筆者の甥は発達障害児です。
「病院で子どもが発達障害だと告げられた」と姉から聞かされた日のことは今でもよく覚えています。
それは、もうすぐ春が来ようとしている三月のことでした。
当時の私は、発達障害のことをよく知らないまま頑なに甥が発達障害であることから目を背けていました。
テレビで「障害」という言葉を聞くことも、ネットで発達障害について調べることも怖くて、「よく分からないけれど、大切な甥が重い枷を背負ってしまった」と思い込んでいたのです。
しかし、甥の成長を見ていく中で、やはり他の子とは違うところが目についてしまいます。
そのたびに図書館の本や論文を読んで、「ここは当てはまる」と落ち込んだり「ここは違う」と喜んだり……情報や知識に振り回されてばかりいました。
そんな私の考えが変わったきっかけは、自閉症のお子さんを育てている人と職場で出会ったことでした。
自閉症のお子さんを育てている人との出会い
歓迎会で子どもの話題になった際に、彼は堂々と「自分の子どもは障害を患ってますが、子どもと剣道を一緒にやることが今の生きがいなんです!」と言ったのです。
その言葉に私は強く衝撃を受け、それと同時に自分の愚かさと器の小ささを強く恥じました。
なぜなら、私は心のどこかで「障害があることは恥ずかしいこと」と思っていたからです。
私は、様々な苦労をしているのにも関わらず、つらさを微塵も感じさせずに実に生き生きと息子さんの話をする彼に感銘を受けました。
そんな彼の息子さんにどうしても会ってみたくなり、彼にお願いをすると快く承諾。
そして息子さんと会わせてくれました。
彼の息子さんは確かに、いわゆる「一般的」な子どもではないかもしれませんが、感情を伝える方法が違うだけで、多くのことを伝えようとしてくれたのです。
この様子が甥と重なり、涙が堪えきれなくなることもありました。
彼と息子さんとの出会いは、私の考えを変え、さらには甥とのかかわり方を見直すきっかけになったのです。
甥に対して私ができることとは
甥は、興味のあることには強く興味を示すかわりに、興味のないことには無関心、そして、周りの子どもたちとのコミュニケーションをとることにも、あまり興味を示しません。
しかし、興味があることについては他の子どもともコミュニケーションを取るようなので、なんとか日常生活を送っているようです。
将来どうなるのか心配ではありますが、私にできることは「なるべく生きやすい方向性を選べるように、力を尽くす」ことしかないと考えています。
甥は、来年から甥は小学生になります。
発達障害については、まだまだ分からないことも多く、本やネットに書かれている情報に踊らされ甥に対して間違った接し方をすることが多くあります。
本やネットに書かれている情報が正しくとも、症状は一人ひとり違うものなので、「本人にとって何が一番正しいのか」「正解なのか」を見極めることは、とても難しいことだと感じています。
さらには、発達障害に関する研究は日々進んでいて、前に正しかったことが、今は正しくないということが往々にしてあります。
すべての情報を網羅することは、決してできませんが、専門家である医師や、学校の先生、周りの大人たちと密に連携を取って、甥にとって何が一番幸せなのかを探っていきたいと思います。
発達障害のある彼との出会い
発達障害児を育てる親御さんの多くが「自分の子どもは恋愛をして、結婚できるのだろうか」と一度は考えたことがあることでしょう。
「我が子は恋愛や結婚ができないかもしれない」と悲観的に思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
そう悩んでいる皆さんに、私が出会った発達障害のある彼とのことをお伝えします。
私は彼とともに同じ時間を過ごすことで「感情をコントロールする方法」や「言いまわしや伝え方を意識すること」を学び、人間的に成長することができたのです。
SNSがきっかけで出会った彼
彼と出会った当時、日記形式でブログを公開し、コメントしあうSNSが流行していました。
私もそのSNSを利用していたのですが、ある日、私の公開していた日記にコメントをくれた人がいました。
