「発達障害があるのに結婚なんて!」「障害があっても、チャンスがあれば結婚したほうがいい」と、当事者以上に発達障害者の親やきょうだいたちは、結婚の賛否について議論しているのではないでしょうか。
この記事では、発達障害のある弟と筆者ULAの、結婚に関してのやり取りをご紹介します。
「結婚すべき・すべきでない」と二元論で考えられがちな問題ですが、「結婚とはどういうものなのか」「結婚するとどうなるのか」「結婚しなかったらどんな将来になるのか」等、もっと多角的に捉えていく必要がある問題です。
この記事が、結婚後、出産後、親の亡き後など、様々なことを改めて考えてみるきっかけになれば幸いです。
発達障害のきょうだいと「結婚」の話に…どう対処する?
大事なのは、答えを出す過程
私は弟に対して「結婚したほうがいい」「結婚しなければダメだ」など、結婚願望を焚きつけることはしません。
それは、結婚とは健常者だって大変な思いをしてすることであり、どんな人でも、気軽に、安易に結婚するべきではないと個人的に考えるからです。
あなたはもしかすると、「障害があるから、結婚は無理でしょ」と思っているかもしれませんね。
確かに、現状で考えてみると、発達障害のある弟が結婚をするには難しいことが多いかなと思いますが、私は断定的に「結婚は諦めたほうがいいよ」といった言葉もかけません。
理由は、未来に何があるか誰にもわからないから。
ただ、いつか弟が結婚するかもしれないと考えると、今、考えるべきことはたくさんあるように感じています。
例えば、「結婚したらどんなことがあるのか」ということ。
こちらは健常者でも考えるテーマではないでしょうか。
ドラマや映画の中などでは、「私、A君にプロポーズされたの。でも、結婚しようか迷ってるんだ」というセリフを耳にすることがあります。
なぜ、迷うのか。
それは、結婚したらどんなことが起こるのか、そして、その発生する事柄が自分にとって本当に幸せなのかを考えるためですよね?
そして私には、発達障害のある弟が「結婚をして本当に幸せなのか」というテーマを「しっかり自分自身の力で考えられるのかな?」という心配があります。
未来を想像して検討することは、弟にとっては難しいことだと現在の彼を見ていて感じるのです。
私は、いつどうなるかわからないからこそ、一緒に悩むことをしてあげたいというスタンスを持っています。
結婚をする・しないの答えより、今、きょうだいがしてあげられることは「結婚ってどんなものだろう」「結婚したらこうなるよ」といった見通しを立てることや、悩んでいることをサポートすることではないでしょうか。
きょうだいは、同時代を共に生き、一緒に結婚を悩める身近な存在です。
次からは、実際にあったシーンを取り上げながら、どんなふうに私がサポートしているかご紹介します。
弟「彼女ができない!」
「なぜ、僕には彼女ができないんだろう」……そんなふうに、発達障害の特性を持つ弟は真剣に悩んでいます。
また、弟のこととは別の話ですが、私は面識のない発達障害の男性に、街で突然「結婚してますか!?」と尋ねられたことがあります。
彼もお嫁さんを探していたのだと思いますが、あまりにストレートなナンパにびっくりしてしまいました。
そういった経験から、発達障害者たちは、婚活のフィールド設定も難しいことなのかもしれないな、と私は感じています。
💬姉「彼女ができない人はたくさんいるよ」
私の場合、発達障害のある弟に「彼女ができない」と言われたときは「〇〇君も彼女がいないし、△△君も彼女いないじゃん」と、周囲の人の例を持ち出します。
おそらく、「彼女ができない!」というセリフの裏には「僕は彼女ができないダメな人間だ」「このままでは、ひとりで暮らしていかなければいけない、とても不安だ」という思いが隠れているのではと考えています。
そこで私は、まず、安心させる言葉をかけるのです。
自分がひとりではないことがわかれば、弟はひどく落ち込んだり、パニックになることはありません。
💬姉「彼女がワガママな子だったら、それって幸せ?」
