自閉症スペクトラム(ASD)の特性を持つ子どもは対人関係で困難に直面することが多く、困りごとをたくさん抱えているため、それらに対する療育が重視されます。
療育に通うと、子どもが感じている不都合さや困難に対する対応策やアプローチの仕方がわかってきますが、ただ通えばいい、たくさん通えばいい、というわけではありません。
どんな施設にどう通うべきなのか、娘の経験を交えてご紹介します。
ぜひ参考にしてくださいね。
療育を受けられる施設
療育とは、子どもの発達の特性や凹凸を見極め、本人の苦手や困りごとを明らかにし、その対応策を見出したり、克服・緩和していくことです。
また、周囲の人達がどのようにサポートしていくとよいか学ぶ場でもあります。
療育施設は次のようなものがあります。
- 自治体が運営する療育施設
- 病院内や病院に併設された療育施設
- リハビリ施設(子ども向け)
- 民間企業が運営する療育施設
施設によって運営母体や形態が様々で、利用条件や費用、通える頻度、受けられる療育内容が異なります。
ただ、今は施設の数や指導できる専門家が不足していて、療育を希望する人の多さに対応仕切れていないのが現状です。
そのため、一度通い始めるとやめられないと思い込んでしまう人もいるようです。
しかし、少し行動範囲を広げてみると施設を見付けられるかもしれません。
小学一年生で自閉症スペクトラムと診断された筆者の娘は、現在は近隣の市町村の施設まで足を伸ばして複数の療育施設に通っていますが、現在通っている施設が見つかるまでは様々な施設に赴き、また通うことをやめた施設もありました。
「通っている施設以外にも選択肢がある」と思っていると、気持ちが楽になりますよ。
自治体が運営する療育施設
自治体には必ずといっていいほど療育施設があり、発達支援センターや保健センターといった名前が付いています。
乳幼児健診などで施設を利用したことがある人もいらっしゃるかもしれませんし、自治体の施設は身近な存在なので、「発達に不安を感じたらとりあえず発達センターへ」というイメージを持つ人もいらっしゃるかもしれませんね。
娘は二歳の時にお試しで週一回(三ヶ月間)自治体の施設内にある療育に通いましたが、内容が合わず、娘が通うことを嫌がったこと、また、本格的に通うのであれば母子同伴で月~金の午前中に通う(弟や妹の同伴不可)という条件だったため、仕事をしていた私には通えない施設でした。
このように、自分には合わないと感じる場合もあります。
ただ、三ヶ月間の体験は無料でしたし、日時が限定されますが、発達検査や相談は無料で受けられるというメリットがありました。
自治体が運営している施設は、費用が安価という大きな魅力があります。
また、就学のことを考えると、自治体の療育施設と繋がりを持っているほうが後々、サポートや相談面でメリットを感じることがありますよ。
病院内にあるリハビリ施設
病院内に療育施設があるケースもあります。
特に作業療法士や理学療法士、言語聴覚士による療育は、リハビリ施設を持つ病院でよくみられます。
病院によっては小児神経医がいて、診断や助言を受けながら専門家の療育を受けられるため、質の高い療育が期待できます。
娘はリハビリ施設を持つ病院で、四歳から言語聴覚士による言語聴覚療法を受けています。
小児神経医が常駐するようになったので、診断や検査も同じ場所で受けて療育に活かしてくれるようになり、本当に助かっています。
医師による問診・診察を受けてから言語聴覚士とマンツーマンで療育を受けるため、費用は健康保険が適用され、負担も軽く済みます。
ただ、病院内の療育施設は非常に人気があるため、私たちは通うことを希望してから新規申し込みまで半年以上待ち(新規申込は年2度ほど不定期に受け付けられていました)また、申し込みから初診まで約半年掛かりました。
初診も医師の診断書や紹介状がある子どもが優先される傾向にあり、紹介状などがない場合はなかなか診察に至らないケースがあるようです。
初診が終わり、療育担当者が決まっても予約を取ることが大変で、多くても月二回程度、月三回通えたら奇跡!というくらいです。
また、リハビリ系の療育の場合、病院が開いている時間帯に療育が実施されています。
平日の午前中なら予約を取りやすい傾向が見られるので、就学前にしっかり通うことがお勧めです。
民間企業が運営する施設
これはいわゆる塾のようなタイプや、家庭教師タイプのものがあります。
娘が通う塾は、マンツーマン(もしくは先生一人に対して生徒二人)の学習指導と、少人数のグループで実施するソーシャルスキルトレーニングのコースがあります。
また、高校受験(普通の高校や特別支援学校の受験)対策もしています。
週一回(一回一時間)の療育で、月二万円ほど費用がかかります。
子どもが通う塾にしては費用が高いのですが、学習指導・ソーシャルスキルトレーニング・臨床心理士による発達検査・高校受験・就活対策など、長い期間通うことのできる塾が多いことが特徴です。
静かな個室でマンツーマンの指導でなければ学習が進まない、聴覚が敏感で他に人が居ると作業に集中できない、というような子どもはもちろん、学習を先取りして、できるところをどんどん伸ばしていきたい、という子にお勧めです。
親としても、進学や就職といった先々のことを相談できる上、長く通って社会人になった生徒さんの生の体験談を聞くことや保護者と交流もできるため、貴重な情報収集の場として心強い施設です。
私自身は、娘が不登校になった時の逃げ場としても考えています。
幼稚園や保育園も療育施設になる
療育というと、特別な施設に通わなければならないと思いがちですが、幼稚園や保育園も療育の場として活用できます。
特に、規模が小さく、園長先生や保育士さんなどの理解が得られる園であれば、幼稚園や保育園をソーシャルスキルトレーニングの場として考えることもできます。
