入園や入学の慌ただしい時期を過ぎた後の個人懇談で、幼稚園や学校側からすすめられたことをきっかけに【療育】という言葉を知る人も少なくありません。
【療育】とは、障害をもつ子どもの発達を促し、社会的な自立を目指す医療と保育(教育)のことをいいます。
言葉でのコミュニケーション能力向上などを目指す【言語療法】や、音楽を用いて運動機能の発達やストレス解消を目的にした【音楽療法】、体の動かし方や感覚統合の方法を学ぶ【作業療法】などがよく知られています。
聞き慣れない内容のため、我が子とは遠いもののように感じたりおおげさなものだと思ったりして「まだ先でいいかな……」と積極的に療育とつながれないという親御さんたちも大勢おられます。
しかしながら、本人の特性やレベルに合った支援を積み上げる経験は、数年単位でみると、大きな変化となって生活の質を向上させてくれることをご存知でしょうか?
我が家には、発達に凸凹のある子どもがいます。
手先や体の動きに不器用さがあり、体幹が弱く、じっと姿勢を保持することができません。
そのため、公的な発達支援センターにて幼稚園年少時期から作業療育をスタートさせ、プロの手を借りながら、段階的に成長を促してきました。
数年間をただひたすらに走り続けてきましたが、地道に取り組んできた支援が、現在の望ましい発達に結びついていると実感しています。
通い始めたきっかけや、療育での様子などをご紹介しますので、療育を考えている親御さんは参考にしてくださいね。
療育を考え始めて受診に至るまで
療育に踏み出したきっかけ
幼稚園に通いだしてから、初めての個人懇談でのこと。
「お母さん、お子さんは発達について困難さがあるように感じられます。一度、専門機関を受診してみませんか?」
園長先生からそう告げられて、「ついにこの時がきたか」と思いました。
息子は赤ちゃんの頃から他の子どもと遊ぶより、ひとりで集中して作業することが好きな子どもでした。
また、大勢のいる場所へ行くのも苦手で、幼稚園にも毎朝号泣しながら通っていたことから「何かしらの困り感を抱えているのでは?」と感じていたのです。
ひとりで悩み、インターネットで体験談などを読み漁って似たケースを探しましたが、しっくりくるものは見つかりません。
幼稚園での身辺自立にも手間取っていて、家でも同じようにできない事があり、「努力」の問題ではないことにもぼんやりと気づきかけているタイミングでした。
園長先生から「受診結果によっては、幼稚園で支援の先生(加配)をつけることができる」という説明をされ、子どもの成長のためになるならと夫と話し合いをして、市の発達支援センターへ受診の予約をいれる決意をしました。
我が家の場合、発達の不安と支援への興味があったにも関わらず、日々の育児の大変さに明け暮れて発達支援機関への接触を先延ばしにしてしまっていたため「支援を受けていく」という方向性は、家族の間でスムーズに意思決定できたことでした。
ただ、そうした少しの心構えはしていたものの、実際に指摘されると想像以上に衝撃があり、言葉にできない種類のショックを感じました。
しかし、私の意思だけではいつまでも専門機関へ踏み出せないでいた可能性もあり、幼稚園側から年少の時点で心配の声をかけてくださったのは、今振り返ってみると、良いきっかけでした。
もしも心の準備ができていなければ「発達に課題があるかもしれない」と指摘されると戸惑ってしまうかもしれませんが、きっかけを逃しているなら、動き出すタイミングがきたと言えるかもしれません。
受診までの待機期間にできることをしよう
私の住む地域は、公的な発達支援があまり進んでいるとは言えません。
発達支援センターについても待機児童であふれかえっており、医者との面会までに半年間は待つことが当たり前です。
「早期療育を!」という声がよく聞かれる中、その数ヶ月を無駄にするようで落ち着かない気持ちでいっぱいでしたが、考えていても受診が早まるわけではありません。
待ち期間に何かできることはないか、我が子のことを知る手がかりはないかと【児童発達支援デイサービス】について調べたり見学したりと、怖がらず、少しずつ発達凸凹について理解を深める努力をしようと決めました。