弟が言う「彼女ができない」に対して、私は「彼女がワガママだったら、嫌でも付き合ってあげなきゃいけないことがあるよ。それでも我慢できる?」と伝えることがあります。
よく例に出すのは、食事でのシーンです。
ワガママな女性の場合、「私はお肉が嫌いだから、目の前でお肉を食べないで」という人もいるかもしれません。
ちょっと極端ではありますが、無いとは言えないシーンを想像させるのです。
すると、弟はお肉が大好きなので、「お肉を食べちゃいけないなんて、そんなの嫌だな」と、思うようになるわけです。
彼女ができたことのない弟は、彼女ができたら発生する色んなトラブルの対処法について見通しがつきません。
実際、恋人がいる人たちすべてが幸せなわけではありませんよね。
ギクシャクしてしまったり自分の気持ちが素直に言えなかったり、どちらかというと恋愛の多くは「つらい」ものも多いため、そのような側面を彼に教えるのです。
きょうだいである自分の体験から、学びを与えることもよいですよ。
💬姉「彼女と趣味が違うこともあるよ」
趣味が合うかどうかは、障がいのあるなしにかかわらず大事な相性のポイントですよね。
私の弟は、鉄道や旅行が大好きで、お肉が大好物です。
そんな弟に「もし、付き合った子が電車や旅行が嫌いだったらどうする? デートはいつも家の中っていう人もいるよ?」と聞いたことがあります。
週末の休みの予定は彼の生きがいでもあるので、もし、このサイクルが彼女によって壊されるとしたら、弟はストレスが溜まってしまうことでしょう。
「趣味が合わないのは楽しくなさそうだ」という想像をすることで、彼女は慎重に選ばなければいけないということを学んでもらうのです。
💬姉「デートにはお金がかかるよ」
「割り勘を断る女の子もいると思うけど、それでもいいの?」というと、彼はう~んと、考えてしまいます。
デートをするにはやっぱりお金がかかるもの。
ひとりだったらコンビニのおにぎりで済む昼食も、デートならひとりにつき最低でも1000円はかかるでしょうし、おごるとなったら、費用は2倍です。
私の弟はとても堅実なタイプなので、どんなに可愛い彼女ができたとしても「お金がかかる」のはかなりのデメリットなのです。
💬姉「彼女がいるからといって、必ず幸せではないよ」
時には身を削って弟に伝えることもあります。
「お姉ちゃんもね、昔彼氏がいたけど全然楽しくなくて別れちゃったことがあるよ」と、実体験を語りながら弟を落ち着かせるのです。
弟「今年こそ、結婚相手を見つけたい!」
世間では、婚活という言葉が一般的になってきました。
その方法も様々。
発達障害の特性を持つ弟も婚活を意識し始めています。
ここ数年、「今年の目標は?」というと「今年こそ結婚相手を見つけます」と言っています。
💬姉「もし、いい子がいたらお母さんやお姉ちゃんに教えてね」
「好きな子ができたり告白されたりしたら、家族に教えてね」と時折伝えるようにしています。
これまでも、弟が誰かに告白されることはゼロではありませんでした。
その度に、弟はきちんとその事実を話してくれました。
恋愛は健常者たちの世界でもトラブルになるもの。
私の家庭では、「両親やお姉ちゃんにはなんでも話す」ことをルールとしているので、恋愛に関することも「きちんと相談してね」と伝えています。
健常者の男女関係では、二人に任せておけばいいことも多いかもしれませんが、発達障害の特性を持つ弟は、きちんと考えて判断できるかはわからないのが現状です。
どれだけ好きな人ができても、言い寄られても、それは家族みんなで考える問題として弟に教えています。
💬姉「結婚せずに仕事を頑張る生き方も素敵なことだよ」
「今年こそ結婚」と意気込む弟に対して「人生で何が大事なのかは、自分で決めていいんだよ。仕事を頑張っているあなたもスゴく素敵なことだよ」と返すことがあります。
世間では一時期、結婚適齢期を過ぎても結婚していない人のことを「負け犬」と表現することがありました。
でも、実際そんなことはないですよね?
