検査を受けて知的な遅れがないことが分かっているのにも関わらず、勉強でつまずき、学校の授業についていけずに困っている発達障害児はたくさんいます。
その勉強のつまずきは、もしかしたら本人の力ではどうにもならない、発達障害特有の【見え方】に原因があるのかもしれません。
勉強のつまずきの原因が見え方の問題である場合、個人にあわせた学習支援を家庭や学校で受けることで、状況が改善することがあります。
ここでは、発達障害児達によく見られる、勉強のつまずきのパターンやその原因について説明します。
見え方の特性を理解した上で、学校や治療機関と連携して効果的な学習支援を行うと良いでしょう。
発達障害児の勉強のつまずき
勉強でつまずいてしまう原因は様々ですが、中でも知的障害ではないのにも関わらず勉強ができない場合、保護者や先生がその子のつまずきの原因に気付きにくく、解決が遅れてしまうこともあります。
発達障害の特性が原因の勉強のつまずきは、どんな年齢の子どもにも起こり得ます。
解決の糸口になる点
- 子どもが勉強する上でどんな場面で困っているか?
- どんな種類の勉強を苦手としているか?
発達障害児の勉強のつまずきやすいポイントと、その原因についてみてみましょう。
また、体育や図画工作などに及ぶこともありますが、ここではすべての教科の基礎となる読み・書き・計算についてフォーカスします。
「読む」ことが苦手
発達障害児が音読を苦手とする理由は、登場人物の気持ちを理解することが不得意であることや、言葉のまとまりをつかむことが苦手であるなど様々です。
原因のひとつに「選択的注視力」という、見る力の弱さが挙げられます。
即ち、文章を集中して読む力が弱いことが原因で起こるつまずきです。
音読を苦手とする子どものつまずきポイント
- 文字を読むのに時間がかかる。
- 行を飛ばして読む、同じところを読んでしまう。
- 読み間違いや、文末の言葉を変えて読んでしまう。
「書く」ことが苦手
発達障害児が書くことを苦手とする理由は、姿勢を保つことや筆圧をコントロールすることが難しかったり、「見る」と「書く」など同時に物事を並行して行うことが苦手であったりするなどと様々です。
原因のひとつに「視覚情報処理」という、見る力の弱さが挙げられます。
即ち、目で見たものを記憶し、見ることで得た情報を脳で処理するという機能に問題があることで起こるつまずきです。
書くことを苦手としている子どものつまずきポイント
- 鏡文字を書いてしまう。
- 漢字や平仮名、数字、アルファベットを覚えることが難しい、また、覚えても忘れてしまう。
- 文字がマスからはみ出したり、形が整わない。
- 黒板を写しとることが苦手。
「算数」が苦手
発達障害児が算数を苦手とする理由は、数の概念を習得することが難しかったり、計算が苦手であったり、注意力や記憶力に弱さを抱えていたりするなどと様々です。
図形問題や筆算でつまずいてしまう原因のひとつに「視覚情報処理」という、見る力の弱さが挙げられます。
中でも「視空間認知」という、【目で見た映像を形や図としてとらえる力】が十分に機能していない可能性があります。
算数を苦手としている子どものつまずきポイント
- 筆算で桁を揃えてノートに書き、計算することが難しい。
- 計算はできるが、文章題になると理解することが難しい。
- 図形の問題が苦手・書くことが苦手な図形がある。
知的な遅れがないのになぜ勉強できない?
