発達に遅れや障害がある子どもと保護者にとって、就学は大きな節目になりますね。
特に、軽度であり発達検査の結果が境界域という子どもの場合「通常学級でやっていけるのでは」という思いと「支援学級の手厚いサポートがあったほうが良い」という、相反する思いの間で悩むものです。
何を判断基準にするかは人それぞれであり、一概には言えませんが、通常学級に入るときにどういう点に注意すべきかをまとめました。
発達障害があっても通常学級に在籍することは可能
まず、発達に遅れや障害があったとしても、通常学級に在籍することはできます。
以前は「障害がある子どもは特別支援学校へ行き、一般的な小学校にはない『自立のための支援』を受けるべき」とされていましたが、現在は「本人の希望を尊重し、可能な限り区別なく義務教育を受けられるようにする」と変化しています。
このため、発達障害があったとしても通常学級に就学することを諦める必要はないのです。
就学基準に該当する障害のある子どもは、特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。【引用元】文部科学省(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325886.htm)
教育委員会や学校は支援学級を強制することはできない
前述の通り、就学先は本人の希望や保護者の考えが尊重されます。
例え、教育委員会や学校が「特別な支援を受けられる所へ就学したほうがいい」と考えていても、その考えを押しつけ、本人の希望や保護者の考えを無視することはできません。
これは場合によってはメリットにもデメリットにもなりますが、発達障害を理由に就学の道が閉ざされたり、限定されることはない(あってはならない)ということですので、保護者は子ども本人の希望を元に、納得いくまで教育委員会や学校と話し合うとよいでしょう。
通常学級でも、介助員を付けてくれる学校がある
自治体や学校によって小学校で受けられるサポートが異なることは望ましくありませんが、学校によって支援の内容が違います。
私の娘が通っている小学校では、通常学級の子に介助員(学校生活の中で個別にサポートしてくれる人)は付きませんが、別の小学校では、通常学級の子どもであっても困りごとがある場合は介助員が付いて細かなケアを受けられるそうです。
発達に遅れや障害がある子が通常学級に行く場合、やはり介助員(保育園でいういわゆる加配の先生)が付くと安心感が違いますよね。
発達障害・遅れがある子で通常学級を希望する場合は、介助員が付いてくれる学校を選ぶこともひとつの手です。
教育委員会との話し合いによっては、校区をまたいで通学することが認められるケースもありますので、ぜひ情報収集をしてみてくださいね。
【通級学級】別の学級へ行って支援を受けることも可能(月に数回)
『通級学級』は、発達の遅れやコミュニケーション能力の特性、学習障害などを持つ子に対して、特性や障害に合わせた内容の授業をしてくれる学級のこと。
具体的には、言語聴覚療法、作業療法、理学療法、ソーシャルスキルトレーニング、学習障害のサポートなどがあります。
しかし、全ての学校にこうした学級があるわけではなく、一部の学校にのみ開設されているため、通級学級を利用する場合は月に数回(通級学級が開講される時に)自分が通う小学校を休んで足を運ぶことになります。
- 通級学級の頻度
- 通級学級に通う方法
- 支援の内容
上記を確認した上で利用を検討しましょう。
通級学級を利用すれば、普段は通常学級に通いながら、通級学級という形でサポートも受けられるようになります。
なお、私の娘が通う学校には通級学級がなく、利用する場合は車で20分ほど離れた学校へ移動しなければならないうえ、通級学級は親が送り迎えをしなければならず、共働き世帯は利用しづらいのが正直なところです。
