職場に発達障害の同僚がいて、「彼らの言動が理解できず困っている」「コミュニケーションがうまくとれず悩んでいる」という人はいませんか?
発達障害者の言動は、はたから見ると傍若無人な振る舞いに見えるかもしれません。
発達障害に関する知識がないと、言動のひとつひとつにイライラして、彼らとの関係を必要以上に悪化させてしまうこともあります。
でも、発達障害についての知識を持ち、なぜ彼らはああいう行動をとるのか、その理由が分かるようになったらどうでしょう?
きっと、何も知らなかった頃に比べてストレスを感じることは大幅に減るのではないでしょうか。
発達障害者の言動はどうしても誤解を生みやすいものですが、彼らの苦手なことや必要としているサポートを知ることで、スムーズな意思疎通の可能性が大きく広がります。
できるだけお互いのストレスを減らして円滑なコミュニケーションをとっていくために、発達障害の特性や、彼らとうまく付き合っていくためのコツを紹介します。
発達障害者はコミュニケーションが苦手
発達障害者が社会の中でもっとも苦手としているのが、人とのコミュニケーションです。
社会に出て自立した大人としてやっていくには、人との関わりが欠かせません。
しかし、発達障害者は社会生活のベースとなるコミュケーション力が著しく低いため、周囲になじめずに孤立してしまう傾向があります。
なぜコミュニケーションが苦手なのか?
それは、発達障害者の持つ、以下のような特性のためです。
- 暗黙の了解が分からない
- 他者への関心が薄い
- その場の空気を読むのが苦手
- 相手との距離感がうまくつかめない
- 人の気持ちを察することが苦手
- 特定の物事に強いこだわりがあり融通が利かない
発達障害者はこうした特性により、その場にそぐわない行動をしてしまったり、人を不快にさせることを言ってしまったりして、他者と良好な人間関係が築けないケースが多くあります。
また、変化に対応するのが苦手で臨機応変な行動がとれない、人に合わせるのが苦手なため集団行動ができないなどといった面も。
これらはすべて発達障害の特性が原因であり、本人の性格や努力不足のせいではありません。
発達障害者の多くは、こうした特性により子どもの頃から集団の中で孤立してしまうことが多く、深いトラウマになっていることもあります。
発達障害者とスムーズに付き合うためには、これらの特性をよく心得ておくことが大切です。
発達障害者の特性を理解しよう
大人の発達障害は、大きく分けて「自閉症スペクトラム」と「ADHD」の2つ。
よく聞く「アスペルガー症候群」は自閉症スペクトラムの一種です。
一般的に、自閉症スペクトラムはコミュニケーションの障害、一方、ADHDは不注意、衝動性、多動性の障害と言われています。
自閉症スペクトラムもADHDも、彼らは一見して障害者とわかるような外見をしていないため、このような特性が表に現れると周囲の風当たりは強くなる傾向にあります。
健常者にとってはできて当たり前のことができない彼らに対し、「常識がない」、「努力が足りない」、「甘えている」などと腹立ちを露わにする人もいるでしょう。
ですが、発達障害の特性は治療や教育で治せるものではありません。
本人にも悪気はないため、自分のどこがいけないのかがわからず、悩みをいっそう深くしてしまう人もいます。
そのため、最初から彼らの特性を前提とした接し方を職場全体で考えていくことがベストでしょう。
自閉症スペクトラムの特性とは?