結婚したから偉いというわけでもないですし、仕事を頑張ることで色んな人を幸せにしている人もたくさんいますよね。
彼は結婚できないことに劣等感を抱いているので、「結婚していなくても、今のあなたは素敵だよ」と伝え、安心感を与えるようにしています。
💬「慌てるといいことがないよ」
衝動的な部分もあるからこそ、じっくり考える視点を与えるために「結婚は慌てないほうがいいよ」と伝えています。
私の周りでも、発達障害者が同級生の女の子に呼び出され、詐欺に遭うという事件がありました。
「借金があるの。明日までに100万円が必要なんだけど、必ず返すから貸してくれない?」と、可愛い女の子に言われ、トドメには「私、〇〇君のことがずっと好きだったんだ」と、色気で訴えてきたのだとか。
結局、「必ず返す」「〇〇君のことが好きなんだ」という言葉を信じて、彼は100万円という大金を渡してしまいました。
一般的には、その日に出会ってすぐに好きになるはずはないし、結婚の約束をすることもないとわかるのですが、発達障害者は「言葉をそのまま信じてしまう」ところがあるため、詐欺の危険性は伝えておく必要があります。
弟が「結婚が目標」という言葉を口にしたら、「女優の〇〇さん似の子が『ねぇ、お金貸して。貸してくれたら結婚してあげる!』って言ってきたらどうする?」といった感じでシミュレーションをするいい機会にしています。
ある意味、彼の発言をいい学びのチャンスに変えています。
💬「お姉ちゃんもまだ結婚してないよ?」
先程からちょこちょこと述べていますが、筆者である私もまだ結婚していません。
「順番的にはさ、お姉ちゃんが先なんですけど」というと、彼は「そ、そうだね! 弟が先に結婚しちゃいけないよね」と、一応気を使ってくれます(笑)
私は全く気にはしていませんが、もしかしたら、そんなご兄弟姉妹もいると思うのです。
色んな考えに触れる、ひとつの機会としています。
💬「婚活にはお金がかかるよ」
私は仕事柄、よく婚活の実態について調べることがあるのですが、とにかく婚活にはお金がかかるんですよね。
特に、男性は会費が高かったり、男性だけ入会金や月額料金がかかったりします。
その実態をそのまま弟に言うと、「婚活って、タダじゃないんだ」と、そこで初めて気づくのです。
節約家な弟は「婚活にはたくさんのお金が必要になるのかぁ」と、かなりテンションがダウン。
その変化は、家族が見ていてちょっと笑ってしまうほどでした。
ネット婚活だって、毎月数千円の月額利用料がかかり、しかも、メールをたくさん送りたい場合はポイントを購入して、追加で料金が課金されます。
これが結婚相談所になれば、月々1~2万円、お見合いをすればその席ごとにお金がかかったりして、何十万というお金が出ていくわけです。
「結婚は真剣に考えれば考えるほど、お金という経済的な問題もつきまとうのよ」というひとつの現実は教えなければと思っています。
弟「僕も結婚して子どもができたら……」
弟は、自分の子どもが欲しいそうで、「僕が結婚して子どもができたら、これを教えてあげる」といった考えを言うことがあります。
こんなときには下記のように対処しています。
💬「自分の子どもはもちろんだけど、お姉ちゃんの子どもにも同じようにしてね」
もしも弟が自分の子どもを授かれなかったときのことを考えて、「お姉ちゃんの子どもにも同じようにしてね」と伝えています。
発達障害のある弟は、自分が父となって、もっと貢献したい、貢献して喜ばれたい、ひいてはもっと自分に自信をつけたいと思っているため、「子どもができるかどうかはわからない」と、今断言するのは少し違うかなと思うのが私の気持ちです。
もしも弟が子どもを授かれなかったとしても、「あなたがいつも私たちにしてくれることは、とても役に立っているよ」と伝えるようにしています。
💬「おじさんとしても頼りにしてるよ」
「おじさん」という定義は広く、とても便利な言葉です。
いとこの子どもが生まれた際も「〇〇おじちゃん、まだ小さいから優しくしてあげてね」と言っていました。
