「なかなか勉強にとりかかることができない」「勉強していても続かない」「勉強の仕方がわからないようにみえる」など、ADHDの子どもを育てていると、度々学習の取り組みが難しい場面に遭遇しますね。
なかなか勉強にとりかかる姿勢がみられない子どもに対して、「勉強は?」「宿題はやったの?」と毎回保護者が注意をすると、子どものやる気はそがれ、保護者の負担も大きくなり、悪循環を引き起こしてしまいます。
では、どのようにすればよいのでしょうか?
ADHDの子が勉強に取り組みやすくなるためには、「集中できる環境を用意する」ことが重要です。
また、集中できる環境は子どもによっても異なりますので、子どもに合わせて環境を整えることが必要となります。
例えば、以下のような方法があります。
- 活動している間に勉強にとりかかる
- 机や椅子を工夫する
- 勉強する時間を視覚化する
- 勉強に取り組む時間を決めて習慣化する
- 勉強に取り組んだらほめる・認める
- 具体的な勉強方法を示す
- 専門機関に相談する
今までの学習環境・方法では上手くいかなかったケースでも、環境を変えたり、サポートの仕方を少し工夫したりするだけで勉強に取り組みやすくなるかもしれません。
ぜひ、参考にしてみてくださいね。
勉強にとりかかることが難しいケース
ADHDの子どもの中には、勉強ができる・できない以前に、勉強を開始すること自体が難しく、勉強を行う体制に入れないというケースがあります。
- 集中が途切れてしまい、ぼーっとしている。
- 他のコトやモノが気になってしまい、勉強を始めることができない。
このようなケースの場合、学習の進めかた以前に、勉強にとりかかることを促す必要があります。
実際に、勉強にとりかかるために有効な方法を考えていきましょう。
エンジンがかかっているうちに勉強する
ADHDの子どもの特徴
- スイッチが突然入ったかのように動き始める
- 興味のあることには素晴らしい集中力を発揮するが、興味のないことでは集中が続かない
- 無気力
ADHDの子には上記のような特徴があるため、常に一定のペースで同じ出力で活動を続けることを苦手としています。
エンジンが急にかかったと思えばすぐに止まってしまう、止まったらなかなか動き出せず、活動や感情を丁度良いペースで持続しにくいのです。
一度エンジンが止まってしまうと、次の行動になかなか取りかかることができません。
エンジンがかかっているうちに、次の行動に上手く移ることが必要なのです。
また、勉強にとりかかれない子どもの多くが「勉強にそれほど興味を見出していない」ことを理由に挙げています。
エンジンが止まってしまえば、興味を持てないことに取りかかることはより一層難しくなりますよね。
学校から帰ってきて一息ついてしまうとエンジンが止まってしまうので、帰ってきて手洗いうがいをしたら、エンジンがかかっているうちに机に向かうように誘導するとよいでしょう。
そして、「帰ってきたら勉強をする」ということを習慣づけることが大切です。
朝のほうが取りかかりやすい子どもの場合は、「朝起きてからの勉強」を習慣づけするとよいですよ。
勉強する時間を決める
毎日、勉強をする時間を「○○時から○○時」と決めることも有効です。
「時間が空いたら勉強をする」というような、臨機応変な対応を苦手とするADHDの子は多く、また、時間に計画性を持って行動することが苦手なので、「今、時間が空いている」という感覚が持てない子どももいるでしょう。
親も毎日「今、時間があるから勉強しなさい」では疲れてしまいますよね。
「○○時から○○時は勉強の時間」と決めて親子のルールにすることで、親も「何時だから勉強の時間だよ」という声かけだけで済み、親子ともに随分と楽になりますよ。
習い事などの関係でどうしても毎日同じ時間に勉強時間をとれないときには、一週間分のスケジュールをはり出して、目で見て確認できるようにしておくこともよいでしょう。
縦軸に時間をとって棒線グラフのように勉強する時間、習い事の時間など、色分けしておくとよいですね。
あまりにたくさんの色を使いすぎると、目移りしてどの色が大切なのかがわからなくなってしまうので、一番知らせたい時間とできごとをメインに考え、2色ぐらいまででおさめるようにしましょう。
勉強をしたらごほうびがある
勉強をしたら表にシールを一枚貼ることができる、20枚溜まったら特別のシールを一枚貼れるなど、目的を達成したらごほうびがもらえるようにするのもよいですね。
ただし、高学年ではシールがもらえるといってもモチベーションにはなりにくいので、高学年の場合は勉強を毎日行うことを習慣化することが現実的でしょう。
毎日勉強をしたら「えらいね」「すごいね」と親が勉強している子どもを認めること、ほめることも、子どもにとっての一番のごほうびになりますね。
勉強をするときの集中が続かないケース
勉強にとりかかりはするものの、すぐに集中が切れてしまう、手遊びをし出したり、ぼーっとしたりして手が止まってしまうなど、集中が続かないケースでは、机や椅子を工夫することや勉強する時間をあらかじめ決めておく方法が有効なことがあります。
勉強する環境を工夫する
ADHDでは目に入るもの、耳から聞こえるものなど、周囲に置いてあるものや音などの刺激がすべて同じボリュームで頭の中に入り込んでくるので注意がそれやすくなります。
勉強する環境を注意がそれにくいように整えることはもちろんなのですが、勉強に集中しやすい姿勢をつくるための環境も必要です。
■ 机の上にはものを置かない
子どもの机の上は物置になっていませんか?
