入園、入学、進級などの環境の変化が大きい時、発達障害児は敏感にその変化を感じ取り、戸惑いや不安感から「泣く」「行き渋る」「不安そうな表情を見せる」「パニック状態になる」「気分が高揚する」などの行動が見られることがあります。
この記事では、発達障害児が【環境の変化】にストレスを感じている時に大切にしていただきたい【家庭でのかかわり方】を3つご紹介します。
ちなみに私は長い間、幼稚園やこども園、障害者支援センターなどで先生をしてきました。
今までにたくさんの子どもを見てきましたが、新しい環境に対する「子どもの不安や戸惑い」はずっとずっと続くものではありません。
安心してくださいね。
今回ご紹介する「ちょっとしたかかわりのポイント」を実践することで、お子さんも新しい環境により気持ちよく、スムーズに慣れていくことでしょう。
困っていることや嫌なことを理解しよう
親御さんにとっても、子どもの環境の変化は心配なものですよね。
子どものちょっとした変化を敏感に察知される人も多いのではないでしょうか。
まずは、子どもの不安や戸惑いの原因である「困っていること」や「嫌なこと」を理解することを心掛けてみましょう。
行動を観察してみよう
「行動を観察」というと大げさに聞こえますが、実はとても簡単なことなのです。
「いつもと違う様子」が見られる「場面」や「場所」「人」などに注目してみましょう。
💡例えば…
- 幼稚園の門を入る時に足が止まるなぁ
- 先生の顔が見えたとたん後ろに隠れるわね
- 教室に入って持ち物を片付けるのに、いままで以上に時間がかかっているな
- みんなで集まって活動する時に部屋から出ちゃうみたい など
このような簡単なことでいいのです。
ここで気を付けていただきたいことは、「いつもと違う行動」であること。
「いつも気にかかる行動」とは異なるので気を付けてくださいね。
その場合はもっと長期に渡って援助していく必要があります。
今回は、「あれ?いつもはこんなことしなかったのに……」という場面に限ります。
さあ、こんな風に「いつもと違う行動」を見付けたら、子どもの性格や特性を考慮しながら、いろいろと予想してみましょう。
💡例えば…
「みんなで集まって活動する時に部屋から出ちゃうみたい」という行動に対して、下記のようなことが考えられます。
- 新しい部屋(教室)に落ち着ける場所がないのかな
- 嫌なお友達でもいるのかな
- 何をするのか分からないから、まだ遊びたがっているのかな
- 前のクラスでは仲のいい○○ちゃんがいたけど、今年はクラスが離れちゃったから不安なのかしら など
就学前(幼稚園や保育所に通っている)の子でしたら、まだうまく自分の言葉で言い表せないこともありますから、このように「行動の違い」を見付けていくことが有効です。
気になる姿がたくさんあって大変!という場合は、まずは1つずつ考えてみましょう。
簡単にメモを取ってみることもオススメですよ。
小学生や中学生の子でしたら、親御さんがとったメモを一緒に見ながら、「自分は何が嫌なのか」「何が不安なのか」などを話すきっかけになることもあります。
話を聞いてみよう
「話を聞く」これはもうすでにされている人も多いのではないでしょうか。
出来事や気持ちをお話できるお子さんには有効です。
でも、「聞いてもいつも忘れたと言われる」「聞いてもうまく表現できないみたい」などという場合もあるかもしれませんね。
ここでは【話の聞き方】のコツを2つお伝えしていきますね!
子どもの「気持ちを受け止める」
子どもの特性や性格にもよりますが、まずは「気持ちを受け止める」ことが大切です。
これ、頭では分かっていてもとても難しいことですよね。
受け止めるよりも先に別の感情が出てきちゃうことも……。
これでは、子どもも安心してお話ができません。
そんな時には「オウム返し」が役立ちますよ!