「頼りになるほど頼もしい」と家族が思っていることを伝えたいので、私は弟が「結婚して子どもが生まれたら」というセリフを口にしたとき、ここぞとばかりに「おじちゃん、頼りにしてるよ!」と、声掛けをしています。
弟「結婚しなきゃダメだ!」
彼は「結婚しなきゃダメなんだ」とよく言います。
固定概念に縛られやすいのは発達障害のひとつの特徴ですが、やはりその裏には、「結婚しないと、一人前じゃないんだ」といった自分を肯定したい欲求を感じます。
💬「今は生涯未婚率も高く、独身でも幸せに暮らしている人がいる」
発達障害のある弟は数字で提示されると弱いところがあります。
調べたところ、生涯未婚率は男性で約23%、女性で約14%となっていました。
これは50歳まで一回も結婚したことがない人の統計で、30代前半で見ると約46%とかなり高くなり、40歳後半になるとやっと2割を切るのですが、それでも男性の未婚率は高いです。
弟は今30代前半ですので、2人に1人弱くらいの未婚率の世代。
この調査の結果を伝える(具体的な数字を挙げて伝える)と、「そうか、そんなに焦る必要はないのかな」と、彼は安心している様子を見せます。
💬「結婚できないのがダメなんて決まりはない」
「結婚できないとダメって思ってない? じゃあ、お姉ちゃんのこともダメな人だと思っているの?」そういうと「違うよ、違うよ!」と、否定します。
どこか、結婚していない人=ダメな人と思っているきらいがあるので、その点を突くとすぐに「そうか、別にダメじゃないか」と、思い直してくれます。
「法律でも結婚しない人がダメなんて書いてないよ」と、伝えると、「そうだね、書いてないね」と、ちょっと気持ちがおさまるようです。
弟と話していてわかった”弟ならでは”の結婚観
私が弟と話を重ねてきたところ、わかってきたのが発達障害のある彼独特の結婚観です。
ここでは、発達障害ならでは、弟ならではの、結婚に対する考え方をご紹介します。
少子化が気になる
「結婚したいのはなぜ?」と、私はかねてより色んな人にこの質問をしてきました。
例えば、世の中には結婚して幸せで仕方がないという話より、苦労や揉め事など、ネガティブな結婚にまつわる話も多いからです。
私は純粋に「絶対幸せになれるという保障もないのに、なぜみんな結婚したいのかな?」という点を疑問に思っていたのです。
そこで、弟にも同じ質問をしてみると、「日本は少子化だから、結婚して子どもをつくって、少子化を食い止めなきゃいけない」と答えたのです。
私「え? 少子化のために結婚するの?」
弟「ちゃんと、国の将来を考えなきゃいけないよ」
なるほど、私がまったく考えたことのない考え方を、発達障害のある弟はしていたのです。
私の場合は、「自分が幸せになりたいから」「色んなことを経験してみたいから」といった理由で結婚を望んでいましたが、弟は“出生率”や“少子化”のために結婚を考えていたと知り、びっくりしました。
しかし、それならそれで、やはり結婚にまつわるリスクを考えることは大切だと改めて感じました。
結婚したら、少子化問題は解決に一歩近づくかもしれませんが、一方で生活は一変することに弟が気が付いているのかどうか……、その点をフォローしなければと思いました。
結婚すれば趣味を諦めたり、自分で使うお金を家族のために使ったり、自分の自由よりも自分の子どもを優先しなければいけないこともあります。
さらに、少子化が問題なのは、将来的に国を支える人口が、国に支えられる人口を下回るからですよね。
稼ぎ手が減って、使う人が増えるから問題なわけで、それなら、個々がしっかり働いて稼ぐことでも貢献ができます。
そういった観点で弟に話をすると、「そうか、別に僕は少子化のために結婚する必要はないみたいだ」と思い直したようでした。
彼独特の考えに一石を投じたことで、最近は「結婚しないのもいいかもしれないね」と、弟は口にするようになりました。
結婚しないと一人前じゃない!?