自閉症スペクトラムは「社会性の障害」や「コミュニケーションの障害」と呼ばれ、主に対人関係に問題を抱えています。
自閉症スペクトラムの人は、他者とのコミュニケーションに必要な対人スキルが十分に身についていません。
そのため、相手に違和感を与えたり、失礼なことを言ってしまったりして、人間関係のトラブルを起こしやすくなります。
コミュニケーションが困難
自閉症スペクトラムによくある特性は以下のとおり。
- 社会人としてのマナーや暗黙のルールがわからない
- 人の気持ちに無頓着
- 人に合わせて行動することが苦手
- 冗談や皮肉を言葉どおりに受け取ってしまう
- TPOに合わせた振る舞いができない
- 相手との適切な距離感がつかめない
自閉症スペクトラムの人は、相手との意思の疎通や気持ちを共有し合うことが困難であり、健常者同士ならあえて言葉にしなくても通じる「あうんの呼吸」のような曖昧な表現は理解することができません。
そのため、おせじや皮肉が通じず軽い冗談も本気で受け取ってしまい、誤解が生じてしまうことも。
また、自分の考えや気持ちを人に伝えることが苦手なため、必要なことが周囲に伝わらず、さらに困った事態を招いてしまい精神的に窮地に追い込まれることも少なくありません。
このように、人との会話がなかなか成立しづらいため、次第に周囲から敬遠されるようになり、人付き合いに消極的になっていってしまうのです。
強いこだわりがある
もうひとつ、自閉症スペクトラムの人の大きな特徴は「想像力の欠如」です。
ここでいう「想像力」とは、物事を相手の立場になって考えることや、これから起こることを予測する能力のこと。
ようするに、自閉症スペクトラムの人は決まりごとの範囲内であればペースを乱すことはありませんが、いざ想定外の出来事が起こると急に強い不安に襲われ、うまく対応することができません。
具体的には以下のようなことです。
- 物事が予定通りに進まないとひどく動揺する
- その場に合わせた臨機応変な行動がとれない
- 変化に対し気持ちを切り替えることができない
- 物事のルールや決まったルーティーンにこだわる
彼らは変化に対して強い恐れを抱き、思わぬ出来事が起こるとどうしていいのかわからなくなりパニックに陥ってしまいます。
頑なにルールを守ろうとするのは、その不安の裏返しとも言えます。
自閉症スペクトラムのこうした特性は、周囲にはどうしても我がままに見えてしまうため、もめ事やいざこざに発展してしまうケースもあるでしょう。
一方で、自閉症スペクトラムの人は、自分の興味のある分野では非常に高い集中力を発揮して優れた業績を残す人もいます。
しかし、興味のあるなしでパフォーマンスの質が大きく変わってくるため、まずは彼らが実力を発揮できる仕事を見極めるのがポイントです。
ADHDの特性とは?
ADHDの主な特性は、「不注意」、「多動性」、「衝動性」の3つ。
- 不注意……集中できない、忘れっぽい
- 多動性……落ち着きがない、ひとつのことに集中できない
- 衝動性……咄嗟の思いつきで行動する、カッとなりやすい
ADHDの人は社会性には問題がないとされていますが、このような特性のために周囲の人には「不真面目」や「自分勝手」などと思われてしまい、自閉症スペクトラムと同様に対人関係をうまく築けないケースが多いです。
仕事上のトラブルに発展しやすい
職場で問題になりがちなADHDの特性を挙げてみます。
- ミスをしやすい
- 集中力を保てない
- 忘れっぽい
- 整理が苦手
- 仕事の指示を理解しにくい
- スケジュール管理が苦手
- 衝動的な言動をとってしまう
これらは、仕事をする上でトラブルになるようなことばかりですね。
いくら特性とは言え、このようなことが頻繁に起こっていては、とてもまともな仕事などできないでしょう。
そのため、ADHDの人に対しては、常に先回りしてこうした問題を未然に防ぐようなサポートが必要です。
不注意による失敗が多い
ADHDの人は注意力が散漫になりやすく、いつもソワソワとして落ち着きがありません。
その場の思いつきで突発的な行動を取ることも多く、周囲の人を驚かせてしまうことも。
また対人関係でも、人の話を聞いていなかったり、人が話している最中に割り込んでしまったりするので、周囲から煙たがられてしまうこともよくあります。
仕事面では、遅刻する、指示を忘れる、失くしものが多い、仕事をスケジュール通りに進められない、整理整頓ができないなど、社会人としては致命的とも言える問題を抱えています。
このような特性があるとどうしても失敗体験ばかりが積み重なり、周囲から低く評価されることが増えるので、本人は自己肯定感を持ちづらくなります。
そのため、自信をなくしてしまったり人間不信に陥ったりして、さらに人間関係を悪化させてしまうことも。
でも、こうしたADHDの特性も、周囲の働きかけによって改善できることはたくさんあります。
ADHDの人が自信を持って前向きに仕事に取り組むためには、周囲からのサポートが不可欠。
では、一体どのようにサポートしていけばいいのか、具体的な対処法を見ていきましょう。
発達障害者の対応に困った時の対処法6つ
