発達障害のある夫と暮らす妻として、私は「発達障害者は体調不良や疲れやすさの悩みがあるのではないか」と感じています。
そこで今回は、パートナーとして、発達障害者である夫をサポートするための具体的な方法を、体験談を交えながらお話します。
「夫の支えになりたい」「夫を上手にサポートできるようになりたい」とは思っているものの、その方法がわからないという人は、ぜひこの記事を参考にしてみてくださいね。
発達障害者と体調不良・疲労の関係
発達障害者が体調不良・疲労に陥りやすいことは意外と知られていない
皆さんは発達障害についてどんなイメージがあるでしょうか?
「空気が読めない」「社会性がない」「おっちょこちょい」「忘れ物が多い」などと言われることが多く、その人の『中身』の問題だと誤解されがちですが、発達障害は脳のつくりによるもので、各個人の性格の問題ではありません。
さらに、あまり知られていませんが、実は「身体」にも発達障害の特徴はあるのです。
昔の書籍には発達障害の「身体の問題」についてはほとんど触れられていませんが、2004年に「自閉っ子、こういう風にできてます!」(ニキ・リンコ著/花風社)が出版されたあたりから、発達障害の「身体の問題」にも注目されるようになってきました。
ADHDである夫の様子を見ていると、健常者である私よりも疲れやすく、体調不良になりやすいと感じるため、買い物へ出かける際にも何をするにしても、こまめに休憩を挟むようにしています。
下記に、体験談を交えながら、具体的にお伝えしていきます。
スケジュール管理ができないため、突然倒れる
私の夫は、ある日突然、充電が切れたように倒れてしまいます(スマートフォンに例えると、100%の充電が急に0%になる感じです)。
本当に突然、体調不良で動けなくなってしまうのです。
特に印象に残っている彼の大学生の頃のエピソードをご紹介します。
彼は親の仕送りなしで一人暮らしをしていたため、週4~5日はアルバイトをしていました(就職活動に忙しくなる時期も交通費等を稼ぐため、その頻度は変わりませんでした)。
日中は大学で研究をしたり、就職活動をしたりして、その後夕方頃に帰宅、そしてすぐにアルバイトへ行く……深夜に帰宅して、また次の朝は早起き……という生活をしていました。
このような生活をすれば、誰でも体調不良に陥るでしょう。
健常者であれば「疲れを感知する力」があるため、「最近疲れているな」「休みたいな」と感じたら良質な睡眠がとれるよう工夫をしたり、休めるときにしっかりと体調を整えるよう気を付けたりしますが、発達障害者は「疲れを感知する力」が弱いため、自分がどれほど疲れているのか、自分のキャパシティはどれくらいなのか把握できず、突然倒れてしまうのです。
突然倒れると、どのようなことが起こるでしょうか。
もちろんパートナーとして彼の体調が心配ですが、しかしそれだけではなく、社会的な影響がありますね。
彼の場合は「大学の授業を欠席する」「アルバイトを欠勤する」「就活ができない」等、様々な影響が出てしまいました。
彼は「今までずっと野球をやってきたし、体力には自信がある」と言ってよく無理をしていました。
しかし、睡眠時間を削り、予定をつめこんでしまえば体調を崩してしまいますし、それどころか、疲れの感知能力が弱いため、身体が極限の状態に陥るまで気づきません。
そこで、「突然倒れる」という事態を防ぐために、私は彼のスケジュール管理に協力するようになりました。
1時間ごとの区切りがあるスケジュール帳を使うことを提案したのです。
それまで彼が使っていた手帳は、見開き1ページにひと月の予定を書き込むタイプ(1マスあたりに予定を3つくらい書けば満杯になる、オーソドックスな手帳)でしたが、このタイプの手帳の何が不便かと言えば、「時間の流れが分かりづらいこと」。
例えば、こんな予定があったとします。
朝8:00~12:30頃まで就活、午後から大学で研究、夜はアルバイト。
この3つの予定を、ただ「朝:就活」「午後:大学」「夜:バイト」と表現すると、簡単にこなせるような気になりますが、実際は予定がつめつめですので、休息時間がほとんどありませんし、家でゆっくりする時間もありません。
自分がいかに動き続けているのか? 休息していないのか? を自覚するために、「1時間ごとの区切りがあるスケジュール帳」を使うことで、本人が予定を管理しやすくなるのです。
