親御さんなら、「発達障害があっても、学校に適応して、授業にもついていけるように頑張ってほしい」または、「障害を理解して、無理をさせないで、毎日楽しい学校生活を送らせてあげたい」と思っておられることでしょう。
子ども達は、そんな親御さんの気持ちを分かっていて、親御さんの見えないところであっても、とても頑張っています。
放課後、やっと解放されて自由な時間になるはずなのに、放課後児童クラブ、宿題、お稽古ごとと続く子もいるでしょう。
子どもは過重な頑張りや我慢を求められると、乱暴な言動に出る子、些細な一言で泣き出す子、パニックを起こす子、わがままを言い出して譲らない子、と、自分を守る行動を起こします。
発達障害があれば、なおのことそうせずにはいられなくなるのです。
この悪循環の原因は、誰もが障害特性に振り回されていることにあります。
これを克服するためには、まず、優先順位を決めて、何に取り組み、何を後回しにするか、明確にすることが大切です。
そして、これから紹介する個別指導の秘訣を試してみてください。
きっと、振り回されることなく、誰もが笑顔になり、良い指導ができ、学習成果も上がり、望む結果を得られることでしょう。
学校での個別の指導
学校の「個別の指導」は「個別指導」とは違うの?
一対一での学習指導を指す「個別指導」と、学校での「個別の指導」は、どう違うのでしょうか。
学校では、障害特性がある児童生徒には、一人一人のニーズに対応する「個別の指導」があり、柔軟な教育支援が義務付けられています。
本来、学校教育がめざすところは、平和で豊かな社会を構築する国民を育てることにあります。
この教育理念により、学校は集団生活での教育指導を基本としていますので、「個別の指導」も、クラスや学年、学校全体といった集団の中での、個別の配慮・支援・指導を行うことを指します。
その上で必要に応じて、学習や学校生活の個別指導も行われています。
「全校集会の時に席を出口に近いところにする」「授業中に少しだけ保健室や別の部屋で休憩することが許可される」「集中を促すために声かけを増やす」「宿題の量や内容を調整する」といった、全体の中での、個別に配慮したり、調整したりする指導です。
この個別の指導は、担任一人がクラス内で行うのではなく、学校全体で、または学年で、特別支援コーディネーターや養護教諭、支援員も含めたチームで行われます。
それには、学校全体でお子さんのニーズを共通理解し一貫した支援が行われるように「個別の指導計画」が策定されます。
「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」
指導計画とは、主に学習の計画のことを指します。
この「個別の指導計画」とは別に、「個別の教育支援計画」が策定されることがあります。
これは、学校も含めたその子の生涯にわたるスパンでの支援計画で、教育、医療、就労、福祉、地域等が連携し、一貫した支援を行えるようにと言う総合的な計画です。
一般には「個別の教育支援計画」があって、学校での指導に特化したものが「個別の指導計画」となります。
ちょっとややこしいのですが、このように全幾重もの手厚い支援を行う意識が広まってきたことは、誰にとっても心強いことですね。
「指導」と「支援」はどう違うの?
2001年から、「特殊教育」が「特別支援教育」、「養護学校」が「特別支援学校」、「特殊学級」が「特別支援学級」に名称が変更されています。
教育も「指導」から「支援」と言う意識が強くなったためでしょう。
「個別の指導」も「個別の支援」もほぼ同義語として使われていますが、「指導」は主に学校での学習指導に関して使われることが多いようです。
「支援」は、当事者の主体性を優先し鑑みた上で、自立を応援する、サポートするもの、と考えると良いですね。
両方とも意味的に大きな差異はないようですが、「生活支援」「就労支援」のように、「支援」が一般的に使われることが多いようです。
計画策定には、保護者の願いも本人の希望も盛り込める
「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」、これらを策定するに当たり、保護者からの意見や願い、要望、そして本人の思いや希望が尊重されます。
これまでは、学校の教科指導や、医療、福祉に対して、指導や支援は一方的になりがちでした。
現在では、親御さんがお子さんの障害特性について非常に勉強熱心ですし、親の会で学習会や啓発活動を行い、自ら社会で指導者や支援者としても活躍されています。
