子を持つ親は誰しも子育てに悩むものですが、発達障害児を育てる場合はその大変さや悩みは何倍にもなることでしょう。
ADHDの特性を持つ子の困った行動は、決して育て方のせいではありませんが、最も近い存在である親御さんのかかわり方次第で、お子さんの困った行動を改善させ、社会で活躍できる大人に育てていくことはじゅうぶん可能です。
今回は、ADHDの特性を持つ子に対する「適切な対応」について、親御さん・保護者の皆さんに知っておいてほしいことを3つにまとめました。
基本的なことばかりかもしれませんが、お子さんの力を最大限に引き出し伸ばしていくためには、最も大切なことだと考えています。
ご覧いただければ、ADHDの特性を持つ子への接し方についての「コツ」が分かるはずです。
また、今回は年齢別の対応や、薬物治療のことについてもポイントをしぼってまとめていますので、現段階のお子さんがその年齢や状態に達していなくても、将来への見通しがイメージしやすくなることでしょう。
ぜひ参考にしてくださいね。
親の対応で子どもはどう変化する?
ADHDは「治療」のできる発達障害だといわれています。
✔例えば……
- ADHD特有の多動傾向のある子に対して:集中できる静かな環境をつくる。
- → 次第に落ち着いて話がきけるようになっていく。
- 衝動性のある子どもに対して:適切な対応を心がける。
- → 困った場面でも、落ち着きを取り戻せる方法を体得していくことができる。
しかし、本来の力が発揮できずに、他人と自分との違いを責め続けて育った子どもは、自分で将来を切り開く機会を奪われてしまう可能性があります。
子どもは自分ひとりだけで生活していくことができません。
そのため、一番身近な親御さんの対応が、ADHDの特性を持つお子さんの将来にとって一番重要になってくるのです。
ADHDの特性を持つ子どもが【家族の適切な対応】によって養うことのできる3つの力について、下記にまとめました。
自己コントロール力が育つ
ADHDの特性である「不注意」「多動性」「衝動性」が引き起こす問題行動は、環境を整えていくことで少しずつ改善していくことが可能です。
治療をすることで特性がなくなるということではありませんが、その特性をカバーする方法を幼いうちから訓練していくことで、社会に出ても自分で自分の欲求をコントロールすることができるようになっていくのです。
しかし、そのような訓練を受ける機会が与えられていなければ、大人になってからも自分をうまくコントロールできずに問題行動を繰り返してしまうことになってしまいます。
お子さんに適した対応をとることは、成長とともに自己コントロール力を養うことに繋がります。
自分で行動をコントロールできるようになれば、思春期頃から特性による困りごとが徐々に落ち着くようになり、社会に出ても問題なく過ごせるようになるのです。
二次障害を防ぐ
ADHDの特性によって問題行動が引き起こされている場合、その特性を理解されないまま育てられた子どもは、非常につらい思いをしています。
問題行動を起こすたびに、何度も改善しようと自分でも試みていますが、本人の力ではどうすることもできません。
どうしようもない気持ちを抱えたまま親や教師に一方的に責められ続けると、その子は大人への不信感を募らせていってしまいます。
そのため、自暴自棄になり、むしゃくしゃする感情を自分よりも弱い子をいじめることで紛らわせる……なんてこともよくあります。
思春期になってもその状態が続くと、さらなる酷いいじめ行為や非行といった深刻な問題を引き起こすケースも少なくありません。
また、叱られ続けた結果、自分に自信を無くしてしまって生きる意欲を失い、うつ病を発症するなどの二次障害に発展する可能性も出てきます。
