子どもが高機能広汎性発達障害と診断された場合、知能には問題がないため、療育手帳は取得対象外となります。
精神障害者保健福祉手帳を取得するという選択もありますが、子どもが幼いうちに精神障害者福祉手帳を取得するということに、少なからず不安や抵抗を持っている親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
私の息子は、8歳のときに精神障害者保健福祉手帳3級を取得しています。
今回は、息子が精神障害者保健福祉手帳を取得するまでの経緯と、取得への心構えをご紹介します。
精神障害者保健福祉手帳を取得するまで
息子は、4歳の時に発達検査を受けて「高機能広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」という診断が付きました。
息子の発達について気になりはじめたのは、言語数が増えた2~3歳の頃。
テレビCMのフレーズをずっと呟いていたり、視界に入る建物の看板を延々と読みあげたりする息子の姿に、強い違和感を覚えました。
一度読んであげた絵本を正確に記憶したり、難しい漢字をスラスラ読んだりなど、驚くような能力もある一方で、私からの質問に対して全く関係ない言葉を並べ続ける息子。
言葉はたくさん言えるけれど、会話が通じないことに不安を感じ、発達外来の受診に至ったのです。
検査の結果、IQは120あり、知能に問題はありませんでしたが、
- 会話が一方通行
- 相手の気持ちを想像しにくい
- 対人関係の距離感が分かりにくい 等
社会的コミュニケーションに困難を抱えていることが分かりました。
子どもに精神障害者保健福祉手帳は必要?
発達障害の診断を受けた当時、主治医からは「息子さんは知能指数が75以上あるので療育手帳は対象外です」と告げられました。
息子は、口達者で目線も合う為、見た目には発達障害を持っていることに気づかれにくい子です。
しかし、診断当初は息子が4歳と幼かったこともあり、手帳が無くても不便を感じたことはありませんでした。
ところが。
成長するにつれて、進学や習い事など、何かしら新たなスタートをするときには、必ずと言っていいほど息子が発達障害を持っていることを説明する場面が増えていきました。
発達障害であることは主治医の診断書で証明が出来ますが、何かあるたびに、診断書を証明代わりに病院に取りに行くのは、手間も金銭もかかります。
主治医に相談したところ「2010年から障害者自立支援法が改正になったので、発達障害が精神障害者保健福祉手帳の取得対象になりました」と教えてもらいました。
それまでは保護者から発達障害のことを口頭説明するだけで済んでいたので、証明の必要に迫られることはありませんでしたが「精神障害者保健福祉手帳を取得するのも有りかもしれない」と、漠然と考えるようになりました。
手帳がないからサポートが受けられない!?
手帳の有無で、行き場が左右される現実を目の当たりにする出来事がありました。
主治医から「水泳は身体の感覚を掴めるから良いですよ」とアドバイスをもらい、スイミングスクールを探した時のことです。
発達障害児クラスがあるスイミングスクールを見つけた私は、さっそく問い合わせの電話をしました。
しかし、スイミングスクールから、思いもよらぬ返答が来たのです。
「療育手帳がないと発達障害児クラスには入れません。一般クラスですとサポートはありませんので、他者に迷惑をかけないで参加できることが条件となります」
私は、動揺しながらも「療育手帳は取得対象外なので、精神障害者保健福祉手帳では駄目でしょうか?」と訪ねました。
すると「今までに精神障害者保健福祉手帳でスクール入会した前例が無いため、上司に確認して後日ご連絡します」と言われ、一旦、電話を切ることになりました。
翌日、スイミングスクールから「精神障害手帳でも構いません」という回答がありました。
そこで初めて、手帳の必要性を強く実感したのです。
精神障害者保健福祉手帳の取得へ!
スイミングスクールへの問い合わせがキッカケとなり、息子の精神障害者保健福祉手帳取得へと具体的に動き出すことにしました。
息子が小学2年生の時でした。
✓精神障害者保健福祉手帳の申請は、各市町村の保健福祉課で手続きを行います。
✓子どもの精神障害者保健福祉手帳の申請に必要なものは下記の7つ。
- 申請書(保健福祉課でもらえます)
- 診断書(初診から6ヶ月以上経過していることが条件)
- 本人の写真
- 本人のマイナンバー
- 本人の健康保険証
- 印鑑
- 保護者の身分証明書(健康保険証、免許証など)
✓子どもの手帳申請には、福祉課から保護者への聞き取りがあります。
以下は、福祉課から聞かれた事と、私の回答です。
- Q:日常生活で困難なことはありますか?