また、予定を色別に分けることで、頭が整理されるようでした。
例えば、就活関係はオレンジのマーカー、大学関係は青のマーカー、アルバイトはピンク色のマーカー……といった具合に色を決めて記入することで、一目見ただけでその週の予定が把握できるのです。
さらに、「1週間に1日は予定を入れないようにしてみたらどう?」とアドバイスをしました。
強制的に休息日を作らないと、彼は平日だろうが土日だろうが動き続け、また、1日いっぱい外出してしまい、気づかないうちに疲労がたまり、急にパタンと倒れてしまいます。
休息日を作ったことにより、彼は週に一度は家でのんびりテレビを見たり、一緒に料理をしたり、読書をしたりなど、ゆったり過ごすようになりました。
結果、休息日を作るようになってから、彼が急に体調を崩すことはなくなったのです。
彼自身がいくら「自分は体力がある!」と思っていたとしても、それは本当に体力があるのではなく、「疲れていることに気づかないだけ」なのです。
パートナーの健康を守り、そして周囲の人に迷惑をかけないためにも、スケジュール管理に協力してあげるとよいですよ。
感覚過敏が疲れやすさを助長する
発達障害者の中には「感覚過敏(聴覚や嗅覚など五感が敏感であること)」に悩まされている人もいます。
例えば、聴覚過敏。
私の夫はこれに当てはまります。
聴覚過敏の人は、人混みが苦手です。
なぜかと言うと、どの音も同じ音量で聞こえるからです。
人混みで友達が話しかけてくる声と、他人の声が同じ音量で聞こえてくるのです。
普通、耳は自動的に「大事な音」と「雑音」を聞き分けてくれますが、聴覚過敏の人は「大事な音」も「雑音」も同じ音量で聞こえてしまいます。
結果、人混みが必要以上にうるさく感じますし、大事な会話ができません。
夫の聴覚過敏に対して工夫したことは、「100円ショップで売っているような安価な耳栓を使うこと」です。
完全に音をシャットアウトする「ノイズキャンセリングヘッドホン」ではなく、安価な耳栓がおすすめです。
理由は、近くの音や大きな音は聞こえるけれど、小さな雑音は聞こえなくなるからです。
自然と雑音をシャットアウトし、私の声だけが聞こえるようになるみたいなので、ストレスなく会話ができます。
すぐに熱を出す
私の夫は、すぐに微熱を出します。
どのような時に熱が上がるかと言えば、疲労がたまっている時、緊張する予定がある時、寒い場所に長時間いた後など。
下記に具体的なエピソードを記述します。
❓ 緊張すると熱が出る?
彼の実家は、今住んでいる場所から離れたところにあるため、飛行機を使って帰省します。
その日は、朝6:45発の飛行機を予約していたため、朝4時に起き、始発の電車に乗らなければ間に合いません。
健常者にとっては「4時に起きる」という予定に過ぎないのですが、「朝4時に起きなければいけない。起きなければ、実家に帰省できない。チケット代金が無駄になる」と彼にとっては大きなプレッシャーになっていたようで、夜に熱が出てしまいました。
「想像力が豊かである」という特性から、おそらく不安も大きくなってしまったのだと思います。
「4時に起きる」という予定は「4時に起きる」以上でも以下でもありません。
しかし、想像力が豊かであれば、「4時に起きなければいけない。そうでなければ遅刻する、チケット代金が無駄になる……」とあらゆる不安につながり、パニックになってしまうのです。
そこで、私は彼に安心してもらうために、【行動を分解して、大事なことだけを繰り返し伝える】という工夫をしました。
【行動を分解して、大事なことだけを繰り返し伝える】ことがどういうことか説明しますと、前述のエピソードの行動を分解すると、「4時に起きる」「始発に乗る」「空港で手続きする」「飛行機に乗る」「実家へたどり着く」です。
私の夫は、これらを一つのものとして考えるため、混乱していたのだと思います。
ここで私がしたことは、「4時に起きられればそれで大丈夫」と繰り返し伝えること。
彼がまずしなければいけないことは、「4時に起きること」であり、それ以降のことは後で考えればいいのです。
パートナーが様々な予定で混乱しているときは、あれもこれも伝えずに、「今は〇〇をやれば大丈夫!」と繰り返し伝えてあげてくださいね。
❓ 寒い場所に長時間いると熱が出る?