それが彼でした。
コメントをくれたことがきっかけとなり、私たちは次第にお互いの日記にコメントしあうようになったのです。
そのSNSには写真を公開することもできたので、相手の人となりを知ることが出来ました。
写真で見る彼の笑顔は屈託がなく、無邪気で好印象を受けたのを今でも覚えています。
そして、個人メッセージを重ねるうちに、どちらからともなく会ってみようということになりました。
第一印象
待ち合わせは、お互いの最寄り駅の中間の駅にしました。
あの時私は、とても緊張していて彼に会いたいけど逃げ出したいような気持ちでいっぱいでした。
緊張しながらも、約束の時間の少し前に待ち合わせ場所に行くと、彼がもう到着していました。
少し遠くから彼を見ていると、「律儀な人だな」という印象と共に「ソワソワしている人だな」という印象を受けましたが、「私と一緒で緊張しているのだろうな」としかその時は思いませんでした。
そして、彼と合流し、写真と同じ屈託のない笑顔を見た瞬間……、私は彼に恋をしたのです。
たまに会話に詰まることはあっても、デート中はとても楽しく、その後も私達はデートを重ねていき、彼から交際を申し込まれ、お付き合いをすることになったのです。
一緒にいる中で気づいたこと
その後、彼と時間を共に過ごすにつれて、友人達とも遊ぶ機会が多くなり、彼をより知るようになると「彼は何か違う」ということに気づきはじめました。
具体的には、
- 空気が読めない
- 自分勝手なところがある etc…
はじめは「彼も緊張しているだけだ」と思っていましたし、そこまで気には留めていませんでした。
しかし、一度目につくと二人でいるときにも、上記のような点が気になるようになっていき、不安になった私は、彼と話し合うことにしました。
その話し合いで、これまでの私の思いや気になった部分を伝えると、彼は「自分には発達障害がある」ということを打ち明けてくれました。
彼は
- 集団行動が苦手なこと
- こだわりが強すぎること
- 自分の思いを伝えるのが難しく悩んでいること
などを幼いころから悩んでおり、「打ち明けたら君が離れていく気がして怖くて言えなかった」と教えてくれました。
私は、「こんなにも彼が悩んでいたのにも関わらず、無神経に指摘して傷つけてしまったんだ」という想いと同時に「私の友達に合わせてくれていたこと」「私に合わせて行動することでストレスが溜まってしまい、風変わりな行動をさせてしまったこと」など、彼の深い優しさに心から申し訳なく思いました。
それからの私は彼に何ができるのかを、図書館で本を読み漁ったりネットで調べたりして必死で探し続けました。
そして、なにより「彼の話をよく聞くこと」を心がけました。
しかし、次第に彼に気を使い過ぎている自分も出てきて、心が疲れてしまうことも……。
ケンカをしたことも多くありますし、別れ話をしたことも何回もあります。
それでも、私は彼と一緒にいることを決め、一緒に暮らすことを決めました。
思いを伝える工夫
共に暮らす中で工夫したことといえば、交換日記をしていたことです。
彼はうまく思いを伝えることができない場合があるのですが、「ゆっくりと文章にして考えると、本当に伝えたかったことが書ける」と言っていました。
そして、私もその場の感情に任せて発言して後悔することがあるので、強い言葉を使いそうな瞬間はグッとこらえて、”頭の中で日記を書いてみる”という作業をしていました。
この一工程を挟むだけで、冷静になることが出来、「これは言うべきではない」「これは言い回しを変えた方がいいな」と思えるように変わってきました。
また、他に続けていたことは、週に一度は部屋を暗くしてアロマキャンドルを見ながらお互いの話をすることです。
これは心理学の知識を応用したものですが、非常に効果がありました。
- 暗めの照明の中で、一点に集中すること
- 体を寄せ合ってアロマの香りを嗅ぐこと
これは、深いリラックス状態を生み出し、理性の働きを抑えることを目的としたものです。
この試みは非常にうまくいき、彼もリラックスして話すことできて、私もリラックスしているため答えを急かすことや、イライラすることがなくなりました、