発達障害者の特性により、職場で起こりやすいトラブルとその対処法を紹介します。
ミスが多くて周りに迷惑がかかる
ADHDの場合
ADHDの人は、気が散りやすくケアレスミスが多くなります。
さまざまな刺激に過敏に反応してしまうため、腰を据えてひとつの仕事にじっくり向き合うことが苦手なのです。
注意力が必要な仕事、長時間のデスクワーク、単調な作業などはADHDの人には不向きなことが多いです。
また、指示されたことを理解しないまま思い込みで作業してしまう、自分が良いと思った方法で進めてしまうなどの特徴があり、後で取り返しのつかない事態に陥ってしまうことも。
自閉症スペクトラムの場合
自閉症スペクトラムの人は、仕事のプロセスをはっきりと明確に指示されないと、何をしていいのか分からず仕事の手が止まってしまいがちです。
具体的に細かく指示してもらわないと自分のやることがクリアにイメージできず、仕事がはかどりません。
【対処法】
両者に有効なのが、以下のような対策です。
- メモをしてもらう
- マニュアルを作成する
- 指示内容はできるだけ具体的に伝える
- 一緒にダブルチェックをする
- 特性に合った仕事を任せる
- 集中しやすい環境を作る
中でもメモやマニュアルは非常に役に立ちますので、ぜひ取り入れてもらいたい対策です。
また、彼らがイメージしやすいようにできるだけ具体的に説明することや、一度に多くの説明をしないといった工夫も効果的。
仕事内容がわからない時は必ず事前に質問してもらい、仕事に取り掛かる前に疑問を解決しておきましょう。
新しい作業に取り掛かるときや仕事のやり方が変更になった場合は、本人が黙っていても何か疑問に思う点はないか周囲から声掛けしてあげると良いですね。
仕事で成果を上げていくには、本人の適正に合った作業を任せるのが合理的。
適性を考えずに仕事を振ってしまうと、ミスが起こりやすくなって周りに迷惑がかかるうえに、本人も自信を喪失して仕事へのモチベーションが下がってしまいます。
発達障害者を見ていて「仕事が向いてなさそう」とか「ミスが多い」と感じたときは、職場の上司と相談して仕事内容の変更を検討してみましょう。
職場の環境は仕事のパフォーマンスに大きく影響しますので、発達障害者が集中して仕事に取り組めるような環境作りが必要です。
気が散りやすい人には、「デスク周りをパーテーションで区切る」「なるべく人の出入りの少ない場所へデスクを配置する」ことがオススメ。
また、仕事に関係ないものはできるだけ目に入る場所から排除しましょう。
指示された最低限のことしかやらない
自閉症スペクトラムの人は、指示された仕事が終わるとそのまま何もせずに次の指示を待っていることがあります。
健常者であれば、上司に次の仕事の指示を仰いだり、ほかの忙しい人を手伝ったりと機転を利かせた行動が自然にできますが、自閉症スペクトラムの人はそのような状況判断が苦手なため、いわゆる「指示待ち人間」になってしまいがちです。
本人は怠けているつもりも反抗しているつもりもないのですが、こうした融通の利かない態度は周囲にあまり良い印象を与えませんね。
しかし、自閉症スペクトラムの人は「状況を察して自ら行動する」ということができないため、ここは周囲のサポートが必要です。
【対処法】
発達障害者のこうした態度に、「こんなことも分からないのか!」と腹を立ててはいけません。
これらは発達障害の特性によるものであり、周囲はそのことを十分承知しておく必要があります。
彼らの手が止まっていたら、様子を見てフォローしてあげましょう。
次にやることが明確になれば彼らもすみやかに動くことができます。
常に目を光らせている必要はありませんが、本人の様子や仕事の進み具合を周囲の人が時々気にかけてあげるのが望ましいですね。
決められた納期を守れない
発達障害者は、スケジュール管理や時間配分を考えることが苦手です。
そのため、計画的に仕事を進めていくことができず納期に間に合わないといった事態に陥りやすくなります。
また自閉症スペクトラムの場合、急ぎの仕事を後回しにしてしまったり、まだ仕事が終わっていないのに定時になると上司の許可なく帰ってしまったりといったことも。
発達障害者は優先順位を付けて効率的に仕事をすることが困難なため、仕事のスケジュールはできるだけ周囲の人がサポートすると良いでしょう。
【対処法】
仕事の納期は、「○○日までに」、「○○時までに」と明確にはっきり伝えることが重要です。
また、納期の期日はメモにしていつでも目に入る場所に貼るなどの工夫をしましょう。
さらに、仕事内容やスケジュールをメモや表にして視覚化するのも有効です。
デスク周りの壁などに貼っておけば、仕事のスケジュールを把握しながら手元の作業に向かえるので、納期に間に合わないといった事態はだいぶ減らしていけますよ。
同時に、「納期は前倒しで設定する」、「時々仕事の進み具合をチェックする」など、職場全体でバックアップしていくのが理想です。
気を付けないといけないのは、発達障害者は変化にうまく対応できないという点。
コロコロと指示内容を変えることは避けるのが無難です。