ADHDへの適切な対応をとることは、このような二次障害を防ぐことにもつながります。
本来の力を発揮できるようになる
適切な環境の元で伸び伸びと育てられた子どもは…
- 自分に自信を持ち、物事をポジティブに考えられるようになる。
- 日常生活を落ち着いて過ごせるようになれば、様々な活動への参加もしやすくなり、社会に適応する力もどんどん伸ばすことができるようになっていく。
その一方で、ADHDの特性を持っていることに気付かれないまま成長すると、問題行動はすべて「本人の性格のせい」と責められ、自分の「悪い性格」を「治そう」と努力した結果、追い込まれてしまうことも少なくありません。
それが原因で「引きこもり」や「暴力的な態度」をとるようになれば、ますますネガティブ思考に陥り、社会に上手く適応することが難しくなっていきます。
そうならないためにも、ADHDの特性に合った適切な対応をとることが最も大切です。
さらに子どもの得意、不得意な面をよく理解し、いい面を引き出す方法を常に考えていくとよいでしょう。
そうすれば、子どもは安心して毎日を過ごせるようになり、本来持っている力を発揮できるようになりますよ。
子どものために知っておくべき3つの対応
ADHDの特性がある子どもは、他人の目には「わがまま」に映ることもあり、また、何度同じことを言っても忘れてしまうことから「反抗的」「怠けている」といった印象を周りに与えてしまいがちですが、これはADHD特有の【脳のシステム障害】によるもので、その子の本質的な行動ではありません。
このような子どもに対する適切な対応にはいくつかポイントがあります。
分かっているけれどなかなかできない、または子育てにいきづまりを感じている場合には、次にご紹介する3つの対応をもう一度確認してみてください。
怒鳴らないこと
子どもが言うことをきかなければ、「厳しく叱る」ことも必要ですが、ADHDの特性を持つ子どもにはほとんど効果がありません。
一時的に効果があったように見えても、残念ながらそれは長くは保てません。
問題行動が一向に改善しなければ、思わず声を荒げたくなってしまうこともあるでしょう。
しかし、お子さんの特性を理解し、それに合わせた対応を心がけなければ、さらに悪い状況を引き起こす可能性が高くなることも事実です。
もしも「怒鳴る」、もしくは「暴言」「体罰」などの行為を日常的に行っている場合には、叱り方の見直しが必要です。
怒鳴られて育った子どもの将来
幼い頃の叱られ方によって、子どもの人格形成は大きく左右されます。
- 怒鳴られることに慣れてしまった子どもは「注意を受け流す術」を身に着けてしまうため、親の声が子に届きにくくなってしまう。
- 上記「1.」により、親子関係がうまく築けなくなってしまい、再び心を通わせられるようになるまで相当な苦労と時間が必要になる。
また、「怒鳴られて怖かった」という経験から「人を従わせるには大きな声を出せばいい」という、間違った考えを植え付けてしまう可能性もあります。
さらに、いつもビクビクして育った子どもの心は不安定です。
成長しても自分に自信が持てず引きこもりになってしまうなど社交性を欠いた性格になってしまったり、傷ついた心を守るために反抗的な態度をとってしまったりするなどの二次障害を引き起こす場合もあります。
すべての子どもに当てはまるわけではありませんが、そうなる可能性が高くなることを知っておく必要があります。
怒鳴らずにすませるコツ
「大きな声を出してもダメだということは分かっているけれど、この子は大きな声で叱らなければ言うことをきかない」と、そんなふうに思っている親御さんも多いことでしょう。
優しく言っても子どもが言うことをきかないとき、どのように対処すればよいと思いますか?
