幼稚園や保育園の年長になると、就学予定の小学校で自治体が開催する就学時健康診断を受けます。
この健診で子どもの言動について指摘され、個別面接の案内をされたり専門家との相談や療育を勧められたりすることがあります。
「子どもの発達に問題がある」「就学に不安がある」と言われると、大きなショックを受けて当然ですよね。
指摘を受け入れられなかったり、どう対応すればいいのか分からなかったりすることでしょう。
しかし、入学までに自宅でできる対策を実践すれば、就学後の学校生活がスムーズに送れるようになります。
就学時健診の目的や内容、発達障害を疑われる可能性がある言動、さらにすぐに実践できる対策を実体験を交えながらお伝えします。
就学時健診の目的と内容
就学時健診とは、学校保健安全法に基づいて自治体が実施する健診のことです。
目的
- 自治体(教育委員会・小学校)が子どもや家庭の状況を予め把握して、就学後に必要なサポートの準備をする
- 就学する子どもや親御さんが、就学することに関心を持つ
- 就学後に問題になる可能性がある症状を就学までに治療する
このように、自治体と家庭の双方にメリットがある重要な健診です。
平日の昼間に行われることが多く、親が仕事を休まなければならなかったり、兄弟のケアを誰かに頼まなければならなかったりと負担を感じる親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、子どもにとって最適な就学環境を整えるためにも必ず受けるようにしましょう。
自治体によって多少の差がありますが、幼稚園や保育園の年長になると各自治体から案内が届き、入学予定の小学校で受けます。
大体、1~2時間ほどで終わります。
親子一緒に学校へ行き、その後子どもだけが教室に入って先生の指示のもとで健診を受け、親は体育館などで学校に関する説明を受けます。
健診の主な内容
- 栄養状態(痩せている、普通、肥満など)
- 視力(視力、その他目の異常)
- 聴力や耳鼻咽喉の病気の有無
- 皮膚病の有無
- 虫歯の有無
- 脊柱や胸郭の病気の有無
- 集団行動や学習に影響する言動があるかどうか
- 簡単な知能検査(線を引いたり、〇を書くなど簡単なもの)
- 話し方のチェック(発音の仕方に特徴があるかどうかなど)
- 個別面談(必要に応じて実施)
いわゆる内科健診や歯科健診のような体をみる内容と、子どもの言動をみる内容とがあります。
自治体によって、体をみる健診と言動のチェックを一度の健診で実施するところ、まず健診を実施して気になる点がある子どものみ言動や知能検査を行うところなど、若干の違いがありますが、こちらは健診の詳細が自治体のHPに公開されていたり、郵送されてくる書類に書かれていたりしますので、必ず目を通しておきましょう。
就学時健診にひっかかってしまう理由
就学時健診で子どもの体や言動に気になる点があった場合、自治体から連絡がきます。
こちらの項では、指摘される内容についてご紹介します。
健康状態に発達の遅れが隠れている
痩せすぎや肥満といった栄養状態、視力や斜視、虫歯、耳の聞こえに関することなど。
生活習慣の見直しや治療といった、すぐに対応しなければならないことについて指摘されます。
発達に遅れや障害がある子どもの中には、病院に行くとパニックになったり、極端な恐がりで治療ができなかったりする場合があります。
また、精神面の発達の遅れが原因で我慢することができず、肥満状態の子もいます。
健康状態に発達の遅れや障害が影響している場合は、治療について専門家のアドバイスが欠かせません。
一見、家庭で努力すれば改善できそうに感じる指摘でも、発達の遅れや障害が影響している例があります。
指摘を受けた場合は、必ず指摘内容を確認するようにしましょう。
親の虐待などを疑われる
子どもの体の状態や、言動、心の状態などから虐待(暴力など身体的な虐待、ネグレクト、言葉の暴力など心理的な虐待)が疑われると就学時健診にひっかかります。
虐待と一口に言っても、子どもの発達の遅れや障害が原因で育児が難しく、親御さんが困難に直面していることがあります。
このような親御さんにもサポートが必要なケースが就学時健診で明らかになることもあります。
集団の中で悪い意味で目立つ
