10年間の中学教師の経験から得た発達障害を持つ子どもたち、またそのような兆候のある子どもたちについて、保護者の皆さんに伝えたいことをまとめました。
発達障害を持つ子どもたちや、そのような兆候のある子どもたちとの関わりに悩む保護者の皆さんへの手助けになればと思います。
はじめに:子どもたちとの関わりから思うこと
私は約10年間、過去に中学校で教師をしていました。その間に出会った生徒の数は数千人。
その生徒たちの中にはADHDや多動性・発達障害を持つ子どもたち、またはそのような徴候のある子どもたちが少なからず存在し、私は彼らと関り合ってきました。
その子たちに共通して抱く最初の印象は
「教師の指導に従ったり従わなかったりする」
「友達に乱暴な振る舞いをする」
「授業中じっとしていない」
「うわの空なことが多い」
などの言動が目立つため、注意が必要な生徒だ、ということでした。
そのような兆候を持つ子たちの情報は小学校からの申し送りにある程度書かれていますが、年齢や環境が変わるとガラリと違う性格になってしまう子もいるため、会議を開きどのような対応をするか何度も話し合いを重ねていきます。
発達障害を持つ多くの子どもたちは、その場ではこちらが言ったことをよく理解してくれますが、次にまた同じことを繰り返してしまうこともよくあることなのです。
そしてそれが、その子をよく知らない教師や周りの子たちの目には「わがまま」に映ることがありますが、関わりを深めるうちに、本当はその子に教師に反抗しようとか友だちをいじめてやろうとかいう気持ちはないのだということが分かってきます。
ただ「自分を上手く表現できない」「欲求がおさえられないだけ」なのだということが分かると、本人の葛藤や苛立ちがよく理解できるようになってくるのです。
集団生活の中で必要なのは【思いやりと協調性】ですが、その部分の感覚が上手く機能しない子には集団の中での理解やサポートが必要です。
それがうまくいけばその子にとって学校は居心地のいい場所となり、心も安定していきます。
しかし上手くいかなかったり、家庭でのサポートが入りにくい子は自分の殻に閉じこもっていく傾向にあります。
つまり、学校であれ家庭であれ、その子が安心して生活するにはその子にとって世界がどのように見えているのか、それを大人がきちんと理解しサポートし続けることが大切なのです。
今回はこのような経験から、私が保護者の方にお伝えしたいことを以下にまとめました。
家庭と学校との連携の必要性
ほとんどの場合、ADHDや発達障害等の特徴は小学生の頃から顕著に見られるようになってきます。
特に、小学校の高学年になると一層その特徴は際立つようになります。
学校からもらう通知表の教師のコメントは、それを示す有力な手掛かりでもあります。
しかし「落ち着きがない、協調性が足りない」などと書かれたコメントを読んだところで、「何かの症状が出ているのかも?」と考える保護者の方は少ないのではないでしょうか。
多くの子どもを見てきている教師の中には、発達障害を持つお子さんに対する嗅覚が鋭い教師も多く存在します。
そのため、集団の中での子どもたちの様子を見ている教師の方が、その子の症状に気付きやすいように感じます。
しかし、そのことを保護者に伝えるには高い壁があります。
「下手に保護者の方を刺激してしまわないか」と危惧するあまり、何か大きな問題が起こらない限り「お子さんに発達障害の症状が顕著に見られる」と保護者に伝えることはないでしょう。
しかし、保護者の方との連携が取れず何の対策もできないままですと、子どもは自分との葛藤を抱き続けることでしょう。
そういった子どもたちは
「理由は分からないけれど、いつも叱られる」と感じ、自信を無くしてしまっているかもしれません。
それはその子にとって、とても辛いことだといえます。
事実、誰にも気付かれないまま大人になり、働き出してから発達障害と診断されるケースも度々メディアで取り上げられています。
子どもの様子は学校と家庭では違う
お子さんの学校での様子は家庭では見えにくいものです。
学校の話題が親子間でよく出るような関係であるならば、ある程度理解は深められるかもしれません。
そのような関係ではない場合は、ご家庭でもじっくりお子さんと話をしてみてはいかがでしょうか?
