ADHDの特性のある大人は、学校に通っている間は環境に上手く適応できていても、働きだしてから様々な場面で特性の影響を受けて、困難さを強く感じるといったケースが多いです。
ADHDの特性の影響で起こりがちな仕事上でのトラブルの発生を防ぎ、ストレスを軽減することが大切です。
ここでは【ADHDの大人が仕事をスムーズに進めていく対処法】をご紹介します。
また、ADHDの特性を踏まえ、【発生しやすいトラブルと注意点】をピックアップします。
ぜひ参考にしてくださいね。
ADHDの特性について
感覚過敏
ADHDの特性を持つ人が職場で上手く力を発揮できない原因のひとつに「感覚過敏」があります。
ADHDの特性から聴覚や視覚、嗅覚、触覚などの感覚が平均より敏感である場合が多く、疲れていたり緊張していたりすると、さらに敏感さが増して他人には何でもない刺激を苦痛に感じることがあります。
特に人が集まるオフィスは、人の話し声や動作音、電話の呼び出し音が絶え間なく続きます。
オフィスの照明の明るさや、空調の温度は自分の判断で簡単に変えられるものではありません。
そのためADHDの特性を持つ人は、オフィスにいるだけで
- 集中力が途切れやすくなる
- イライラしてしまう
- 体調が悪くなってしまう
このようなケースがあります。
短期記憶の弱さ
ADHDの特性を持つ人は元々【記憶することが苦手】です。
人間には、「ワーキングメモリ(短期記憶)」と呼ばれる行動するために必要な記憶を取り出して、一時的に置いておく能力があります。
ADHDの特性を持つ人はワーキングメモリの容量が比較的小さいため、
- 大切な約束や締め切りを忘れてしまう
- 物をなく
などのミスを繰り返すことがあります。
この特性は、同時に複数のタスクを平行して行うときに大きな障害になります。
こだわりの強さ
ADHDの特性を持つ人には【細部まで気を配って、高い完成度を目指して物事をこだわって進めていく】傾向がみられます。
質の高い仕事を成し遂げるのに役立つ素質ではありますが、中には、作業を進めるときも指示されたやり方ではなく、自分なりの手順で進めることにこだわる人もいます。
仕事で決められた手順に従ってマニュアル通り仕事を進めなければいけない場合でも、自分なりのやり方に固執してしまい、ミスをしたりトラブルになってしまったりすることがあります。
また仕事の場合では、スピード優先で物事を進めなければいけないことも多くありますが、完璧を目指してしまい、期日に間に合わないなどの失敗につながることがあります。
人づきあいが苦手
ADHDの特性を持つ人は、【言葉や言葉以外のコミュニケーションに苦手意識を感じている】人がたくさんいます。
思ったことをすぐに口に出してしまうため、他人を怒らせてしまったり、相手の言葉や仕草からその人の気持ちを読み取ることが不得意なため、うまく会話が弾まず気まずい思いをしたりすることがあります。
また、人の言葉に左右されやすく、傷つくのを恐れて人との交流そのものを避ける人もいます。
感情のコントロール
ADHDの特性を持つ人は職場で色々な困難を感じつつも、「なんとか仕事をこなしていこう!」と、いつも気を張って過ごしています。
そのため、絶え間なく緊張や不安が強くのしかかり、ちょっとしたことをきっかけに感情が爆発して、パニックのようになってしまうことがあります。
また、ストレスがかかり過ぎた結果、抑うつの症状が出てしまうこともあります。
- 気持ちの落ち込み
- 睡眠障害
- 頭痛
- 吐き気
などの身体症状が出て、出社できなくなるケースや、集中力や判断力が低下してしまい、仕事に大きな支障をきたすケースがあります。
仕事の進め方の課題と対応法
📌 課題(1)ミスが多い
ADHDの特性を持つ人は、刺激に敏感で集中力が途切れやすく、ワーキングメモリが小さい傾向があるため、仕事でミスをおかしてしまうことがあります。
特に、事務作業や単調なルーティーンワークに苦手意識を持っている人がたくさんいます。
これは発想の転換が必要な仕事や、目新しい仕事には集中して取り組むことが出来ても、単純作業となると興味を失ってしまい、集中力を保てなくなるのが原因です。
「仕事を早く終わらせなくては!」という焦りからミスをしてしまうケースも見受けられます。
ミスを防ぐために
- 事務的な作業は忘れてしまわないように、先延ばしにせず、すぐに取り掛かる。
- 一度手を付けた作業は中断しないで必ず完了させる。
- ボリュームがある場合は仕事を幾つかに分割し、キリの良いところまで終わらせる習慣をつける。