大人になったから、30代に入ったから、やっぱり結婚しなくちゃ!という固定概念。
先程も取り上げましたが、この固定概念が強いところが、発達障害のある彼のひとつの特徴です。
確かに人間は男女が出会って妊娠し、出産し、生まれた子どもがまた子を産んで……という繰り返しで命を繋いできました。
でも、必ずしもそこに幸せが生じるかは、人それぞれですよね。
何かを得るには何かを捨てなければいけないのは現実なので、そういった一面が結婚にもあることを伝えるようにしています。
「別れ」があるかもしれないことを知らない
私の弟は一度もお付き合いをしたことがありません。
そのため、彼女ができたらそのまま結婚し、一生を添い遂げられると思っています。
そこで私は「実際には、付き合ってみて振られることもあるんだよ」と言うと、弟は「あー、そうなのかあ!」と驚きました。
「だって、世間では離婚する人も多いでしょう?」と言うと、「それ、忘れてた!」といった感じで返してくるのです。
彼は「離婚」というキーワードに敏感で、たとえそれが他人の家庭であっても、ドキドキしてしまうのだそう。
もし、自分の身にそれが起こったら、自分の両親が離婚したらというのをリアルに想像して、不安になってしまうようなのです。
彼の場合は「離婚は最悪の予定外の出来事」として脳にインプットされているので、「そうか、離婚する可能性もあるのか」と思うと、「結婚について、もう少し慎重に考えなければいけないな」と思い直してくれたのです。
女性との関わり方を教えることは大切
恋愛や結婚を具体的に考える前に、「女性との付き合い方」をしっかり考えることは大事なことです。
例えば、女性とのトラブルで挙げられるのが“セクハラ”の問題。
女性の身体に触れただけでそれが大きな問題になり、それが指先であっても、肩がポンっと当たっただけでもセクハラだと言われることもあり、事件になってしまうこともありますね。
大事に至らないためにも、私たち家族は女性との関わりについてはかなり弟に教えてきました。
弟は恋愛や結婚について考えるタイプであり、つまり、女性や恋愛に詳しくなりたいと思っています。
これは、全く関心のないタイプの人と比べると、事前にトラブルシューティングをしやすい環境にあったと思います。
女性とのデートや恋愛って、家族がお手本を見せながら教えるということができない事柄であり、「女性との関わり方」を教えることって、かなり難しいことなのではないかと感じているのです。
「お姉ちゃんのデートを見ながら、デートの作法を学びましょう」……なんてことは、まず、できないわけですよね。
しかし、弟の場合は恋愛自体に興味があるので、生活のちょっとした瞬間をデートの場面に置き換えながら、女性との関わり方について教えることができました。
例えば、家族で出かけたときに、お店にできている行列に一緒に並ぶことがありますが、弟は私たちに接近しすぎてしまうことがあるのです。
ここですかさず、「顔が近すぎて、びっくりしちゃう! 女の子とデートしていたら、ギャ!って叫ばれちゃうわよ」などと注意するわけです。
実際、他人の女性に接近しすぎてしまえば、痴漢等に間違われる可能性もゼロではありません。
「今は家族と一緒にお店の行列に並んでいるけれど、これがデートだったらどうだろう」「横にいるのが知らない女性だったらどう思うだろう」と想像させています。
好きな子に抱きついちゃう小学生時代
弟が小学生の頃は、好きな子に抱きついてしまう癖がありました。
いきなり抱きつくので女の子を驚かせてしまい、トラブルになることがしばしばあったのです。
この状態は中学生のはじめくらいまで続きましたが、「警察に捕まっちゃうよ」と辛抱強く教え続けたため、今ではそういったことは一切しなくなりました。
また、これは偶然ですが、弟は私の影響からか少女漫画を読むことが多い少年だったため、彼は少女漫画から「片思い」の存在を知り、片思いが成就しないことも学習したのです。
彼自身の「なんで抱きついちゃだめなの?」という疑問も、漫画の中から納得のいく答えを見つけていました。
小さな頃は「自分が好き=相手も好き」という自閉症の傾向が強かったので、相手の女の子に触らないで!などと拒否されて傷ついていましたが、少女漫画を読むことで、「人間関係って複雑で難しい」ということをシミュレーションするように理解できたのです。
確かに、弟が好きな女の子に抱きついてしまう現象は、「僕はAちゃんが好き=Aちゃんも僕が好き」という自閉症独特の思考回路に原因があったのだと思います。
少女漫画を読むことで、「自分は片思いをしているんだ」ということを理解し、「僕は漫画の中で主人公に振られてしまう〇〇君と同じなんだ」と例えるようになりました。
例えられることで、「恋愛は振られることがある」し、「片思いは誰でもありえることだ」という状況を納得できたのです。
乙女のように恋してしまう弟。
ふとしたきっかけで読んだ少女漫画に助けられるとは、私たち家族も思いませんでした。
実は、女の子を紹介されていた弟!