発達障害児関連の本には、「子どもの目をしっかり見つめて、理解するまで根気強く言ってきかせる」というアドバイスが多く載っています。
確かに、家でゆっくり子どもと過ごしているときにはその方法が有効かもしれませんし、それが正しいしつけ方なのかもしれませんが、問題行動は子どもの意思で判断しているのではなく、脳がそう判断させて子どもを動かしているため、私はそういった方法だけではうまくいかないように思います。
問題行動を改善していくためには多くの時間が必要です。
また、どんな子どもでも、時には親を挑発してくるようなことを言ったり、生意気な態度をとったりして親を悩ませるものですから、いくら障害があるからといっても我慢ができなくなることもあるでしょう。
しかし、そこで怒鳴ってしまうと状況は変わらない上に、子どもの心には何も響かず、親への反抗心のみが育つという悪循環に陥ってしまいかねません。
そこで、私はあることを実践することが「怒鳴らずにすませるコツ」だと思い至ったのです。
それは、お子さんの感情に訴えかけること。
何か問題行動を起こしたときに…
- よほどの場合を除いて、目を瞑る。あるいは気づかない、または見て見ぬふりをする。)
- お子さんのよい行動やよくできたことがあれば、たくさん褒めてあげる。
もし「褒めるところがない」と感じてしまう場合は「できた」という結果だけにとらわれ、「多少なりともやろうとした」という経過を評価できていない可能性があります。
注意深くお子さんを見ていなければ気づかないようなどんなささいなことでも、お子さんの「褒めてあげられるところ」を探してあげてください。
褒めることを繰り返していけば、そのうちお子さんに少しずつ変化(笑顔が増えた、表情が優しくなったなど、どう変化していくかには個人差があります)が見られるようになってきます。
褒めることに慣れてきたら、それを『改善したい問題行動』とうまく絡めて、さらに何度も褒めてみてください。
「褒められた、嬉しい」という感情が、自然とお子さんを正しい行動がとれるようにさせてくれます。
即効性のある方法ではありませんが、やってみる価値はあります。
ぜひ、今日から試してみてくださいね。
叱る回数を減らす
子どものしつけには叱ることも必要ですが、ご自身が子どもの頃のことを思い出してみてください。
「宿題をしなさい」「お風呂に入りなさい」「片付けなさい」「手伝いなさい」……この他にもたくさんのことを言われてきたのではないでしょうか?
そしていつも「いちいちうるさいなぁ」と思っていませんでしたか?
お子さんもきっと同じです。
朝から晩まで、小さなことから大きなことまで全てにおいて叱られていたとしたら、相当なストレスが溜まってしまっていることでしょう。
お子さんがADHDであれば、叱られる回数も同年代の子どもよりきっと多いでしょうし、かかるストレスも相当なものだと予想できます。
ADHDの特性を持つ子どもは、簡単なことでもできない/やろうとしていないように見えてしまうため、お子さんに対して親御さんはきっとヤキモキしてしまうことでしょう。
本当に必要なときだけ叱るようにすれば、内容が子に届きやすくなる上に親御さんの負担も軽減します。
以下に、叱る回数を減らすための方法をいくつか挙げています。
ぜひ参考にしてみてください。
見逃していいことは思い切って見逃す
ADHDの特性を持つ子に対して、できないことを全て注意することは逆効果であるため、どうしても注意が必要なときにだけ、しっかり伝えるようにしておけば少々のことは見逃しても問題ありません。
では「注意すべきこと」と「見逃してもいいこと」の見極めですが、まずは大人が見極める際の判断がブレないように「注意することを整理しておく」ことが大切です。
「注意することを整理する」とは…
- 社会的に受け入れられないため、絶対にやめさせること。
- 周囲に迷惑がかかるため、なるべくやめさせること。
- 本人が困ること。
上記の3つに分類することです。
例えば、「友だちに暴力をふるう」「赤信号でも横断歩道を渡る」「物を盗む」などは、社会的に受け入れられないので【絶対にやめさせるべきこと】となり、「かんしゃくを起こし、家具を壊す」「反抗的な態度をとる」などは、家族に迷惑がかかるので【なるべくやめさせること】、さらに「宿題をしない」「部屋の片づけをしない」などは【本人が困ること】に整理できます。
「見逃す」ことのポイントは、「今最も困っていること」や「周囲に大きな迷惑をかけること」から優先的に注意していき、さほど困らないことは後回しにしてしまうことです。
