発達障害児がなかなか手放せない特性のひとつに、『こだわり』が挙げられます。
こだわりがあるために、周りや子ども自身が困ってしまうことも起こり得ます。
「できれば、理解に苦しむようなこだわりをなくしてくれたら……」と思うことも、親御さんならありますよね。
また、好きなものについてのこだわりは、本人の強みとなって余暇時間を豊かなものにすることにもつながりますが、強すぎると困ることがありますね。
しかし、こだわりを持っているからこそ、子どもが安心することができたり、自分自身を保つことができたりするものなので、一方的に否定するのではなく、こだわりとどのようにつき合って行けばよいのか、一緒に考えていくことが大事です。
今回は、私の二人の息子たちのこだわり、好きなものと、それに対する本人や周りの対応などをお話しします。
お子さんのこだわりへの対応の参考にしていただけると嬉しいです。
我が家の子どもたち
私のふたりの息子たちは、それぞれに小学校一年生の時に発達障害の診断を受けました。
中学生の長男はアスペルガー症候群とADHD、好きなものは車から始まり、現在は乗り物全般。
小学生の次男は、広汎性発達障害とADHD、好きなものは道路にある標識や踏切(電車や車についてはそれほど好きではない……と、少し変わった趣味です)。
ふたりとも、物心ついたころから現在までずっと、それらの好きなものが変わることはありませんでした。
こだわりもそれぞれにいくつかありますが、子どもがパニックを起こしてしまったことをきっかけに、私は子どもたちの『こだわり』に気付いたのです。
一緒にいる親でもわからないようなことで泣きだしたり怒りだしたりすることが、『こだわり』によるものだということに気が付くのには、少し時間がかかりました。
発達障害のある我が子の『こだわり』と私のとった対応
子どもたちの好きなものや、気になることを紹介しながら、本人がどのように『こだわり』を見せていたのか、私がどのように対応したのかをご紹介します。
ミニカーのタイヤが好き
長男は2歳の頃から、ミニカーを手で押して、走らせて遊ぶのが好きでした。
リビングの座卓の前に座って、目の前でミニカーを動かして遊んでいました。
毎日同じ遊びをしているので車が好きなのだなと思って見ていたのですが、突然怒ってパニック泣きになることがよくありました。
後ろでずっと見ていても、私には何がイヤで泣きだしたのかわかりませんでした。
原因:回らないことにパニック
「眠くてぐずっているとか何か原因はあるはず」と何日か観察してみたところ、どうやら、長男が動かしていたのはミニカーでは無く、ミニカーのタイヤだったことが解りました。
私から見たらミニカーを動かして遊んでいるのですが、本人はミニカーのタイヤが回るのが楽しくて、それを眺めるために目の前でミニカーを動かしていたのです。
そして、テーブルのツルツルした部分や、ミニカーの押し付け具合によってはタイヤが回らないことがあり、それに対して怒っていることが解りました。
私にとっては全く意味が分からない理由でしたが、長男にとってはパニックを起こすほどのこだわりだったのでしょう。
対応
ミニカーのタイヤがプラスチック製のため、ツルツルしている面やフワフワしている座布団などの上ではうまく転がすことができずパニックになることが解りました。
その頃の長男は言葉が少し遅かったため、自分の思いをうまく言葉にして教えてくれることができませんでした。
そこで私は「タイヤ回らないね、回らないのがいやなんだね」と長男が思っているであろう言葉をかけてあげることにしました。
そして「この場所では回らないね、こっちなら回るかな」と誘導してみました。
本人はその場所で回したい!というこだわりがあるため受け入れてくれないこともありましたが、それでうまくいくときもありました。
繰り返し伝えるうちに、長男がどの場所では回らないのかを覚えたこともあり、パニック泣きになることは少なくなりました。
このように、本人の気持ちに共感する言葉をかけながら様子を見つつうまく誘導してあげると、パニックを起こすことなく、好きなことを楽しめるようになりますよ。
流れる水が好き
次男は歩けるようになる前から、流れる水が好きでした。
温泉施設に連れて行ったり、プール遊びをしたりしているときにも、排水溝に流れていく水を眺めたり触ったりするのが好きでした。
田んぼに水を運ぶ用水路も大好きです。
困ったこと(1):水を勝手に出して遊んでしまう