- A:食事、トイレ、着替えなどは、ひとりで出来る。
保護者に、やってほしい事や欲しい物を要求することが出来る。 - Q:社会生活で困難なことはありますか?
- A:想定外のことがあるとパニックを起こし、脱走、自傷行為、他害行為に及んでしまうことがある。
パニックになった場合、落ち着くまでに時間がかかる。
落ち着くために、静かで囲われた場所を必要とすることがあり、学校では保健室のベッドを利用している。
会話が一方的で、客観的な状況説明などが出来ないため、他者とのコミュニケーションに支障がある。
興味関心があるものに真っ直ぐ向かっていくため、迷子になることが多い。 - Q:発達障害に伴う二次障害はありますか?
- A:夜驚症・チックを持っており、ストレスがかかると症状が酷くなる。
怖い出来事などの強いショックによって、一過性の解離性健忘を発症することがある。
✓審査の結果、障害の等級が決まり、手帳が交付されます。
息子は、二次障害による症状は一過性であり持続的ではないこと、社会生活はある程度のサポートを要するが日常生活は保護者の元で自立行動が可能ということで「精神障害者保健福祉手帳3級」が交付されました。
精神障害者保健福祉手帳は必ず取得できるのか?
2010年に障害者自立支援法が改正されたことにより、現在、発達障害であった場合は、よほどの事がない限り精神障害者保健福祉手帳を取得できるようになってきています。
ただ、手帳申請に必要な診断書は、医師の力量や裁量に委ねられているため、病院によって診断内容に差が出ることがあります。
診断書の内容によって手帳の等級が適正に判断されなかった場合や、稀に特性を正しく診断してもらえず手帳申請までに至ることさえ出来なかったという事例もあります。
💡信頼できる主治医を見つけることが大事
息子の場合は、4歳からずっと定期的に病院に通っており、主治医が成長過程を全て知っているため、診断書も適正に記入してくださり、精神障害者保健福祉手帳の取得はとてもスムーズでした。
発達障害は治癒することはなくても、成長と共に日常生活や対人関係の知恵や工夫を実体験から学び取ることで、特性が目立たなくなることもあります。
特に、高機能広汎性発達障害の場合は、年齢を重ね、社会経験を積んでいくと、発達検査だけでは見分けがつかないくらい成長する場合もあるのです。
実際に、息子は成長と共に、不得意な分野を知識や訓練でカバー出来るようになりました。
13歳になる頃には、発達検査で、全検査IQ・言語性IQ・動作性IQの全てにおいて「正常域」の数値を出すようになったのです。
もし、今現在の息子が、初めての病院で発達障害の診断を受けるとしたら、難しいかもしれません。
発達検査だけではなく、医師の診察でもTPOを考えた受け答えが出来るようになった為、初対面の医師との短い診察時間では、発達障害を正確に診断してもらえない可能性があります。
精神障害者保健福祉手帳の取得には、発達障害の知識と経験が深い信頼出来る主治医を見つけること、そして長期に渡って定期的に診察を受け、医師との信頼関係を結んでいくことが大切です。
精神障害者保健福祉手帳取得への心構え
子どもの精神障害福祉手帳を取得するとき、親としての考えをしっかりと持つことが大切であると筆者は感じています。
障害に対する偏見と手帳取得の目的を明確にすること
とても悲しいことですが、精神障害者保健福祉手帳を持つことによって、偏見の目で見られてしまうことがあります。
本来であれば非難されるべきことではないのですが、世間の障害に対する理解はまだまだであると言わざるを得ません。
偏見は、無知と無理解から生まれます。
しかし、身近に障害を持つ人が居なければ、障害について興味関心が全く無いという人がいるのも現実です。
百人百様……世の中には様々な人がいて、色々な考えがありますから、障害に対して理解を示す人もいれば、偏見を持っている人がいるのも当然であると心しておいたほうが良いでしょう。
