皆さんは『療育』という言葉をご存知ですか?
私は息子が通っていた保育園の先生方から「育てにくいと思ったことはありませんか?」「療育を受けることも考えてみては?」と言われて初めて『療育』という言葉を知りました。
「療育っていったい何?」と当時の私には分からないことだらけで、「これから息子はどうなってしまうのだろう」と不安な気持ちでいっぱいでした。
今回は私のように、お子さんがこれから療育を受ける人、受けることを検討している人に、療育とは何か、実際に療育を受けるにはどうすればいいのかを、体験談などを含め、ご紹介いたします。
療育とは?
療育とは、障害がある子ども、もしくは障害を疑われる子どもが社会的に自立し、生活できるように医療的配慮のもとで行われる保育・教育のことを指します。
2000年代に厚生労働省が「児童発達支援」として「それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助」と定義したことにより、現在ではたくさんの子どもたちが発達支援の一環として「療育」を受けることが出来るようになりました。
しかし、療育は誰でも受けられるものではありません。
実際にどのようなお子さんが療育の対象となるのか、ご紹介していきます。
■対象者と療育センターについて
発達障害、身体障害、知的障害、精神障害がある児童、あるいはその疑いのある、0歳から18歳以下の児童が対象です。
お住まいの地域によっては20歳まで対象となる場合もあるため、確認が必要です。
また、療育手帳、精神障害者福祉手帳の有無は関係なく、療育を受けることが出来ます。
各手帳を申請するまでに至っていない、申請するのを迷っている、あるいは申請中のお子さんでも療育を受けることが可能です。
そして療育センターとは、障害をもっている児童一人一人に合った支援、または治療を行う施設のことです。
名称に定義はなく、各療育センターによって療育内容は異なり、様々な機能を持ち合わせた施設も多く存在し、複合施設として「○○療育センター」「○○総合療育センター」と呼ばれています。
療育を受けるために-療育の手続きの流れ
実際に療育を受けるにあたり、「どこに相談したらいいのか?」「手続きは何処ですればいいのか?」ご存知ではない親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
私の息子がADHD・自閉症スペクトラムと診断され療育を受ける際に体験した「療育の手続きの流れ」をご紹介いたします。
お住まいの地域の各施設に問い合わせる
お住まいの地域の子育て・発達支援室や療育センターや療育センター、児童相談所、区役所などに問い合わせしてみましょう。
私の場合は、保育園の先生から『療育』の勧めを受けたため、区役所に電話を掛け、療育センターにて療育を受ける一連の流れを伺いました。
ただ予約が立て込んでおり、検査を受けるには3ヶ月程かかりました。
私の住んでいる地域に限ったことではないようなので、検査や診察、療育を受けることをお考えの場合は、早めに行動することをおススメします。
ソーシャルワーカーとの面談
担当のソーシャルワーカーに、日常生活や育児する中で困難に思うことなどを話しましょう。
ソーシャルワーカーは、いわば悩みを相談できる相談役です。
いざ面談となると、伝えたいことが緊張して伝えられない場合もあるので、前もって話したいこと、お子さんを育てるにあたり困っていること、支援が欲しいことを箇条書きにメモしておくとよいでしょう。
発達検査
各施設に出向き、発達検査を行います。
発達検査は生まれたばかりの0歳0か月から受けることができ、発達検査方法は数多く存在します。
下記の発達検査の中でも、新版K式発達検査と乳幼児精神発達診断法が日本では多く発達検査で実施されています。
- 新版K式発達検査
- 乳幼児精神発達診断法
- ASQ-3
- 日本版Bayley-III乳幼児発達検査
- KIDS乳幼児発達スケール
- ブラゼルトン新生児行動評価法
- 日本版デンバー式発達スクリーニング検査 など
知能検査
発達検査と共に、知能検査を一緒に行います。
知的検査は2歳から受けることができ、知能検査を行うことでIQの値を求められます。
平均値を100とし検査結果であるIQの値を照らし合わせ、IQ70未満であった場合は知的障害と認められます。
- 田中ビネー知能検査
- ウェクスラー式知能検査
- KABC心理、教育アセスメントバッテリー など
💡グレーゾーン
ネットでもよく目にする言葉ではある「グレーゾーン」とは、IQ70からIQ79の値を指します。
診断がはっきりしない分、親御さんも戸惑うことも多いと報告されています。
現に私の息子も田中ビネー知能検査を受け、IQ73グレーゾーンと診断されました。
息子は知的障害であると仮定して療育を受けさせるべきか、育てにくさはあるが健常児として育てていくべきか、随分長い時間悩みました。
医師の診察と療育の方針
発達検査、知的検査、診察結果をもとに医師による診断名を聞くことが出来ます。
また診断結果を踏まえ、お子さん一人一人が必要とする療育プラン(どの施設を利用するか)などを親御さんと話し合い、ソーシャルワーカーと医師のもと検討されます。