そのため、本人が困ることは後回しにされがちですが、それでもよいと割り切る気持ちが大切です。
さらに、注意をする際にも気をつけることがあります。
それは、呪文のように同じことを繰り返し言うのではなく、子どもの注意を引いた状態で、分かりやすい口調で一度だけしっかり伝えるということ。
大きな声を出したり、嫌味を言うことは逆効果にしかなりません。
子どもが素直に従えるような言い方を工夫することも必要です。
叱らないための対策を立てる
例えば、日頃から忘れ物が多い子どもに「忘れ物をしてはいけない!」と言い続けてもあまり効果はありません。
必要なことは、忘れ物をしないために「連絡帳に書く」などの具体的な行動を教えてあげることです。
対策の立て方のポイント
- 現在気になっているお子さんの問題行動を紙に箇条書きにしていく。
- 次にその中で優先順位を決め、最も改善したいことから取り組んでいく。
お子さんに課題を伝えるときは、最初の例の通りにするならば「連絡帳に書く」ことに絞っておきます。
1日目、2日目と課題を確認し、できていたらその都度褒めます。
これを毎日繰り返していきましょう。
安定して書くことができるようになったら「書いた連絡帳をランドセルに入れる」という、次のステップに移ります。
課題は欲張らずひとつかふたつに絞り、あくまでスモールステップ(小さな目標を達成する体験を積み重ねながら、最終目標に近づいていくこと)で進めてください。
時間はかかりますが、少しずつできることを増やしていくことができます。
スケジュールを作る
ADHDの特性を持つ子どもの頭の中には様々な情報が散乱しているため、次に何をすべきか【段取りを立てて行動する】ことが苦手です。
対策として、1日のスケジュールを考え、「今優先してすべきことは何か」をしっかり教えてあげるようにしましょう。
子どもの混乱した頭の中の情報を整理するには、視覚的に伝えることが最も効果的です。
スケジュールは親御さんが作成し、目につきやすいところに貼って、いつでも次の行動がチェックできるようにしておくと便利です。
最初の数回は親御さんも一緒にやってみて、時間配分などを考えて教えてあげてください。
慣れてくると、ひとりでできるようになってくるはずです。
ひとりでできるようになっても、きちんとできているか一緒にチェックをすることでしっかりと定着していきます。
必要であれば大人のスケジュールも作成し、お子さんに関われる時間を作り出せるよう時間のやりくりをするとよいですよ。
💡ゲームは与えるべきか
ゲームを与えてしまっては、せっかく作ったスケジュールも意味がなくなってしまうのではないかと心配される親御さんもいらっしゃることでしょう。
確かに与え方によってはスケジュールを実行する上での大敵となりますが、ゲームは上手く使えば便利な動機付けのツールとなるのです。
お子さんにゲームを与える際は、必ず「ルール」を決めてからにしましょう。
例えば……
- 就学後の子どもであれば「勉強した時間と同じ時間だけゲームをしてよい」というルールを決めておくと、自分から進んで勉強するようになる。
- ポイント制にして「ルール内の時間でゲームを辞めることができれば1ポイント、100ポイントたまったら新しいゲームソフトが買える」などのルールを決めることも効果的。
注意点:お子さんに自分の部屋がある場合、ゲーム機を部屋に持ち込ませないようにすること。
リビングなど、大人の目が届く範囲でしかゲームにさわれないように決めておけば、動機付けは長続きします。
ADHDの特性を理解する
「ところかまわず騒ぐ」「急に駆け出す」「注意しても言うことをきかない」「周囲がとまどうような行動をする」など、他にもADHDの特性を持つ子は親を困らせるような行動を繰り返します。
周囲から見ると、「わざとやっているのでは?」と映ることもしばしば。
しかし、子どもたちはわざとそのような行動をとっているわけでもなければ、親を困らせようという悪意も持っていません。
ただ脳から出された欲求に従って動いているだけなのです。
ADHDの特性を持つ子どもたちは、その欲求のせいで「生きづらさ」を感じています。
「なぜ自分だけがいつも叱られるのだろう?」「どうして自分だけできないのだろう」などのように感じ、自信を失っている子どもは少なくありません。
「生きづらさ」を抱えた子どもたちの一番の支えとなれるのは、親御さんしかいません。