それ以上に、親御さんは、「我が子の専門家」です。
誰よりも長く成長する姿を見つめ、誰よりも多く情報を持っています。
「策定」という言葉は、仰々しくて難しそうに感じられるかもしれませんが、親御さんの参画によって、納得のいく計画に結びつく可能性があるのです。
ぜひ、お子さんのために参加してみてくださいね。
「個別の指導」ポイント
処理できる情報量を理解する
ASD、ADHDの特性がある子どもは、教室内での雑音や話し声、鉛筆と紙が擦れる音等の聞こえてくる情報、クラスメートの姿や掲示物、黒板、教科書やノート等の目に見える情報、それらが押し寄せてくる中で授業を受けています。
そこに加えて、遠くからサイレンが聞こえてきたり、誰かが咳き込んだり、斜め前の机の中に何か面白そうなものを発見したり……、そこにきて、落ち着かない姿を先生から注意されたりすれば、とても授業どころではありません。
ただでさえ大量の情報に溺れている状態ですから、この上、先生の話に耳を傾け、それを理解し、習得する等ということは至難の技です。
人間は脳が静かに目覚めている状態が、一番学習に適した状態なのだそうです。
障害特性によって情報を多く取り込んでしまうお子さん達には、教室は学習に適した場所にはならないのです。
また、「感覚過敏」の特性を持つ子どももいます。
過敏となる感覚は、人それぞれ。
「蛍光灯の音が聞こえている」という子もいるのです。
例えば、
- デスクライトが眩しくて苦痛
- コントラストの強い印刷物、掲示物が苦痛
- 体に触れられることが極端に苦痛
- 整髪料やオーデコロン、柔軟剤の香りが苦痛
- 運動会のピストルの音が苦痛
等、この他にも当事者でなければわからない苦痛があります。
ある男の子は、優しく礼儀正しい家庭教師の先生を苦手としていましたが、それは衣服からの柔軟剤の香りと、褒めるときに肩や背中をトントンと触れられることが原因でした。
本人にしか分からないこのつらい状態を、特に年齢が低い子や、コミュニケーションが苦手な子は周囲にうまく伝えることができません。
不機嫌なお子さんには、もしかしたら「感覚過敏」があるかもしれないと言うことを、心に留め置いていて下さい。
刺激が少ない環境
発達障害児たちが落ち着いて学習するためには、刺激や情報量を極力少なくした学習環境が必要です。
可能であれば、掲示物も何も無い、時計もスピーカーも無い、椅子と机だけの味気ない部屋を用意します。
とても殺風景ですが、それだけでも学習成果は向上します。
塾や療育施設の多くは、このようなスペースを用意されていて、パニックになったお子さんがクールダウンする部屋(カームルーム)としても使うことができます。
学校や家庭では、このような部屋を用意することはなかなか難しいと思いますが、パーティションで囲む等して、スペースを作ることも良いですよ。
自分の指導スタイルを再確認する
個別指導を成功させるためには、発達障害の特性だけではなく、指導者自身の性格や個性も再確認し、障害特性との向き合い方を考えておかねばなりません。
例えば、指導者が饒舌な場合、下記のような行動が発達障害児にあらわれることがあります。
☑集中力に困難がある子にあらわれやすい行動
- 大量の言語情報に溺れてしまう
- 集中力が続かなくなる
- 投げやりになる
- 投げ出す
☑言語理解に困難がある子にあらわれやすい行動
- 耳をふさぐ
- 下を向いてうずくまる
- その場から離れようとする
これらは反抗的態度と捉えられがちですが、ヘルプサインと受け止めてあげたいですね。
子どもの言語量、会話力を把握し、指導者の言葉や会話を調整することで、このような事態を防ぎ、集中力を守り育てることができます。
冷静さを保つ
発達障害児への効果的な指導には「静か」であること、「情報量の制限」が重要です。
それでも教育者は、どうしても言葉が多くなってしまいがちな上、子どもの反抗的な姿や怠惰な行動を額面通り受け取り、感情的になってしまうこともあるでしょう。
それが人間ですから、全く無感情になるということなど、誰にもできないことです。
豊かな感情があるからこそ、お子さんのことを大切に思い、喜びを分かち合うことができるのです。
自分の感情をコントロールするなんて、口で言うほど簡単なことではないですよね。
一対一の指導には、第三者がいないこともあり、指導者とお子さんの双方に、ブレーキがかかりにくくなるというリスクもあります。