また、園で行うハサミや折り紙などを使った製作は作業療法に通じるところがありますし、歌ったり踊ったりするお遊戯も模倣や学習の一環です。
幼稚園や保育園は様々なスキルを学べるところなので、子どもに合った丁寧な指導を受けることができればじゅうぶんな療育になります。
実際の社会では、子どもは子ども同士の関わり合いの中で経験を積んでいきます。
一緒に遊ぶ楽しさはもちろん、お互いを思いやる気持ちを育んだり、ケンカ・トラブルの解決策を考えることも貴重な経験です。
発達に遅れや障害があると、子ども同士だけで解決できないことが多くありますから大人の手が欠かせませんが、そこに問題がないようであれば発達に遅れのない子ども達と一緒に過ごすことが療育に繋がっていきます。
ただし、下記のことに注意が必要です。
- 園や保育士さんの理解と協力が欠かせない。
- 発達に遅れや障害がある子どもに対する接し方を知っている指導者も必要。
- 子ども自身、一定以上の知能が不可欠。
子どもの発達の度合いによっては、そもそも集団行動が難しいこともあり、その場合は幼稚園や保育園を療育施設として活用するのは難しいでしょう。
特に他害のあるお子さんや医療的なケアが必要なお子さんは大人の手が必須となるため、事前に園と相談し、綿密なサポート体制を整えておきましょう。
療育の目的を決めよう
療育は、ただ通えばいい、というものではありません。
「療育に通う目的」を持つことが重要です。
まず、子どもがどんなことに困難を感じているのかをはっきりさせ、その点に対するサポートをどの施設で受けるか考えましょう。
療育の目的がはっきりすれば、どこの療育施設が合っているか判断しやすくなりますよ。
筆者の娘(自閉症スペクトラム)は、言葉の遅れとコミュニケーション能力の低さが目立つため、この二点のケアのために、言語聴覚療法とソーシャルスキルトレーニングを別々の施設で受けています(ひとつの施設で全てのケアが受けられればいいのですが、難しいため二箇所の施設に通っています)。
療育に通う頻度は子どもに合わせよう
療育に通う頻度は高ければ高いほどいい、というわけではありません。
特に、幼稚園や保育園に通っている子どもは、それにプラスアルファで療育施設に通うことになります。
私の娘は月~金に小規模保育の保育園に通い、言語聴覚療法(月二回)と、ソーシャルスキルトレーニング(週一回)に通っていました。
療育施設だけなら頻度は少ないのですが、保育園をカウントするとなかなかハードです。
また、小学生になってからは、平日は学校、ふたつの習い事、言語聴覚療法(月二回)、ソーシャルスキルトレーニング&学習指導(週一回)という頻度です。
自閉症スペクトラムなので、外に出て人と接する機会を増やし、対人関係を学んでくれればいいなと思いますが、学校も習い事も療育も全て人と接する場。
療育自体は少なくても、全体を見るとハードな生活を送っています。
そのため、疲れることはないかしっかりと確認するようにしています。
子どもの休む時間の確保も重要です。
療育疲れに注意
療育は「通うといい」と言われるものの、通ったからといってすぐに目に見える効果がでるものではありません。
また、療育に通うことで「できないこと」「苦手なこと」がよく見えるようにもなります。
療育に通っているのにほとんど成長していないように見えたり、できないことが増えるばかりだと感じたりすることもある上、施設が遠方な場合や指導者と親が合わないなど、親のほうが通うことに疲れや負担を感じることもあります。
こうした「療育疲れ」に陥ってしまっては本末転倒です。
子ども・親、両方にとって負担が大きすぎない療育方法・施設を選びましょう。
家庭でできる療育
意外かもしれませんが、療育は家庭で行うこともできます。
むしろ、家庭で療育を行わなければ、いくら評判のよい療育施設に通っても意味がないのです。
学校で習ったこと、塾で習ったことは家に帰ってから復習して頭に定着させますよね。
療育も同じです。
療育施設で習ったことを家庭で毎日実践し定着させる、この作業は欠かせません。
どんなことを家庭で行えばいいのか、またやり方も療育の指導者に教わるとよいですよ。
自閉症スペクトラムと診断された娘は、通い始めた時は【動詞】が頭の中に入っていなかったため、自宅ではイラストカードを使ったり、実際に体を動かしたりして「動詞」を覚えるようにしていました。
また、「どんな花(黄色い花)(小さい花)(いい匂いがする花)」という説明も苦手なため、文の作り方や、どこに着目して説明するとよいのか、という練習もしました。
私たちは知識の穴を指導者と一緒に見付け、ひとつずつ埋めていく作業を繰り返しています。
療育施設で指導を受けられる時間は限られているため、療育施設だけに頼ることはできません。
自宅で繰り返し実践し、確実に身に付けるようにしていきます。
発達に遅れや障害がある場合は、ひとつのスキルを習得するまで長い時間が必要なことがよくあります。
家庭療育も欠かせない療育なのです。
まとめ
療育は子どもが感じている不便さや不都合さを解決する方法を探し出したり、克服するためのものです。
療育を受けられる施設は色々ありますが、幼稚園や保育園もソーシャルスキルトレーニングなどの場として活用できます。
どんな療育を受けたいのか、目的を持って施設を選び、子どもの成長や特性に合わせて通う頻度を調節しましょう。
不都合さを減らすために通う療育なのに、通うこと自体に負担を感じるようになっては意味がありません。
家庭での復習も重視しながら、子どもに合った療育を受けるようにしましょう。
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