就学時健診時に、好ましくない行動を取って目立ってしまうと、発達の遅れや障害の可能性を指摘されることがあります。
- 初めての場所や知らない人がいる場所にいられない
- 椅子に座らずウロウロし続ける
- 教室から脱走する
- 自分のことを一方的に勝手に話す
- 知的な遅れが疑われる
- 先生の指示を理解できていない
- 会話が続かない(言葉のキャッチボールができない)
- 友達に暴言を吐いたり、噛み付いたり、叩いたりする
こうした行動は指摘の対象となり、発達の程度を確認して必要なサポートを受けることを勧められます。
また、場合によっては特別支援学級や特別支援学校を視野に入れることになります。
「校長先生と面談」は発達の遅れを指摘されている可能性大
就学時健診時に、就学予定の学校の校長先生と面談することがあります。
自治体によって違いがありますが、多くの場合、気になる点がある子どものみ校長先生が面談し、発達の状態を確認したり簡単な知能検査を行ったりします。
場合によっては1時間以上待たされて面談となり、思うような結果を出せない子どももいます。
「こんな面談で子どもの発達を正しく判断できる訳がない!それで障害を疑われるなんて心外だ!」と腹立たしく思ってしまう親御さんがいるのも確かです。
その気持ちも分かりますが、そもそも面談が必要と判断された時点で子どもの発達が年齢相応でない、と指摘されているのです。
さらに、就学時健診の間は子どもだけでなく、親御さんの様子も全てチェックされていると考えましょう。
就学時健診を実施している自治体の担当者や学校関係者は、健診を通して親子両方の就学に対する姿勢を把握しようとしています。
就学時健診は親子で真摯に受けるようにしましょう。
健診でひっかかってしまったら?その後の対応
就学時健診で指摘を受けた場合は、次のような流れで対応していくことになります。
就学までバタバタと忙しくなりますが、スムーズに学校生活を送れるように親子で頑張りましょう。
病院で必要な治療を行う
視力や聴力など、身体的な問題を指摘された場合は必ず病院に行って検査を受けましょう。
集中力がない、と指摘されて発達障害を疑ったけれど、視力を矯正したり耳の治療を行うことで子どもが落ち着いた、という例もあります。
また、視力や聴力自体に問題はないけれど、子どもの受け答え能力が影響して「難聴である」「視力が悪い」と診断されることもあります。
この場合は言語の発達面のケアを行いながら検査しなければ、正しい診断を受けられません。
身体的な指摘も簡単に病院で治療できることもあれば、発達の遅れや障害をケアしながら検査を受けなければならないこともあります。
どちらの場合も、病院に行かなければ正しい症状を把握したり、治療したりできません。
就学時健診で指摘を受けたら、必ず病院へ行きましょう。
子どもの集団生活の中での様子を確認する
「子どものことは親である自分が一番よく知っている」と考えている親御さんも少なくないでしょう。
その考え方が間違っている訳ではありませんが、幼稚園や保育園での子どもの言動や他の子どもとの関わり方は多くの親御さんが知らないことです。
就学時健診で子どもの言動に関して指摘を受けた場合は、通っている幼稚園や保育園でどのように行動しているのか確認しましょう。
この際、単に「先生、うちの子は普段どうですか?」と尋ねても「元気ですよ」など、簡単な答えしか戻ってこないでしょう。
必ず「就学時健診で〇〇〇という指摘を受けましたが、幼稚園ではどうですか?」と具体的に尋ねてください。
幼稚園の先生や保育士は医師ではないので、子どもの発達の遅れを断言することはまずありません。
「元気ですよ」「個性的ですね」「まだ幼稚園児ですから」など、大らかに見守ってくれるケースがほとんどです。
しかし、親御さんから「就学時健診で指摘を受けた」と言われると、気になっていたことがある場合は具体的に話してくれるでしょう。
就学後は集団で行動するだけでなく、子ども同士の繋がりが広がったり複雑化したりします。
幼稚園や保育園で年齢相応の行動が取れていないと、就学後も他の子ども達とうまく関係を築いていけない可能性があります。
集団の中で行動できているかどうかは学校生活に大きく影響しますので、現状をしっかり把握し、改善点に目を向けていきましょう。
無料で相談できる自治体のサービスを活用しよう