こうした利用方法も自治体・学校によって異なるため、利用を希望する場合は事前に学校や教育委員会に確認しましょう。
通常学級の特徴
小学生になれば、自力で登下校し、先生の話を聞き、時間割や黒板を見て判断し、周囲に合わせて行動しなければなりません。
突然、予定が変わることや、先生の指摘を記憶しておいて行動しなければならない場面も多々ありますし、また、学校であったことや指示されたことを自力で親に伝えることも子どもの役割です。
つまり、小学校は幼稚園や保育園のような先生と保護者の繋がりやサポートはないということであり、「通常学級に入る」ということは、こうした学習面以外のこと(自分の身の回りのことを自分でやる、ということ)もできるかどうか考える必要があるのです。
また、通常学級(1年生)は1クラス35人までであり、特別支援学級が1クラス最大8人であることに比べると、かなり大人数になります。
人数が増えれば交流関係も複雑化しますし、性格が合う子もいれば合わない子もいますが、こうした大勢の友達の中で「自分をどこに位置づけるか」「どういった友人関係を築いていくか」も大切になってきます。
学年が上がるにつれて子どもの心の変化も大きくなり、そこから生まれるトラブルも複雑化していくことから、こうしたことに対する対処能力も通常学級の中にいる子どもには必要となります。
発達障害も人それぞれ
発達障害の内容や特性は人それぞれで、必要になるサポートも違ってきます。
- 集中できない子
- 聴覚過敏の子や、極度に緊張する子
- 身体機能に弱さ・不自由さがある子(字を力強く書けない、体育参加が難しいなど)
- 全体指示が理解できない子
- コミュニケーション能力が低い子
- 興奮しやすく、他害のある子
例えば、全体指示が理解できない子であっても、周囲の様子を敏感に察知して同じ行動ができたり、「どうすればいい?」と尋ねたりできる子であれば、通常学級でも困ることは少ないかもしれません。
しかし、全体指示が聞けず、人の行動を真似ることも尋ねることもできない場合は、集団に付いていくことは難しいでしょう。
同じ「全体指示が聞けない子」であっても「できること」によっては、通常学級でも不都合をあまり感じずに過ごすことができます。
自分の子どもの特徴を把握し、通常学級に対応できるかどうか考えてみることも必要です。
なお、私の娘は全体指示が聞けませんが周囲を見て他の人の行動を真似することはできるため、パッと見た感じでは「集団についていけている」と思えますが、「人の話を聞き、理解し、記憶して自分なりに考え、行動する」ということができていません。
ここをフォローしなければ「常に答えを探し、自分で考えられない子になる」という懸念があるため、通常学級に入りませんでした。
この点は保護者の考え方次第であり、また先生の指導力が大きく影響しますね。
学校の支援体制はどうか?
発達に遅れや障害がある子は、通常学級に在籍すると多かれ少なかれ、誰かの手を借りる場面・サポートを必要とする場面が出てきます。
そういったときは担任の先生に協力を仰ぐものですが、担任の先生の他にどういう人に相談したり助けを求めたりすることができるか、事前に確認しておきましょう。
スクールカウンセラー(教員の支援をしたり、生徒の悩み事を聞いたり、保護者からの相談を受ける人達、俗に言う学校カウンセラー)がいる場合は、必ず連絡方法を確認しておくとよいですよ。
残念ながら私の娘が通う小学校にはスクールカウンセラーは配置されておらず、教頭先生や校長先生が直接、相談に乗ってくれることになっています。
他にも、一学年の生徒の数(生徒数によってクラスの数が変わり、1クラス当たりの生徒数が変わります)、支援学級と通常学級の関わり方や頻度も事前に確認しておきましょう。
こうした学校の支援体制から、校長の考え方や発達障害に対する熱心さなどが見えてきますよ。
支援を過剰に期待していないか?