もし万一、ブレーキが必要になったら、ちょっとだけその場を離れましょう。
お互いにクールダウンする時間を取るのです。
冷静を取り戻したら、一部始終をフィードバックしてみてください。
お子さんの行動のトリガー、そして次に活かせるヒントを発見できるはずです。
個別指導の実践
魅力的な課題の作成
学校でも家庭でも塾でも、一対一での個別指導が可能なら、お子さんのための特別な課題を作ってください。
学習は遊びから広がるものです。
例えば、鉄道に興味を持つお子さん、昆虫に詳しいお子さん、ゲームが大好きなお子さん、それぞれの興味に応えられる課題を作成し、漢字、計算、地理、歴史、音楽、と広げます。
友達との関わりや遊びの機会が少ないお子さんには、指導者や親御さんと楽しく遊ぶ時間を作ることを優先してください。
ただ、行き当たりばったりでは良い時間にはなりません。
指導者側の事前準備が必要です。
楽しく遊ぶためには、あらかじめ、お子さんの興味関心のあるものについて勉強しておくことが重要です。
これは後に、学びを広げる支援となり、お子さんの学習意欲が飛躍的に伸びますよ。
入念な準備
本来コミュニケーションとは、楽しく会話できる相手がいてこそ、上達するものです。
コミュニケーションが苦手な発達障害児は、気持ち良く話を聞いてくれる相手と巡り会えることは稀です。
一方的で終わらない話に、同年齢の子ども達は離れていってしまいますし、忙しい大人は耳を傾けてもくれないので、ますます育つ機会を失ってしまいます。
コミュニケーションが苦手な子には、その子の話をじゅうぶんに受け止めて理解するために、そして楽しい会話のパートナーになれるように、入念に準備しておくことが重要です。
そして、会話の中から、子どもの言語理解や、知識量、興味の傾向、話し方等をアセスメントして、次回の話題の準備や課題作成に役立てます。
💡小学校一年生のA君への対応例をご紹介します。
A君は、おはなしが大好きで恐竜の話しになると夢中になって話し続けます。
最初は「凄いね!」と、クラスのみんなが褒めてくれましたが、だんだんと聞いてくれなくなり、「うるさい」「うっとうしい」などと言われることもあって、言い争いや喧嘩になることもありました。
また、授業に関係の無い恐竜の話をして先生に注意され、クラスの子にからかわれることも増えました。
そういったことが続いたA君には、帰宅後に下記の行動が見られるようになりました。
- イライラしたり、急に泣き出したりする
- お母さんにつきまとって話し続ける
- 宿題を嫌がる
- 学校に行きたくないと言う
親御さんから知らせを受け、A君の個別指導をすることになった指導者は、まず、インターネットで恐竜について調べ、図書館で図鑑を見て準備をしました。
個別指導の日、初めて会ったA君は、緊張もせず、早速恐竜の話を始めました。
延々と続くその話を、指導者は決して遮ることなく、自分の得た知識を話すことも彼の話を訂正することもせず、楽しそうに頷き、時々A君が投げかけてくる「この恐竜知ってる?先生はどれが好き?」という質問に喜んで答え、その理由を尋ねられれば控えめに説明し、そうやって時間を過ごしました。
話題を共有できる相手と存分に話ができ、充実した時間を得られると、A君に精神的安定とゆとりが生まれたのです。
発達障害児は他人との良い関わりが不足しがちなため、補ってあげると元気になり、関わりかたを学ぼうとする気持ちも湧いてきます。
A君は視覚的に学ぶことが得意ですから、目の前の指導者の姿から、良い向き合い方や、応答の仕方を見て学びます。
1~2回でも効果が見られることもありますが、さらに回数を重ねればコミュニケーション力や社会性も伸びていきます。
大切なことは楽しい会話ができ、信頼関係を築くこと。
話し方や考え方を指導することではありませんから、くれぐれも
- 「知ってるよ、それはこういうことだろう」
- 「それは違うよ、正しくはこうなんだよ」
- 「もっと他にも興味をもつといいね」
- 「話し方を工夫したほうがいいよ」
- 「よく知ら無いからなあ、わから無いなあ」
- 「それはさっきも聞いたよ」
という答えかたにならないよう、気をつけて下さい。
親御さん、先生、療育の先生、誰かひとりでも、話を受け止め、良い応答ができる相手になってあげると良いですね。
学習を分かち合う
発達障害児と楽しい時間を過ごすことで指導者のラポールができれば、不思議なことに子どものほうから「学びたい」というサインを出してきます。
