発達障害児を育てるうえで挙がってくる問題のひとつに、「本人に発達障害であることを告知するタイミング」というものがあります。
今はまだ幼い我が子が、自分が発達障害であることを知らないまま、近い将来、周りの子たちと自分とを比較して「自分はどうして周りと違うのだろうか」と悩み、苦しむのではないかと頭を悩ませている親御さんたちも多いのではないでしょうか。
今回は、本人への告知について、適齢期や誰から告知することが望ましいか等、具体的なポイントをご紹介いたします。
「いつ、本人に伝えればいいのだろうか」と悩んでいる親御さんたちの参考になれば幸いです。
告知をする理由と適齢期
発達障害児本人は、非常に早い段階から違和感を持っている場合が多く(子どもによっては、幼稚園/保育園時代から違和感を持っていることも)「自分は他の子と違う」と感じ、中には「親は何も言わないけれど、自分には何か大きな悪い秘密(病気や障害など、大きな問題)があるんじゃないか」と不安に思い、悩んでいる子どももいるのです。
また、発達障害児の心の中には常に周りと自分とのギャップから生じる不安な気持ちがあり、「自分は変わらなければならない。周りと同じようにならなければ」と焦る気持ちを彼らはいつも抱えているのです。
場合によっては、その焦りの気持ちや、根底にある不安な気持ちから問題行動や逸脱行為に至るケースもあるため、常日頃から彼らの心の変化や状態をしっかりと観察しておく必要があります。
本人は「みんなと同じになりたい」と考え、また「(周りといつも違うことを言ってしまう/失敗してしまうため)自分は気持ちを口に出してはいけない」と思い込み、周りに合わせることばかり考えてしまい(こういった状態を『過剰適応』といいます)、結果、二次障害(体の不調、精神面の不調、問題行動など)をきたしてしまう場合もあります。
本人が自分自身の特性を知らないまま思春期の【自分探し】の時期を迎えた場合、「うまくいかないのは自分が悪いから」という思いこみから、スタート地点が【できない自分】となってしまい、アイデンティティーの形成が自己否定的になってしまいやすいのです。
自己否定的な思いを抱えたまま大人になると、社会に出てから心が折れ、働き続けることが難しくなってしまうケースもあります。
そのため、告知はなるべく早めに、発達障害児当人が大人になる前におこなうほうが良いのです。
では、いつが告知の適齢期だと思いますか?
それは、ずばり【思春期の頃】……本人の精神コンディションが悪い場合を除いて、10歳~12歳頃が良いと臨床の結果、そのように言われています。
しかし、まずは親御さんの「障害受容」が大事です。
お子さんが適齢期に差し掛かっていてもいなくても、まずは親御さんが発達障害の特性について正しく理解し、受容することが大切です。
告知の必須条件である「障害受容」について、詳しい内容を以下に記しています。
ぜひ、親御さんご自身の現在の状態と照らし合わせてみてくださいね。
告知の必須条件【1】親御さんの障害受容
「まさか自分の子どもが……」「やっぱり何かの間違いではないか」など、親御さんが「我が子が発達障害であること」を真正面から受け入れることができていない場合、お子さんの年齢がいくつであろうと告知はおすすめできません。
まずは親御さんが発達障害について正しく理解し、受容していくことを優先することが、お子さんへの告知の下準備となります。
発達障害を【理解】し、【受容】する、ということは、下記のように違いがあります。
💡障害の『理解』と『受容』の違い
✔【理解】
- 発達障害のあることを「理解した」
- 特性について(欠けた部分もあるということ)を「知った」
- 発達障害児(者)本人が悪いわけではないことを知り、「安心した」
- 自分たちなりの工夫を「考えることができない。自己抑制のみ」
✔【受容】
- 発達障害のあることを「受け入れた」
- 特性について(欠けた部分もあるということ)を「わかり、カバーすればよいと思える(特性の理解)」
- 発達障害児(者)本人が悪いわけではないことを知り、「その次を考えることができる」