本棚や引き出しがたくさんある机は、親からすれば省スペースで収納が充実しているよい机ですが、必要ないものまで溜めこんでしまい、勉強のたびに引き出しや机の上のものを触ってしまって勉強が進まないという事態を招きがちです。
机の上には何も置かず、学用品置き場を別に設けることが理想ですが、スペース的に難しい場合も多いでしょう。
せめて、勉強に関係ないものは置かないというルールは設けたいものです。
学習に関係ないものが筆箱の中に入っていることや、鉛筆が持ちにくいくらいに短くなっていても放ったらかしのことも多いので、筆記用具は学校の筆箱を使い、筆箱の中身のチェックも毎日できるようにするとよいですね。
■ 両サイドを囲う
周囲から入ってくる刺激を減らすことも大事です。
そのために
- 両サイドに衝立を置いて視野を遮る。
- 目の前を壁にするなども有効。
個別指導塾や図書館で使用されている前面と両サイドが囲われた机を選択することもよいですね。
椅子は入り口が見える位置に配置することもおすすめします。
入り口を背にして配置すると、入り口から人が出入りする気配が気になってしまいます。
■ あえて勉強机を設けない
ひとつの場所に落ち着けない子どもの場合は、あえて机を設けないという方法もあります。
- リビングのテーブルの好きな場所にその都度座って行う。
- 簡単に持ち運べる机を好きな場所に移動させて勉強する。
そのときに注意したいことは、テレビは消して、興味のあるおもちゃなどが目に入りにくい場所を選ぶことです。
おもちゃを出しっぱなしにせず、目につかないように収納することもおすすめです。
■ 姿勢が保ちやすい椅子を選ぶ
ADHDの子どもは体幹の筋緊張が低く姿勢を保ちにくいため、学校でも先生から「姿勢を真っすぐに正しましょう」と注意される子どもが多いです。
- 据え置きタイプの椅子のほうが姿勢は安定しやすい
- 学習机とセットになっている椅子は、コマ付きの回転いすがほとんどです。
- 勉強の合間にコマ付きの椅子でクルクル回ることが子どものストレス発散になるという意見もありますが、子どもがクルクル回ることに集中してしまい、勉強に集中できなかったというケースもあります。
- ストレスになるくらい長く座る必要はなく、勉強できる姿勢に近づけられる椅子が必要。
- 足は床に着いたほうが姿勢は安定しやすい
- 椅子の座面の高さが変えられるものがおすすめです。
- 足台を置くという方法もありますが、簡易な足台だと簡単に動いてしまうので、蹴って転がして遊んでしまい、勉強に集中できないケースもあります。
また、お尻の形に合わせて掘られた、骨盤と体幹をサポートできるようなクッションも発売されています。
学校の椅子や食卓の椅子などのシンプルな据え置き型の椅子に乗せられるものなので、姿勢保持を促すことのできるクッションを活用する方法もおすすめです。
リハビリの現場では骨盤をサポートする姿勢補助装置やお尻が前へ滑ることを防ぐすべり止めマットなども用いられることがあります。
- 座ってしまうとどうしても机にもたれかかってしまう
- お尻が前に滑ってしまうなど姿勢の崩れが著しい
このような時は、立った姿勢で勉強を行うことが有効な場合もあります。
座る姿勢に比べて、立つ姿勢の方が骨盤が起きた状態となるので姿勢を保ちやすく、筋肉の緊張が保たれやすいので短い時間であれば集中しやすいというメリットがあります。
ただし、身長に合ったスタンディングテーブルの準備が必要となり、座る姿勢よりも早く疲れるので長時間の作業には向きません。
■ 触っていると落ち着くものを用意する
ADHDの子どもの場合、じっとしていられない、もそもそと身体が動いてしまうことが常の姿勢のとりかたである子どももいます。
外国では、自転車をこぎながら勉強できる机が開発されたというニュースもあり、身体を動かしているほうが集中できるという子どももいるのです。
現実的に家に自転車付きの机を用意するのは難しいものがありますが、「これを触っていれば落ち着く」という刺激を与えられるものを用意する方法があります。
例えば・・・
- 人工芝を足元に置いて足をスリスリすると落ち着く
- 紙やすりのようなザラザラしたものを机の裏に貼り付けて指で触っていると集中しやすい
- 机にひもを貼り付けてひもをずっと触っていると授業に集中できた など
ブロックやボールなどを触っておくという方法で成功しているケースも聞きますが、触るものは基本的に机や床から離れないように固定できるものがおすすめです。
トゲトゲのついたボールなども試したことがありますが、ボールを足で転がしているうちにだんだん動きが大きくなり、ボールがどこかへ転がって行ってしまったり、椅子から落ちそうになったり、姿勢が大きく動きすぎて集中が途切れてしまうケースがありました。
ADHDの子どもは物を失くすことも多いですが、机や椅子に固定しておくとなくす心配もありません。
タイマーを使う
子どもが1回に集中できる時間はだいたい15分程度といわれています。
子どもによっては集中出来る時間がもっと短い場合もあるでしょう。
