昨年(2018年)末、NHKで”発達障害って何だろう”というキャンペーンで、発達障害についての番組が多く放送されていました。
発達障害を多くの人に知ってもらえる良いきっかけになったのではないかと思います。
しかし、発達障害をこの番組だけで知った人たちからみたら、特別秀でた才能を持たず、社会に馴染もうと必死に暮らしている発達障害者たちのことを理解してもらうのは難しいのではないかということが気になりました。
また、発達障害児を育てる親御さんが「うちの子たちもこの人たちのようになれるはず」と過大な期待をお子さんにかけてしまわないかという心配もわきました。
まだまだ正しい認識の薄い発達障害について、どうしたら正しく理解が進んでいくのかを考え、親御さんたちが、ご自身のお子さんについてどう理解していけばよいのかをお話しします。
テレビ番組で発達障害を公表した著名人
発達障害については、これまでにも複数の番組で取り上げられてきています。
その中で、ご自身の発達障害を公表してお話をしてくれた著名人が複数おられます。
下記に数名、ご紹介します。
📌栗原類さん~NHKあさイチ「どう向き合う? 夫の発達障害」(2015年)
この回は「夫の発達障害」についての放送内容だったのですが、ゲストとして登場した栗原類さんがご自身の注意欠陥障害(ADD)を告白したことが大変話題になりました。
番組放送後、他の番組やネットニュースなどでもこのことが報じられるなど、多くの反響がありました。
この告白は発達障害の存在を広く示す結果になったのではないかと感じました。
栗原類オフィシャルブログ:https://ameblo.jp/louiskurihara-ege/entry-12031046422.html
📌小島慶子さん~NHK発達障害って何だろうスペシャル(2018年)
様々な時間帯の番組で様々な角度から、当事者さんの生活や子ども時代にスポットを当て、どのようなことで困っているのか、どのような方法で乗り越えているのかなどを紹介する発達障害特集で、ご自身のADHD(注意欠如・多動症)を告白、その困難を公表。
ADHDの特性から感じている困難や、日々の生活の様子から、テレビで見ていた姿からだけでは想像のつかない生活に驚きました。
📌柳家 花緑さん~NHK発達障害って何だろうスペシャル(2018年)
落語家というお仕事をするためには、たくさんのお話を覚える必要がありますが、LD(学習障害)をお持ちのため、子どもの頃は学習面で苦労されていたようです。
また、覚えるための工夫をなさっていることが紹介されました。
「失敗が怖い」という特性を持つ発達障害児と生活していると、本人が苦手なことは避けてしまいがち。
しかし、苦手な読字障害を乗り越えてでも落語家になりたいと思って努力された柳家花緑さんのことを知って、我が子がどんなに苦手なことをやりたいと言い出しても「無理でしょう」と諦めさせるのではなく、本人が取り組みたいと思ったことは本人が納得するまで付き合おうと決意しました。
📌沖田X華(ばっか)さん~NHK発達障害って何だろうスペシャル(2018年)
小学生の頃にLD(学習障害)、ADHD(注意欠如・多動症)、中学生の頃にASD(自閉症スペクトラム)と診断を受けたという沖田さん。
『透明なゆりかご』という漫画の作家さんと言えば、ピンとくる人も多いのではないでしょうか。
『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』という作品でも、発達障害があることによる生きにくさ、やらかしてしまったことなどを公表されています。
著名人の告白が与える影響
著名人がパーソナルな問題である発達障害を公表し、その苦労をメディアを通して伝えてくれることで、発達障害者が身近にいない人々にも発達障害に関する色々なことを知ってもらえるきっかけになります。
しかし、発達障害児を育てる親として、著名人の発達障害が有名になり、今回の番組のようにできないことや努力している点などが広まることで、次から述べることを少し不安に思っています。
発達障害があってもやればできるんじゃないの?という誤解
発達障害の特性を持っていても、大きく羽ばたき活躍している著名人自身が発達障害について発信してくれることが、発達障害を全く知らない人のすべての情報源になるとしたら、
- 著名人は障害特性を乗り越えて活躍しているのだから、他の発達障害者たちも同じようにやればできるのではないか?
- やればできるのに、やらないだけなのではないか?