社会人になってから、弟は同僚の人(自閉症スペクトラム障がいのグレーゾーンの男性)から、お茶に誘われたことがありました。
そういう付き合いも大事かなと思って送り出すと、当日、知らない女の人が1人、同席したというのです。
よくよく状況を聞いてみると、同僚は弟に女性を紹介していたのです。
「まさか!」と家族は全員でびっくりしたのですが、発達障害の仲間内であれば、このようなことがあってもおかしくありません。
弟は紹介された女性にピンと来ることもなく、「ただ会ってきた」だけと捉えていたようですが、これがもし、お互い息が合って、こっそりデートをするようになっていたら……と思うと、少し心配になることがあります。
例えば、前述のような詐欺に遭うという可能性も低くないからです。
この出来事を通じて、「今回のように、知らない女性と出会うことがあったら教えてね」と、弟には伝えました。
大人になると様々な出来事が勃発しますが、その機会ごとに、学びの視点で対応していきたいと私は思います。
会社の忘年会にコンパニオン!?
ここ何年かは、仕事にも慣れて忘年会に参加することも増えた弟。
お酒を飲むのが好きなので、忘年会はとても楽しみにしています。
直近の忘年会では、初めてコンパニオンが派遣されて、女性がお酌をしてくれたとのこと。
男性の多い職場ならあり得ることかもしれません。
でも、例えば誰かひとりでも女性にセクハラじみたことをしてしまったら……、弟はどんな反応を見せるのだろうと、私は少し考えてしまいました。
「そんなことをしちゃダメだ!」と反論すれば、いくら正しくてもその場の雰囲気を壊してしまいますよね。
また、女性に色気で迫られるようなことがあっても、何かしらのトラブルに発展する可能性はゼロではありません。
考えすぎかもしれませんが、このような経験を通して、「コンパニオンの人が来たら、どんな対応をすればいいか」は、教えておく必要があると思いました。
「お酌をしてもらうのはいいけど、身体に触れたりするのは絶対にダメだよね」「もし、近づいてきたら、ちょっとトイレに行きますって言って逃げたほうがいいかもね」など、色んなケースを考えて対処法を家族で考えました。
発達障害者の親ときょうだいが「結婚」について話すこと
実はあまり、弟の結婚について、両親と私が話すことはありません。
それは「ちょっと感傷的な気持ちになる」と、どこかで思っているからかもしれませんが、それよりも目の前のことが山積みだからです。
私の家庭では、現実的にまずやらなければいけない話が中心になります。
もし弟が結婚することがあったとしても、おそらく周囲の人の手助けが必要なので、私たち家族は、結婚ではなく、彼の今後、親が不在となったときのことを優先に考えています。
「この子は結婚できないから」と言い切れば、それ以上、彼と結婚については考えないでしょう。
しかし、言い切らないのは、寂しさが漂うだけでなく、「いざ、結婚することになったら大変だから」です。
そんな考えを家族全員が共有しつつ、方向性としては、彼の老後についてを考えるようにするのが、私の家庭では習慣になっています。
大事な判断は家族がサポートする
親「将来、親がいなくなってひとりで暮らすことになったら、どうしたらいいかな?」
私「お金とか、生活に大きく関わる重大な判断はきょうだいが関わったほうがいいよね」
私と両親は、現状ではこんなふうに話しています。
私の実家は持ち家ですので、おそらく両親が亡き後も、弟はそこに住み続けます。
現在でもソーシャルワーカーなどの人たちの力を借りている弟。
おそらくこれが老後になれば、社会保障制度を利用しながら、生きていくでしょう。
でも、どんなにサポートを受けられても、弟が決定打を出さなければいけないことが出てきます。
そこで、最終的に手を貸すのは私たち家族です。
大事な判断を必要とするお金のこと、家や土地のことは、私たちきょうだいが必ず介入しないといけないねと、現状では考えています。
もちろん、今後はもっと障がい者のサポート制度が充実する可能性もあるので、利用できるものは利用しながら、トラブルがないようにサポートしていきたいと思います。
頼れる人、機関をピックアップ
私「親がいなくなったら、そのときは叔母さんや従兄弟なら、サポートはしてくれるかもしれない」