しかし、どのような知識から増やせばいいのかも暗中模索、「発達障害」という言葉の意味も具体的にイメージできていなかった時期です。
書店で「ADHD」「自閉症」「アスペルガー」などについてまとめてある書籍をパラパラと読み、少しでも参考になりそうなページがあれば購入して、我が子がどのようなことでつまずいているのかを読み解く材料を探しました。
書籍からの知識をすぐに活かせるほどまだ余裕はありませんでしたが、様々な特性があることや本人の努力の問題ではないことなど、大切な概念をこの時期にインプットできたことは大きいと感じています。
発達障害当事者や支援教育に関わる先生方の書いた書籍なども、とても参考になりました。
将来に必ずやってくる、学校生活や社会人になったときの苦労などを知られたことは、意味のある前進でした。
医師との面談で作業療法の決定へ
受診の際にあらかじめ親は心理士から成育歴などのヒアリングを受け、幼稚園児だった子どもは「新版K式発達検査」という種類の検査を済ませました。
その内容と結果を踏まえて、療育がどの程度必要かを医師が判断するという説明がありました。
後日受けた医師との面談の結果、当時の息子にとって、プロの介入が取り急ぎ必要と判断されたのは【作業療法】でした。
息子には指先の細かいコントロールの苦手さや、体を大きく使うサーキットでの動きにぎこちなさが見られたため、全体的な体の動かしかたを改善していくことに決まったのです。
体をスムーズに動かせるということは、生活の質と直結します。
泣きながら行き渋っていた幼稚園での生活をより良いものにするためにも、今すぐに学ぶ必要性が感じられました。
その場で「支援をぜひ受けたい」と医師に話して、どうにか発達支援センターでの療育を受けられるように決定していただきました。
迷いながら子育てをしてきた数年間を振り返りながら、勇気を出して発達支援センターにアクセスしてみて良かったと、ホッと胸をなでおろしたのを思い出します。
作業療法のスタート
作業療法で細かい課題を探る
息子が月二回通う発達支援センターでの作業療法は、毎回決まった先生が担当して、継続的に成長の様子を見守ります。
最初の取り組みは、息子がいまどのレベルにいるかを探ることでした。
- 鉛筆をにぎること、筆圧などの細かい手先のコントロールをはじめとした微細運動
- はしごをのぼること、三輪車をこぐことなどの体を大きく使う粗大運動
上記どちらにも少しずつチャレンジさせて、どの部分に本人の困り感があるのかを見極めていきます。
息子は微細運動、粗大運動ともに苦手さが見られました。
触感をはじめとする感覚処理過敏も持ち合わせおり、鉛筆を良い位置で握ることができません。
文字を読むことは、親が教えなくても3歳でスラスラと絵本の朗読ができるほど長けていましたが、反面、指先を使って書くことには苦手さがあると改めて分かりました。
本人のレベルを把握したうえで目標(ゴール)を設定し、そこに到達するにはどのような課題(ステップ)を組めばよいかを考えながら今後の作業療法を行っていくことになりました。
まずは、今できること、できるレベルを探ることからのスタートです。
息子は鉛筆をうまく握れず、色塗りやお絵描きなどを自分からしようとする気配がありませんでした。
そのような鉛筆の課題であれば、三角鉛筆なら安定して持てることもあったり、指を置く部分にグリップを使用したりするなどの方法を試してみます。
そうして「持つ」ことへの不快感や困難さを取り除き、ハードルを低くすることで、次のステップの「運筆」や「お絵描き」への取り組み意欲が変わってくるのです。
何も考えずに「鉛筆を持つ」ことができる人にとっては、その動作がどれだけ複雑な組み合わせで成り立っているか想像がつきにくいものですよね。
微細運動が苦手な当事者にとっては
- ちょうどよい強さで握ること
- 適切な筆圧で書くこと
- 手全体の指位置を安定させて固定すること
- 手首を柔らかくして運筆すること