例え思春期のお子さんでコミュニケーションをとるのが難しい場合でも、保護者の方から歩み寄り続けることは大切です。
稀に「私とは会話をしたがらないから学校で話を聞いてもらえませんか?」という保護者の方がいらっしゃいますが、こういったことは当事者であるお子さんと親御さんが直接コミュニケーションをとらなくてはなかなかうまくいかないものなのです。
また、大人と同じように、子どもも学校と家庭では違った顔をしているものです。
学校ではふだん家庭では見せないような顔をしているお子さんもいるでしょう。
保護者会などの折に、担任の先生に話を聞くのも有効です。
家庭でも何か気になることがある場合には、授業参観や学校開放日などにお子さんの学校での様子をこっそり覗きに行くのもいいかもしれません。
その上で学校と家庭が連携してお子さんをサポートできる体制作りができれば、その子にとってとても良い環境づくりができるのではないかと思います。
ADHDと向き合いどうサポートしていくか
ADHDや発達障害を持つ子どもたちは一度叱られたことでも同じことを繰り返してしまいますし、言われた通りにできる時とできない時とがあります。
お子さんが何度も同じ失敗を繰り返してしまったときに、叱りたくなってしまう気持ちはよくわかります。
しかし叱っても叱ってもほとんど改善されないことも多く、さらに大きな声で叱ることになってしまい、負のスパイラルにはまり込んでしまいます。
そのような状況は、お子さんにとっても親御さんにとっても大きなストレスでしかありません。
これでは双方とも疲れ切ってしまいますし、お子さんは親御さんに反抗的になったり自信を無くしてしまう原因になりかねません。
では、子どもたちにどう向き合い、サポート体制を築いていけば良いか2つの場合を想定して私が感じていることをまとめてみました。
■ ADHDについて理解が深い場合
多くの保護者の方は
- 決して大きな声で叱らない。
- この子はそういう個性を持った子なのだと理解している。
- いつもにこやかな顔をしている。
また、ADHDの子は特に褒められることが好きなことから、
- いいところは褒めて伸ばし、間違ったことをしてしまった場合には「ダメなものはダメ」と教えていく。
- 「ダメなこと」が例えADHD特有の言動であっても、凛とした姿勢でいることが大切。
お子さんの症状をよく理解し、毎日忍耐強くお子さんと向かい合っておられました。
一点挙げるならば、保護者の方はお子さんの状態を誰よりもよく理解しておられますので、お電話でもお手紙でもかまいませんのでぜひそのことを手さぐりで指導にあたっている学校の先生にも伝えておいてほしいということです。
何倍も効率的な指導ができる上、理解ある学校ならばサポート体制を一緒に考えてもらえるかもしれないからです。
しかし残念ながら、そのような学校ばかりではないことも事実です。
学校側から理解を得られにくい場合、最初から強く「こうしてほしい」という一方的な要求だけを伝えてしまうとなかなかうまくいかないように感じます。
そのため、家庭でできることと学校でできることを整理しきちんと話し合い、相互理解を深めながら連携づくりを進めていくことが大切だと思います。
■ ADHDに対する理解が浅い場合
次に保護者の方がお子さんにADHDの症状の疑いを持っている、またはその症状をまだ受け入れられていない場合です。
このようなケースでは少々行動に問題があっても大抵「反抗期だから」とか「この子は頑固だから」といった性格的なものや、思春期特有のものだという理由で見逃している、または見逃されてきた場合がほとんどです。
しかしそれまで気付かれなかったとしても、注意深く振り返ってみるとADHDのお子さんにはどこかに必ずその徴候が出ていたはずです。
それが家庭の中で見られやすいのか、学校の中で見られやすいのかはケースバイケースですが、そこに気付いてあげられるかどうかでその子の人生が大きく変わってくるように思います。
ADHD症状の例
- 幼少期にやけに後追いをしたがる
- 手当たり次第に物をちらかす
- よく泣く
- かんしゃくを起こしやすい
小学校の先生からは
「落ち着きがない」
「集中力が持続しない」
「教師の指示に従わない」
などのコメントをもらってくることが多かったのではありませんか?
思い当たることがあれば、根気強くお子さんとの関りを深め、必要であれば医療機関や学校の特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーに相談してみるのもいいかもしれません。
このような記事を読まれている保護者の方であればADHDに対する感度はかなり高いと思いますが、多くの葛藤と悩みを抱え、その上で「我が子が発達障害である」という事実を受け入れるまでにはある程度の時間が必要なのではないかとも思います。
しかし、保護者の方がその事実を受け入れられないことでお子さんによくない状況が生じている場合、目をそらすことはできません。
なぜなら、学校にできることには限界があり、子どもが頼りにするのはやはり家庭であるべきだからです。
ですから、どうぞ何か問題が生じている場合にはお子さんから目をそらさずに、様々な機関にサポートを求めていただければと願っています。
保護者の方をみてきて思うこと
ADHDに関して理解の深い保護者の方は、本を何冊も読み、カウンセリングを受けるなど熱心に取り組まれています。
以前私が勤めていた学校にもそのような方がいらっしゃいました。
その方は学校にも頻繁に足を運ばれ、こちらが提案する方法には必ず同意してくださっていましたがお子さんの症状がなかなか良い方向に向かわず、苦しんでおられました。
今思い返しても、その方の気苦労はかなりのものだったのではないかと思います。
しかし、お子さんは無事に普通高校に進学され、その後もいろいろあったでしょうが、卒業されたと聞いています。
親御さんの思いがお子さんに伝わっていたという証ではないかと思います。
子どもが安心できる場所を作る
「頭ではわかっているのに行動に表わせられない」というお子さんを育てていくのは大変です。
学校では勉強と集団生活から、学力と社会性を身に着けることを学びます。
どんな子でも多少の問題は抱えていますが、そこから自分で解決する術を学び、手に負えない時には大人の力を借りて成長していきます。
ADHDや発達障害を持つお子さんも同じです。
ただしそのようなお子さんには、居心地のよい安心できる場所を作ることが必要です。
また、その環境作りさえできていれば親御さんの苦労も軽減されるはずです。
しかし現段階の学校でその環境を作るには、まだまだ手探り状態であることは否めません。
例えば、特別支援学級がスタートしてから10年ほど経ちますが、担当している教師は専門的な知識を有する人間ではない場合が多いのです。
ほとんどの教師は研修を受け、迷い悩みながら手探り状態で指導に当たっています。
しかし、何がベストなのかを模索し、少しでもサポートできるよう努力しています。
もしも特別支援学級にお子さんが関わることがある場合には、そのような現状があることを知っておくとよいかもしれません。
最後に
私が経験してきたことから保護者の方に伝えたいことをまとめましたが、主に学校側の視点から書きましたので一方的な考えになっている部分も多かったかもしれません。
しかし、学校も教師も保護者の方もお子さんをよい方向に向かわせたいという思いは同じはずです。
すれ違いや意思の疎通が上手くいかず、時には不満を抱かれることもあるかもしれません。
しかし、双方が歩み寄り、よい関係づくりができれば理想だと思います。
そして今現在も悩みながら子育てをされている親御さんには、今は上手くいかずともいつか必ずお子さんにその思いは伝わり、実を結ぶ時が来ると信じて関わり続けていただきたいと願っています。
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