発達障害者やご家族の中には「障害者手帳をとるとどんなメリットがあるのだろう?」「障害者手帳の等級が下がるとどんなデメリットがあるのだろう?」「療育手帳と精神障害者保健福祉手帳、受けられるサービスにどんな違いがあるのだろう?」といった疑問や悩みを持っている人もいらっしゃるのではないでしょうか?
この記事では、①障害者手帳取得のメリット、②障害者手帳の等級が下がったときのエピソード、③精神障害者保健福祉手帳と療育手帳の違いでちょっとだけ後悔していることをお伝えします。
福祉サービスなどについても触れているので「障害者手帳についてもっと知りたい!」という人に見てもらえたらとても嬉しいです。
筆者の簡単な自己紹介と障害者手帳の取得に対してプラスに感じている点
この記事は経験談が多いので、簡単な私の自己紹介をしますね。
発達障害(自閉症スペクトラム障害)と診断された、大学4年生です。
二次障害としてうつ病も抱えています。
発達障害の診断を受けたのは高校1年生の冬で、精神障害者保健福祉手帳も数ヶ月後に取得しました。
今年で手帳を受け取って、7年目になります。
最初に発行してもらったのは、精神障害者保健福祉手帳の2級です。
障害は変わりませんが、大学の進学のために県外に移住したところ、手帳の等級が2級から3級に変更になりました。
妹は私と同じ自閉症スペクトラム障害ですが、精神障害者保健福祉手帳ではなく療育手帳を取得しています。
障害者手帳の取得について後悔はありません。
障害者手帳を持っていても生活に制限を受けたことがなく、生活の助けになるサービスを受けることができるようになったからです。
個人的に感じたメリットを紹介していきます。
障害者雇用での就職という選択肢を手に入れることができた
障害者手帳を持っているメリットで真っ先にあげられるのは、「障害者雇用の枠での就職活動もできる」ことです。
※手帳を持っているからといっても「必ず障害者雇用の枠で就職しないといけない」ということはありません。障害を持っていない人と同じ【一般枠】と、【障害者雇用枠】どちらにも応募できるようになり、選択肢を増やすことができます。
私自身、数か月前まで就活生で、就職活動が解禁当初は周りの大学生と同じ一般枠での就職活動もしていました。
就職活動中に「一般枠での就職だと、私は継続して働くことが難しいのではないか?」と思い、障害者雇用枠のみに切り替え、無事に6月に障害者雇用枠で内定を頂きました。
障害者雇用での就職は、障害に配慮してもらった形で就労することが可能です。
従業員50人以上の企業は、障害者を2.0%雇用し、法定雇用率を満たす必要があるため、大手企業も障害者の雇用に積極的です。
特性を理解してもらえたうえで安定して働くことのできる障害者雇用が選択肢の1つになることは、大きなメリットだと感じています(就職が簡単になるということではありません)。
公的な身分証明書として利用することができる
障害者手帳は、運転免許証と同じように公的な身分証明書として利用することができます。
私自身、パスポートも運転免許証もなかった時期に「写真付き身分証明書」を求められ、困った経験があります。
その時、代わりに活躍したのが「障害者手帳」でした。
- 銀行口座開設時
- ライブイベントの本人確認時
のほか、普通の本人確認書類として利用することができました。
- クレジットカードを作るとき
- 賃貸物件の新規契約時
- 自動車学校の入所時
- 本人確認が必要な荷物の受け取り時
- 図書館の貸し出しカードの作成時
※障害者手帳は他の身分証明書と比べると偽造が簡単である点から、銀行など、民間企業によっては使えないところもあるようです。必ず公式HPなどで確認してください。
学生証・運転免許証・パスポート・マイナンバーカードがない場合、身分証明書のひとつとして検討してみてください。
金銭的な援助を受けることができる
障害者手帳を持っていると、様々な場所で「障害者割引」をしてもらえることがあります。
- 公共交通機関・タクシーでの運賃
- 公共施設・民間施設の入場料や利用料
- 民間サービスの割引(映画の鑑賞代金など)
他にも、等級と所得によって税金が減免される制度・福祉手当など、金銭的にありがたい支援を受けることができます。
障害者手帳の等級が下がったことであった変化
私は4年前に、精神障害者保健福祉手帳の等級が2級から3級に下がっています。
この章では、等級が下がった経緯とあわせて「下がって困ったこと」「逆にメリットになったこと」をご紹介します。
障害者手帳の等級が下がった経緯:進学を機にひとり暮らしをしなければいけなかったため
大学合格当時は実家から通学予定だったものの、交通機関のダイヤの変更により通学が難しくなってしまったので、入学前にひとり暮らしをやむなく選択することになりました。
転居に合わせて住民票も変更になり、新しい市で障害者手帳の手続きをした際に等級が2級から3級に変更されています。
特性や困っていることは何も変わっていないものの、「ひとり暮らしができるレベルまで困難さが解消されている」ということで変更と区役所の職員さんから伝えられました。
障害者手帳の等級が下がり、困ったこと
3級から2級に障害等級が下がってしまったことで、生活が大きく変化して生活が一気に苦しくなったということは特にありませんでしたが、それでもちょっとした痛手はあったので、その点について下記に記します。
✓「そんなに困っていないでしょ?」と言われてしまい、家事援助サービスを申し込めなかった
ひとり暮らしが始まってすぐ、生活が出来なくなってしまったので「家事援助サービス」をお願いしようと区役所に行った時の話です。
家事援助サービスとは?
