「療育」とは、発達障害の異なる特性や個性を見極めながら、子どもたちが負担を感じることなく生活環境に適応できるよう導くためのもの。
そのため、「療育は療育施設の指導員などのプロフェッショナルしか行えない」と思っている人も多いのではないでしょうか?
しかし、子どもの成長に合わせてアプローチや内容が変化していく療育は、決して特別なことではありません。
もっとも重要なポイントは、「療育」を日常生活のなかに取り入れ、発達障害児が成長とともに自然に適応力を身につけていけることです。
信頼できる保護者とともに進めていく家庭内での療育は、発達障害児にとって安心できる環境下での療育となるため成長につながりやすくなります。
筆者は、子どもが5歳の時に発達障害の診断を受けました。
以来、「どのように接したらよいのか」、そして「どのように導き、育てればよいのか」と戸惑いながら、子育てをしてきました。
現在も療育施設で実際の療育の様子を見学しながら、生活の中で楽しく取り入れることができる遊びや学びがないかを探し、日常生活に取り入れるようにしています。
今回は、筆者の経験から、年代別の療育のポイントと合わせて、家庭でも簡単に取り入れられる療育の学びや遊びを紹介しています。
発達障害の特性はそれぞれ異なりますが、家庭内での療育に悩んでいる保護者の皆様のひとつの参考になればうれしいです。
【幼児期:5歳~】感情表現やコミュニケーションのきっかけをつくる
言葉が出ない時は、「喜怒哀楽カード」で遊んでみよう
自閉傾向の強い発達障害児の場合、豊かな感情を言葉でうまく表現することができず、周囲に感情を伝えることが難しいこともあります。
そのため、感情をどのように伝えていいのか分からず、理由もなく手を上げてしまう、大声を出す、パニックを起こすなど、周りが戸惑う行動をしてしまうケースが多くみられます。
筆者の子どもの場合、環境の変化で過度なストレスがかかったことから、言葉を発することができない時期がありました。
親子間のコミュニケーションができずに悩んでいましたが、見学した療育で使用していた「感情カード」に着目。
さっそく、自宅で「喜怒哀楽カード」を作成して、ゲーム感覚でその時の感情を表したカードを持って話すことを取り入れると、徐々に子どもが自発的に感情をカードで伝えてくるようになり、親子のコミュニケーションを円滑にとれる最初の第一歩になりました。
生活のリズムは絵カードで一緒に確認
発達障害児の特性のひとつに、興味のある物事に対して「こだわり」や「過集中」が挙げられます。
その特性のために時間を忘れるほど没頭してしまうことも多く、基本的な生活リズムが崩れてしまうことも少なくありません。
特に、保育所や幼稚園に通っていれば登園時間が決まっているので、保護者としては生活リズムを習慣化できるようにしておきたいところですよね。
そこで、子どもでも一目でわかるように時間を指した時計と簡単な生活行動の絵を描いたカードを子どもと作りました。
たとえば、9時を指した時計と歯ブラシの絵で「朝の歯磨き」、9時30分を指した時計とママと手をつないで歩く絵で「幼稚園に行く」、3時を指した時計と大好きなお菓子の絵で「3時のおやつ」など。
また、子どもと一緒に作ることでカードを作る時に生活リズムを確認させていたので、カードを見せることでスムーズに生活を整えていくことができました。
大きな声で叱ることなく、生活リズムを習慣化させることができる、おすすめの方法です。
【おすすめの遊び】お絵かき・かるた・絵本の読み聞かせ
形や色に決まりがないお絵かきは、発達障害児にとって独自の世界観をのびのびと表現できる表現方法です。
施設でも、療育の一環としてお絵かきを取り入れていることも多いですよ。
お絵かきが好きな子どもの場合、集中し始めるとあっという間にお絵かき帳がなくなってしまうほど没頭します。
ただし、お絵かきをしてよい場所や物は、ルールとしてしっかり確認させておくようにしましょう。
かるたは、勝敗にこだわる特性の子どもにはピッタリの遊びです。
また、音と文字(記号)を結びつけることができるので、文字や音の学びにとても効果的です。
優れた記憶力や聴覚を持っていることが多い発達障害児は音と絵札を簡単に記憶することができ、最初は文字が分からなくても音だけで十分にかるた遊びが楽しめるようになります。
お絵かきやかるたを楽しめるようになるためには、インプットがとても大切。
絵本の読み聞かせは、視覚、聴覚からインプットできる最適の方法です。
子どもと一緒に絵を見ながら、また文字を指で追いながら読み聞かせをしてみましょう。
親御さんの穏やかな声は、発達障害児にとって安らぎの音です。
