「分からない」、「できない」と言ってチャレンジを拒むことは、発達障害児が抱える困り感のひとつです。
このとき、子どもの心は苦しい葛藤や不安でいっぱいです。
本人もどうしたらよいか分からず困っているこの問題を解決していくには、今回ご紹介する対策が有効だと確信しています。
なぜなら、この7つの対策に娘と二人三脚で取り組み続けた結果、娘は着実に自信と自尊心を育み続けてるからです。
初めてのこと、難しそうだと感じることに強い不安を感じる
私の娘(Mちゃん)は小学1年生です。
2年前、在住地域担当の保健師さんから「娘さんには発達障害(自閉スペクトラム症)の傾向がある」と告げられました。
特にコミュニケーション面での問題を指摘され、娘自身も困り感を抱えていました。
幼稚園のお友達と本当は遊びたいけれど声のかけ方が分からない、困ったことがあっても先生に伝えられないなどです。
現在は、月に1回のペースで言語聴覚士が運営している療育施設に通ってソーシャルスキルトーレニングを受けています。
また、学校には娘の特性を詳しく説明しており、先生達の理解と協力をいただきながら娘は安心して学校に通っています。
そんな娘も5カ月前までは、初めての物事に対して強い不安や恐れを感じて泣き出してしまう辛い日々を過ごしていました。
📌幼稚園の年中時期から感じはじめた不安と恐れ
今は学校生活をエンジョイしている娘ですが、幼稚園に通っていた5歳の頃から1年生の1学期前半までの約2年半は、涙を流すことが多い日々を送っていました。
その涙の理由は、初めてのこと、難しそうだと感じることに対して強い不安や恐れを感じてしまうからです。
例えば学習ワークシート、アプリのゲームやクイズなど、新しいことに順次取り組む課題や、「正解/不正解」、「できた/できない」が明確な物事です。
娘はひとつでも不正解や、できないことがあったら二度と取り組むことはせず、遠ざけようとする態度が見て取れました。
📌就学後さらに不安は顕著になり、泣き出すことも……
就学後は、新しい環境で体験することや学習することが一気に増えるので、娘の不安感はより顕著に現れました。
初めてのことを目の当たりにすると、取り組む前から「分からない!」「できない!」と言って泣き出すことが毎日のように続きました。
自宅でも宿題をするときに泣いていたので、私は「泣かないで」と何度も何度も言ってきました。
さらに「間違えることや失敗することは悪いことじゃないよ。最初は誰でもできないんだから、諦めずにチャレンジすることが大切なのよ」と事あるごとに言って聞かせていましたが、娘の不安感は一向に軽減する兆しが見えませんでした。
一般的には正論であっても娘の心には届かない
自ら進んでチャンレジできない状態がこの先も続くのは問題だと思い、月に1回通っている療育施設のG先生に相談しました。
私は「失敗は成功の糧、ということを娘に伝えたいのですが、なかなか理解してもらえません」と相談。
G先生は「お母さんが言っていることは正しいことかもしれません。でも、一般的には勇気を与える言葉や論理的な考え方であっても、それは親からの一方的な押し付けになってしまうんですよ。だからMちゃんは腑に落ちないのです。失敗したときにどう感じるか?Mちゃんの気持ちをよーく聞いてみてください。その気持ちにお母さんが共感してはじめて、お母さんの言葉がMちゃんの心に届くようになると思いますよ」とアドバイスされました。
良かれと思って言い続けてきたことが、一方的な押し付けと指摘され正直ショックを受けました。
併せて、初めてのことにチャレンジできないのは、いつも通りの安定した日々を望む傾向がある自閉スペクトラム症の特性のひとつであることも知ることができました。
💡「泣かないで」と言わない私の決意
G先生に「親の一方的な押し付け」と指摘されてからハッ!としたことが、実はもうひとつあります。
それは私が当たり前のように言っていた「泣かないで」の言葉です。
私は幼い頃から父に「人前で泣くな!」と言われ続け、「泣くことは恥ずかしいことだ」と思い込んでいたため、それを娘にも押し付けていたことに気づきました。
「Mちゃんは、学校で泣いてもいいと思ってる?」と娘に尋ねてみると「学校で泣いてもいいのよ」とあっさり言われ、娘には娘の考えがあるのだと改めて実感。
クラスメイトの前でしょっちゅう泣いていると、娘はバカにされるのではないか?と心配していたのは私自身で、それを娘に投影していたのです。
娘自身は、人前で泣くことに対して何も心配していないと分かり、それ以降「泣かないで」と娘に言わないことを決意しました。
現在は、娘が涙をこぼしたら、その理由を聞いて「つらかったね」「頑張っているね」など共感の言葉をかけます。
または、ギュッと抱きしめて娘が泣きたいだけ泣けるようにしています。
娘がなぜ不安や怖れを抱くのか?観察と傾聴で原因が見えてきた!