💡検査の費用と診断書
発達検査、知的検査の費用、または診断書が必要な場合などは、施設毎に費用が異なるため、事前の確認が大切です。
療育センターを利用するには
療育センターを利用するには、受給者証が必要となります。
受給者証は2種類あり、放課後デイサービスや児童発達支援などでの療育を受ける場合は通所受給者証、福祉型障害児入所施設や医療型障害児入所施設などでの療育を受ける場合は入所受給者証が必要です。
通所受給者証か入所受給者証、いずれかの受給者証が交付されてから療育を受けられるようになります。
申請から交付まで1~2ヶ月かかる場合もあるため、早めの申請をおススメします。
お住まいの地域によって受給者証を申請するための書類の種類が異なりますので、事前に確認しておいてくださいね。
療育の利用料金
受給者証を申請することで、児童福祉法に基づき国と自治体から利用料金の9割が給付され、利用者の実質の負担は1割となります。
負担額は世帯の所得により異なり、療育を受けられる日数の上限も設けられております。
また、月の利用者負担額には上限額が設定されており、上限を超える自己負担はありません。
上限額は前年度の世帯所得により4つに分類されます。
- 生活保護受給世帯、市町村民税非課税世帯は0円
- 市町村民税課税世帯(前年度の年間所得が890万円以下の世帯)
児童発達支援、放課後デイサービスなどの通所施設利用の場合4,600円
福祉型障害児入所施設や医療型障害児入所施設などの入所施設利用の場合9,300円 - 上記以外の前年度の年間所得が890万円を超える世帯37,200円
💡療育を受けるにあたり
ここで大切なのは、ご利用を検討している施設が児童福祉法で定められている施設なのか、お子さんがその施設を利用する対象にあてはまるのか、手続きや費用を把握すること。
またお住まいの地域によっては、多子軽減措置などの減措置や、助成金などを設けている場合もあるので、ソーシャルワーカーや施設に確認しておきましょう。
実際に療育を受けた体験談
私が息子の育てづらさに疑問を抱き、更には保育園の先生からの指摘もあり、「発達障害かもしれない」と考え始めたのは息子が4歳を迎えた頃に、下記のような行動が目立ち始めたためです。
- スーパーなどで手を放し駆け回る
- 落ち着かない
- こだわりが強く、自宅の扉は自分が締めなければ癇癪を起す
- おもちゃの貸し借りが上手くできない
- 場面の切り替えができず、公園から帰ろうとしない
それから検査を受けるまでに3ヶ月、診断を受けるまでに3ヶ月と、とても時間がかかり、気が付けば息子は5歳になっていました。
「息子が育てにくいのは躾の問題なのではないか?」と思い詰めた時期もあり、検査を受け「発達障害」「ADHD、自閉症スぺクトラム」と診断され、戸惑いもありましたが、上記に挙げたような目立った行動は躾の問題ではなく、発達障害からくるものだと判明し、スッキリしたことを覚えています。
児童発達支援
私が住んでいる地域の療育センターでは0歳から就学前の6歳までの児童を対象とし、通所型の児童発達支援が行われていますが、定員オーバーだったために、すぐには療育を受けることはできませんでした。
児童発達支援では、日常生活や集団生活における機能訓練や、自立支援を行い、幼稚園や保育園のように集団生活を行い、遊びや集団生活の基礎を学びます。
はじめは「親は見学しているだけで暇だな」なんて呑気に構えていましたが、通っていくうちに下記に気付いたため「暇だな」なんて考えている場合ではないと思い直し、メモを取るようになりました。
- どのように指示をだせば息子は次の行動に移しやすくなるのか
- 先生の誘導の仕方
- 息子が集団生活を送るにあたり、得意ではないことを親としても把握するチャンス
下記から、大まかな一日の流れをご紹介します。
朝の会
朝、幼稚園や保育園のように「おはようございます」と施設まで通い、朝の会が始まります。
子どもたちは、中央のテーブルに集まり、保護者たちは教室の端に座って様子を見学します。
初めのうちは、知らない先生やお友達ばかりだったので、私の膝の上から離れようとしませんでしたが、椅子に座り、テーブルにつくことを強要せず息子のペースに合わせて先生も促してくれ、なんとか3回目の療育では、自ら椅子に座り、テーブルにつくことができました。
リトミックや作業の時間
朝の会が終わると約45分間、リトミックや工作などの時間となります。
日により内容は異なり、子どもたちが楽しみながら行えるように音楽に合わせて踊ったり、走ったり、折り紙や模造紙、新聞紙を使用して工作をしたりと、いろいろな工夫がされています。
場面毎の切り替えが苦手な息子は次の指示が通らず、いつまでも自分の好きなこと、やりたいことをし続けてしまう傾向がありましたが、療育を重ねるにつれて、次はどう動くべきなのか行動を表す絵のカードを見て判断できるようになり、次の指示が通るようになりました。
給食と歯磨き
子どもたちは手を洗い、給食の準備が整ったら「いただきます」の掛け声と共に食事をします。