このような誤解が生まれてしまうことも容易に想像できます。
診断名だけで、同じだと決めつけられてしまう
同じ診断名なら「この人はこのやり方でできたというのだから、そのやり方をすればあなたもできるようになるんでしょう?」という意見が出てくることでしょう。
⚡懸念される誤解
- ADHDでもアナウンサーになれる
- LDがあっても、噺家になれるほどお話を覚えて人に訴えかける話し方ができるようになる
- 自閉症スペクトラムがあってもプロ漫画家になれる
「みんな、大人になって立派なお仕事をしていて、自分で生活していけている。だから、あなたも発達障害があるけど自立して生活していくことができるよね」
「この人たちだって、小さい頃にはサポートなんかなかったけれど、大人になって生活できているんだから、あなただってやればできるよね」
上記のような乱暴な意見が出てきかねないのです。
💡「同じ診断名でも同じではない」という問題を考えるために、たとえば”運動が苦手で、縄跳びが怖い3年生の子”が、二重飛びができないことについて考えてみます。
- 同じクラスの○○さんは縄跳びが大好きで、練習が楽しくて1週間でできるようになった
- 運動が得意なお兄ちゃんは、3年生の時には二重飛びを連続して飛べていた
同じ年齢という条件以外は全く違う他の誰かと比べて、「だからあなたにもできるはず」というのは、乱暴な意見だということが伝わるでしょうか。
発達障害もそれと同じで、同じ診断名がついているからといって「同じ診断名だからあなたにもできるはず」ではないのです。
同じやり方がみんなに通用するわけではないということを理解してもらうことが大切です。
発達障害って何だろうスペシャルの番組中でも言われていた「”出来ること”と”出来ないこと”の間に”出来るけどとても疲れる”がある」ということを、本当の意味で理解してもらえたら幸いです。
また、逆に優しさや間違った配慮から「テレビでこういうことが苦手だって見たよ、だからあなたもこれは苦手なんだろうからやらなくていいよ」と、チャレンジする前から排除されてしまう可能性もあります。
障害名でくくることの危険性
これは、NHKの「バリバラ」が日本テレビの24時間テレビの裏番組として生放送し、障害者が「感動の押し付け、感動するために利用されている」と訴える内容の番組を放送したことにも通じる問題になります。
日本テレビの24時間テレビでは、様々な身体障害がある人がその障害を乗り越えるような事に、プロのサポートを受けながら練習、そしてチャレンジをして成功する姿が感動的に放送されます。
もちろん、そういった取り組みはとても素晴らしいことです。
なぜなら、チャレンジするためには、努力はもちろんですが、まず”チャレンジしようとする勇気”が必要だろうということがわかるからです。
しかし、この番組だけで障害に触れる人からみると、一番重要な”チャレンジしようとする勇気”を持てるまでの段階が必要なことがわからないままになってしまいます。
「障害があるのにこれだけ頑張っている人がいる」「障害者もこんなに頑張れる」ことだけが広まった場合、”チャレンジしようとする勇気”を持てる段階に至っていない障害者が、「努力していない」と言われてしまうような、乱暴な意見もあるのです。
発達障害について広まるにつれて、これに似たことが起こってしまうのではないかということを筆者は危惧しています。
違う意見を知ることが、発達障害の理解につながる
「甘やかしなのではないか」「できるけどやっていないだけではないか」などの意見が出てくるのは当たり前のことです。
むしろ私は、違う考え、違う感覚を持つ人がいることを認めてほしいと、発達障害についての認識が広がってほしいと思って活動しているのですから、その意見を間違っていると否定して抑え込むための行動に出るのはお門違いだと感じています。
違う意見を持つ人がどうしてそう感じているのかを知り、どのような情報をどのように発信していけばそのような誤解を解くことができるのかを考えて活動していけば、発達障害についての誤解も自然と減っていくのではないかと考えています。
一般的な発達障害について紹介している番組
一方で、同じNHKの発達障害って何だろうスペシャルに関連して始まった番組で、大変よかったと感じた番組もあります。
いわゆる”普通”の発達障害について描かれているところが大変印象深く、こんな番組を待っていた!と感じました。
その番組について、ご紹介していきます。
📌u&i〔小学校全学年〕NHKforSchool
多様性について大変わかりやすく解説し、誤解を解いてくれる番組です。