その結果、信頼関係を深めることができたと感じています。
日常生活において気をつけていたことは、彼は何かに集中すると「お風呂に入らない」「歯磨きを忘れてしまう」といったことがあったので、生活リズムを話し合って決めて、その時刻になったら声をかけることを心がけていました。
しかし、いくら彼に心地よく過ごしてもらいたいと思っても、私も仕事でストレスを受けて帰ってくることや、気を付けていても忘れてしまうこともありました。
そんなときは、「なんくるないさ(沖縄方言で、なんとかなるさの意味)」と口にすると、すっと肩の力が抜けて楽になりました。
支えるということ
また、彼が職場でストレスを感じることも多々あるようでした。
彼は「障害を言い訳にしたくない」と言って職場の人たちには何も言っていなかったので、行動を色々と指摘され、白い顔をして、力なく帰ってくることも……。
そんなときは、彼が話したくなるまではそっとしておいて、なるべく毎日の生活リズムを守るように心がけました。
- ちゃんとご飯を食べる
- しっかりと湯船に浸かってぐっすり眠る
こういったことは、できているようでできていないことです。
しかし、彼の心がいっぱいいっぱいになり、自分自身の身体を傷つけようとすることも何回もありました。
はじめは狼狽えてしまって、その場に固まって見ていることしかできませんでしたが、彼と交換日記で思いを伝え合ううちに、彼がそっと寄り添ってほしいのだということが分かるようになり、そんな時は無理に自傷行為は止めずに、優しく寄り添うことを心がけました。
発達障害の人が空気を読めないということはないと思います。
それどころか、彼らは敏感に他者の感情を読み取っています。
意図を推察することは苦手でも、感情を読み取ることに関しては、一般的な人より遥かに敏感だと感じます。
発達障害の人から教わること
私は発達障害のある彼と出会って、互いを思いやる気持ちの大切さを知ることができました。
- お互いに依存することではなく、お互いの違いを認め、尊重すること
- 一人で背負い込まないこと
そういったことの大切さ。
彼には本当に多くのことを教えてもらいました。
これも、彼の親御さんが愛情深く、忍耐強く育ててくださったからなのでしょう。
彼から聞いた彼の親御さんや兄弟、愛猫の話はとても温かく、つらいことも笑いに変えてくれました。
実際にご実家にご挨拶に伺わせていただいたときも、親御さんに共に生きる覚悟を問われました。
そのような厳しくも温かい親御さんだからこそ、彼のような素敵で魅力的な人が育まれたのだと思います。
そして、一緒に暮らしているときも、相談に乗ってくださり、気をつけたほうがいいことや、こうしたほうがいいということを詳しく教えてくださって本当に助かりました。
現在は仕事の事情により、彼とは少し離れて暮らしていますが、頻繁に会っています。
まだまだ、気難しいところがあり、人から見れば変わった行動をすることもありますが、私は個性的で楽しい人だと思っています。
発達障害は「障害」ではなく「個性」です。
左利きの人ように、全体からみたら少ないかもしれませんが、少ないからこそ貴重な存在なのです。
このように彼のことを楽しい、魅力的だと感じる人は世の中には、たくさんいると思います。
これまで、発達障害に関して、恋愛を扱っている本や情報をあまり見たことがないことを不思議に思っていました。
ちょっと風変わりだけど、楽しく魅力的な彼らの姿をもっと伝えることができれば嬉しく思います。
保護者の皆さんへ
最後に、発達障害児を育てる親御さんたちに一番伝えたいことは、私自身も気をつけていることですが「考えすぎないこと」です。
考え込むと、問題をより深刻に悲観的に考えてしまうのが人間です。
彼らはそんな感情を敏感に読み取ります。
すると、ストレスを感じて問題がさらに悪化してしまうことがあります。
それを防ぐためにも、自分自身の心を守るためにも、「なんくるないさ」の精神で、ドーンと構えつつ、愛情深く接していきましょう。
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