庭に出て遊んでいるときに、花に水をやるのを見ていて水の出し方を覚えたようで、一人で庭に出て、水道の水を出して水たまりを作って遊んでしまったりすることがありました。
困ったこと(2):冬でも水遊びしてしまう
眺める水が好きすぎて、冬でも噴水に近づきすぎてびしょぬれになってしまったり、公園の水道で手を洗うつもりが水遊びになってしまったりと、季節を問わずに水遊びをしてしまうことがありました。
困ったこと(3):田んぼに流れる水が見たくて動かなくなる
春に散歩に出ると、田んぼに水を張るために用水路には勢いよく水が流れていました。
水を眺めるのが好きな次男にとって、勢いよく流れる水を眺めることは楽しくて仕方ないものでした。
そのため、散歩しているつもりが、ずっと一か所で勢いよく流れる水を眺めるだけになったり、なかなか帰れなくなってしまったりということがよくありました。
対応
流れる水には命にかかわる危険性があります。
用水路に転落したりしては大変です。
好きなものを見たい、触りたいと思う気持ちを止めることは小さな子どもには難しく、楽しく眺めているのをとがめることは心苦しいのですが、危険回避のために、小さい頃からずっと、田んぼの水を見に行きたいときにはお母さんやお父さんと一緒に行くこと、ひとりでは絶対に行かないことを言い聞かせていました。
散歩に出るときも「〇分になったら家に帰るよ」と出かける前に話をしてから家を出るようにしていました。
また、公園に出かけるときは季節問わず着替えを一式と、履き替えられる靴やサンダルも持っていくようにしていました。
着替えだけなら持っていたのですが、歩けるようになってからは目を離したすきに靴のまま水に入ってしまうことが多々あり、公園のあとの用事に支障が出ることもあったため、靴やサンダルも常備するようになりました。
楽しく遊んだあと困らないように、前もって親が取れる対策をするようにしていました。
危ないからと言って子どもが好きなこと・興味のあることを取り上げてしまうのではなく、声掛けと準備を怠らないように対策をしっかりと練り、じょうずに対応していけるとよいですね。
踏切が好き
次男は、乗り物にはさほど興味を示さなかったのですが、2歳頃からずっと踏切が好きでした。
踏切が光って音が鳴るのが好きなようで、車で出かけるときに踏切にひっかかると、窓をあけてほしいと言うようになりました。
踏切が光っている真似をしたり、音の真似をしてカンカンと言ったりして楽しんでいました。
踏切がならないとパニック
次男が小さい頃に住んでいたのが、私鉄が1時間に2本通る程度の地域だったため、出かけるときに必ず踏切がなるわけではありませんでした。
しかし、踏切を渡るためにいつも通り一時停止をするのに、何で踏切がならないのかが分からない次男は、鳴らない踏切に対して泣いて怒ってしまうようになりました。
「踏切は今は鳴らないんだよ」と話しても、もちろん納得できず、毎回鳴らない踏切に泣いてしまっていました。
対応
長男のタイヤのときと同じく、本人が「踏切がならないことがいやだ、つまらない」と感じていると思ったので、「踏切ならないね、つまらないね、帰りはなるかな?」と声をかけて通過するようにしました。
また、実家や友人の家などに行ったついでに、踏切をみるために散歩をしたり、踏切がある交通公園に出かけたりと、本人が満足できる方法を探しました。
小学生になってタブレットやパソコンを扱えるようになってからは、動画サイトで踏切の動画を見るのにもはまっていました。
わたしはそれまで、『車が好き』という子に会ったことはあっても『踏切が好き』という子どもに会ったことがなく、「踏切が好きなんて少し変わっているなぁ」と思っていました。
しかし、動画サイトで踏切を検索すると、とてもたくさんの動画が出てきたのです(それもひとりだけではなく、複数の人が動画をアップしていました)。
「こんなにたくさん踏切の動画をアップする人がいるのだから、この子が踏切を見たがるのも何もおかしいことではないのだろう」と、それまでは自分には理解できなかった『踏切好き』について肯定的に考えるようになりました。
また、動画見たさにキーボードの配列も覚え、ローマ字の獲得もとても早かったので、「好きなもののためなら頑張れるのだなぁ」と感心しているほどです。
踏切も命にかかわる危険のあるものですから、「必ず大人と見に行くこと」と言って聞かせることも忘れてはいけないことでした。