発達障害だけでなく、アレルギーや障害を持つ人と出会った時にどうしたらよいかなどについて、ありがちな誤解をもとに、その誤解をうまく解いてくれるつくりになっています。
”自分と相手との違いを知る”ことで、理解することができるようになるのです。
NHKforSchoolで、全部のお話を見ることができます。
自分の子どもを理解するためにも、子どもたちがクラスメイトを理解するためにも、この番組は役に立つのではないかと感じました。
📌ふつうってなんだろう?NHKforSchool
ホームページではu&iの中に紹介されていますが、別時間帯で放送されています。
こちらもNHKforSchoolで、全部のお話を見ることができます。
この番組では、5人の人が、わかっているけど「どうにもならないふつう」を紹介してくれています。
発達障害者の”ふつう”と、健常者の感じる”ふつう”には大きな違いがあります。
お互いが、自分の”ふつう”が正しくて、他方は間違っていると押し付け合っていたら、いつまでも相互理解ができないままになってしまいます。
発達障害者の行動や考えを理解できない健常者が多いように、発達障害者は健常者の行動や考えを理解できません。
お互いの”ふつう”が違うから、お互いにうまく折り合いをつけていかなくてはいけないのです。
そのためにも、自分とは違う”ふつう”を持つ人がいることを知るためにこの番組はとても優れていると感じます。
自分の子どもの発達障害との向き合い方
いつも一緒にいる自分の子どもの発達障害について、どのように向き合っていったらよいのかを知るために、テレビ番組やインターネットでの情報を頼りにすることもあります。
しかしその際には注意することがあります。
サポート方法は一つだけではないことを知る
番組を見ると、こうしたらうまくいったという方法や、これだけはできなかったという点などが紹介されていることが多いですよね。
「同じ診断名だから、うちの子にもこの方法が合っているはず!」または「この子にはこれはできないんだろう」という思い込みがあると、子どもも親もつらい思いをしてしまいます。
同じ診断名がついていたとしても、得意や苦手は様々。
そのため、一つの問題行動について、いくつかのサポート方法を知ることがうまくいくコツにもなります。
一つのやり方だけに傾倒してしまうと、それをうまくできない我が子はやる気がないのだという誤解につながってしまいます。
「この方法はうちの子には向いていなかったのだな」と次の方法を探すことをお勧めします。
子どもの特徴を詳しく知る
例えば、同じADHD、同じ自閉症スペクトラムの診断を受けている私の息子たちですが、一方は本を読んで知識を得ることが大変得意ですが、一方は文字を読むのが大変苦手です。
同年代での語彙力の差が気になっていましたが、小学校高学年になってから、学習障害もあるということが検査で分かったのです。
診断名だけで分けてしまうと、この二人には同じ方法が当てはまるように感じてしまいますが、詳しく見ていくと全く違った特徴を持つ二人です。
このように、同じ診断名の中にも大きな差があるのです。
💡発達検査を受けるとわかることがある
発達障害、特に自閉症スペクトラムは診断範囲が大変広い障害です。
それぞれの得意や苦手をしっかり知るためには、医療機関や相談機関での発達検査が必要です。
発達検査はいくつかの種類があり、年齢や実施機関によって受けられるものが変わってきますが、子ども自身の本質的なことを知るためにはぜひ診断を受けた病院で発達検査を受けることをお勧めします。
検査は長時間かかるものが多く、子どもにも負担があるものです。
また、子どもの調子が良いときと悪いときとでは検査に取り組む姿勢も変わってしまいますから、なかなかうまく検査ができないこともあります。
しかし、我が子たちの検査結果を説明してもらうと「あぁ、そのせいだったんだ」と腑に落ちることがいくつもあります。
子どもを深く知ることで納得することができれば、「何でできないのだろう」「なんでうまくいかないのだろう」とイライラすることも減っていきますよ。
まとめ
私の長男に発達障害の診断がついたのは、今に比べて情報がとても少ない時代でした。
本やテレビで得られる数少ない方法を試しては、自分の子どもには向いていないやり方なのに、うまくいかなかった、と落ち込むこともありました。
現在は、発達障害についてたくさんの情報があふれています。
それらは誰かにとってはうまくいく方法かもしれませんが、全員にとってうまくいく方法ではないということを、心にとめておいていただけたら、発達障害の理解につながっていくのではないかと思います。
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