ければ保険適用となって3割負担で済むことがあります。
療育施設に迷惑を掛けた上、時間と費用のロスは大きな失敗でした。
予約を取ることは大変ですが、年長になってから発達検査や知能検査を受けられるよう、できるだけ早く検査予約を取ることをおすすめします。
【注意点2】学校のサポート体制を確認
発達に遅れや、障害がある子どもに対する学校のサポート体制の確認も重要です。
学校によってサポート体制に大きな差があり、質の高い学校生活が送れるよう体制が整っている学校もあれば、そうとは言えない学校もあります。
残念ながら、特別支援学級が「困り事を抱えた子どもをまとめて置く場」になっている場合もあり、「発達に遅れや特性がある子どもを排除すれば、通常学級をまとめやすい」「トラブルを起こす子は集団から取り除く」といった考え方の学校があることも事実です。
こうした学校では、支援学級をどう運営すればいいのか解っていなかったり、担任も発達について知識がなかったり、経験・指導力が不足しているケースがあります。
困っている子どもが健全な学校生活を送れないだけでなく、通常学級の子ども達も「自分と違う特性を持つ人とどう関わるのか」という勉強ができず、差別やいじめに繋がる危険もあります。
特別支援学級に対する学校のサポート体制をチェックすることも大切です。
【注意点3】通常学級との交流方法と頻度
支援学級に在籍する子どもが通常学級の子ども達と交流したり、イベントに参加する頻度も確認しておきましょう。
校長の考え方や教員の数や余裕に左右されるようですが、交流について積極的な学校はサポート体制や方法をよく考えてくれているケースが多くあります。
逆に、交流に制限を設けていたり、交流に消極的な学校は極度にトラブルを恐れていたり、人手に余裕がない、先生の理解が足りないなどの問題があるケースもよくあります。
私の娘が通う小学校では交流に関して制限がなく、積極的に交流する考え方であり、親の希望と本人の学校での様子から頻度が決まります。
もちろん、いくら親が交流させたいと考えていても、本人の様子があまり芳しいものでない時は先生の判断で交流が取りやめられることもあります。
こうした学校の姿勢、先生の対応の仕方を学校見学の時に見てみるとよいですね。
【注意点4】入学者の人数の確認
同級生が何人いるか、という点も大切です。
1年生の場合、通常学級は1クラス35人です。
新1年生が70人なら35人のクラスが2つになりますが、71人いると23~24人のクラスが3つになります。
発達に遅れや障害がある子どもが通常学級で過ごす場合、35人のクラスと23人のクラス、どちらがよいと思いますか?
クラスの人数が少ないほうが先生の目が届きやすく教室も余裕を持って利用でき、子どもにとって良い環境を整えやすいですよ。
同級生の人数も所属先や交流について考えるときの基準になります。
【注意点5】相談相手を確保しよう
学校カウンセラーという言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
教育委員会は小学校・中学校・高校にスクールカウンセラーを配置し、児童・生徒の心のケアや、保護者や教員に対する助言や援助体制を整えています。
スクールカウンセラーになる人は、臨床心理士など心理臨床に関する専門的な知識や経験を持つ人です。
スクールカウンセラーが常駐している例は少ないようですが、だいたい週1~2回の頻度で勤務しています。
子どもの発達に遅れや障害がある場合、スクールカウンセラーは心強い相談相手になります。
また、スクールカウンセラーの中でも経験豊富な人はスーパーバイザーと呼ばれ、よりデリケートなケアなどに当たってくれています。
就学先の学校に、スクールカウンセラーがいるかどうかもチェックしておきましょう。
自治体のHPに「スクールカウンセラーの配置について」というようなページがあり、設置学校を確認できることもあります。
ちなみに、長女が通う小学校にはスクールカウンセラーは配置されておらず、教頭先生・校長先生が相談に乗ってくれます。
就学相談が終わると、審査会が開かれる
教育委員会の担当者と面談し、学校を見学した後、教育委員会に就学先の希望に関する書類を提出すると、教育委員会で審査会が開かれます。
