【amazon評価】★★★★★★
著者は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科医師です。
発達障害への薬漬けの現状に対して、必要以上に薬を飲ませることはしたくないという立場をとっておられます。
第1章は子どもに薬を使うことの問題点を取り上げています。
第2章ではこころの健康をつくる生活習慣、第3章では自律神経と睡眠の関係、第4章では子どもを伸ばすために親ができることを紹介しています。
第5章は「なぜ発達障害の子どもが増えたのか?」というテーマです。
「薬を飲めば発達障害が治る」と考える人もいるようですが、本書ではそういった意見に対して堂々と反対意見を述べています。
確かに、衝動性や興奮を抑えるといった効果を持つ薬が子どもの特性に合わせて用いられることもあります。
しかし、それ自体は症状を抑えているだけで根本的な改善にはなりません。
また、自閉症スペクトラム障害を治す薬はありません。
そういう事実を、医師としてきちんと説明してくれているので説得力があります。
本書の魅力は、著者である先生が本当に誠実に真摯に発達障害児の診察と治療に関わってこられたことがわかる点です。
単に「薬は使わない」というだけでなく、薬に頼らず、良い生活習慣を送ることの大切さを提言されています。
特に興味深いのは、適切な睡眠時間や良い睡眠のとり方について詳しく解説してくれている点です。
発達障害の対策本というと、たいてい発達障害の特徴、よくあるトラブル、その対応策などが列挙されているものです。
この本のアプローチ法は全く違います。
生活習慣の乱れによって、発達障害の特性による困りごとが悪化する可能性がある、ということに注意をひいています。
そのうえで、睡眠の習慣をどうしたら改善できるのか、具体的な方法を説明しています。
第4章もおすすめです。
ここでは発達障害を「病気」や「障害」と考えるのではなく、「個性」としています。
さらに、発達障害と診断された場合、それをカミングアウトするかどうかという微妙な問題にもかなり切り込んでいます。
周囲に知らせない場合は、どうやって対応していくかというヒントも示されています。
子どもによって特性や症状には違いがありますので、カミングアウトするかどうかを考えている親御さんには参考になるのではないかと思います。
本書の内容は、他の発達障害関連の本とかなり異なるので、少し戸惑いがあるかもしれません。
読んだ内容を家庭で実践していくのもかなり難しそうだと感じました。
でも、著者の研究と観察に基づいた理論には納得がいきます。
最後の章では、著者から発達障害を持つ子どもと親御さんへの力強いエールが送られています。
いろんな人にぜひ手に取って読んでいただきたいお勧めの本です。
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