聞いていないように見えても、ちゃんと聴覚を研ぎ澄まして聞いています。
また、文字に興味を示さなくても、音でちゃんと絵本の世界を楽しんでいますよ。
【児童期:6歳~7歳】集団生活に慣れるためのコミュニケーション力を養う
感情を伝えるための言葉を生活に取り入れてみよう
小学校入学を機に、幼稚園や保育園などの小さな集団環境から大きな集団環境へと変わります。
実は、発達障害児にとってこの環境の変化はとても大きく、過度のストレスを感じることが少なくありません。
特に、言葉でのコミュケーションが当たり前となってくる集団生活では、「うれしい」「悲しい」「いやだ」「楽しい」などの感情を言葉で伝える必要があります。
家庭でも自分の感情を言葉で伝えることができるように、少しずつコミュニケーション力を身に付ける機会を増やしてみるよう心がけることが大切です。
筆者は、5歳の時に作った「喜怒哀楽カード」を使いながら、「うれしい」や「悲しい」といった簡単な感情表現からスタート。
それまで「楽しかった」としか言わなかった子どもが、いろんな感情を言葉で伝えてくるようになりました。
同時に、療育施設でも徐々に感情を言葉で伝える場面が増えるなど、コミュニケーション面で大きく成長しました。
子どもの心の揺れを見極める!人形やプラモデルを使った「ごっこ遊び」
発達障害児の多くは、繊細な感覚や特性から大人の目が届かないところでクラスメイトとのトラブルが生じていることもあります。
しかし、困っていること、傷ついたことを言葉でどのように伝えればいいのか分からず、さらにストレスが溜まっている場合もあるのです。
「ごっこ遊び」は、子ども自身の感情を人形やプラモデルに投影することができるメリットがあるため、子どもは言葉を発しやすく、周囲の大人も繊細な子どもの心の揺れを見極めることができる遊びのひとつです。
筆者も、小学入学と同時に子どもの変化に気付きましたが、どうしたら対応したらよいのか分からず困っていました。
そんな時に、療育施設でぬいぐるみや人形、プラモデルなどを使って子どもの感情を引き出している療育を見学。
そこで、施設ではなく、リラックスできる家庭でもお気に入りのぬいぐるみで「ごっこ遊び」を取り入れてみると、それまで掴みどころのなかった子どもの心の揺れや悩みが言葉の端々で見えてきたのです。
【おすすめの遊び】トランポリン・トランプゲーム・お絵かき
トランポリンは、運動が苦手な子どもでも楽しむことができる運動です。
運動によって体のバランスが取れるようになるだけでなく、脳も刺激されるので、発達障害児にとても効果的。
療育施設によっては本格的なトランポリンを設置している療育施設もありますが、自宅では家庭用の小さなトランポリンでも十分楽しめます。
トランプゲームは複数人で楽しむゲームが多いのですが、個別行動が多い発達障害児も問題なく遊べます。
もちろん、勝ち負けにこだわる特性の場合、負けてしまった時の感情の収め方が課題となってきますが、トランプゲームを通して徐々にコミュニケーション力が身に付いてきます。
お絵かきは、年齢が上がっても発達障害児におすすめの遊びです。
勉強の量が徐々に増えてくると、特性や感覚、認識の凹凸が顕著になってきます。
時には、文字や数字に興味が持てず、不得意分野で落ち込んでしまうこともあるでしょう。
そんな時に、自由に表現できるお絵かきは、とても効果があります。
絵のタッチや色彩で心の揺れや不安などが表現されることもあるので、主治医や療育の先生に相談できるようにお絵かきの作品を保管しておくようにしましょう。
【児童期:8~9歳】基本的な協調性と自己主張を身につける
ゲームや共有遊具で順番、ルールを守る協調性を理解する
発達障害の特性として、興味のあることやハマっていることしか見えていないという点が挙げられます。
たとえば、滑り台を滑ることにハマってしまうと、順番を守らずに何度も滑り続けるといった行動をとってしまいます。
しかし、これでは協調性を身に付ける以前に、集団で遊ぶことさえ難しくなってしまいます。
施設では、ひとつの遊具やゲームをあえて共有することで、順番やルールを守る協調性を養う療育が行われます。
一人っ子の場合、協調性の療育は施設がメインになりますが、家庭でも順番やルールを守る場面はたくさんあります。
家族でゲームなど楽しむ際に子どもが順番やルールが守れなかった場合、「特性だから」「こだわりだから」と見逃さず、「あなたの順番はまだよ。待ちましょう」「どんなルールだったかな?」ときちんと指導することが大切です。
最低限の自己主張ができるように集団遊びに参加してみる
集団遊びには、順番やルールが守る協調性が大切になってくると同時に、最低限の自己主張も必要です。