「なんで手帳なんか必要なの?」「手帳なんか持ってたら、障害者に見られるよ」「自分の子を障害者にしたいの?」……衝撃的ではありますが、これらは、私が息子の精神障害者保健福祉手帳を取得した時に、第三者に実際に言われた言葉です。
心無い言葉に傷ついて、「手帳取得は間違っていたのだろうか」と悩んで、塞ぎ込んでしまったこともありました。
発達障害は脳機能の障害であり、見た目では分かりにくいことも多いため「目に見えない障害」とも言えますね。
目に見えない障害を精神障害者保健福祉手帳という「見える形」で証明できるものを取得したことに対しては、賛成から反対まで周囲から様々な意見がありました。
私は、息子を育てていく上で、社会との繋がりをスムーズにする為のひとつのアイテムとして精神障害者保健福祉手帳を取得しました。
息子の未来の可能性を広げることが出来るアイテムはひとつでも多いほうが良いと考えています。
手帳取得の目的はそれぞれのご家庭によって違いますが、周囲の意見に翻弄されないためにも、しっかりと自分の考えを明確にしておくことが大切です。
発達障害に向き合う本人の気持ち
発達障害児を育てている親御さんが、避けては通れないことがあります。
それは、本人告知。
いずれ、本人が自分の発達障害の特性を受け止め、理解していかなくてはなりません。
本人告知のタイミングは、子ども自身が自分で自分を知るに相応しい年齢や心身状態であるときが最適とされています。
でも、どんなに精神状態が安定していても、自分自身を受け止める作業というのは発達や健常に関係なく、人生の大きな壁となりますね。
あっさりと受け止める子もいれば、受け止めるまでに時間がかかり、気持ちが不安定になってしまう子もいるでしょう。
更に、子どもが幼いうちに親御さんの意思で精神障害者保健福祉手帳を取得した場合は、本人告知と共に手帳をすでに取得済みであることも伝えなくてはなりません。
子ども本人が納得した上で取得した手帳ではない分だけ、強い抵抗感を持つ子もいることでしょう。
自分の障害を受け止めるだけでなく、手帳の存在も理解しなくてはならないとなると、精神負担はかなり大きくなるかもしれないということを親御さんは事前に心得ておくことをオススメします。
更新は任意
精神障害者保健福祉手帳は、2年毎に更新が必要です。
更新の定義としては、精神障害の場合は症状が和らいだり重くなったりと病状に変化があるというのが前提です。
症状の変化による等級変更や、治癒した場合には手帳を返納しなくてはいけません。
そのため、病院に定期的に通院して、2年毎に医師の診断書をもらう必要があるのです。
発達障害は脳機能障害で、精神障害のように治癒するという前提ではないため心身状態により等級が変更になる場合はありますが、手帳返納の対象にはなりません。
しかし、更新は義務ではなく任意なので、一度、手帳を取得したからといって強制されるものではありません。
2年毎の更新のたびに精神障害者保健福祉手帳を見直すことが出来るので、本人の状況に合わせて、更新せずに手帳を返納することも出来ます。
おわりに
息子は小学4年生の時に、主治医の元で本人告知を受けました。
時期的にはかなり早めでしたが、息子は自分自身が他とは何かが違うということに気づき、デイサービスに通っているのは何故なのか?病院に行くのはどうしてなのか?と疑問を持ちはじめた為、告知の決断をしました。
息子が本当に自分自身の障害を受け止め、理解し、納得をするまでには1年ほど要しました。
すでに小学2年生の時に精神障害者保健福祉手帳は取得していましたが、息子の身も心も安定してきたと感じた私は小学6年生の終わり頃に、手帳を取得していることを明かしました。
息子には「これからも継続して手帳を持ち続けてもいいし、更新せずに一度返納して、大人になったときに必要だと思ったら再取得をしてもいいよ」と伝え、息子の意思に任せることにしました。
息子は「きっと、これからも必要だと思う」と手帳を所持し続けることを選び、今では出かける度に手帳を携帯しています。
親が子どもために取得した手帳であっても、将来的に手帳を利用するかどうかは本人の意思を尊重することが大切なのではないかと感じています。
コメント