「オウム返し!?」と思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、例を見てみましょう。
☑例1))
自分「昨日、スカイツリーに行ってきたんだよね」
相手「へー、どうだった?」
☑例2))
自分「昨日、スカイツリーに行ってきたんだよね」
相手「へー、スカイツリーか。どうだった?」
いかがでしょうか?
単語だけのオウム返しですが、例2のほうが自分の話を「聴いてもらえている!」という印象を受けませんか?
大好きな存在であるお父さんお母さんにこんな風に話を聴いてもらえると、子どもは心地良さを感じ、さらに「分かってもらえている!」という感情に変化することがあるのです。
時間や場所も大切
ふたつめはできる場面が限られてくる可能性もあるのですが、「その場で聞く」ということ。
どうしても、「家に帰ってから聞く」というパターンが多くなりがちですが、できる時にはぜひ「その場で気持ちを聞いて」みてください。
子どもは事後の出来事を振り返って考えることが苦手です。
特に、発達障害児は自分の行動を振り返ることが苦手な場合が多いため、下記の方法が有効です。
この時も話し方に気を付けてくださいね。
「あなた、今何がいやなの?」「言ってごらん」と聞かれても、子どもは戸惑ってしまいます。
💡例えば…
- 事前に話をしておく
→「学校の教室に入る時に何か困っていることがあるんじゃない?今度困った時には、お母さんにこっそり教えてみてね」(ここで「行動を観察する」がいかせたらいいですね!) - 実際の教室に入る場面で
→(あ、いつもとは違う行動が出たな、と思ったら)「何か困っているの?」「向こうの廊下でお話しようか」
私がよくするのは、1の「事前に知らせる」こと。
「こんな場面になったら、教えてね」とひとこと言っておくのです。
この場合、実際に子どもの方から教えてくれることは少ないのですが、その場面で「何か困っているの?」と聞いたら、子どもは「あ、あの時お母さんが言っていたな」と思うようで、話出すきっかけになることが多いのです。
そして、1で示した言葉の中でのポイントは「こっそり」という点です。
これは何人もの子どもと接してきて感じたのですが、「こっそり」という言葉を使うと自分の思いを話してくれる子どもが圧倒的に多いのです!
おそらく、「こっそり」という言葉には「自分だけ」「特別感」「独り占め」のような感覚を持つ子どもが多いため、「こっそり、お母さんにだけね。わかったよ」と納得しやすいのかなと考えています。
皆さんもよかったら使ってみてくださいね♪
さらに、2の【実際に困っている場面】ですが、「向こうの廊下でお話しようか」がポイントです。
周りに他の子どもたちがいる場面では、注意が散漫してしまい、本来の困り感が分からなくなってしまう恐れがあるからです。
その場からちょっと離れることや静かな場所への移動が可能であれば、そうしてみてもよいですよ。
「落ち着いた環境」を用意して、気持ちの整理をしやすくしてあげましょう。
お父さんお母さんが大好き!だから……
「1.困っていることや嫌なことを理解しよう」で紹介したことはどちらかと言うと、ネガティブな行動に着目をしたかかわりですね。
「何が困っているのか」と話を聞くことも、子どもにとっては割と負担である場合が多いため、その点は親御さんがしっかりと子どもの性格や特性を見極めていただきたいのですが、この章でご紹介するのは子どもの「お父さんお母さんが大好き!」という気持ちを大切にしたかかわりかたのコツです!
楽しいことを一緒に見付けよう
子どもはお父さん、お母さんが大好き!