発達障害児の【見え方】の特性
保護者や教師の目から見て、発達障害児の学習のつまずきが【見え方】によるものなのかどうかはなかなか判断がつきませんが、子どものつまずきのパターンを把握することはできます。
どんな場面で困っているのか、何を不得意としているのかチェックをした上で、医療機関と療育機関に相談しましょう。
学習面でつまずきがある場合以外に、ものを見るときに次のような特徴がある場合も必ず目の専門家へ相談します。
- 読むときに目を細める仕草がある。
- 読むときに目をこする仕草がある。
- 読むときに頭を傾ける仕草がある。
- 読むときに片目を瞑る仕草がある。
医療機関に【見え方】について相談すると、まず眼科医に目の疾患を抱えていないかどうかを調べられます。
目に疾患がなく、見え方に問題があると判断された場合は、視覚の専門家から「視覚機能検査」を受けることもできます。
視覚機能検査で見え方に問題があると判断された場合は、ビジョントレーニングを受け、見る力の訓練を勧められます。
現在、視覚機能検査を受けることのできる施設やビジョントレーニングが受けられる施設は数が限られており、検査予約をとることが難しい施設がほとんどですが、見る力の弱さを突き止め、ビジョントレーニングを行うことで、見え方や学習面のつまずきが改善される場合もあります。
視力だけでない【見る力】
【見る力】には、視力だけではなく色々な機能があります。
✓【見る力】を大きく分けると…
- 目から入る情報を取り入れて脳に送る「入力機能」
- 目から取り込んだ情報に反応して体を動かす「出力機能」
- 目から入ってきた情報を分析し、理解する「視覚情報処理機能」
視力は「入力機能」のひとつで、視力を測るだけでは【見る力】全体を把握することはできません。
人間は外部の情報の全体の約8割を視覚から得ているので、見る力の不具合は私達の生活に大きな影響を与えてしまいます。
【見る力】と勉強の関係
学習と【見る力】の関係についてもう少し説明します。
見る力に問題がある場合、見たものを正確に把握することが難しいため文字や図形の形がとりにくくなります。
文字や数字を見間違えたり書き間違えたりすること、そして図形をかく作業が難しくなります。
また、2つのことを並行して行う同時処理は視覚的な情報処理機能を使っているため、見る力の不具合はその点でも影響を及ぼしてしまいます。
見る力が弱い子ども達の多くに、学習面のつまずきが見られるのはそのためです。
学習支援とは
発達障害特有の見え方が原因で学習障害が出ている場合は、ビジョントレーニングと並行して、家庭と学校で適切な学習支援を行うことで、学習の問題が改善されることがあります。
特に、親御さんがが行う学習支援はとても大切で意義があります。
学習以外の子どものケアで親御さんが手一杯の場合は、専門家からアドバイスをもらいながらできる範囲で学習支援をはじめてみましょう。
学習支援をしないとどうなるか
学習支援をしないまま学習面のつまずきをそのままにしていると、子どもは勉強についていけないだけでなく、様々な問題に巻き込まれる可能性が高くなってしまいます。
子どもは「自分は勉強が他の子と同じようにできない」「自分は頭が悪いんだ」と考えるようになり、次第に自尊心が低下していきます。
周囲からは「努力が足りない」「怠けている」といると白い目で見られることも多く、いじめや不登校、うつ状態に陥るなど、二次的障害につながっていくケースが少なくありません。
二次的障害は思春期以降に現れることが多いため、学習面のつまずきに気がついたら、早めに支援を開始して継続することが大切です。
学習支援のコツ
見え方に問題を抱えている子どもの学習支援をするときは、子どもの情報処理の特性を考慮することが大切です。
「子どもが勉強で困らないようにしてあげたい」という思いから、つい感情的になってしまったり、支援の過程で子どもを叱ったり急かしてしまったりしてしまうかもしれません。
しかし、子どもは叱られたくないという思いから、勉強そのものを嫌いになってしまうことがあります。
親御さんは先を急がず、小さな目標を立ててクリアしていくスタイルを作り、家庭での学習を見守ると良いでしょう。
学習支援の注意
家での家庭学習は、子どもが苦手としている課題を中心にこなすスタイルになりがちです。
しかし、苦手な課題をたくさんこなすこと自体が、子どもの身体にも心にも大きな負担となってしまう場合もあります。
必要であれば学校の先生に相談しながら子どもの様子を見守り、苦手学習の量を減らすことも親の役割となります。
また、学習を含めて、家庭の中で子どもにかんしゃくや暴言、自傷行為などの異変を感じたら、発達センターや医療機関にすぐに相談をしましょう。
専門家でないと見過ごしてしまうサインかもしれません。