最近、合理的配慮という言葉がよく聞かれるようになりました。
「合理的配慮」とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」【引用元】文部科学省(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1297380.htm)
こうした配慮を受けることができれば、発達障害があったとしても通常学級で勉強し、多くの友達と一緒に過ごすことができますが、この合理的配慮は教育現場に浸透しているとはいえません。
最大のネックは「どういう配慮を、どの程度まで、どうやって実現すればいいのかわからない」ということ。
また、「あの子ばかりズルイ!」「ひいきされている!」といった誤解を招かないために、配慮を受けない子ども達に対する教育が求められていることにも手がまわっていません。
こうしたことに教員が対応仕切れておらず(教員を指導する指導員が足りていない)、さらに、通常学級の中でしっかりした子が「障害を持つ子のお世話係」に任命され、お世話係の子どもがサポートしてあげることや頼られることを負担に感じ不登校になってしまう、といったケースもあります。
これは明らかに学校の支援体制が整っておらず、適切な配慮・サポートができていない状態なのですが、障害を持つ子どもの保護者が「あの子と一緒なら助かる」「自分の子はあの子が大好きだから、あの子の傍に居させて欲しい」という要望を学校にあげることが影響する場合もあります。
障害を持つ子やその保護者が学校の支援や配慮を期待することは当然ですが、過剰な期待は学校や他の子ども達に過度の負担を強いることになってしまいますので、そうならないよう注意が必要です。
通常学級でうまくいくケース
通常学級に在籍していても大きなトラブルがなく、周囲の子から受ける刺激がプラスの方向に働くケースがありますが、こうなるには「障害を持つ子ども側に必要な条件」があります。
まず、最低条件として授業時間(45分間)は着席して先生の指示を聞くことができ、先生や友達と言葉のキャッチボールができることが挙げられます。
そして、友達と一緒に遊んだり、会話しながら行動することが好きで相手の言うことを受け入れられる子は、大きなトラブルなく通常学級に通えることが多いようです。
発達障害の有無に限らず、集団生活を送るようになるとトラブルは必ずといっていいほど発生しますが、トラブルが発生したときに子ども同士で解決の道を探れるような場合は、障害や遅れがあったとしても不安なく学校生活を送れるでしょう。
ただし、学年が上がるにつれて学習内容が難しくなり、また、子ども同士の繋がり・世界観も変わっていくことから、低学年のうちに通常学級で過ごすことができても、高学年では難しくなるといったケースもあります。
子どもの様子を見ながら、学校側と連絡を密に取りながら見守る必要があります。
通常学級に入ったことが負担になるケース
一番心配なことは、「通常学級に入ったことが本人にとって大きな負担になるケース」です。
- 45分間、着席して先生の指示を聞くことができない
- 先生の指示が理解できなくて、どう行動すればいいのかわからない
- 友達とのやりとりの中で、カッとなると手が出てしまう
- 学習内容が理解できなくて、自信をなくし、学校が面白くなくなってしまう
- 障害が原因でいじめの対象になってしまう
こうした場合は、通常学級にいることが本人にとって重荷になってしまう可能性があります。
本人も「どうしてこうなったのか」「どうしてほしいのか」「自分がなにを望んでいるのか」を上手く説明できないまま、状況が悪くなっていってしまうことがよくあります。
発達に遅れや障害があると、どんなに努力しても克服できないことや、変えられない苦手意識が出てきます。
発達の遅れや障害からくる不都合さは、不都合さを感じたその場で適切なサポートを受ければ深刻化しないケースがほとんどですが、「通常学級にいるばかりに、必要な場面で適切なサポートを受けられない」ということもよくあるのです。
問題は「学習面」と「対人関係」のふたつに分けられますが、どちらにせよ問題が表面化した時には問題が複雑になりすぎていて、解決に時間が掛かることがほとんどです。
通常学級に就学する場合は、なにか問題が発生した時に本人に対処能力があるのか、そして、周囲がタイミング良くサポートの手を差し伸べられる体制が整っているのか、慎重に判断する必要があります。
まとめ
子どもに発達障害があるからといって、通常学級に入れないわけではありません。
通常学級で刺激を受けたほうが大きな成長を見せ、発達の遅れをカバーできるようになるケースもあります。
さらに、合理的配慮を受けられる環境があるなら、配慮を受けながら通常学級に通うことができます。
しかし、どんな子どもでも、集団生活を送っていれば必ずトラブルが起こります。
このトラブルが発生したときに対応できるかどうか。
ここに注目し、本人のこと、学校のこと、支援体制のこと、他の生徒や保護者のことなどを考えてみましょう。
通常学級に入れたい場合は、保護者がしっかり情報収集して判断するようにしてくださいね。
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