自閉症スペクトラムをはじめとする発達障害者にとって、自己肯定感や自己効力感をあげることは人生を豊かにするうえでとても大切なことです。
また、発達障害児(者)の精神面での対症療法として、自己肯定感や自己効力感をあげることは効果的であると多数報告されています。
自己肯定感と自己効力感と聞いても、ピンとこない人も多いかもしれません。
今回は、自己肯定感と自己効力感に焦点を当て、詳しくご紹介いたします。
この記事が、後ろ向きになってしまうことの多い自閉症スペクトラムに悩む人の「前進するための第一歩を踏み出すキッカケ」になれば幸いです。
自己肯定感と自己効力感
「自己肯定感」「自己効力感」とは、自己啓発のひとつです。
自己啓発について様々な方法が巷にあふれる昨今、「自己肯定感をあげる」「自己効力感をあげる」……そのような言葉を耳にしたことはありませんか?
たとえば、目の前に問題が立ちふさがったときに、その問題に立ち向かおうとする人と、何もせずに諦めてしまう人がいますよね。
そういったときに、問題に立ち向かえる人が自己肯定感や自己効力感の高い人。
具体的に例を挙げるとするならば、自分の実力以上だと感じるような仕事や役割を任されたときがそうです(課長に昇進する、生徒会長に推薦される……など)。
発達障害のある人は、失敗をしてきた経験から問題が起きたときに「他の人よりできることの少ない自分に可能だろうか」と悩んでしまい、立ち止まってしまう……といったことがしばしば起こります。
その経験がまた自信を無くす原因になってしまい、負のスパイラルにはまりこんでしまうことも……。
自己肯定感と自己効力感について正しく理解し、自分と向き合うことで、「自分にできるだろうか」という【不安】や【悩み】から、「できるかもしれない。やってみよう」という積極的な考え方ができるようになります。
ここではまず、なかなか理解しにくい「自己肯定感」「自己効力感」について具体的に説明していきます。
自己肯定感
自己肯定感とは、自分自身を積極的に評価でき、「自分はかけがえのない存在だ」と自らの価値や存在意義を肯定することができる感情のことをいいます。
例えば、
- 自分はエースではないけれど、シュートを多く決める友達に的確にボールをまわすことができる。自分はこのサッカーチームの中に必要な存在だ。
- 母であり妻である自分は、この家庭に必要不可欠な存在だ。
- 私が傷つくと、自分のことのように泣いてくれる友達がいる。私は「大切な存在」なのだ。
- 自分を慕ってついてきてくれる部下がいる。自分は彼らにとって重要な人物だ。
- 私はこれからもたくさんの絵を発表していきたいと思っている。私は素晴らしい絵描きだ。
など、あらゆる側面から、自分自身の存在する価値や意義を見出すことができ、そして認めることのできる感情のことをさします。
「自分のことが好きだ」という感情だと、言いかえることもできますね。
自己効力感
自己効力感とは、「私ならできる」「僕にはこれならできるかな」といった具合に、何らかの課題に直面したときに、必要な行動を取ることが可能だと自分自身が思える(自分に対する信頼感や能力感、期待感を持てる)ことをいいます。
英語で書くと「self efficacy」(セルフエフィカシー)、「自己可能感」と訳される場合もあります。
例えば、
- 難しい課題曲を発表会で弾くように先生に言われたが、いつも努力して一生懸命ピアノの練習をしている私なら、この曲を弾きこなすことができるだろう。
- 今まで作ったことのないレシピに挑戦しようと思うが、きっと私ならうまく作ることができるだろう。<
- 元々運動神経はよくない僕だけど、このぐらいの高さの跳び箱なら飛べると思う。
- 自分には、この新しいプロジェクトを成功させる能力がある。
など、「自分はできる」「できそうだ」という自分自身への確信の気持ちを抱き、また、その能力があると認知している状態のことをさします。
これらを経験することで、自己効力感が養われていき、やがてそれが自己肯定感へとつながるのです。
また、自己効力感は自身の体験によって作り上げられていくものなので、いくつからでも育てていくことができます。
「もう〇〇歳だから……」と諦めてはいませんか?