たとえば、仲間に入れてほしい時は「一緒に遊ぼう」や「仲間に入れて」、反対に、嫌なことや不快なことをされたら、「やめて!」と言葉で伝える、などが最低限の自己主張になります。
しかし、自閉傾向が強い子は、言葉で自己主張することが難しく、感情を押しこめてしまうことが少なくありません。
最低限の自己主張は、グループ療育ではトレーニングするチャンスがありますが、個別療育の場合はなかなかチャンスがありません。
そこで、家庭では公園に遊びに行く、療育イベントに参加するなど、集団遊びが体験できる機会を心掛けてみるようにしましょう。
【おすすめの遊び】オセロ・ブランコ・鬼ごっこ
オセロは、「ルール、順番を守る」という基本的な協調性を身につけることができます。
2人だけのゲームなので順番がわかりやすく、発達障害児にも優しいボードゲームです。
また、色彩的に見ても「白と黒」なので視覚的な刺激が少なく、先を読む思考(未来への予測力)も鍛えることができるメリットもあります。
ブランコは、人気が高いにもかかわらず公園や小学校で設置されている数が少ない遊具のため、順番で遊ぶことが暗黙ルールになっています。
「順番を変わる」協調性と、「順番を変わってほしい」主張が必要です。
家庭ではなかなかできない体験となり、子ども自身も協調性と主張を求められる経験を通して学ぶことも多くあります。
ただし、ブランコは子ども同士のトラブルが起きやすい遊具なので、必ず保護者が近くで見守るようにしましょう。
鬼ごっこはシンプルな集団遊びですが、ルール、順番、そして基本的な自己主張が必要。
「鬼に追いかけられたら、タッチされないように逃げる」=ルール、「鬼がタッチされたら、鬼(追いかける)役を交代」=順番、「タッチされそうになった時に、「バリア!」と言えばタッチされない」=基本的な自己主張といった具合です。
その他にも、鬼ごっこは空間の全体認知や距離感、スピード感の把握など、発達障害児にとって刺激の多い遊びとなっています。
【児童期:10~11歳】共感力と想像力から環境への適応力を高める
家庭内で感情を言葉で伝える「素直ゲーム」はおすすめ
相手や周囲の感情を推測し、共感する「共感力」は、発達障害児の苦手とする特性のひとつです。
そのため、「態度から気持ちを察してほしい」という健常者に当り前の「無言のコミュニケーション」は、ほとんど伝わりません。
たとえば、泣いている人を見ても「悲しい」という感情に共感することが難しく、その感情に沿った言葉をかけることができないこともあります。
筆者の家庭では、「素直ゲーム」と称して子どもに感情を素直に言葉で伝えていました。
「ありがとう!すごくうれしい」「いま、怒っているよ」など、必ず言葉で感情を子どもに伝えるだけです。
日本人は習慣として感情を言葉で明確に伝えませんが、「感情表現だけは外国風」に変えてみたところ子どもも相手の感情に共感しやすくなり、お互いに「伝わらないフラストレーション」を感じることが少なくなりました。
想像力を発揮する!家庭でできる「秘密基地大作戦」
個人差はあるものの、現実の世界では周囲の健常児との違いにストレスを感じやすいため、発達障害児の多くが独自の想像ワールドでリラックスすることを必要としています。
そのため、安心して過ごせる家のなかでも一人になれる「クールダウンスペース」を、準備してみましょう。
自分だけのスペースで想像力を発揮することでクールダウンできるので、日常生活上でもパニックが起こりにくくなります。
家庭でもできる「秘密基地大作戦」は、療育施設を見学した際に、柔らかいクッションやソフトブロックを使って、自由に小さな空間を作る作業を楽しそうにしていた子どもの様子が印象的だったので、家庭内に取り入れていました。
想像力を最大限に生かして作った秘密基地は我が子にとって、とても安心できる場所になっています。
手頃な値段で購入できる段ボール素材のスモールハウスは、家庭でもスペースも取らないのでかなりおすすめです。
【おすすめの遊び】 フラフープ・箱庭・工作
省スペースで遊べるフラフープは、屋内外問わず遊べるおすすめの遊具です。
また、シンプルな形だけに想像力を使うとさまざまな遊び方ができるので、発達障害児特有の豊かな想像力を発揮するのにも適しています。
体幹が鍛えられるだけでなく、多動症状が強い子どもの場合フラフープを使って体を動かすことで落ち着くこともあります。
箱庭は、療育施設やカウンセリングなどでも療育の一環として行われています。
もちろん、家庭でも箱庭を取り入れることができます。
箱や砂、ピースなどは100円ショプで購入できるので、家計に優しい遊びなのもうれしいですね。