自治体には「発達支援センター」など、子どもの発達について相談できる窓口があります。
就学時健診で指摘を受けたら自治体に相談しましょう。
ほとんどの場合、相談は無料です。
言葉の遅れ、運動機能、手先の操作性など気になる点を確認し、どうやってサポートするのか考えていきましょう。
自治体には、臨床心理士・言語聴覚士・作業療法士・理学療法士・小児神経科医といった子どもの発達に関する専門知識を持つプロがいます。
こうした専門家に無料で相談できる場は他にありません。
また、親御さんの心のケアも期待できます。
育児の辛さや大変さ、困りごとの相談先として自治体のサービスを活用していきましょう。
就学相談で、子どもに最適な学習環境を整えよう
就学時健診で指摘を受けた場合や、指摘を受けなくても親御さんが希望した場合は「就学先をどうするか」「就学後、どのようにサポートしていくか」ということを教育委員会の担当者や学校と相談することができます。
就学相談を勧められると「障害があると認定された!」「普通学級から外された!」「異端児扱いされる!」と感じる親御さんもいるようですが、そうではありません。
この相談は、子どもに合った環境を整えて、就学後の学校生活や学習を支援していくための相談です。
冷静になって、どうすることが子どものためになるかを考えることが大切です。
教育委員会の担当者、学校、子どもと親御さん、この三者で就学先を検討します。
具体的には以下のどこに所属するのが適切か考えます。
- 通常学級
- 通級学級(月に2~3回、苦手な点を指導してもらう)
- 特別支援学級
- 特別支援学校
「通常学級に就学することができない子どもの扱いを決める相談」「就学相談が必要な子は障害児」という偏ったイメージを抱いている人が多いためか、「就学相談を受けると普通の子どもとして扱ってもらえなくなるのでは?」と不安を抱く親御さんがいます。
就学相談では、本人や親御さんの希望が優先されるので「就学相談=通常学級がダメ! 」ということではありません。
むしろ、サポートがあったほうがトラブルなく学校生活を送れるのに就学相談で対応を依頼しなかったため、子どもにとって学校が辛い場所になってしまうケースが実際に起こっています。
就学相談は学校側にお願いしたいことをどんどん伝えることができる場です。
これは親が希望しなければ実施されません。
ぜひ活用して、子どもにとってベストな就学環境を整えるようにしましょう。
今すぐ自宅でできる対策
次の4点を重視して就学に備えてください。
自宅で実践できる対策を取るだけで、就学後の学校生活がスムーズに送れるようになりますよ。
気持ちの切り替えができるようになる
集団の中で大きな問題になるのが「気持ちの切り替えができない」ということです。
- 友達と楽しく遊んだ後、気持ちが昂ぶったままで勉強に集中できない
- 友達とケンカをした後、心の切り替えができなくて、なにもやる気が起こらない
- 大好きな漫画を読みたくてたまらず、学習が手に付かない
- ゲームのことばかり考えてしまい、学校生活が上の空になる
こうしたことは学習姿勢や学校生活に支障がでてしまいますね。
対策法
- 〇時になったら××をする、というように時計を見ながら行動できるように家で練習する
- 「あなたがお箸を並べないと、みんながご飯を食べられないの」「朝はとても忙しいから、あなたが新聞を取ってきてくれたら家族みんなが助かるわ」といったように、手伝いを通して責任ある行動をとれるようにする
- 手伝いを通して人の役に立つ経験をし、自信と人を思い遣る心を育む
- ちょっと頑張ってみる! という経験を積み重ね、好きなことしかやらない、という態度を改善する(親御さんが必ず「頑張ったね!」としっかり褒めることが重要)
- 親子で会話する時間を持つことで、自分の考えや気持ちや感じたことなどを話せるようになる
こうしたことは、家庭の中で毎日できることです。
親御さんが気を付けるだけで簡単に実行できるので、親子で取り組みましょう。
見通しを立てた行動を習慣にする
小学生になると指摘されなくても自分で考えて行動しなければならないシーンが増え、自分の欲求や衝動だけで動かず、先の予定を頭に入れて行動することが重要になってきます。
- 夕方6時から晩ご飯を食べるから、今はお菓子をガマンしよう