ためらわず、チャレンジしてみることが大切です。
自己肯定感と自己効力感の育て方
前述の通り、自己肯定感をあげるためには、まず自己効力感を養っていく必要があります。
自閉症スペクトラムの人は、健常者よりも「できないこと」がいくつかあり、親に叱られて育ってきた人が多く、自己肯定感へとつながる自己効力感すらも、なかなか持つことができずに悩み、苦しむ……といったことが、たびたび起こってしまいますよね。
健常者であれば簡単に「自分ならできる」と思えることを、自閉症スペクトラムの人は「自分にはできない」と考えてしまうこともしばしば……。
そのように「自己否定感」を積み上げてきてしまった場合は、新しい経験をして、自信に積みなおすことが大切です。
ここでは、自己効力感を養い、自己肯定感につなげること、そして自己肯定感の育て方についてお伝えしていきます。
自己効力感を養う
自己効力感は、カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱したものであり、自己効力感の先行要因として、下記を挙げています。
- 達成経験:最も重要な要因で、自分自身が何かを達成したり、成功したりした経験
- 代理経験:自分以外の他人が何かを達成したり、成功したりすることを観察すること
- 言語的説得:自分に能力があることを言語的に説明されること
- 生理的情緒的高揚:モチベーションがアップする生理現象
- 想像的体験:自己や他者の成功経験を想像すること
この中でも特に「1.達成経験」と「3.言語的説得」が、自己効力感を養っていく過程において重要な点となります。
かつて「できた」という経験(達成経験)があり、それを周りから「君には力がある」と認められ、説得(励まし)・説明されることによって(言語的説得)、自分自身を信じ、「自分にはできる」と思えるようになっていくものです。
しかし、一口に「達成経験を積む」と言っても、
- 元来、新しいことをやりたがらない(習慣への固執)
- 失敗を恐れる
- 一度失敗したことは二度とやりたくない
といった、自閉気質・特徴が大きく出てしまっている場合、なかなか思うように物事がすすまず、苦しい思いをしてしまいますよね。
そういった場合は、知識や受容のある人たちのグループ(市町村の保健センターや子育て支援センター、児童相談所や発達障害者支援センター、発達障害のある子どもや大人のサポート支援を行う特定非営利活動法人の団体など)の中に入り、専門家のサポートを受けながら、経験を積み上げていくようにしましょう。
もしかしたら、お子さんの三歳児検診のときに、保健師や医師から発達障害の疑いを指摘され、上記のような施設に赴いたことのある親御さんもいらっしゃるかもしれません。
療育を受けられる年齢であれば、療育施設へ通い、言語聴覚療法やソーシャルスキルトレーニング(社会の中で生きていく上で必要なスキルを身につける訓練)を受けることも大いにプラスとなります。
その場合、通いやすい場所に療育施設があり、親も子も通うことに苦痛を感じないこと、施設の療育方針や子どもの発達状態について施設の人と相談し、その施設を信頼できるかどうかを意識して見極め、通うかどうか決めるようにしてくださいね。
また、ソーシャルスキルトレーニングやグループワークを積極的に行っている特定非営利活動法人の団体もあります。
いずれにしても、通う施設を探す/決める際には、その施設の口コミを読んだり、通い始める前に見学をしたり施設の人の話を聞いたりして、「施設の色」を確認し、理解しておくようにしましょう。
自閉症スペクトラムを抱える人は、本人が「自分に合っている」「自分には合わない」と気づかない限り納得できない場合が多いため(体験からしか学べない特性)、色々なことに挑戦してみて、納得して適性を見つけていくことが大切です。
家庭内だけでは難しいと感じる場合は特に、じょうずに外部の施設を利用することがポイントとなります。
家庭内でどうにかしようとがんばってみても、お子さんが暴力に走ってしまったら? お子さんのことを理解することができず、親御さんがまいってしまったら? ……いろいろな「困りごと」が起こり得ますよね。
お子さんやご家族の苦しみやうっ積した感情、また、行き詰まりを感じて途方に暮れたときに、自分たちだけで解決しようと闇雲に対処することは危険です。
施設や特定非営利活動法人の団体を頼ることは、突飛な行いではありません。
「頼る」ことを気恥ずかしく思ったり、うしろめたさを感じたりする必要はないのです。
そういった施設や団体は、ご家族と発達障害児(者)当人が、経験や気づきの中から、自らの自立や就労の方向性を見定めていくためのお手伝いをする場所です。
「きれいな字を書きたい」と書道教室へ通うことや、「料理のレパートリーを増やしたい」と料理教室へ通うことと変わりないのです。
ぜひ、外部の施設を積極的に利用して、「自分たちらしい生き方」を見つけ出してくださいね。
また、お子さんが「やってみたい」と言ったことに対して、あまり干渉せず、少し距離を置いて、本人がやりたいことをやらせてみると良いでしょう。