など、いくつもの「見えにくい」困難さのハードルがあるのです。
また、体幹筋力が弱いタイプであれば、じっと同じ姿勢をとり続けることができません。
筋力の問題から姿勢を保持できないために、【座り続けられない=立ち歩き】という問題行動につながっている場合も少なくありません。
不得意な「指先の微細運動」に取り組みながら、「姿勢保持の苦手さ」という困難さも同時にクリアしなければならないため、本来ならもっと上手にできるはずの作業が、姿勢の問題があることでより苦手に見えている場合もあります。
幼い子どもの場合は、自分の言葉でこういった具体的な困り感を伝えられないので、プロの目でしっかり観察してもらい、どの部分をサポートしてあげればひとつずつのレベルが上がるか、どのような方法が合っているかを聞きながら療育を行ってもらうと良いでしょう。
少しの工夫で指示が通りやすくなる
作業療法の40分間で行うプログラムは、一回の療育のたびに五つほどの内容で構成されていました。
📌【例】
- はじめの挨拶(ここでプログラムを決める)
- 指先で物をつまむ玩具で遊ぶ
- ぶらんこに乗る
- サーキット(サーキットで使用したブロックの片づけを含む)
- 終わりの挨拶
こういった今から取り組む内容を作業療法が始まるタイミングで紙に書き出すことは、本人に「見通し」を持たせ、パニックを起きにくくする効果も見られました。
また、発達凸凹のある人の中には、耳から音として入ってくる情報をうまくキャッチできない特性を持っている人もいます。
例えば、長い文章で指示をされても、ひとかたまりの音のように聞こえてしまい、うまく内容が伝わらないということがあります。
その場合は、我が家が作業療法で行ってもらっていたように、紙に書いて指示を出すことは、非常に有効な手段です。
紙に予定や作業手順を書き示したり、絵カードを使って意思疎通を行ったりなどの「視覚支援」のほうがコミュニケーションをとりやすい場合があるのです。
そして、急な予定変更や、突然想像と違う状況になることに弱いタイプも多いため、パニックを防ぎ、落ち着いて療育に取り組む手段として、とても有効な支援だと効果を感じました。
これは、こういった療育のシーンだけではなく、日常生活にも応用できる方法です。
家でもちょっとした予定変更でパニックになるなら、このような「視覚支援」で「予告体験」を積み上げていくと、生活がスムーズになるかもしれません。<
苦手意識から成功体験を積み上げるまで
我が家の通っていた作業療法の場合は、「苦手」を克服していくためのものでした。
そのため、当事者である息子にとっては「苦手なことをしに行く場所」とも言えます。
しばらく通ううちにだんだんとそれが分かってきて、「今日はどんな難しいことをさせられるのだろう」という表情を見せるようになりました。
また、調子の悪い日はうまく作業に取り組むことができず、パニック状態で泣きながら作業室から脱走しようとすることも珍しくありませんでした。
このように作業療法を拒否する様子が続き、連れて行くこと自体、親としてはとても気が重いものでしたが、先生は子どもと押し引きしながらどの程度までなら気軽に取り組めるのかを観察してくださっていたようで、後からこの経験が活きてくることになります。
また、パニックを起こす姿を見るのはつらいものでしたが、療育施設にはそのような発達凸凹の対処方法を学びに来ている人ばかりです。
そう思うと、外で同じようなことを起こすよりも気分は軽く、「どうすればパニックがおさまりやすいのか?」を、ともに先生と考えることができたのも大きな収穫でした。
しばらくそのような間合いをはかる期間をとった後、先生は、プログラムの順番を息子とともに設定する(息子のリクエストを聞く)やり方を試してくださいました。
それまでは先生主導で内容を決めていたものを、息子の「好きな作業」を複数はさむスタイルに変更したのです。
すると、自分のしたいことを伝える目的もあってか、先生との意思疎通も積極的になっていき、やがて「苦手な作業」も前向きに取り組めるように変化していきました。