療育のG先生からのアドバイスを肝に銘じ、今まで以上に娘の話に耳を傾けるようになった頃、娘が話す学校での出来事や、日頃の様子から問題の原因がつかめてきました。
下記に詳しく書いていきます。
ぜひ、お子さんの場合と照らし合わせてみてくださいね。
原因①「ひとつの事にひとつの意味」をくっつける
学校の体育の時間に、2チームに分かれてゲームをしたときの話です。
- 娘は先生が説明したルールをよく理解しておらず、右往左往したせいで娘のチームが負けた。
- チームメイトが「Mちゃんのせいで負けた!」と大きな声を出して怒っていた。
- 娘は、私が失敗したから負けた、私が悪い、「だから私は牢屋に入れられる」と泣いた。
ということが今日あったと、娘本人から話を聞きました。
この話を聞いて見えてきたのは、娘の特異な考え方です。
- 私が失敗したから負けた
- 負けたから怒られた
- 怒られるのは、悪いことをしたとき
- 悪いことをした私は、悪い人
- 悪い人は、牢屋に入れられる
「失敗=負け」、「負け=怒られる」、「怒られる=悪い」と、ひとつの事にひとつの意味をくっつけてしまう1対1の考え方です。
原因②聴覚や視覚で「直感的」に善悪を判断している
「正解/不正解」「できた/できない」が明確なアプリのゲームをしているときの様子を見ていると、
- 不正解の音「ブッブー!」に敏感で、音がするとビクッと過剰に反応して怖がることがある。
- 正解に伴う「◎」マーク、笑顔の表情=善いこと、嬉しいこととして捉える。
- 不正解に伴う「×」マーク、残念な表情=悪いこと、悲しいこととして捉える。
- 不正解に伴う残念な表情を見たとき「間違ったから悲しい顔しているね…」と娘がつぶやいた。
このように、聴覚や視覚で直感的に善悪を捉えていることが分かりました。
原因③「こだわり」で自分を追い詰めてしまう
娘は、「〇〇でなければならない」という強いこだわりを持っています。
下記は、幼稚園でお正月に福笑いで遊んだときのエピソードです。
娘にとって福笑いは、初めての経験。
目隠しをして目鼻口のパーツを置き、いざ見てみるとメチャクチャな顔になっています。
この面白い顔を見てみんなで笑って楽しむのが福笑いなのに、娘は「上手にできなかった」と泣き出してしまったのです。
メチャクチャな顔を嫌がり、うまく置けなかったことが悲しかった娘。
クラスメイトは「なんで泣くの?」と困惑しましたが「Mちゃんが好きなように顔を作っていいよ」と福笑いのルールそっちのけで対応してくれました。
娘はパーツを本来の位置に置くと、ホッとした様子で席に着いたと担任の先生から聞きました。
本来の位置に目鼻口を置けなかったことを、失敗でダメなことだと思い込み泣いてしまうことも「こだわり」が招いた結果です。
原因④極端な考え方になってしまう「二択思考」
失敗や間違えることが怖くて、初めてのことや難しそうだと感じることに挑戦できない娘の気持ちに私が気づきはじめた頃、こんな会話を交わしました。
私「間違えることや、失敗することは悪いことじゃないのよ」
娘「そうなんだ……、じゃあ、正解は悪いことなの?」
私はまさに目から鱗が落ちる思いがしました。
娘の頭の中では「間違いは悪いことじゃない、だから正解は悪いこと」になるのです。
なるほど、そうやって考えるんだ!善か悪しか選択肢がないんだ!と、ようやく理解できました。
これが「二択思考」です。
自閉スペクトラム症の特性のひとつともいわれています。
娘の考え方を分析・推測してみた結果