そして、そんなお父さんやお母さんが楽しそうに笑っていること、嬉しそうにしていることを見るだけでも子どもの心は安定していきます。
子どもが「新しい環境」に不安や戸惑いを感じているのなら、そこで一緒に「楽しいこと」を見付けてみましょう。
💡例えば…:幼稚園に入園したAくんの場合
Aくんは毎朝「ママと離れたくない」と大泣きしながら登園しています。
そんな時に、「あっ!あれ何?」と園庭に歩いているダンゴムシを指さして言ってみるとAくんはどんな反応をするでしょうか。
一緒に近寄って、しゃがんで様子を見てみたり、触ってみて「丸まったね!」と見せてあげたりすることもよいですね。
「幼稚園にはダンゴムシさん、いっぱいいるのかなぁ?」「探してみたいね!」などと言葉を添えると、子どもは「幼稚園って面白い虫がいるんだ」「お母さんも楽しそう」と感じることでしょう。
翌日は登園しながら「今日もダンゴムシさんいるかなぁ?」「どこかにかくれんぼしているかもね」などと話をします。
きっと子どもは「幼稚園はお母さんと離れるところ」というマイナスイメージよりも「幼稚園は楽しいことがある場所」というプラスのイメージへと変わっていくのではないでしょうか。
上記の例えはかなり限定的ですが、「保育園の○○って楽しいね!」「小学校のお花いつさくのかな。楽しみだね!」などと、年齢や子どもの興味に合わせたかかわりができるので幅が広く、オススメです。
「楽しい、うれしい」などのプラスのイメージが持てるように、子どもと一緒に楽しみを見付けることが大切です。
大人の不安な顔は見せない
実はこの「不安な顔」ですが、知らず知らずの間に親御さん自身がしていることが多いのです。
「大丈夫かしら」「今日は行けるかな」……こんな親心から、つい不安な顔が出てしまうんですね。
子どもはとても敏感です。
特に新しい環境へ入ることに不安を感じている子どもは、親御さんの様子を伺っていることが多いため、いつもの場所に来た途端に「いつもここで泣くのよね……」と、親御さんも不安気な顔をしてしまうと子どもの不安は一層高まってしまいます。
また、表情だけではなく、会話からも親御さんの不安を感じ取る子どももいます。
例えば、立ち話で他の親御さんに「うちの子いっつも△△で困ってるの」と話していたり、担任の先生に「園ではどうですか?」と心配そうに聞いていたり……。
子どもは「大好きなお父さんお母さんが、ボクのことを悲しそうな顔で話している」と、思ってしまうかもしれませんね。
でも、これはお父さんお母さんに絶対的な信頼感をもっているからこそ。
そう、大好きだからこそ!なんです。
なので、ここは役者になったつもりで、表情や立ち振る舞いは明るく、楽しそうにしてみてください。
すぐには効果が見られないかもしれませんが、「ちりも積もれば山となる」で、いつもこれを心掛けることで、子どもの不安感をより煽ってしまうことは少なくなるはずです。
しかしながら、他の親御さんに相談したり、担任の先生と連携をしたりすることはとても大切なことですから、親御さんの不安なことや心配事はできるだけ子どもが見ていない場所で話したり、連絡帳や簡単な手紙などを使ったりして伝えるようにしましょう。
頑張ったことをほめる
「頑張ったこと」と聞くと、なにか行事(運動会や音楽会、参観日など)をやり遂げた姿をイメージしてしまう親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
発達障害児は大きくなるにつれて、「自分はこれができない、苦手だ」という『できなかった経験』から「自分はダメなんだ」「自分は他の友達よりも劣っている」と感じやすいんですね。
しかし、身近な人から自分の姿を言葉にしてほめてもらうことで「やったらできた!」「これはできる、大丈夫」「ワタシはこれが得意なんだ」などと、『成功した経験』が増えていきます。
この成功体験の積み重ねが、子どもたちがこれから親御さんの元を離れて、自立をしていく上でとても大切なことなんです!
小さな変化を拾い上げよう
「ほめろほめろとよく言われるけど、ほめるってどこを?どうやって?」と思われている人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここまで読んでくださった人なら、すぐにコツをつかんでいただけるはずです!
なぜなら、「子どもの不安や戸惑い」が分かっているからです。
いろいろな方法で子どもとかかわるポイントをお伝えしてきましたが、親御さん自身が挙げた子どもの姿を思い返してみましょう。
その姿から、少しでも変化が見られたらそこが「ほめポイント」です!