後から考えてみると、息子は失敗するかもしれないという不安な気持ちが先行して、色々な提案にチャレンジできずにいたようです。
そこに、自信のある作業や楽しく学べる作業が保障されていることで、少しのチャレンジが怖くなくなっていったようです。
苦手なことをただ闇雲に伸ばそうとするだけではなく、本人の心を伴いながら成功体験を積み、生きていくために必要なことを学ぶのがとても大切だと感じました。
親の学びの場でもある療育
支援を受けることを考え始めた頃は、息子をいかに年齢相応のレベルに引き上げるかに思いが向いていました。
どうすれば伸びるのか、なぜできないのかをぼんやりと毎日考えていて、具体的な対策はうまく考えられずにいました。
「息子の困り感は目に見えないもので、本人もうまく他者に伝えられない。だから、対策はまだまだ時間がかかる」と途方に暮れていた日々が、今では遠い過去に思えます。
作業療法を受けて半年ほど経つと、発達検査の項目ごとの数値を参考にした療育での経験から「この動きが苦手」「こう補助すればできる」ということも見えてきて、親として、息子の困りごとの根っこが理解できるようにもなってきていました。
また、作業療法には毎回私も立ち会っていたのですが、先生が「なぜそれをするのか」という理由も説明しながら目の前で息子に教えてくださいました。
その知識の蓄積はとても大きく、家庭や学校での支援を考える際のヒントにもなりました。
作業療法をはじめとしたすべての療育は、その場限りの成長を目的にしたものではありません。
日々の生活に直結する取り組みであり、家庭でも継続して積み重ねてこそ、当事者の成長につながります。
その場だけの経験をさせるというよりは、『方法を学びに行く場』と捉えると、吸収できるものが多くあります。
支援の連携で社会生活のサポートを
現在、私の住む地域では、我が家が療育を受け始めた頃よりも『子どもの発達課題への教育』についての取り組みが深まってきているそうです。
すでに療育に通っていて幼稚園や学校での支援についての相談事がある場合は、発達支援センターへ希望すれば、幼稚園や小学校と連携をとって実際に学校生活を見に行った上での具体的なアドバイスをもらうことができます。
また、地域の支援学級の先生にも経験の差はあり、残念なことですが、担任だからといって深い知識があるとは限りません。
また、環境の変化に弱い子どもが集う支援学級では、新学年にあがるタイミングにはどこの学校でも少なからず子どもたちが不安定になります。
そういった時に上記のような、これまで子どもの支援に深くかかわってきた療育との連携支援があるととても心強く、安心して頼ることができますね。
療育で積み上げられたデータは、生きやすさのための財産です。
その場での訓練という意味合いだけではなく、ここから先の社会生活を過ごしやすくするためのアドバイスをしてくれるので、やはり行政の発達支援センターとつながっておくことの重要性を感じています。
まとめ
作業療法をはじめとする療育は、通うことで完結するものではありません。
療育で得られた支援方法やトレーニングをヒントにして、家庭でできることを継続的に実践していくことに意味があると感じています。
数時間の預かり型・児童発達支援・放課後等デイサービスとは違い、保護者が立ち会える療育施設もたくさんあります。
もし希望できるのであれば、ぜひ立ち会うことをおすすめします。
療育の中で「なぜその動きを練習するのか」「なぜそのやりとりを練習するのか」など、その場で先生に質問しながら、家庭で取り組める方法を探してみてください。
一日一日の取り組みはとても地道で、何年後かの姿は想像ができないかもしれません。
しかし、根拠をもとにした積み重ねは、しっかりと結果につながっていくことは間違いありません。
その子に合った個別の支援方法を探すには、やはり本やインターネットからの情報よりも療育での経験が近道です。
ぜひ検討してみてくださいね。
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