給食が配膳されるまでの時間や食事の最中には、椅子に座っていることに飽きて席を立ち遊んでしまう場合もあり、席につけなければ給食が食べられないことを理解するためにも、ある程度の量を食べているお子さんに関しては、給食を切り上げるケースもしばしば見受けられました。
また、アレルギーにも対応しており、卵アレルギーであった息子には卵を除去した給食を用意していただけて、助かりました。
偏食傾向のあるお子さんも多く、「白米だけでは食べられない」と、ふりかけや海苔を持参する親御さんもいらっしゃいました。
給食後は歯磨きの時間です。
歯磨きは各家庭のやり方で親御さんが行います。
お子さんが歯磨きをした後に仕上げ磨きする親御さんの姿や、息子のように歯磨きを嫌がるお子さんの姿を目にしました。
息子の場合はお友達が仕上げ磨きをしてもらう姿を見て安心したためか、上手に仕上げ磨きができるようになりました。
家庭ではなかなか他のお子さんの様子は分からないものですが、集団生活を送り、他のお子さんの仕草や姿勢を見ることで息子が理解してくれたのだと感動した記憶があります。
親子分離
子どもたちがおもちゃで遊んでいる間の約20分間が、保護者たちの昼食の時間です。
発達障害児を育てる親御さんたちと話せる機会がなく一人悩んでいましたが、通所型の児童発達支援を受けることで、周りの親御さんとコミュニケーションをとることができ、なんだか心が軽くなったことを覚えています。
以前、公園や児童施設で何度か顔を合わせるうちに、仲良くなった同い年の男の子とママ友がいました。
しかし下記のような行動が目立ち、お友達と行動を共にすることが難しく、歯がゆい思いを沢山してきました。
- 公園までの道順が普段と少しでも違うと癇癪を起す
- 特定の遊具を好み、お友達に譲る・共有することができない
- 場面の切り替えができず、家に帰ろうと促しても泣き叫んで抵抗
「こんなことで困っている」と相談してみると、意外と他の親御さんたちも同じように悩みを抱えていたのです。
療育で行っているように「見通しを立ててみよう」「次の行動を目で分かりやすく絵にしてみては?」と意見交換をすることで、「悩んでいるのは私だけではない」と勇気づけられました。
親子分離の時間は、約20分と短い間ですが、子どもと離れ、親御さんたちと情報交換など出来る貴重な時間でした。
運動
親子分離を終えると午後の時間が始まります。
平均台や大きなバランスボール、トランポリンなどバランス運動を中心とした遊具を使ったり、お遊戯をしたりします。
ここで身体のバランス感覚などを養っていくのです。
帰りの会
一日のスケジュールが終わると、帰りの会を行います。
自分の名前を呼ばれ、ちゃんと「はい」と返事をすることができるのか、また朝の会から帰りの会と一連の流れを習慣づけることで、ルールを覚え身につけさせていくのです。
療育を受けてからの息子と私
療育を受ける前は、「どうして息子は言うことを聞かない子なのだろう」「私の躾の問題なのか」と追い詰められている時期もありました。
しかし、保育園の先生の指摘を受けてADHDと自閉症スペクトラムと診断され、療育を受けることで「どうして息子に指示が通らないのか」「指示を通すためにはどうすればいいのか」が分かるようになり、随分と気持ちも楽になりました。
また、息子も母親である私からガミガミと怒られることも少なくなり、穏やかに過ごしています。
息子が成長し近い未来に社会に羽ばたいていくときに、生きづらい思いをさせたくないとの考えから、IQ73とグレーゾーンではありましたが、私は息子に療育を受けさせ、育ててきました。
「発達障害かもしれない」と、将来が見えないと感じた時期もありましたが、現在では「療育を受けることができて本当に良かった」「私の選択は間違っていない」と思えるようにまでなりました。
まとめ
今回は「療育」についてご紹介してきました。
療育にマイナスイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際の療育は明るく、幼稚園や保育園のように日常生活・集団生活の基礎を学んでいくところなのです。
お子さん一人一人に合った療育を受けることで、発達障害により日常生活で苦手に思っていたこと、不得意なことが改善されます。
そして、療育を受けることで生活力を身に着けられ、お子さんが本来持っている能力を更に伸ばしていけるのではないでしょうか。
ポイントは下記の4つ。
- お住まいの地域の子育て・発達支援室や療育センターや療育センター、児童相談所、区役所などにまずは問い合わせをすること
- 療育は、療育手帳が交付されていなくても障害を持っている、あるいは疑いがある、療育が必要と医師から判断された場合、18歳(中には20歳までの地域も)までのお子さんが対象となる
- 発達検査、診断、療育を受けるには時間を要する場合もあることを念頭におくこと
- 療育を受けるために各施設を利用する場合、受給者証の申請が必要
療育を受けることは決して特別なことではありません。
療育を受けるデメリットはなく、療育を受けないデメリットのほうがはるかに多いのです。
是非、療育を受けることを検討してみてくださいね。
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