「少し変わった好みだな」と思っても、本人にとっては大切な趣味のひとつですから、注意点はしっかりと伝えるようにして、思う存分楽しませてあげられる方法を見つけるようにするとよいですね。
ルールのある遊びができない
子どもにとって、休み時間に外に出て遊べるのは楽しみのひとつでしょう。
鬼ごっこやかくれんぼなど、簡単なルールのある遊びをすることで色々と学べることもあるため、子どもにとって大事な時間ですよね。
そんな遊びの中で、我が家のふたりがなかなか楽しむことのできなかった遊びが、ドッヂボールとドロケイです。
ルールを理解するのが難しい
ドッヂボールはふたつのチームに分かれて、内野と外野があって、当てられた人は外野へ出て……と、基本的なルールは決まっていますが、その時々で外野の人が当てたら内野に戻れたり戻れなかったりと、ルールが少しあいまいなところもあります。
また、かくれんぼと鬼ごっこが合わさったようなドロケイも、細かいルールがありますよね。
つかまっている泥棒グループのメンバーは全員が逃げられるのか、タッチ出来た子だけが逃げられるのか……、そして、遊びということもあって、このルールを明確に説明してくれる大人はいないため、周りの雰囲気を見て察することが苦手な子どもたちには、このふたつの遊びのルールがしっかり理解できるまでは、休み時間に参加することもできず、つらい時間を過ごしていたようです。
対応
ドッヂボールのルールは私にもだいたいわかるものだったので、絵に書いて説明をしました。
コートのこちらとこちらに分かれて、ここが内野という場所、ここが外野という場所、そしてここにいる人にボールが当たると……と流れを説明しました。
それから、ドッヂボールは体育の授業中にもやるとのことだったので、先生にもルールを教えてもらうように話をしたのです。
また、ドロケイについては、地方ルールの大きい遊びなので、「チームに分かれてやる、鬼ごっことかくれんぼの混ざったような遊びだよ」と、ざっくり説明した上で「一緒に遊ぶ友達にルールを教えてもらえば?」と言ってみたところ、「友達に教えてもらったら分かった!おもしろかった!」と楽しそうに話してくれるようになりました。
空気が読めないと言われることのある発達障害児たちですから、遊びの中などに存在するみえないルールがあることに気づくことが難しいため、ルールを説明するときには口頭だけでは無く、明文化して伝えてあげるとよいですよ。
ルールを守らない人を受け入れることが難しい
黄色の信号で止まらない、タバコを車の窓から捨てる、ごみを公共の場所に捨てる……、世の中には交通ルールのように法律で定められているルールから、タバコやごみのようなモラルにまつわるマナーまで、様々なルールがありますね。
子育てをする上で、それらのルールを守れる子どもになってほしいと思い、色々な工夫をしながら子育てをしている親御さんは多いことでしょう。
私もそうです。
わが子たちには、信号やごみを持ち帰るなどのルール、マナーはきちんと教えてきましたため、ルールやマナーをしっかり守れる子に育ったのですが、外でそれらを守れない人を見た時に気になって仕方がないようで、怒りだしたり、注意したくなってしまったりするようでした。
対応
「あの人信号が黄色なのに渡り始めたよ!」「前の車の人、窓からタバコすてた!」という、我が子の意見はもっともなので、それを受け入れて、「そうだねぇ、よくないことだよね」と言うと、「お母さん、あの人を叱ってきてよ!」と言われてしまったのです。
確かにそれらの行為は許されない行動であり、それを理解している子どもたちはルールやマナーを守るように育ってくれました。
自分がしたときには私に叱られたこともあったでしょう。
しかし、他人の行いをいちいち注意したり声をかけたりするのはタブーとされていますよね。
正論も押し付ければ暴力的なものになってしまいます。
子どもたちには「自分の子どもやお友達なら注意するほうがいいけど、知らない人にまで注意すると、逆に怒られたりしちゃうこともあるんだよ」と話をしますが、もちろんそんなことで納得してくれるわけもなく……。
それでも怒りが収まらない子どもたちには、「あの人は、お母さんに教えてもらわなかったのかな? 忘れちゃったのかな? 今日はたまたま急いでいたのかもしれないね」と返事をしたあと、違う話を始めたりするなどして、他のことに注意をもっていくようにしています。
注射が嫌い
乳幼児の頃は定期的に予防接種があり、ぽかんとしている間にチクっとされて、痛さで気づいてわっと泣く、というよくある反応をしていましたが、小学生になる頃には注射が大嫌いになっていた長男は、予防接種の話をするだけで泣いて嫌がるようになりました。