「昨日よりも早く準備ができた」「今日は先生とタッチで挨拶ができた」「今日は集まりの最後だけ、みんなと一緒に参加できた」など、本当に「ちょっとした」ことでよいのです。
親御さんとしては、つい「前のクラスではここまでできていたから」とか「みんなと同じように○○してほしい」という思いが強くあるかとは思うのですが、その気持ちは今は少し胸の奥に留めておいて、いま目の前にいる子どもの姿を見てあげてください。
子どもの『成功した経験』をたくさん増やすためには、スモールステップで変化を見ていくことが大切なのです。
ほめ方もいろいろ
「ほめる」という行動にはたくさんの方法があります。
子どもの数だけ、人の数だけ、と言っても過言ではないでしょう。
今回は大まかに2つご紹介しますね。
言葉にする
まずは大前提として、「目を見て、言葉にして」ほめてあげてください。
「目を見る」ことで、子どもは自分に向かって言ってくれている、と認識することができるのです。
また、「言葉にする」ことで、たった今の自分の行動を振り返ることができます。
ここで、「あれ?『自分の行動の振り返り』を子どもは苦手だと言ってなかった?」と思われた人もいらっしゃるでしょう。
特に発達障害児は自分の行動の振り返りが苦手なため、「また」とか「いつも」と注意されてしまうことがしばしばあります。
自分を振り返ることができたら、「あの時注意されたから、次はなるべくしないように……」と行動することができるのですが、それがなかなか難しいことも特性のひとつなのです。
苦手なことだからこそ、「あなたの今の行動はとてもよかったよ」「○○ができてかっこよかったよ」「△△したね、すごいね」などと他者が「言葉にして」伝えてあげましょう。
簡単な言葉で構いませんから、具体的な行動(例:△△したね)とほめ言葉(例:すごいね)を合わせて言葉にしてみてくださいね。
身体も心も嬉しいスキンシップ
最後にご紹介するのは、「スキンシップ」をして子どもをほめる方法です。
小さい子どもには最適な方法です。
また、例え年齢が上がっていても、ちょっとした「スキンシップ」は子どもにとって、自分のことをしっかりと認めてもらえている、と感じるものなので試してみてくださいね。
スキンシップの方法こそ、ご家庭によって、お子さんによって、様々なやり方があるのではないでしょうか。
しかし、私が以前担任をしていた発達障害児の親御さんは、「スキンシップって抱っことかでしょう?もう小学校前だし、体重も重たいし、ちょっと無理」「スキンシップする時間がとれない」といったようなことを言っておられました。
幼稚園や保育園などで「音楽に合わせてふれあい遊びをしましょう」と言ってするような、スキンシップを目的とした遊びはなかなかご家庭ではできませんよね。
スキンシップは「子どもに触れること」と楽に考えてみてください。
頭をなでる、背中を触る、ほっぺをプニプニする、ハイタッチをする、膝の上に乗せて一緒にテレビを見る……など、簡単なものでいいんです。
子どもさんが喜ぶものは?……親御さんが一番よく知っているはずです。
スキンシップを取りながら子どもの変化を「言葉にする」ことで、子どもは自然と笑顔になるはずです。
まとめ
今回は「入園、入学、進級」子どもの戸惑いや不安感にどう寄り添うか、をテーマに記事を書いてきました。
たくさんのかかわりのコツを述べましたが、きっと親御さん自身も多くの心配事と不安なことがありますよね。
ご自身の思いもご家族や先生にしっかりと聞いてもらいながら、子どもさんとかかわっていってみてくださいね。
あせらなくても大丈夫です。
今回の記事に書かせていただいたことをひとつでも実践してくださったら幸いです。
お子さんが安心して新しい環境で過ごすことができますよう、お祈りしています。
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