どうしても仕事内容を変更せざるを得ない場合は、スケジュールに余裕を持って伝えるようにしましょう。
失礼なことを言うので不愉快
発達障害者は人の気持ちに鈍感なため、感じたままのことをそのまま口にして相手に不快感を与えてしまうことがあります。
また、目上の人を敬う姿勢が身についておらず、上司や先輩に対してミスを指摘したり、友達のようにフランクに接してしまったりします。
【対処法】
発達障害の特性は本人にもどうにもできない本質的なものではありますが、周囲の働きかけでノウハウを学べば、言動を改善していくことは可能です。
彼らの特性を理解し、広い心で接することはとても大切ですが、あまりに不快な言動が多く限度を超えている場合は、上司に相談して適切な指導をしてもらうことも必要です。
発達障害者だからといってすべてが許されるわけではなく、また周囲の人が必要以上に我慢を強いられることも避けなければなりません。
言ってよいことと悪いことの区別をつけることは社会人として非常に重要なことです。
また、集団の中でやっていくには、目上の人に対する礼儀も大切ですね。
上司とうまく連携をとりながら、時間をかけて少しずつ相手に対するマナーを理解してもらいましょう。
急に怒り出して暴言を吐く・物に当たる
ADHDの特性である「衝動性」により、感情のコントロールができずに突発的に乱暴な言葉を使ったり、怒りにまかせて周りに当たり散らしたりしてしまうことがあります。
すぐにカッとなって人や物に当たることが多いため、周囲の人は驚き、また理不尽な思いをすることもあるでしょう。
短気で怒りやすく、我慢がきかないので、周囲からは「わがまま」、「気分屋」、「自己中心的」と否定的な見方をされ、集団の中で孤立してしまうこともしばしばあります。
【対処法】
発達障害者は健常者のように理性で感情を抑えることが難しいため、このような乱暴な言動が見られたときに、真っ向から非難したり無理にやめさせようとするのは逆効果です。
周りの人があまり過剰に反応すると、さらに感情を刺激して症状がエスカレートしてしまう恐れがあります。
このような時は、暴言や乱暴な行動にはあえて反応せず、本人の気持ちが落ち着くまでそっとしておくのが最適です。
必要があれば怒りがおさまるまで別室など安全な場所へ移動してもらいましょう。
また、イライラしている様子が見受けられたら、外の空気を吸いに行く、コーヒーを飲んで休憩するなど、何か気分転換になるようなきっかけを作ってあげると良いでしょう。
そして、彼らの怒りの発端になった事柄について、改善策はないか上司と相談してみることも大切です。
どう接していいのか分からない
発達障害者の特性は、健常者から見るとかなり取っつきにくさを感じるかもしれません。
話しかけても期待した返事が返ってこない、頼んだことを忘れてしまう、失礼なことを言われたなど、健常者の感覚で接してしまうと戸惑うことばかりかと思います。
しかも、発達障害の特性の出方は人によって異なるので、発達障害について学んだことが、そのままあなたの職場の発達障害者にピッタリ当てはまるとは限りません。
職場の同僚として、目の前の発達障害者と一体どのように接していくのがベストなのでしょうか?
【対処法】
まずは、発達障害者本人がどんなサポートを必要としているのかを見極める必要があります。
本人と話し合いの場を持ち、何ができて何ができないのか、どんなことに困っているのか、具体的にどんなサポートを望んでいるのかを明確にしておきましょう。
そのうえで、彼らが精神的に安心して仕事に取り組めるよう、個々の特性に合わせた個別の支援を心がけてください。
とは言え、何でもかんでも手伝ってあげるのが良いわけではありません。
他者の支援がなくてもできる部分は、積極的に本人に任せていきましょう。
そうすることで、本人は仕事にやりがいを見出し、自分に自信が持てるようになります。
支援方法は、職場の関係者が一丸となって連携しながら行っていくのが望ましいです。
人によってサポートの仕方に差があると、本人は混乱してしまい仕事を覚えるのに時間がかかってしまうからです。
彼らが迷いなく仕事をこなすためには、仕事をルール化するのが早道。
とくに自閉症スペクトラムの人はルールに沿って仕事を黙々とこなしていくことが得意です。
苦手なことを克服させるより、本人の得意なことを伸ばしていく方が、お互いのストレスが和らぎ、職場でのミスやトラブルを減らしていくことにつながります。
まとめ
同僚として、発達障害者と共に働くためのヒントや工夫をお話してきました。
発達障害者と関わっていくためには、まずは本人が苦手なこと、困っていることを正しく知り、職場全体でフォローしていくことが大切です。
発達障害者の人は、特性に合った仕事であれば優れた能力を発揮する人も大勢います。
でもそれには職場の理解と協力が不可欠です。
発達障害者が安心して仕事に取り組めるようなサポートをすれば、職場全体の業務の効率化にもつながるでしょう。
この記事に書いてあることを、ぜひ明日からでも発達障害者との関わり合い方に生かしてほしいと思います。
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