娘の言葉や行動を観察して分析した結果、否が応でもマイナス面にフォーカスしてしまうことが分かりました。
併せて、初めてのことは間違いや失敗を招きやすいと感じていることも把握できました。
初めてのことにチャンレジすると失敗する → 周囲の人に怒られる → 自分は悪いことをした悪い人だ → 自尊心が傷つく
この一連の流れが思考の偏りや特性から生み出される結果、初めてのことに対して不安や恐れを抱くようになったのだと推測しました。
失敗や間違いを怖がりチャレンジできないときの7つの対策
今まで、娘がチャレンジを恐れ困っているとき、親としてどう向き合うべきか悩んできました。
しかし、娘が感じている不安を共感・理解し、同じ目線で目の前の物事に対峙してみると、娘が抱いている葛藤や必要としている支えが分かるようになりました。
その後5カ月間、以下で紹介する7つの対策に取り組んだ結果、娘は自信を育みチャレンジ意欲が芽生え、「できた!」がたくさん増えてきました。
対策①まずは子どもの気持ちを共感することから
以前は「分からない」、「できない」と泣く娘に対して、「簡単、簡単!できるって」と言うだけだった私。
励ますようでいて、実は共感できていなかったと反省しました。
まず、何に対して「分からない」と感じているかを尋ねて「うんうん、初めてやることだから分からないと思っちゃうよね」と共感の言葉をかけ、娘の気持ちを理解している態度を見せるように心がけています。
そもそも娘は「できない」とは言うけれども「やりたくない」とは言いません。
できるようになりたいけど、怖くてできない……そんな葛藤や心のもつれを解きほぐしていきたいのです。
対策②最初は親がやって見せる、そして一緒に取り組む
①からの流れで、「じゃあお母さんと一緒にやってみようか」と娘の傍らで一緒に課題に取り組みます。
すると何に対して苦手意識を持っているのか、どこで行き詰っているのかが見えてきます。
そして、最初は私が実際にやって見せ「これは、こうやってやるんだよ」と伝えると、次第に娘は自ら「やってみようかな」と取り組むことを始めます。
ひとつできたら褒め、また次、その次と続けていくうちに「自分で最後までできた!」と自信を持てるようになっています。
対策③努力したことを具体的に褒める
就学後は、自宅でも学習に取り組むことが多いですよね。
特に宿題は、子どもが今何に取り組んでいるのか学習内容を把握できるうえに、親御さんが子どもを褒められる絶好のチャンスです。
書写なら「この字、とても綺麗に書けたね。たくさん書いて練習したもんね」とか、音読なら「スラスラと読めるようになったね!何度も繰り返して読んだからだね」と褒めています。
100点だから褒めるような結果だけに注目することではなく、娘が努力した事柄を具体的に伝え、努力そのものを認めるようにしています。
対策④本当に伝えたいことは文字やイラストを用いて説明を尽くす
私が娘にどうしても伝えたい「失敗は悪いことじゃない」の意味を、文字・図・イラストを組み合わせ紙に書いて真剣に説明してみました。
するとどうでしょう、たった一度でしっかりと伝わったのです。
視覚認識が優位に働きやすい特性を持つ娘への説明は、話し言葉だけではなく、書き文字やイラストを用いて説明する視覚的なアプローチが有効だったようです。
それからというもの娘は「失敗しても大丈夫よ。諦めないで頑張れば間違ったところもしっかり覚えられるし、必ずできるようになる!」と話すようになりました。