- 自分たちなりの工夫を「考えることができ、自己を殺さず、対策法をいくつも挙げることができる」
「知る」「理解する」ことと「受け入れられる」ことは、似ているようで、実はこんなに違うのです。
「仲の良いママ友達から、お子さんが発達障害であると打ち明けられた。発達障害についてはインターネットやテレビ番組で見たことがあるので、なんとなく知っている。私も彼女たちの力になりたい」と思うことと、「我が子が発達障害だ。どうすればよいのだろう」と思うことの違い(第三者として「知る」ことと当事者として「受け入れる」こと)にも似ているかもしれませんね。
「当事者として自分たちが発達障害に関わっている」ことをしっかりと受け止め、お子さんにどのような特性があるかを知り、お子さんに合った対策法を模索できる状態こそが【受容することができている状態】です。
そして、お子さんの成長の道筋や目標、先の見通しを立て、共に歩む勇気を持つこと。
親御さんがその状態にまで近づくことができていない場合、告知は先に延ばしたほうが得策です。
時間はかかるかもしれませんが、発達障害児の子育てに【受容】は必要不可欠であり、また、親御さんの受容があって初めて、本人も自分自身の特性と向き合い、受け入れていくことが可能となるのです。
💡発達障害への理解と受容が進むと……
- 【理解】本人の「生きづらさ」はその特性に起因しており、それまでの不可解さが解消する。
- 【受容】当事者の困りごとに目がいくようになり、何につらさを感じ、どのようなことがうまくいかないか気付き、寄り添えるようになる。
- 本人のその特性からくるちょっとした行動を、微笑ましく眺める自分(親)でいられる。
- 新しいアイデンティティーの芽生えを感じ、今までとは違う生き方が見えてくる。
ぜひ、告知の前に【障害受容】について「自分はどの程度できているのだろう?」と考えてみてくださいね。
告知の必須条件【2】相談先の確保
「なかなか子どもの発達障害を受け入れることができない」「子どもに合った対策法がわからない」など、【助け】が必要な場合、下記のような外部の施設や支援団体の手を借りることが突破口となります(各施設や支援団体の中には、【理解】から【受容】へ、頭を切り替えるための支援をおこなっているところもあります)。
- お住まいの地区町村の保健センターや発達障害者支援センター、児童相談所 など
- 発達障害のある子どもや大人のサポート支援を行う特定非営利活動法人の団体
- 個別指導塾
他人の手を借りることに、気恥ずかしさやうしろめたさを感じる必要はありません。
むしろ、じょうずに外部の施設を利用することは「自分たちらしい生き方」を見つけるための近道となり、非常に有効な手段なのです。
また、障害受容ができていて告知の準備が整っていたとしても、長い人生の中、悩みごとや困りごとが絶対に発生しないとは言い切れませんよね。
そういった場合のためにも、外部の施設とのつながりを持っていると、問題への解決がスムーズに進む場合が多く、また、うまく活用することで、ストレスの少ない生活を送ることができるようになるかもしれません。
困ったときのため、いざというときのために、相談先の確保をおこなっておくと心強い味方がいるように感じ、家族みんなが安心できるためオススメです。
施設を探す際に、その施設の口コミを読んだり見学をしたり、施設の人の話を聞いたりして「施設の色」を確認し、理解しておくとよいですよ。
告知は第三者にお願いすることが理想的
告知は医師、もしくはカウンセラーなどの第三者にお願いすることが理想的です。
医師の言葉を親御さんが本人に伝える方法は、本人が「親に拒まれた」と感じ、孤独感や絶望感を抱いてしまう恐れがあるため、避けるようにしてください。
親御さんからの告知に失敗した場合、発達障害児当人が「たいした知識もないくせに、自分のことを悪く言う」と親御さんを悪者にしてしまうケースもあるのです。
もしもそのような状態になってしまった場合、お子さんの絶望感や孤独感、ストレスが暴力や引きこもり状態へとつながってしまい、親子の関係性が著しく悪くなってしまう恐れも……。