- 厚生労働省が定めている障害福祉サービスの「居宅介護」の1つです。
- 掃除・洗濯・食事・など日常生活の援助をサポートしてくれるサービスで、障害者や高齢者、難病指定の患者、高齢者が利用することが出来ます。
下記のように、私はひとりで身の回りのことをうまく回すことができませんでした。
- 片付けはできず、ゴミも出し忘れ、部屋の中はごみ屋敷状態
- 食事もとる余裕がなく体調不良
今振り返って考えてみても、当時はひどい状態でした。
こんな状態だと説明しても、窓口の職員さんに「3級だし、そんなに困っていないでしょ?」「自力でなんとかできるんじゃないかな?」と受け流されてしまったのです。
おそらく職員さんは「障害等級:3級」ということと、私の様子を見てそのような判断をしたのではないかと思います。
それでも、障害者手帳の手続きをしたときは「困ったことがあったら来てください」と言われていたので、ショックが大きかったです。
結局サービスを申し込むことはできず、家族に週3回来てもらい何とか生活をしていました。
「障害等級が2級のままだったら、すんなりとサービスを申し込むことができたのかな」と今思い出しても考えてしまう出来事でした。
✓重度障害者等福祉手当の支給額が下がってしまった
障害者手帳を持っているので、私は市の重度障害者等福祉手当を支給してもらっていました。
重度障害者等福祉手当とは?
- 障害者福祉の増進を図ることを目的として、障害の程度に応じて支給してもらえる手当のことです。
- 私の市では下記のようになっています。
- 支給条件:市内に住民登録があり、住居していて障害の程度が重度か中度に判定された人
- 支給額:重度障害者 月5000円、中度障害者 月3000円
- 支給時期:年2回(3月・9月) 半年分ずつ銀行の預金口座に振り込まれます
精神障害者保健福祉手帳を所持している場合、1・2級が重度障害者、3級は中度障害者という判定になっています(支給額・判定方法などは市によって異なります)が、障害者手帳の等級が下がったことで、この受給額が変わってしまったのです。
2級のままであれば月5000円の支援でしたが、3級に変わってしまったので、今は月3000円。
大学4年生になりましたが、いまだにひとり暮らしの生活と大学の勉強の両立に苦戦していて、アルバイトはできる状態ではありません。
そんな私にとって、重度障害者福祉手当は貴重な収入源のひとつだったので、この減額には頭を抱えました。
障害者手帳の等級が下がり、就職活動時には評価につながった
就職活動時には、「障害等級が2級から3級になった」という事実から「日常生活はひとりでもある程度送れている」と判断した企業が多かったように感じています。
障害者雇用枠での就職活動の場合、スキル以上に重視されている点が、職業準備性ピラミッドです。
職業準備性ピラミッドとは? -仕事をするにあたって、必要な能力をピラミッドの形にして表現したもの。
- 健康管理:睡眠時間をきちんと確保できているか、体調管理や服薬管理が出来ているか
障害理解:自分の障害についてきちんと理解できていて、調子が悪い時にも適切に対応できるか - 日常生活管理:生活リズムが整っているか、金銭管理が出来ているか、身だしなみは整っているか
- 対人管理:あいさつ、言葉遣いや態度、マナーが出来ているか、感情コントロールが出来ているか
- 基本的労働習慣:あいさつ・返事ができるか、規則を守ることができるか、遅刻や欠勤なく一定の時間で勤務するだけの体力があるか、報連相ができるか
- 職業適性:仕事をするのに必要な知識や技能があるか
この職業準備性ピラミッドの(1)(2)にあたる部分をクリアしていると判断されることが多かったです。
2級と3級の判定基準が、「援助がないと身の回りのことができない」「ある程度はできるが、援助を必要とする」といった違いがあるからね、と教えて頂いたことがあるので、この差から「障害等級が下がった」こと自体が評価に繋がったのではないかと考えています。