親「でも、あんまりハッキリ今から『よろしく』とは言えないから、そのときはソーシャルワーカーとか、支援団体なんかに頼ったほうがいいね」
最終的には人に頼らないといけないことは多々あります。
今の様子を弟に事細かに説明させることはできないため、誰かが代わりに、今の現状を伝えてくれないといけないのです。
私はおそらく、今後も弟と一緒に暮らすことはないでしょう。
暮らしたくないわけではありませんが、弟の仕事のこと、私の仕事のことなどを考えると、一緒に暮らすことはあまり現実的ではありません。
今、私がしていることは、地元の同窓会になるべく参加するということです。
私たちは、私が大学進学で上京するまで同じ家に暮らしていました。
そして、旧友たちも故郷の周辺に暮らしています。
もし、万が一のことがあったら、真っ先に私はその同級生たちに声をかけようと思っています。
「少しだけ、家をのぞいてきてほしい」
それだけでも、遠くに暮らす私にはとても助けになります。
なかなか忙しく、距離もあることから参加するのは大変です。
しかし、なるべく同窓会に参加して、今の弟の情報なども共有しつつ、いざというときに頼れる人を見つけておこうというのが私の考えです。
もしかすると、障害を持つ家族のことを他人に頼るなんて……と、思っている人もいるかもしれません。
しかし、知ってもらうことで理解も深まると私は考えています。
昔からの地元の人間であれば、ある程度信頼できるかどうかもわかります。
故郷を離れたきょうだいでも、弟に対してできることは何かな? というのが、今の私にあるひとつのテーマです。
きょうだいが今できることとは?
障がい者の当事者が結婚するしないにかかわらず、きょうだいが今できることについて、こちらにまとめます。
今のうちから発達障害について勉強しておく
突然「発達障害ってなんだろう」と勉強するのは難しいものですよね。
親から共有してもらったり、本を読んだりテレビを見たり、方法はなんでもいいので、早いうちから発達障害に詳しくなっておけば、いざ、親がこの世を去ったときにも、慌てずに済むのではないかと私は思います。
今では、自治体でも発達障害の理解を深めるためのセミナーなどが開かれています。
全国各地で困っている人が続出しているので、探せばどこかで、セミナーや親が集う会、きょうだいの会などが開催されています。
(参考ページ:【発達障害について考える】セミナーへの参加について【家族向け】)
ネットでも書籍でも、たくさんの情報が手に入る今、私も日々、学んでいきたいなと考えています。
特に発達障害という分野は、まだまだ未知なことが多い分野です。
新たな発見が毎年のようにあり、専門家は知っているけれど、家族にはまだ広まっていない知識などもたくさんあります。
常に学んでいき、情報をアップデートしていくことが、発達障害においては重要です。
他の発達障害の人、きょうだい、家族のケースを知っておく
発達障害とひとくちにいっても、十人十色です。
当たり前と思っていた発達障害の特徴が、実は稀なケースだった、ということもゼロではありません。
なるべく色んなケースを知っておくと、「もしかしたら、本で読んだ〇〇さんのケースのように、うちの弟も△△に困っているのかもしれない」と、気づきにつながるかもしれません。
ちょっとしたコミュニケーションの意思疎通がうまくいかないときにも、他の家族のケースを知っておくと参考になることも多々あります。
私の場合は仕事やボランティアなどを通して、発達障害の子に多く触れたいと活動していたことがあります。
弟以外の発達障害の子に出会った数は、数十名程度。
多くはありませんが、弟ひとりから得た知識よりは、少し違う視点も含めて、多角的に捉えられるようになったと思っています。
発達障害のきょうだいが所属する団体などにも詳しくなっておく
発達障害者や保護者が所属する団体が日本にはたくさんあります。
もし、自分のきょうだいや身内が所属していれば、その会の活動内容を、将来的には引き継ぐとも限りません。
きょうだいがその会に参加することは多くありませんが、どんな活動をしているのかなど、少しでもいいので知っておくと安心です。