次に、「気温の変化に弱い」ことと「寒いことに気付かない」ことに気付きました。
疲れを感知しづらいことに似ていますが、「気温の変化も感知しづらいのではないか?」と夫を見ていて感じるのです。
発達障害者は、気温、特に寒さを感知しづらいように見えます。
私が「寒くないの?」と聞くと夫は「寒くない」と答えるのですが、数日後に体調を崩すことから、寒いという自覚はなくとも、身体は寒さを感じているのだと思います。
私がしたアドバイスは、「気温を確認してから服装を選ぶ」ことです。
単純なことですが、この「数字を基準にする」ことが大切なのです。
気温を感知しづらい夫が肌の感覚で服装を選ぶと、どうしても薄着になってしまいます。
そのため、「15度以上なら上着を持つ」「10度以上なら厚めの上着を着る」「10度を切ったらコートを着る」のように、気温で服装を選べば失敗もなく、服装を選びやすくなるのです。
けがをしやすい
発達障害のある夫は、身体をどこかにぶつけてけがをすることが多く、よく小さなけがをしています。
物をよけるのが苦手なようで、家具やドアによくぶつかりますし、デパートを歩いていると商品棚にぶつかって、商品を落としてしまうことがしばしばあります。
発達障害者がけがをしやすい理由のひとつは、「自分の腕や足がどこにあるのかハッキリ理解できていないから」だと言われています。
健常者は、自分の腕や足がどこにあり、どのような大きさで、どのように動かせば思い通りの動きになるのか、自動的にインプットされています。
また、やったことのない動きでも、以前の動きを応用して身体を自然に動かすことができます。
しかし、発達障害者はその力が弱いのです。
自分の腕や足がどこにあるのか、どのような大きさなのか、どう動かせば思い通りの動きになるのかわからない人が多いのです。
そのため、物との距離感がつかめずにぶつかってしまうのです。
彼がけがをしないように、できるだけ角のない家具を買ったり、配置を工夫したりするようにしましたので、最近では夫は「子どもの頃よりはけがをしなくなった」と言っていますが、発達障害者自身が自分の身体に慣れ、動かしかたのコツをつかんでいくしかないのかもしれません。
発達障害者の身体が「生きづらい」身体である理由
発達障害者が体調不良や疲労を感じやすい理由は、「自律神経の弱さ」にあるのではないか、と言われています。
本来ならば、人間の身体は体温調節を始め、本人が意識しなくとも脳が自動的に命令を出すことによって、休息と活動のそれぞれに適した状態を保つことができるようにできていますが、発達障害者の場合はその働きが弱く、健常者とは事情が異なってくるのです。
健常者の身体の中で自動的に行われていることを、発達障害者は手動でなんとか切り替えている、という場合が大半を占めています。
健常者が自動でやっていることを手動でやっているわけですから、何倍も疲れやすく、気づかぬうちにストレスが溜まってしまうのです。
彼らが少しでも楽に生活を営むことができるよう、妻である私たちが上手にサポートすることで、これからきっともっと笑顔が増えるのではないかと思います。
まとめ
発達障害者は、感覚が過敏だったり鈍かったりとでこぼこがあるため、ストレスを受けやすかったり、健常者が当たり前のように気付くことに気が付かなかったり、簡単なことができなかったりするのです。
また、そもそもストレスや不調を自覚できないこともあります。
ストレスがたまりすぎたり、体調不調になったりしないように生活を工夫してあげること、そして、ストレスや不調を自覚させてあげることが大切です。
妻が客観的に夫を見ながら、生活や環境を工夫してあげる必要があります。
工夫次第で改善されることも多いので、これからも出来る限りのサポートをしていきましょう!
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