箱庭は想像力を働かせるだけでなく、子どもの心理状態が表れる遊びなので、完成したらぜひ写真に撮って記録を残しておくとよいですよ。
工作は、まさに想像力が発揮させる代表的な遊びです。
粘土やブロック、プラモデルの組み立て、簡単な裁縫など工作の素材は幅広くあるので、興味のある物を選ばせてみましょう。
手先を動かして脳に刺激を与えるだけでなく、立体的な創作で少しずつ空間認識力をつけることも可能です。
【児童期:12歳~13歳 】自分の得意分野と不得意分野を客観的に把握する
興味の範囲を広げるレジャーや外出に出かけよう
小学高学年になると、自閉傾向のある発達障害児も外の世界に興味を少しずつ持ち始めます。
発達障害児の興味の範囲には偏りがあることが知られていますが、できるだけさまざまな人や物、場所に触れることができるレジャーや外出をしてみましょう。
レジャーや外出での体験は、子ども自身で興味のある分野を広げるだけなく、子どもが興味ある分野を的確に見極めることができます。
また、社会ルールやマナーを理解できる年代なので、レジャーや外出の際の保護者の負担も軽くなる絶好のタイミングです。
療育施設主催のキャンプやレジャーなどのイベントに参加してみるのもおすすめ。
イベント中のサポート体制もしっかりしているので、子どもも保護者も安心して利用できます。
自分を主役にした物語をプロデュース!得意分野と不得意分野の客観的に自覚する
発達障害の特徴は、凸凹のある特性です。
得意分野と苦手分野がはっきりしており、苦手分野に関しては感覚過敏などが影響していることも少なくありません。
小学校高学年になると中学進学が迫ってくるため、早い段階で子ども自身が得意分野と不得意分野を把握しておくことが大切です。
筆者の家庭では、ちょうどこの頃から子ども自身が物語を作ることに興味を持ち始めました。
そこで、自分自身を主人公にした物語を書くことを提案してみたところ、とても楽しんで物語の創作に取り組んでいました。
物語を書く過程のなかで、自分の得意分野と不得意分野、感覚過敏などの特性を客観的に自覚することもでき、自分なりの対応策を見出していました。
【おすすめの遊び】 バランスボール・物語作り・レジャー
バランスボールは、体幹を鍛えるだけでなく身体のバランスも整えます。
また、脳に適度な刺激も与えることから、療育施設でもよく使われる遊びのひとつです。
テレビやDVDを見ながらできる手軽な運動なので、ぜひ家庭でも取り入れてみましょう。
ただし、体のバランスが取りにくい子どもの場合は、必ず保護者の目の届くところで遊ばせるなどの注意が必要です。
物語作りは、文章や絵をかくことが好きな子どもにおすすめの遊びです。
想像力を働かせることはもちろん、文章の構成力、表現力なども身に付けることができます。
なかなか言葉が出せない子どもの場合は、文字で表現することで周囲とのコミュニケーションがスムーズになることもあります。
さまざまな刺激にあふれているレジャーも、発達障害児にはおすすめです。
特に、物自然や動物と触れ合うレジャーは、セラピー効果も高いとされています。
また、偏りやすい発達障害児の興味の範囲を広げる絶好のチャンス。
子どもの負担にならない程度でレジャーに出かける機会を増やしてみるのもよいでしょう。
ただし、環境が変わることで不安を強く感じる場合もあるので、適宜必要なサポートを心掛けることが大切です。
まとめ
療育施設では、年代や特性に応じた目標を向かって療育プログラムを行っていますが、どうしても療育時間や回数は限られてしまいます。
そのため、多くの時間を過ごす家庭でも目標に沿った療育を積極的に取り入れることが大切です。
- 【幼児期:5歳~】感情表現やコミュニケーションのきっかけをつくる
- 【児童期:6歳~7歳】 集団生活に慣れるためのコミュニケーション力を養う
- 【児童期:8~9歳】 基本的な自己主張と協調性を身につける
- 【児童期:10~11歳】 共感力と想像力から環境への適応力を高める
- 【児童期:12歳~13歳 】 自分の得意分野と不得意分野を客観的に把握する
集団環境への適応性と協調性が求められる児童期では、できるだけ負荷をかけることなく環境に適応していくように導く必要があります。
ただし、発達障害児の成長は、特性によって大きく異なります。
施設だけでなく、家庭内でも年代に応じた目標と療育指標をきちんと定めて養育を進めていくことが、子どもの発達へとつながっていきます。
子どもの成長に合わせて療育を家庭に取り入れていけば、家庭での療育はとても実りあるものになるのです。
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