お子さんとの会話から、これまでに疑問に思ったこと、できなくて悔しかったこと、知りたいこと、やってみたいと思っていたこと、そんな言葉が発せられたらチャンスです。
「調べてみよう!」とインターネットで一緒に調べてみたり、どうやったらできるかを考えたり、一緒にやってみたり。
その時も、お子さんに主導してもらい、親御さんはサポートと聞き役に徹しながら、分かったこと、できたことを、共に喜び合うのです。
パソコンを使って、メモを作ったり、計算して確かめたり、誰かに説明できるように写真や絵を使ってまとめてみたり、様々に展開させることができます。
個別指導の時間と課題の量
小学校の授業は45分間です。
小学生なら30分~45分程度なら授業に参加できるだろうという目算から決められた時間です。
標準対象で考えた時間ですから、当然に20%~30%の子どもは、これに当てはまりません。
もっと長く集中できる子もいれば、とてももたないという子もいますが、それは子ども本人の責任でもなんでもないのです。
個別指導では多数派を意識することなく、個人の集中力に合わせて時間と課題量を調整し、学習スタイルを見つけることができます。
例えば、集中時間が短いADHDのお子さんには、短時間で回答できる課題を用意します。
太字で大きく一問だけ書いたカードを一枚ずつ出していくことで、次々と回答できる子もいます。
同じ紙に複数の設問があると、一問目を考えながら二問目に視線が飛んで混乱し、「どうして10問もしなくちゃいけないんだ!」と苦情を言い続けて、結局課題に取り組めなかった、ということもあります。
ましてや、小さな文字で埋め尽くされたA3の問題用紙を前にすると、「どれだけの時間、この面倒な問題をやらせる気なんだ!」と投げ出したくなるのはADHDに限ったことではありません。
こういうときには、問題を分割して、字を大きくして、何枚かに分ける、たったそれだけで、課題に取り組み易くなります。
課題に取り組み始めたら、以下の3点に気をつけてください。
- 回答をすることのみを念頭に置く(姿勢が悪い・字が汚い・おしゃべりをやめなさいなどと指摘しない)
- 課題が一つできたら褒める(よくわかったね、早かったね、丁寧にできたね等)>
- 「あなたと一緒に課題ができたことがとても嬉しい」という表情を見せる
ADHDの特性をもつ子どもは指導者の表情や言動には敏感なため、自分に好意的な指導者には好意を返そうと頑張ってくれるのです。
驚くことに、調子が良い時には、あっという間に何枚もの問題をやって見せてくれます。
ブレーキをかける
子どもが学習に興味を持つようになると、指導する側は、つい嬉しくなって更に広げ、深めたくなるものですが、ここで個別指導の大切な心得があります。
それは、短い時間で節目をつくることです。
集中力が短いお子さんであれば、10分から15分程度で一旦切り上げます。
もっとやりたいと言う子もいますが、その意欲を褒めながら少しだけ休憩をとるのです。
一緒に飲み物を飲んだり、少しだけお菓子を食べたりすることも良いでしょう。
子どもが不満そうであれば、「ごめんね、お母さん、ちょっとくたびれちゃったの。少しだけ休憩させてね」と言って、あくまでもこの時間が子ども主導であることに徹するのです(子どもが心良く、あるいは、しぶしぶでも認めてくれたら「ありがとう」と言って休憩をとります)。
この対応方法は、特にADHDのお子さんに効果的ですから、是非試してみてくださいね。
宿題を嫌がってなかなか取りかかれなかったお子さんも、翌日の宿題に積極的になりますよ。
まとめ
コミュニケーションや社会性の困難がある子、不注意や多動の困難がある子は、落ち着いて課題に取り組むことができず、もどかしさと苛立ちでいっぱいになってしまうのです。
そんな子どもたちですから、日頃から注意や指示されることが多く、繰り返し叱られてばかりです。
だからこそ、丁寧にお願いする姿、感謝する姿、詫びる姿を、誰よりも多く見せてあげてほしいのです。
その機会と時間を、できるだけ多く、子どもたちに贈ってあげてください。
良き理解者の指導者や親御さんなら、何度も何度も見せてあげることができます。
必ず、お子さんがその姿を返してくれる日が来ます。
そして「もっと勉強したい、教えて」と言ってくれる時が来ます。
楽しみに待っていてください。
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