しかし、もしもそれがお子さんにとって合わないものだった場合(だんだんと苦痛そうに見えてきた/通うことを嫌がるようになってきた など)最悪の場合、二次障害(体の不調、精神面の不調、問題行動など)におちいってしまう可能性も出てきてしまうため、そのときは優しく「次は他のことをしてみようか」と促すようにしてください。
人は、他者との関わりからしか、自分を見つめなおし、見つけることはできません。
それは、子どもも大人も同じです。
「自分を認めてくれる人がいるんだ」と思えるからこそ、自己確立できるのです。
小さな達成経験を多く積んでいき、それらを他者に認めてもらうことで「きっと自分にはできるはずだ」(想像的体験)と思えるようになり、自己効力感が養われていくのです。
親御さんがお子さんを施設に通わせたいと思っている場合はお子さんが、大人の発達障害に悩む当人が施設を利用したいと考えている場合は当人が、「ここで、こういうことをやってみたい」という気持ちになれるような施設を見つけることが、第一歩となります。
自己肯定感の育て方と「褒める」こと
自己肯定感を育てるうえで最も大切なことは、「できなかった/ダメだった/失敗することもある……そういった【完ぺきではない自分】も含めて、ありのままの自分を自分自身が認めること」です。
自己効力感を養っていく過程で、「これならできる」と自信を持つことができる反面、「これは自分には難しい」「できない」というものも出てきますよね。
どんなに工夫をしてみても、やり方を変えてみても、できなかった場合……、そこで「自分はダメだ」と落ち込んでしまうのではなく、「できないことがわかった」と、【できないことを受け入れ、認めること】が大切なのです。
できないことのある自分を受け入れ、そのような部分も自分にはあるのだと認識すること。
ありのままの自分を受け入れること(肯定すること)ができたとき、それがまたひとつの成功体験となり、自己効力感が養われ、自己肯定感へとつながっていくのです。
何かを成し遂げられた自分も、何もできなかった自分も、失敗した自分も、ダメなところがある自分も、すべてを受け入れ、愛し、素晴らしい存在なのだ、と認めてあげてください。
失敗し、怒られ、「自分はダメな人間だ」と後ろ向きに考えてしまうことの多い自閉症スペクトラムの人は特に、まずは「自分はダメなところのある人間だ、でもそれでもいいんだ」と思うことから始めてみましょう。
最初は抵抗があったり、難しいと感じるかもしれませんが、少しずつでも意識していくことが大切です。
言いかえれば、一番してはいけないことは、あなた自身が「自分はダメな人間だ」と思い込んでしまうこと、なのです。
同じように、お子さんにどうしてもできないことが出てきた場合、積極的に「できなくても良いのよ。できない部分も含めて、あなたなのだから」と声をかけるようにしましょう。
あなたの言葉に、お子さんはきっと「できなくてもいいんだ、大丈夫なんだ」と安心し、納得することができるはずです。
発達障害児(者)が自分を「褒める」こと
自閉症スペクトラムの人は、その特性から怒られて育ってきた人が多く、「褒められる」ことに対して、「こんな自分が褒められるなんて……」と、素直に受け入れることができない場合がしばしばあります。
原因は、自己肯定感が低いことにあります。
先ほど述べたことと同じことになりますが、まずは「自分はダメなところのある人間だ、でもそれでもいいんだ」と思うこと、そして、自分の短所だと思う部分を、前向きな言葉に置きかえて考えるということをしてみてください。
たとえば、
- 心配性 → 慎重である/用心深い/注意深い
- 神経質 → 細かいミスにも気付くことができる
- 引っ込み思案 → 奥ゆかしい/慎み深い/思慮深い
- 流されやすい → 柔軟である/協調性がある/相手の気持ちを尊重できる
- 繊細 → 感受性豊か
- おおざっぱ → おおらか
- 負けず嫌い → 責任感が強い/努力家
- おせっかい → 面倒見が良い/細かいところに気が付く
などのように、「欠点が多いと思っていたが、実はその部分も、言い換えれば美点になる」と考えるようにして、自分自身の【良いところ】を増やしてください。
そうすることで、他人から褒められたときも、「自分にはそういう部分もあるのだな」と素直に受け入れることができるようになるでしょう。
褒められ上手になると、「どんな面もすべて自分の一部。色々な面を持っている自分は、かけがえのない存在だ」と思え、たとえ何かに失敗してしまったとしても【努力をした】ことを自分自身が認め、自分を褒めることができるようになるはずです。
長きにわたって、自己否定感を自身の中に抱いてきてしまった人には、この「他者からの褒め言葉を受け入れる/自分を認め、褒める」という作業は時間がかかってしまうことかもしれません。
しかし、見方を少し変えるだけで、あなたの人生が豊かになり、生きやすくなるのです。
ぜひ、実行してみてください。
発達障害児(者)を「褒める」こと
自己効力感を養い、自己肯定感へとつなげ、育てていく過程の中で「相手を褒める」という行為は非常に大きなキーポイントとなります。
子育てや、後輩・部下を育成するするうえで「褒める」という行為は、確かに大きな意味のあることであり、大切なことです。
特に、自閉症スペクトラムを抱える子どもを褒めることは、非常に大事なことです。
しかし、その「褒める」行為の中に【下心】はありませんか?