勉強を始める前に、まずは10分間タイマーをかけてから始めましょう。
「今から10分間は勉強しようね」とあらかじめ、勉強する時間を提示するのです。
「今日の勉強が終わるまで」「宿題が終わるまで」など、時間の見通しが立たないあいまいな提示では、子どもも時間をイメージしにくくなりますが、「10分たって音が鳴るまで」という明確な区切りがあることで集中しやすくなります。
10分で長い場合は5分、7分と短い時間からチャレンジしてみましょう。
針がどこを指しているかがわかりやすく、あとどれくらい時間が残っているかを視覚的に確認しやすい「アナログ式のタイマー」や、過ぎた時間と残りの時間がわかりやすい「砂時計」を用いることもおすすめです。
視覚的に残りの時間が確認できたほうがよいのか、それとも聴覚的に音が鳴るほうがよいのか、子どもに合わせて選択してみましょう。
勉強の仕方がわからないケース
宿題は「プリントに答えを書く」「漢字ドリル・計算ドリルなどをノートに書き写して問題を解く」ことなどが中心のため、やるべきことがはっきりしていますが、テスト勉強となると途端に何をしてよいのかわからなくなるケースがあります。
どうやって勉強すればよいのかがわからないのです。
手を付けられずに止まっている場合には、順番に何をすればよいのかを明確にすることから始めましょう。
例えば、「社会で都道府県のテストをするといわれた」とします。
「地図は広げてみたけれども何を勉強していいのかがわからない」という状態のときは、「白地図を用意して都道府県を書き込む」「関東地方、東海地方など地方ごとに都道府県を書き出してみる」など、具体的に勉強の仕方を教えることが必要な場合があります。
あるケースでは塾の英語の小テストで毎回点数がとれず、先生からも勉強してくるように注意されました。
その子どもは「勉強しているのに」と落ち込んでいました。
「宿題を行っている=勉強している」と思っていたので、テストのための勉強はしていなかったのです。
そこで、単語帳で英単語を覚える方法や、ノートに英文を書いて覚える方法を教えました。
すると、毎回テストで100点を取るようになったのです。
このように、ざっくりと「テスト勉強をするように」と言われると、何をしてよいのかがわからずに勉強をすることができないのですが、具体的に勉強の仕方を教えるととりかかれる場合もあります。
学習障害(LD)を伴うケース
漢字が読めない・書けない、計算ができないなど、ある特定の学習が行なえない障害が伴っているケースもあります。
学習障害はできないことを繰り返し練習するという反復学習だけでは解決できず、どのようなことが苦手で、どのような問題があるために行えないのかということを専門的な目で評価し、個別に対応していくことが必要です。
主治医や発達支援センターなどに相談し、適切な対応を受けるようにしましょう。
「周りはできていることが自分だけできない」「一生懸命やっているのにできない」などのように本人が気づくと、自信がなくなり、できないことを練習することが嫌になって、治療を拒否してしまうこともあります。
「もしかして…」と気づいた時点で早めに相談することをおすすめします。
まとめ
メディアで話題にもなった成績が上がるといわれているリビング学習も、子どもの特徴や特性によっては周りからの刺激が入りすぎ、かえって勉強に集中することが難しくなる場合もあります。
ADHDの子どもの場合は、なるべく子どもが集中しやすい環境を整えることが必要です。
子どもがどのような場面、どのような工夫があると集中しやすいのか、普段の生活を観察して環境を少しずつ整えていきましょう。
一般的なマニュアルを試すことや、一回の環境設定で上手くいかないのは当然です。
保護者が「うちの子どもにはこれがいいかな」と思うものがあれば試してみて、上手くいかなければ、主治医や発達支援センターなどADHDの特性をよく知る専門家にも相談し、その子に合った環境をつくりあげていきましょう。
私自身も子どもの学習環境に随分悩み、思い切って学習机を処分して前面と両サイドが囲われた机を兄弟2人に1台ずつ購入しました。
狭い部屋に2台の机を設置したため、椅子を後ろに引くスペースも限られているのですが、かえってその狭いスペースに自分の体を入り込ませることで落ち着ける環境となったようです。
気づけばカードやおもちゃを机の上に持ち込んでいるので、定期的に子どもと机の上を片づけることが必要ですが、以前の一般的な学習机の時よりも机に向かって学習を行う時間が増えました。
環境を整えるだけで随分と勉強に取り組みやすくなることもあります。
そして、勉強に取り組んだら、子どもを認めることも大切です。
勉強をして本人が「わかった」「解けた」「認められた」というプラスの経験を積むことで、また新しいことを吸収したいという気持ちが芽生えていくことでしょう。
子ども自らが進んで「知りたい」「わかりたい」「勉強したい」という自立心を育んでいけるように保護者はサポートしていきましょう。
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