お子さんの困った行動がADHDの特性によるものだということをよく理解し、一番のよき理解者になることがお子さんの成長にも繋がります。
ADHDの特性を持つ子を理解し、引きこもりやうつ病などの二次障害を引き起こさないためにも、以下の方法は有効です。
ぜひチェックしてみてください。
成功体験を積ませ自信を持たせる
ADHDの特性を持つ子は、計画通りに物事を進めていくことが苦手です。
そのため、周りの子どもと比べると「できた!」という経験が圧倒的に少ないケースがほとんどです。
幼い頃の成功体験は自己肯定感を育て、やがて自信へとつながる大切な成長のプロセスとなりますので、簡単にできる目標を設定し、成功体験を積ませることが結果的には二次障害を防ぐことにも繋がります。
いきなり長期的な目標を掲げるのではなく、最終目標は高い場所におきながら小さな目標からスタートさせることが大切です。
毎日同じ目標でもかまいません。
達成出来たら視覚的に確認できる表を作成し、シールを貼ったり色を塗ったりして、ゴールに近づいているイメージを持たせると効果があります。
ポイント制も有効です。
お子さんの状況や性格に合わせて工夫しながら試してみてください。
スモールステップで褒める
ADHDの特性を持つ子に対して、「はやくしなさい!」と言っても効果は期待できません。
子どもを変化させるためには、【スモールステップ+ささいなことでも褒める】ことが大切です。
例:着替えが遅い子ども
- 「タンスの前にいけたね」「ズボンがはけたね」「自分で洋服が選べたね」など、ワンステップごとに褒めていく。
- そうすると「はやく着替えなさい!」と叱らずに着替えを促すことができる。
また、ADHDの特性により、集中力が長くは続きません。
勉強に関しては、まず机に向かった時点で一度褒めます。
さらに、3分でも勉強に集中できたら「がんばってるね」と声をかけてあげましょう。
「スモールステップで褒める」とは、ささいなことでも惜しみなく褒めることです。
さらに、ストレートな言葉で親御さんの愛情を伝えてあげれば完璧です。
ペアレントトレーニングを受ける
ペアレントトレーニングとは、ADHDの特性を持つ子を育てる持つ親に「効果的に子どもに対応するスキル」を教えるためのものです。
ペアレントトレーニングを受けると……
- ADHDの特性を持つ子への正しい対応を深く理解することができる。
- 現在、どのような子育てを行っていけばよいか迷っている方にも役に立つトレーニングだといえる。
ペアレントトレーニングは主に、医療機関や療育機関で受けることができます。
もし近くで受けられる機会があれば、ぜひ参加してみることをおすすめします。
実際のトレーニング効果はもちろん、ペアレントトレーニングに参加している親同士の交流の場としても活用でき、励みにもなります。
もしそのようなグループや機関が見つからない場合には、本を読んで自分で試してみることも可能です。
ADHDの年齢別対応のポイント
どんな子どもにも年齢に合わせた対応があるように、ADHDの特性を持つ子にも当然年齢に合った対応の仕方があります。
ここでは幼児期、小学生、中学生、高校生までの年齢別の対応のポイントについてまとめました。
お子さんがまだその年齢に達していなくても、将来的な子育ての見通しを立てるために知っておくと役に立つ内容になっています。
ぜひチェックしてみてください。
いちいち全てを叱らない(幼児期)
幼児期はどのお母さんも「きちんとしつけなければ」という強い思いから、ついつい叱ることが多くなってしまいがち。
しかし、この時期に大切なことは、「逐一全てを叱ることではなく、どうしても必要なときだけを見極めて叱ること」であり、それが上手にしつけをするためのポイントです。
また、しつけがうまくいかなくてもイライラしないように気を付け、また、例え同じことを何度言っても伝わらない/できない状態が続いても、なるべく淡々とした対応を心がけるようにしましょう。
この時期にADHDの診断を受けていてもいなくても、お子さんに育て難さを感じた場合は発達障害を疑い、適した対応をとっていくことが大切です。
なお、ADHDの特性のある子を激しく叱ることは間違いです。
幼いながらに反抗的になったり、叱られ慣れると親の言葉に耳をかさなくなる可能性もあります。
この時期の子育てのポイントは、イライラせず、忍耐強く褒めることを心がけ、楽しむようにしつけること。
そうすれば、きっとうまくいくはずです。