障害等級が下がって、唯一手に入れられたメリットだと感じています。
療育手帳も取得しておけばよかったと後悔していること
私には同じ障害を抱える妹がいますが、妹は精神障害者保健福祉手帳ではなく、療育手帳を取得しています。
私も医師から「療育手帳の取得もできる」と言われていたのですが、精神障害者保健福祉手帳を所持していたので、必要性を感じず取得しませんでした。
妹と一緒にいて、「私も療育手帳取得しておけばよかった」と思ったことが何度もあったので、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳との違いについてお伝えします。
※知的障害がない発達障害者の場合、療育手帳を取得できるかどうかというのは、各自治体によって異なっています(私の地元の県は取得可能ですが、現在住んでいる地域では知的障害がないと療育手帳の取得はできません)。多くの自治体では、精神障害者保健福祉手帳よりも療育手帳のほうが全体的に支援が手厚いです。療育手帳が取れる可能性があるか確認してみることをお勧めします。
※療育手帳は幼少期に取得をしている人がほとんどだと思いますが、18歳以上でも取得は可能です(療育手帳取得の条件が18歳未満で発症・受傷していることなので、証明することができれば大丈夫です)。18歳以上の場合は問診などを受ける必要があるので、事前に自治体の担当へ連絡してみてください。
療育手帳を取得しておけば、JRで運賃割引を受けることができた
実は、精神障害者保健福祉手帳は等級に関わらずJRで障害者割引を受けることができません。
※今まで飛行機も精神障害者保健福祉手帳は割引対象外でしたが、日本航空が2018年10月から割引対象になりました。また、2019年からは国内線10社でも割引対象になる予定です!
療育手帳は精神障害者保健福祉手帳と違い、「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額欄」に第1種、または第2種と記載があるので、100㎞を越える乗車券代が割引になります。
第1種というのが本人と介助者が割引に、第2種が本人分のみ割引という違いがあります。
割引額は第1種・第2種共にひとり3割引です。
私の場合、実家までが100km以上離れていて、現在も通院は実家近くの病院です。
療育手帳を取得しておけば、毎月往復6000円近くのお金がかからなかったと思うと、療育手帳を取得しなかったことが悔やまれます。
JRの割引のほかにも自治体によっては、支援してもらえるサービスも療育手帳のほうが多いこともあります。
等級だけでなく、手帳の種類によって福祉サービスに差があるので、お住いの自治体のHP・福祉課等で確認をしてみることをお勧めします。
精神障害者保健福祉手帳の更新期限は2年間と短め
精神障害者保健福祉手帳は2年に1度、障害者手帳の更新が必要です。
しかし療育手帳の場合、再判定の期限が長めに設定されている自治体もあります。
私の妹の場合、更新期限は3年でした。
手帳の更新自体は意外とすぐに終わるのですが、病院で診断書を書いてもらって、区役所に赴いて手続きをする手間と金銭的な負担を考えると、回数が少ないことに越したことはありません。
療育手帳の取得が可能であれば、更新頻度が少なくなる場合があるのでこの点からもお勧めです。
まとめ:まずはお住いの自治体の福祉課へ!
発達障害は専用の障害者手帳がなく、自治体によっても対応は様々なので、まずは自分の自治体のところで色々確認することがとても大切です。
自治体の福祉課でもらえる、「障害者福祉のしおり」などをもらったり、福祉課の職員さんに相談してみたり、積極的に情報を集めてみてください。
障害者手帳取得でメリットはたくさんあります。
この記事が、読んでくださった人の「生きやすさ」に少しでも繋がればとても嬉しいです。
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