そういったリスクを避けるためにも、告知は医師やカウンセラーなど、専門家にお願いすることが重要です。
告知を受けた当人の反応-自ら「自分はどういうものか」知りたがった場合
本人が「自分とはどういうものなのか?」「病気なのか?」と自らの特性について知りたがった場合、医師にかかりやすいため、比較的スムーズに受診することが可能です。
診断結果が出て自分が発達障害であるとわかったときに、「やっぱり」「ホッとした」「やっと原因が見つかった」「自分が悪いわけではなかった」という反応をする発達障害児(者)が多いと言われています。
それは自らが求めたからこその反応であり、また、その後の治療に関しても円滑に進めていくことが可能です。
ただ、本人が自ら「病院へ行きたい」というケースは成人に多く、思春期のお子さんが自ら「病院へ行きたい」と声をあげることは少ないと言われているため、普段からお子さんが親御さんに自分のことを相談しやすい環境作りをしておくことが重要です。
告知を受けた当人の反応-当人は告知を望んでいなかった場合
親に促されて病院を受診し、告知された場合「ふーん」「うん、わかった」などど反応が薄いことが多く、【思ったよりダメージがないように見える】ことがしばしばあります。
しかし、実はまだ本人が事実を受け止め切れていないことが多く、平気そうに見えて実はそうではなかった(思っていることが顔に出にくいといった特性から)、というケースが多いのです。
告知は、したときよりも、その後のフォローが肝心です。
医師から丁寧に説明を受け、他人の目からは納得したように見えていても、本人は「自分は発達障害じゃない」と思っている場合もあり、動揺や戸惑い、不安感などで心の安定を欠いてしまう可能性も高いのです。
ADHDやASD(自閉スペクトラム症)など、発達障害の種類や特性について整理した内容を本人に医師やカウンセラー、外部の施設のスタッフなどから伝えてもらい、その情報を親御さんも共有しておくようにするとよいでしょう。
また、本人に、自分の長所や今までがんばってきたこと、工夫して乗り越えてきたことを具体的に細かく書き出してもらうという方法も有効です。
「発達障害は精神的な病気とは違って、『治す』という考え方はしなくていいんだよ。みんなと同じでなくてもいい。苦手なことが多くてもいい。うまく生活できるように工夫することが大事なんだよ。工夫して、できるようになればいいんだ」と伝えてあげることもよいですよ。
まとめ
今回は、「本人に発達障害であることを告知するタイミング」について、適齢期や必須条件など具体的なポイントを挙げてご紹介しました。
親御さんに【障害受容】ができていない場合、または発達障害児(者)の精神コンディションが悪い場合、あるいはその両方ともに当てはまる場合は、たとえ発達障害児(者)本人が思春期を迎えていたとしても、まだ告知にふさわしい時期だとは言えません。
親御さんが【目標】と【見通し】を立てることができていないのであれば、告知は先に延ばしたほうが得策です。
お子さんに発達障害があるとわかったとき、どんなに周りから「あなたは本当に頼りになるわね」と言われている人であったとしても、戸惑い、悩み、不安な気持ちに押しつぶされそうになってしまうことでしょう。
「絶対に私たち家族なら大丈夫!」と言い切れる人のほうが少ないのではないかと思います。
しかし、発達障害のあるお子さんの健やかな成長には、お子さんを愛し、導いてあげられる親御さんたちの理解と受容が必要不可欠です。
発達障害そのものや告知、お子さんの将来についてなど、頭を悩ませる問題は多いかと思いますが、どうか怖がらないでください。
「怖い」「不安だ」と感じるのは、「知らないことが多すぎる」ためなのです。
専門家や外部の施設との連携を取りながら、より多くの情報を仕入れていくことが大切です。
お子さんの普段からの様子をしっかりと観察し、障害受容について振り返りつつ、どっしりと構え、「それぞれの告知の時期」を見つけていきましょう。
コメント