また、もしも「なかなか話し出さない」「目が合わない」「一度かんしゃくを起こしたらなかなかおさまらない」などの様子があるならば、自閉症スペクトラムの疑いも視野に入れておく必要があります。
放っておかない(小学生)
ADHDの特性は、小学生になる頃から目立つようになります。
「宿題に取りかかれない」「授業中にじっとできずに教室中を歩き回る」「忘れ物が多い」など、ADHD特有の困りごとが目立つようになり、学校生活に影響をきたすようになるためです。
このようなお子さんに「どうしてできないの」と叱ることは逆効果です。
必要なことは、子どもに寄り添って「どうすればこの子ができるようになるか」を一緒に考えていくことです。
例:勉強に集中できない子には……
- 集中できる環境を整える。
- 忘れ物が多い子には一緒に時間割を確認する。など
上記のように、大人が適度なサポートを入れていくことが大切です。
まれに「小学生なのだから放っておけば、そのうち自分でできるようになる」と考える親御さんもいらっしゃいますが、ADHDの場合にはそれは正しい対応とはいえません。
なぜなら、放っておかれた子どもは、自分でできるようになるまでの間に失敗に失敗を重ねすぎて、そのうち学校が嫌いになってしまうからです。
自信を失い、無気力状態にしてしまっては意味がありません。
この時期に適した対応のポイントは、成長を待っているだけではなく、適度なサポートを入れながらしっかり見守ってあげること。
そのための環境作りも、親御さんにかかっています。
突き放さない(中学生)
中学校生活は、小学校生活よりも全般的に要求されるレベルが一気に高くなります。
また、子どもは中学生になると、小学生の頃のようにあれこれ口出しされると嫌な顔をすることも多くなるため「もう中学生なんだから、自分のことは自分でやってね」と、急に突き放してしまうお母さんも少なくありませんが、それは正しい対応とはいえません。
「どうしたら本人が学校生活に困らないようになるか」を考え、サポートしてあげてください。
例えば……
- ADHDの特性として、整理整頓が苦手な子どもが多く、放っておくとどこになにがあるのかを把握できず、いずれ授業にも支障をきたすようになるかも……。
- 教科の数も増え、教科書や資料集、ワーク、学習ノートにプリントファイルと持ち物だけでも小学生時代よりもずっと複雑になっていくため、本人が把握できなくなるかも……。
上記のような場合には、教科ごとにカゴを用意するなど、お子さんが自分でできる整理整頓の方法を一緒に考え、ひとりでできるようになるまでサポートする必要があります。
思春期にかかるこの時期のお子さんは、親からあれこれ口出しされることや、監視されることに強く反発します。
この時期の対応のポイントは、困ったことにはあくまでも相談に乗るという姿勢を保ちながらかかわっていくこと。
「誰かのおかげでできた」というよりも「自分でできた!」という達成感を持たせることが大きな成功体験となり、自分への自信にもつながります。
適度な距離感で接する(高校生)
ADHDの特性を持つ子どもは目標に向かって行動することが苦手なため、高校生になっても「今勉強しておけば大学に入れる」「テストが終わるまで我慢すれば、楽しいことができる」とはなかなか考えられません。
常に「今」が興味の対象であり「待つ」ことができないことから、楽しいことが最優先になってしまい、留年してしまうケースも少なくありません。
そのため、卒業までの単位の取り方について親御さんも知識を得て、サポートしていく必要があります。
高校生活のスケジュールは、中学校と比べてよりハードになります。
うっかり予定を忘れてしまうことによって周囲に迷惑をかけてしまい、人間関係に支障をきたす場合もあります。
カレンダーに予定を書き込ませる、手帳を渡してスケジュール管理の練習をさせるなど、社会に順応していくための具体的な手助けをしてあげましょう。
この時期に適した対応のポイントは、「もう高校生だから大人の考え方ができるはず」とは思わないこと。
特にADHD特性を持つのお子さんの場合は、実年齢の3分の2くらいだと思って接してください。
また思春期の真っ最中にいるこの年代の子どもは、親のいうことを素直に聞き入れられないこともあります。
学校の先生や塾の先生からアドバイスをしてもらったほうがすんなり聞けることもあるため、状況に合わせて柔軟な対応をされるといいと思います。
小さな子どもでもなく、大人でもないこの時期の対応のポイントは、つかず離れず丁度良い距離感を保ちながら、将来を見据えたサポートを行うことです。
薬物治療とは?