- 事務作業を嫌々取り組むのではなく、ミスを重ねることや、締め切りに遅れることで信用を失うデメリットについて毎回考える。
- 仕事を早く片付けることで「終わらない不安感や焦りから開放され、気分も良くなる」ことを意識する。
- 自分が不注意からミスをしてしまうタイプであることを認識し、仕事が完成したら内容を確認することを習慣にする。
📌 課題(2)締め切りが守れない
ADHDの特性を持つ人は、ロングスパンで取り組むプロジェクトや、先に締め切りが設定されている仕事に取り組むことがつい遅くなりがちになり、締め切りを守れないことがあります。
また、締め切りそのものを忘れてしまい、周囲からの信頼を失ってしまうことも時々あります。
締め切りを守るために
- どんな仕事でもまず、引き受けた時に締め切りを確認し、スケジュール帳やカレンダーに記入して、1日に1度は予定表を見直す。
- 締め切りがかなり先に設定されている場合は、自分なりの締め切り日を前倒しに設定するのもひとつの手。(その際、早く仕事を終わらすことのメリットを書き出してみることが有効です)
- 大きい分量の仕事は、小分けに区切って仕事を遂行するのにかかる時間を計算する。
- 不測の事態を考慮して、かかる時間に余裕をみて逆算して仕事を開始するクセをつける。
- 仕事の分量が多いときは、手をつけやすい所から着手してみる。
📌 課題(3)仕事に集中できない
ADHDの特性を持つ人は、「強い衝動性」「飽きっぽい」「外部からの刺激に反応しやすい」という特性が原因で、仕事に集中できないことがあります。
仕事に集中するために
- 仕事をする環境を自分が出来る範囲で快適で静かな空間に整えます。
- 性能の良い耳栓で周囲の雑音をシャットアウトすることがおすすめ。
- パソコンのモニターも自分が見やすい明るさに調整する。
- 作業の全体量を確認して分割してから、取り組むようにする。
(その際、自分が集中できる時間の分量で仕事を区切るようにします) - 小さな成功体験の積み重ねが、やる気につながります。
- 小分けにした仕事が完了するたびに休憩をとるようにする。
- 作業が完成したら好きな飲み物やお菓子など、自分なりのご褒美を用意しましょう。
コミュニケーションの課題と対応法
ADHDを抱える人の多くがコミュニケーションスキルの不足に悩んでいます。
ここでは、仕事で必要とされる【「質問」「報告」「電話」「雑談」の4つのスキル】についてのポイントを説明します。
是非こちらを意識してみてくださいね。
質問
ADHDの特性を持つ人は他人に話しかけることにためらいを感じたり、質問したい相手が忙しそうにしているとつい遠慮して質問を後回しにしてしまったりする傾向があるため、仕事を進めるうえで発生した疑問点を明らかにする目的であっても、上司や同僚に質問をすることが苦手です。
しかし、質問や相談は仕事を進める上で正しいやり方であり、必要な良いことです。
☝【質問や相談は良いことだ】としっかり認識しましょう。
質問相手の時間をとりすぎないために、あらかじめ疑問点を箇条書きにして、分からないことを漏れる事なく聞き取るように心がけましょう!
また、質問をする時は必ず相手の答えをメモし、同じことを何度も聞くことがないようにします。
分からないことはその都度聞くことが基本ですが、どうしても対面で質問することが苦手な場合やメモを上手くとれない場合は、メールで質問するのは良い方法です。
報告
ADHDの特性から、仕事の進捗状況を上司に報告する時の声をかけるタイミングや、何を報告して良いのか分からずに戸惑いを感じる人もいます。
タイミングは相手から指定がなければ、
- 1日に1度
- 仕事が大きく進んだ時
- トラブルが発生した時
に報告するようにします。
内容はフォーマットを作って、要点を抑えたメモを作成するとスムーズに報告できます。
質問同様、対面での報告に強い抵抗がある場合は、緊急の要件でないときに限ってですが、メールやメモで報告をしても良いでしょう。
相手に質問や確認するべきことがあれば、報告のタイミングで連絡するとスマートですよ。
電話
ADHDの特性を持つ人は、「耳から情報を収集することが苦手」な人が多く、電話を受けるのもかけるのも不得意な人が多くいます。
また電話をしながら、メモを取るという平行作業が発生するため、
- 会話の内容を上手く理解できない
- メモがうまく取れない
などの問題が発生しやすいです。
電話対応でのミスを防ぐために、電話をかけるときは伝えるべき内容のメモを作成し、それを見ながら漏れなく話すようにしましょう!