しかし、要介護の老人と同居生活だったため、毎年のインフルエンザ予防接種は欠かすことができず、毎年頭を抱えていました。
低学年の頃は、嫌がるのは当たり前、泣くのも仕方のないことだと思っていましたが、高学年になっても幼い子どものように泣いて嫌がり、ほとほと困り果てていました。
対策(1):必要性を話して理解してもらう
まず、予防接種の必要性をしっかりと話しました。
予防接種をすることによってインフルエンザにかからなくなる、もしくはかかった時の症状が軽く済むという本人に対する利点、また、もし予防接種をしなくて学校でうつって帰ってきてしまうと、家のおじいちゃんおばあちゃんにうつってしまうと大変な症状になってしまうことがある、などを話しました。
基本的に優しくて家族思い、そしてネガティブな出来事をあまり覚えていないタイプの次男は、その話を聞いて納得してくれました。
「痛いけどその時だけだもんね!」と言ってくれたので、予防接種を受けてもらっています。
体質的に、予防接種を受けると熱が出てしまうことが多いのですが、それも忘れてしまえる次男ならでは、という対策です。
対策(2):予防接種の代替手段をとる
長男にも、次男と同じように予防接種の必要性を話しました。
必要性は理解できるものの、ネガティブな出来事を忘れられず、簡単に負のスパイラルに落ちてしまうタイプなこともあり、予防接種を受けることに対して前向きにはなってもらえませんでした。
事前予告では、その日が来るまで予防接種をしなくてはいけないことがストレスになってしまい、機嫌悪く過ごすようになってしまうので、当日直前に話すように変え、なんとか小学生のうちは予防接種を受けてもらっていました。
長男が中学生になったころ、テレビ番組で、注射が嫌いすぎるお笑いタレントさんに『番組の企画で血液検査をしなくてはいけないといったらどんな反応をするか?』というドッキリ企画を放送していました。
本当に注射が嫌いなようで、「ちょっとまって、どうしてもしなくちゃだめなの?」と繰り返して30分以上粘っているタレントさんに、スタジオからは笑いと驚きの声があがっていました。
ドッキリだと言うことを打ち明けると、ターゲットのタレントさんが、自分の相方さんに対して「俺が毎年事務所で受けるインフルエンザの予防接種に2時間かかってるの、知ってるだろ!?」と怒って言っているのを聞いて、スタジオはさらに爆笑。
これを見ていた私は「大人になっても嫌なものは嫌であって、それは変わらないものなのか」と、あきらめたような、他にも同じような人がいると安心したような気持ちになりました。
その番組を見て以来、我が家では長男にインフルエンザの予防接種は受けさせていません。
予防の代替手段のマスク、手洗い、うがいをきちんとすることを長男と約束していますし、きちんと実行してもらっています。
インフルエンザにかかってつらい思いをするくらいだったら、一瞬で済む予防接種を受けたほうが本人が楽だろうと思っての予防接種でしたが、長男にとっては予防接種を受けたくないということが、大きなこだわりだったようです。
このように、時にはこちらがあきらめて代替手段をとるというのも、こだわりとうまく付き合って行くうえでは必要なことです。
まとめ
今回は発達障害のある我が子のこだわりに対する対応策をご紹介しました。
過保護、それはやりすぎ、と思われることもあるかもしれませんが、それらの対策をしておくことで子どものパニックを防ぐことができれば、親の心にも余裕ができ、子どもに対して余裕が持てるのではないかと考えて対策をしています。
社会に出たら理不尽なことにも巡り合うのでしょうが、家族ぐらいは、本人の特性を知って寄り添ってあげてもいいのではないかと、私は思っています。
発達障害児の『こだわり』は、健常者から見ると「なんでそんなこと?」「変なことばかり気にしている」と理解できないことも多く、受け入れることに苦労している親御さんもいらっしゃるかもしれません。
しかし、視点を変えればその『こわだり』を持つお子さんは他のお子さんたちが気付くことのできない「宝物」に一早く気が付くことができるかもしれないのです。
対応策を考え、じょうずに誘導し、お子さんの良さをのばしていける環境づくり、支援ができるとよいですね。
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