ADHDの特性による困りごとを抑えるためには、薬物治療も有効な治療法のひとつに挙げられます。
薬物治療とは、ADHDの治療薬として効果が認められている薬を投与して、特性による困りごとを改善していくものです。
現在治療に使われている薬には、「コンサータ」「ストラテラ」「インチュニブ(現在は6歳~17歳の子どもに対してのみ認可)」の三種類があり、どちらも多動性や衝動性を抑え、不注意を改善する働きがあります。
また、医師と相談しながら使用することが前提となります。
副作用が出る場合もあるため、使用する薬についてじゅうぶんに理解した上で使用するかどうかを検討してください。
薬物治療を行う際には薬物のみに頼るのではなく、ADHDへの正しい対応と並行して取り組んでいくことが大切です。
薬物治療への期待
発達障害児は日常生活の中で多くの「生きづらさ」を抱えています。
問題行動を繰り返していても本人の意思ではどうすることもできず、まわりの子どもと違う自分を責め続け、傷つき、自信を失い、本来持っている性格をねじまげてしまっているケースも少なくありません。
周囲の適切な対応により改善される部分はあるものの、「集中し難い」「じっとしていられない」といった特性は完全になくなるわけではありません。
薬物治療には、脳のトラブルを改善し、本来の脳の働きに近づける効果が期待できます。
自分をコントロールできるようになれば、トラブルを起こすこともなく、安定した生活を得られる可能性があるため、薬物治療への期待は高いといえるでしょう。
ADHDの治療薬として効果が認められている薬
現在ADHDの治療に使われている薬には、「メチルフェニデート(商品名:コンサータ)」「アトモキセチン(商品名:ストラテラ)」「グアンファシン塩酸塩徐放錠(商品名:インチュニブ)」の三種類があり、ADHDの治療薬として効果が認められています。
どれも脳内の神経伝達物質の調整をすることで、ADHD特有の困りごとを改善する働きがあります。
✓コンサータ
コンサータは、脳内の神経伝達物質の量を増やすことで前頭前野の働きを活性化し、ADHD特有の多動、衝動性、不注意の症状を改善する働きがあります。
ADHDの特性を持つ子の6~7割に効果があるといわれており、1日1回の服用で約12時間効果が持続します。
コンサータの主な副作用には、食欲の低下、寝つきのわるさなどが挙げられます。
✓ストラテラ
ストラテラは、コンサータ同様に脳内の神経伝達物質を増やし、ADHD特有の困りごとを改善する働きがあります。
依存性がなく、比較的服用しやすい薬といえます。
効果が安定するまでに4~6週間ほどかかるため、コンサータに比べると即効性はありませんが、1日に2回服用できるため薬の効果は24時間持続します。
ストラテラの主な副作用は、頭痛、食欲減退、眠気などが挙げられます。
✓インチュニブ
インチュニブは、現在6歳~17歳の子どもに対してのみ認可されている薬であり、脳の情報伝達機能を助けることで、ADHDの中核症状である「多動性・衝動性・不注意」を改善する働きがあります。
コンサータだと強すぎる、ストラテラだと効果を感じないといった子どもに勧められる場合が多い薬です。
インチュニブの主な副作用は、眠気、血圧低下、頭痛、めまい、腹痛、食欲減退などが挙げられます。
✓その他の薬
ADHDの薬物治療には主に上記の薬が使用されますが、それ以外の薬を使用する場合もあります。
主に「抗うつ剤」「非定型抗精神病薬」「抗てんかん薬」などが挙げられますが、これらはADHDの治療薬として許可されているわけではありません。
日本では子どもに許可された処方薬が少ないため、大人の治療経験や欧米での使用データと照らし合わせて医師が薬を処方する場合があります。
最後に
今回はADHDの特性を持つ子どもを伸ばすために、親御さんに知っておいてもらいたい適切な対応についてまとめてみました。
お子さんの力を伸ばすには、親御さんの適切な対応が不可欠です。
今回ご紹介した3つの対応を中心に、お子さんの状態をみながら効果がありそうなことからぜひ試してみてください。
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