家庭内ですべてを抱え込もうとせず、普段から学校・病院・行政それぞれに相談し、連携しておくことが大切です。
家庭でできる学習支援
具体的に家庭でできる学習支援のポイントをご紹介します。
読むことが苦手な子どもへの支援
- 音読が苦手な子は、大人が読み、読んでいるところを子どもに指で追わせる作業をしてみましょう。
- 音読に入る前に、あらかじめ教科書のまちがいやすいところに印をつけておきましょう。
書くことが苦手な子どもへの支援
- あいうえおや漢字の一覧表を机の上におき、文字を忘れてしまったときにいつでもチェックできるようにしておきましょう。
- 書き取りには、補助線のはいったノートを用意しましょう。
- 書き順がわかる発達支援用のアプリを活用しましょう。
- 間違えたところがあっても、一部でも上手くかけたところをみつけて褒めてあげましょう。
算数が苦手な子どもへの支援
- 子どもに問題を読ませたら、言葉での説明を付け加えるようにしましょう。
- 計算の手順カードを準備し、確認しながら作業できるようにしましょう。
- おはじきやものさしなど数の概念を確認できるものを準備するようにしましょう。
学習支援に役立つグッズ
見え方に問題を抱えている子どもたちをサポートするために、工夫された便利なグッズがあります。
子どものつまずきポイントにあわせてグッズを使うことで、混乱を軽減したり、学習に集中しやすくなったりする効果がみられることがあります。
発達障害児を育てる家庭で評価の高いグッズをいくつかご紹介します。
📖デイジー教科書
小学校・中学校で使用している教科書には、文字を読み上げる機能や、読んでいる所にハイライトをあてて目立つようにする機能のある「デイジー教科書」というものがあります。
デイジー教科書は、タブレットで利用することが可能です。
デイジー教科書を使うためには次のサイト(※現在のところボランティアによる作業で作成されており、未対応の教科書もあります)で使用申請が必要です。
☝http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html
📖リーディングスリット
リーディングスリット(またはリーディングトラッカー)とは、読むことが苦手な子どもが読んでいる行を集中して読めるよう、親御さんの行の文字を隠す補助具です。
市販のものもありますが、クリアファイルにスリットをいれて自作することもできます。
色々な幅のものを用意して、文字を読むときはいつでも使えるように準備しておくと良いでしょう。
📖カラーマスノート
カラーマスノートは、字のバランスが悪い子どものために開発されたノートです。
字を書き込むマスが4色に塗り分けされていて、部首をどこに配置するのかお手本を見て、確認しながら書く練習ができます。
下記5種類が販売されています
- 「いちねんせいのかんじ」
- 「カタカナれんしゅう」
- 「ひらがなれんしゅう」
- 「小学二年生のかんじ」
- 「れんしゅうちょう」
☝http://ddcl-learning.com/news/20161007-2/
家庭以外で受ける学習支援
学習支援は家庭以外でも受けることが可能です。
以下、「学校」「療育施設・医療機関」それぞれの説明を書いていきます。
学校
担任の先生に子どもの障害の特性を説明し、合理的な配慮を求めることはとても大切なことです。
支援の内容は保護者と担任の先生、通級の先、スクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーターと連携して話し合って決めます。
合理的配慮の内容は様々で、下記のように多岐に渡ります。
- 板書に使うチョークの色をはっきりした白や黄色にしてもらう。
- 音読をクラスでするときは長さを短めにしてもらう。
- 書き取りの量を加減してもらう。
- 授業での支援グッズの持ち込みを許可してもらう。
療育施設・医療機関
発達センターや病院で働く作業療法士からも支援を受けことができます。
作業療法士は子どもの様子を観察し、学習がしやすくなるようにオーダーメイドで手助けをします。
姿勢の矯正や身体の使い方、机や椅子の高さなど学習環境の見直しなど、色々なアプローチで課題の解決に向かって支援をしてくれます。
また、作業療法士は子どもだけでなく、保護者の相談にも応じてくれます。
最後に
ここまで発達障害特有の見え方のせいで、勉強でつまずいている子どもに対してどのような支援をしたらよいかについて説明してきました。
子ども達は日頃、見えにくいというストレスにさらされた上に、勉強ができないという負い目を感じて生活しています。
家庭での学習支援はなかなか成果がでないこともありますが、お子さんの頑張りを認めてあげながら支援を継続させていきましょう。
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