電話がかかっていた時には、「相手の会社名」と「名前」、「誰宛にかかってきたのか」を確認し、必ずメモを取って取次をすることを目標にします。
そして、取り次ぐべき相手が不在の場合は、メモした相手の会社名と名前を確認し、追加で「電話番号」も控えるようにしましょう!
電話対応専用のメモを作っておくと、慌てずに受け答えすることができますよ。
雑談
話すことが決まっておらず、何人もの会話が飛び交う職場での雑談は、ADHDの特性を持つ人にとって苦手意識を持ちやすいシーンです。
積極的に発言しなくても構わないので、できれば身構えずに雑談の輪に加わって、社内や社外の人と交流をしてみましょう。
何を話していいか分からない時は、皆の会話に耳を傾けながら相づちを打つだけでも大丈夫ですよ。
ただ、もしも雑談の場や社内での飲み会で同僚に何度もからかわれたり、なじられたりすることが多く苦痛を強く感じるのであれば、無理にそうした場に参加する必要はありません。
気をつけるポイント
ADHDの特性を持つ人が、【仕事をする上で気をつけたいポイント】をまとめました。
自分とって苦手なことがあっても、それをフォローするスキルや工夫を知っておけば未然に手を打つことができ、大事に至らずに済みますよ。
時間の管理
ADHDの特性を持つ人は時間に対する意識が弱く、目の前のことに没頭する傾向があるため、寝坊や遅刻、締め切りを破るなどの問題行動を起こしてしまうことがあります。
時間管理のポイント
- 遅刻や締め切りを破ることは、信用を大きく損なう大きなリスクのある行為と認識する。
- 1日、1週間のスケジュールを前もって立てる習慣をつける。
- やるべきことの時間配分をしておく。時間に余裕を持たせる配分にしておくと安心。
- やらなければいけない仕事があるのに、スマホをいじりたいなどの衝動が起きたら場合、ハンドスピナーなどのグッズの力を借りて衝動を和らげる。
物の管理
ADHDの特性を持つ人は物に対して強い愛着を持ちやすく、不要な物を処分するタイミングを先延ばしにする傾向があるため、身の回りに物が増えやすく、そのせいでデスクの上や引き出しの中が散らかりやすくなります。
また、ワーキングメモリが小さいことが災いして、持ち物をなくすことがしばしばあります。
物の管理のポイント
- 物をなくしたり、探したりする時間は「勿体無いことだ」と認識する。
- 不要物を処分して、自分の持ち物の量を全体的に減らす。
- 物の量を減らせたら次は、ひとつずつ置き場所を決めて、使ったらその場所に戻す習慣をつける。
- 物の置き場所を決めるときは、「文房具はデスク右上の引き出し」などざっくりと大まかに設定する。
ストレス管理
職場ではいつもミスをしないように気をつけて、人間関係で失敗しないように気を配っていることでしょう。
ストレスを感じやすいADHDの人は日頃からストレス管理が大切です。
ストレス管理のポイント
- 自分のことを理解し、良い点を見つけて褒めてくれる人を職場で見つける。
- できないこと・失敗したことばかりに意識を向けないようにする。
- 帰宅後はしっかり休息をとりましょう。体調や精神面がすぐれない場合は、主治医に相談する。
まとめ
今回は【ADHDの大人が、仕事をスムーズに進めていくための方法をご紹介してきました。
ADHDを抱えている人は、毎日失敗をしないように精いっぱい仕事に取り組んでいます。
それでも、特性の影響でミスしてしまったり、職場での人間関係が上手くいかなかったり等失敗を何度も経験し、自分を肯定し認める気持ちを持ちにくくなっています。
ADHDの特性を持つ人が仕事を続けていくには、仕事を進めるスキルを身につけるだけでなく、自分を認め、自分を労わる気持ちを持つことが大切です。
自分のことをよく理解してくれる人に自分の気持ちを話して聞いてもらったり、オフのときには、本当に好きなことをしてリフレッシュしたりするなど、心と身体の休息をとる習慣を身につけるようにすると良いですよ。
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