- スイミング中にトイレに行きたくなったら困るから、出掛ける前にトイレを済ませよう
- ゲームが楽しいけど、朝起きられなくなると困るから早く寝よう
子どもだけで「〇〇だから、××しよう」と考えるのは難しいので、必ず親御さんが子どもに話しかけて行動します。
自閉スペクトラム症と診断された私の娘は先のことを想像することが苦手なため、スケジュール帳に時刻と行動を書き出したり、「時計の長い針が6に来たら出掛ける。それまでならゲームOK」と話したり、イラストカードを使って理解を助けながら見通しを立てて行動する練習をしました。
カレンダーに予定を書き込んで「明日〇〇があるから、今日××しておこう」と話すのも効果があります。
親子で繰り返しているうちに、子どもが自分で考えられるようになっていきますよ。
身の回りのことが自分でできるようになる
小学校ではシーンに合わせて行動し、自分のことは自分でやらなければなりません。
- 着替え(脱いだ服をたたむ)
- 食事(給食を決められた時間内に食べる)
- トイレ(大と小の処理や、授業中を避けて適切な時間に済ませる)
- 次の授業の準備
- 忘れ物をした時の対応(先生に説明して、友達に借りるなど
- 転んでケガをした時の対応(ケガの程度を先生に話し、保健室へ行くなど)
- ケンカをした時の説明
ここで挙げたことは一部ですが、小学校は幼稚園や保育園と違って甲斐甲斐しく世話をしてくれる大人がいません。
自分の身の回りのことを自分でするのは当然であり、ケンカやトラブルも子ども同士で解決しなければならない場面が増えます。
特に重要なのが、失敗したり、叱られることをした時の対応です。
大人でも「しまった!」と思った時に適切な行動を取ることを苦手だとする人は多いのですから、子どもならなおさらです。
また、発達に遅れや障害があると、困った状況に陥るとパニックになって泣き続けてしまったり、何も言えなくなったりしてしまうことがしばしば起こります。
言葉に遅れがあって状況を説明できなかったり、非を認めると自分の存在価値全てを否定されたように感じてしまったり、相手の感情をくみ取れないという特徴のある子も。
こうした特徴が集団の中で顕著に表れると、大きなトラブルに発展することが考えられます。
「こんな時はどう行動すればいいのか?」を親子でシミュレーションし、家で日頃から繰り返し教えてあげましょう。
集中力を養い、一定時間作業し続けられるようにする
小学校では、自分の席に座って45分間の授業を受けなければなりません。
しかし、幼稚園や保育園では1時間近く椅子に座ったまま集中することは、ほとんどありません。
集中力がなくて席を立ってウロウロしたり、教室から出て行ったり、他の子とおしゃべりを始めたり、自分のやりたいことをやるようでは学級崩壊の原因になります。
椅子に座って一定時間、作業し続けられる集中力が必要です。
学習に欠かせない集中力を身につける方法としてお勧めなのは「座って塗り絵をする」「座ってパズルを解く」など、実際に家で座ったまま作業をすることです。
私はオモチャなどを全て片付けた部屋にちゃぶ台と子ども用椅子を置いて「座って」と娘に言い、座ったらご褒美のお菓子をあげ、座ったままパズルを完成させられたら再びお菓子をあげる、という方法で着席の練習をしました。
「座ったままでも面白いことがある」「座ったまま頑張ればご褒美がもらえる」と感じさせ、着席時間を少しずつ長くしていきました。
お菓子を使うと「お菓子なしでは行動できなくなるのは?」と不安になるかもしれませんが、座って作業することが普通になればご褒美は不要になります。
お子さんに「体験させる」という方法を用いて、根気よく集中力をつけていきましょう。
まとめ
就学時健診では、子どもの体と心の発達がチェックされます。
指摘を受けた場合は、就学までに親御さんが積極的に動いて対策を取るようにしましょう。
就学時健診で受けた指摘を放置しておくと、就学後に子どもが集団についていけなかったり、辛さを感じたり、トラブルを起こしてしまったりします。
指摘された内容と向き合い、家でできる対策を取り、就学後のことを考えて親御さんが積極的に動いて子どもに合った環境作りを進めていきましょう。
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