そればかりか、英単語学習アプリでつまずく主人や、卵焼きを焦がして消沈する私を「大丈夫よ!今度はできるよ!」と力強く励ましてくれます。
「grit」の言葉と意味が娘の心に響いた
④で「失敗は悪いことじゃない」の意味を娘に説明する際に「grit(グリット)」という単語を用いました。
「grit(グリット)」……この言葉の意味は「やり抜く力」や「目標を達成する力」と和訳されています。
娘にはこの「grit」というキャッチーな響きと、心の強さを表す意味がとても気に入った様子。
この言葉を覚えてからは「私、今日gritを出して泳げるようになったの!」、「先生にgritのことを話したら褒められて、クラスで紹介された」など、grit絡みの嬉しい報告が増えてきました。
「私にはgritがあるから大丈夫!」と話す娘の姿は、未知のことに挑む際に威力を発揮する強い「武器=心」を自らつかみ取ったような、たくましさを感じる今日この頃です。
対策⑥分からないときは、いつでも手を挙げて助けを求めていい
就学すると勉強することがたくさんあり、どう頑張ってもできない、分からないこともありますよね。
そんなときは「パッと手を挙げて、ココが分かりません!と先生に言っていいんだよ」と娘に伝えています。
助けを求めれば先生が応じてくれる、傍で支えてくれる体験を積むことで、学校や先生との関係性が深まります。
入学当初は不安を露わにして泣いていた娘も、今は先生を信頼し学校で安心して過ごせるようになりました。
※学校側へは、娘の特性について詳しく説明した文書を提出しており、その中で娘への理解とサポートをお願いしています。
対策⑦無理をしてまで今やらなくてもいい
こだわりが強くルールに厳格になりがちな特性のある娘は、一度こうと決めると完遂しなければいけないと思い込んでしまいます。
娘は英語主体の学校に通っており、一条校と比べると国語の単元が少ないので自宅で国語のドリルを毎日1ページやると決めていますが、休日、家族で出かけて帰宅が遅くなっても、眠たくて仕方がないときでも「毎日ドリルをやるって決めたから」と終わらせようとします。
私が「もう遅い時間だから明日でいいよ」と声をかけると「え?今日はやらなくていいの?」と返してきます。
毎日コツコツ続けることは良い習慣ですが、「このドリルは何のためにやるのか?」という意味や目的を見失い、「毎日やること」が目的化していました。
このような特性を持つ子どもたちはとても真面目で素直です。
だからこそ、本来の目的を見失わないよう導くとともに、柔軟な対応を示していくことも必要です。
チャレンジや頑張ることも大切ですが、心身ともに疲れてしまっては本末転倒ですよね。
無理しなくていい、たまには休んでもいいんだと、その時々でベストな選択できるしなやかさも身につけてほしいと願っています。
まとめ
今回は、初めてのことにチャレンジできないという問題とその原因を、娘のケースをもとに考察しました。
「できない」と言ってチャレンジを拒む子どもの姿を見ると、積極性がない、気が弱いと感じて思わず叱咤激励してしまいそうです。
でも、子どもの気持ちに耳を傾けてみると、「やりたいけど、できない」苦しい葛藤が見えてきます。
どこで行き詰るのか?……その原因を探り、解決へ向けた提案ができるのは、子どもの幸せを何より願う親御さんだけです。
焦らず、一歩ずつ、小さな「できた!」を重ねて、大きな自信へと繋げていきましょう。
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