教育委員会は面談の内容、保護者が提出した就学先の希望に関する書類や発達検査の結果などから、就学先としてどこが望ましいか審査します。
私は最初、「特別支援学級だと勉強させてもえらえない」といった不安から通常学級に就学することを望んでいましたので、最初の教育委員会との面接でもはっきりとそう言いましたが、実際に学校を見学し、支援学級の先生と話して自分が持っている疑問を全てぶつけた結果、支援学級のほうがいい、と感じました。
そういった経緯から私が支援学級を希望したこと、そして発達検査の結果から、教育委員会もすんなり判断できたのでしょう、書類を全て提出した約2週間後に「特別支援学級が望ましい」という結果が書面で送られてきました。
審査結果に関する書類をもらったのが11月でした。
年内に就学先が決定し、一安心したことを覚えています。
審査会の結果に納得できない時の対処法
私は希望通りだったので何も行動を起こしませんでしたが、審査会の結果に納得できない場合は、不服申し立てができます。
基本的に書面で不服申し立てを行いますが、教育委員会の就学担当者と再度、面談し、話し合いの場を持ったり、学校側と協議することになります。
教育委員会の判断が絶対的なもので、何が何でもそれに従わないといけない、というわけではありませんが、保護者の希望と異なる審査結果が出た場合は何らかの理由があります。
納得できない場合はその理由を聞き、それを解決する道がないか探ってみましょう。
入学直前まで話し合いが続くケースもあるようです。
(裏話)学校が抱える本音・大人の事情
余談になりますが、学校見学した時に教頭からポロリと本音を聞いた話をします。
私が住む自治体では、子どもが集中する地域と過疎地域があり、生徒の数が多すぎて困っている学校もあれば「なんとかして子どもに来てほしい!」と声を挙げている学校もあります。
ここには「生徒の数が1人違うだけで先生の負担が大きく変わる」という現実がありました。
例えば、特別支援学級は1クラス最大8人。
支援学級在籍生徒が8人だと1クラスしか作れず、担任1人が8人を受け持つことになります。
支援学級は複数の学年の子が在籍します。
生徒8人だと担任は1~6年全員を、自分のクラスに抱えることがあるのです。
介助員がサポートに付きますが、発達の遅れや障害は様々なため個別にサポートしなければなりません。
そんな子どもが8人、しかも指導内容が1~6年という状況を想像できるでしょうか?
一方、支援学級在籍生徒が9人になると2クラス作ることができます。
担任1人が受け持つ生徒は4~5人、うまくいけば、1~3年と4~6年に分けることができます。
学校側としては、できるだけ1クラスの人数を少なくしたい(そのほうが教員に余裕が生まれ、教育の質を高く保つことができる)という切実な事情があります。
学校見学ではこうした先生の本音を聞くことができました。
そして「こんなふうに親御さんにお願いするのもおかしいのですが、ぜひ、支援学級に入ってください! 全力でサポートしますから!」と熱烈に勧誘され、「こうした本音を話せる関係を先生と築けるなら安心かな」と感じて、私は娘を支援学級に入れました。
こちらの要望も遠慮無く先生に伝えています。
そして、私もPTAの活動に参加し、学校に顔を出す度に校長や教頭にも挨拶をしています。
学校には学校の事情もありますが、そのお陰で教育環境が良い方向に向かう……、こんなこともあるのです。
まとめ
「子どもが年長になると就学時健診がある」ということはよく知られていますが、それよりも前に就学相談という制度があり、活用することで保護者や子どもが抱える不安や疑問を解決することができます。
教育委員会や就学予定の学校に、抱いている不安や疑問を全部ぶつけて納得いくまで相談しましょう。
よりよい就学先を探すためには、子どもの発達の状態を正確に把握することが欠かせません。
必ず発達検査・知能検査を受けて結果を取得しておきましょう。
年長になってから(年長の秋までに)取得しておくことが望ましいです。
就学相談をすると、大抵、年内にどこに就学するか教育委員会から審査結果が送られてきます。
内容に納得できない場合は不服申し立てが可能です。
しっかり自治体と話し合って、子どもにとってベストな就学先を探してくださいね。
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