- 褒めることで、子どもが思い通りに成長してくれると思ってはいませんか?
- 「子どもに〇〇をしてほしいから褒める」という気持ちにはなっていませんか?
- 本当に「すごい!」と思って、褒めていますか?
- 心から「ありがとう」と思っていますか?
親に下心がある場合、子どもは親の言うことを「うそだ!」と、直感からそう感じ取ってしまいます。
それは子どもだけでなく、大人の場合も同じです。
相手に少しでも下心があると感じ取ったとき、「このひと、なんか嫌だな」と思いますよね。
あなたがそのような大人にならないためには、さぁ、どうすればよいでしょうか?
答えは簡単です。……いえ、やはり最初は難しいかもしれません。
それは……【一緒に喜ぶ】ことなのです。
「褒めよう」と思ってはいけません。「子どもの姿を見て、素直に、本気で」喜びましょう。
子どもと同じ気持ちになってみてください。
たとえば、子どもとかかわる中で「こんなことができるなんてすごい!」「その発想、素敵!」「本当は謝りたかったんだよね、気づかなくてごめんね」といった具合に、子どもに感動し、大喜びすることがあると思います。
そういう大人(自分と同じ気持ちになってくれる人)を見て、子どもは嬉しくなり、大好きになるのです。
「喜ぶ」という行為には、直接子どもを褒める言葉はありませんが、これこそが最高の褒め言葉であり、子どもにとって最高に嬉しいことなのです。
また、大人が子どもの姿に感動する(心を動かされる)ためには、【子どもから学ぶ】という姿勢が大切です。
たとえ、お子さんにできないことがあったとしても、否定の言葉を口にするのではなく、「できなくても良い」と伝えるようにしてください。
大人が子どもの悲しみに寄りそうことで、子どもは自分の存在を肯定することができるのです。
子どもだけではなく、大人に対しても同じです。
「自分が表現したことを、相手が本気で喜んでくれること」……この繰り返しが、自分に自信を持つこと(自己肯定感)につながっていくのです。
まとめ
自閉症スペクトラムを始め、発達障害を抱えていると、過去の経験から、何かと後ろ向きに考えるようになってしまうことが多く、時には「生きづらい」と感じることもありますよね。
私の身近にいる発達障害者も「自分に自信がない。ネガティブな考え方ばかりしてしまう」と悩んでいます。
しかし、「自分」というものの側面(できない部分)ばかりを見て落ち込んでしまうのではなく、少し見方を変え、その側面をも愛し、「自分」のすべての面を自分自身が認めることで、その悩みを解消することができるようになるはずです。
時に「あの人は色々なことができていいな」「あの子たちばかりが褒められている。うちの子は……」と感じ、比較してしまうこともあるかもしれません。
その対象が健常者であり、「健常者はいいな」と思ってしまう場面に遭遇してしまったときは、なおさらそんなふうに考えてしまうかもしれませんね。
そのようなときは、自分の、あるいはお子さんの【できる部分】を見つめ直し、心から「こんなことができるんだ!」と喜ぶようにしてくださいね。
できないことがあってもいいのです。
障がいのせいにするのではなく、その部分も含めて「自分」だと認め、愛してあげること。
自己肯定感や自己効力感を育てるうえで、それが、自閉症スペクトラムに悩む人たちには大きな一歩となるのです。
自分のことを嫌いにならないでください。
お子さんの「気になる点」を、否定的にとらえないでください。
第三者である私が、発達障害者の知人にできることは「一緒に喜ぶ」「素晴らしいと思った部分を積極的におしえる」などとても少なく、やはり「本人が気付き、自分自身を認め、受け入れ、自信を積みなおしていくこと」が重要だと感じています。
自閉症スペクトラムを始めとする、発達障害を抱える人たちに、そのことを知ってほしくて、今回はこのような記事を書きました。
自信を積みなおすために、新しいグループの中に入っていくことはとても緊張することだと思います。
自分自身のすべての面と真正面から向き合い、ありのままの自分を受け入れることは、簡単なことではないかもしれません。
何度も同じ失敗をしてしまうお子さんを、つい不安な目で見てしまうことも多いでしょう。
しかし、少しの勇気が「生きやすさ」につながるのです。
ぜひ、自己効力感を養い、自己肯定感をじょうずに育てていってくださいね。
コメント
発達障害者の自己肯定感を育てることは死活問題 しかし親も発達障害者である確率は高く 親子が相剋してしまうと育つものもぶち壊し 親子ともに相談できるソーシャルワーカーや医療が必要です