もし所属していないのであれば、将来的には所属しておいたほうがサポートになる場合もあります。
地域に属している会であるほうが良いので、「発達障害 団体 (地域名)」「発達障害 会 (地域名)」などとネット検索してみてください。
「〇〇県自閉症協会」などと検索してみても、いいかもしれません。
そうすれば、地元に関係のある支援機関が見つかります。
また、「兄弟姉妹の会」「自閉症児のきょうだい支援」「きょうだい会」といった検索ワードでも、あなたをサポートしてくれる機関が見つかるかもしれません。
まずは調べてみて、いざという時、自分の身近にどんな団体があるのか調べておきましょう。
頼れる相手、機関を知っておく
緊急時に頼れる相手は誰なのか、どんな機関なのかを知っておくようにしてください。
私の弟の場合は、緊急時用のカードを用意していて、何かあったときにはそれを周囲の大人に見せることにしています。
内容としては、「私は発達障害があります。対応できないことがあるので、こちらに電話してください」などと書いてあります。
発達障害は、一見障害があると認識してもらえないこともあるので、カードを見せるだけで相手に知ってもらえるのはとても助かります。
自治体や都市によっては、ヘルプマーク、サポートカードなどを配布しているところもあります。
(参考ページ:発達障害児(者)に「ヘルプマーク」の所持をオススメする理由)
まだ利用していないのなら、自治体に尋ねておくとよいでしょう。
きょうだい自身の結婚
発達障害を持つ弟の結婚だけでなく、きょうだいである私の結婚にも触れておきたいと思います。
まだ結婚していない私ですが、すでに婚約はしており、近い将来は結婚する予定です。
しかし、ここにくるまで、私はかなり人を選びました。
実は、結婚だけでなく、友人についてもかなり選んでいます。
例えば、私は人に出会ったら、隠したりせず必ず「弟は発達障害だ」となるべく早めに伝えるようにしています。
伝えた相手は様々な反応を見せ、中にはとてもうれしい反応も、嫌な反応もありました。
「なにそれ? なに障害?」「今の医学なら治るんでしょ」「え、大丈夫? (なんか重そうな話題だなぁ)」「そうなの? 弟さんはいくつ?」といった感じです。
私としては、発達障害のことを触れないようにしてくる相手とはまずNOです。
「重い」「暗い」「哀れ」といったキーワードが漂った瞬間、その人とは付き合うどころか、下手をすればお友達にもなれません。
高校生や大学生の頃、周囲は「面白い人が好き」「かっこいい人が好き」「お金持ちな人」と、漠然とした恋の話に花を咲かせていましたが、私は一貫して「弟のことを伝えても平気な人」と、心の中で思っていました。
私自身も傷つきたくないし、結婚後に気まずくなったり、自分の両親やきょうだいたちを不幸にしたくもありません。
でも、こだわり抜き、色々と選んできた結果、私は納得のいく幸せな方へと自然と導かれた印象を持っています。
もし、きょうだいがネックとなり結婚を迷っているなら、慎重に慎重を重ねて、考え抜いてみてください。
うやむやにしてしまうと、あとで後悔してしまうことになるかもしれません。
まとめ
今、恋愛をしている、していないにかかわらず、発達障害者の結婚に対して賛否を示すことは、そんなに大切なことではありません。
恋愛や結婚だけにとらわれず、健康で毎日仕事をするにはどんな生活をすればいいのか、人とトラブルを起こさないためにはどんなことを知るべきなのかなどを、発達障害者の家族は考えるべきだと私は思っています。
それが彼らの生活のベースになるのですから、ベースを支えるための取組はし続ける必要があると考えています。
結婚することで、健康や仕事に悪影響が出るなら考えたほうがいいかもしれませんし、結婚することで趣味を一緒に楽しめるなどのメリットがあるなら、してもいいでしょう。
もしも発達障害の特性を持つきょうだいに結婚したい人ができた場合、自分ひとりで判断せず、必ず家族に相談してもらうようにすると安心ですね。
健常者も結婚について改めて考えることは少ないので、一緒に結婚に対して哲学していくいい機会にすると良いのでは? と、思います。
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