発達障害の診断を受けた時、また発達の傾向について相談した時に、「療育を受けてみてはどうでしょうか?」と勧められたら、どんな親御さんでも一度は療育を始めることに戸惑いを感じるのはないでしょうか?
もしかしたら、親御さん自身が日常の中で子どもの発達に思い当たることがあったとしても、専門的で客観的な視点から、子どもの発達の遅れや特性を指摘されると、親御さんにとってはショックなことなのかもしれません。
筆者自身、日々の子育ての中で子どもの発達に疑問を感じていたものの、実際に子どもが「自閉症スペトラムである」との診断を受け、さらに療育を勧められた時は、一瞬言葉に詰まりました。
でも、これまで療育を続けていくうちに、「療育を勧められる」ということは、日々の生活に困難を感じている発達障害児本人へのサポートや、発達障害児を育てることに戸惑いを感じる親御さんが必要なサポートを受けることができる大切なチャンスであることを痛感しています。
療育を始める前は、「療育は特別なこと」と感じられるために、なかなか踏み出せないかもしれません。
しかし、親御さんが療育を始める前の心構えをきちんと押えておけば、発達障害児の特性や傾向、成長に合わせた療育を選ぶことができるだけでなく、未来へのステップアップに必ずつながります。
療育が本当に必要な時期を逃してしまうことがないように、いま「療育に通うべきなのか」と悩んでいる親御さんの参考になれば幸いです。
療育は発達障害の特性や傾向に向き合えるチャンス
子どもが本当に困っていることを見極める
療育に通っていると、診断だけでは漠然としていた子どもの特性や傾向に自然と正面から向き合うことになります。
それは、個人差がある特性や傾向を踏まえながら、療育の先生と一緒に、子どもがいま何に困っているのか、どんなサポートが必要なのかを見極めることができるからです。
結果的に、親自身も特性や傾向に戸惑うことなく、しっかり向き合うことができるチャンスにもなり、その後の子どもへの接し方や子育ての負担も変わってきますよ。
筆者も、子どもが診断を受けた当初は、発達障害の特性について全く知識もなかったのですが、療育の先生のアドバイスをもとに、「どんな場面で、子ども本人が困っているのか」を知ることで、子どもの特性について徐々に向かい合うことができるようになりました。
療育から日々の接し方のヒントがもらえる
発達障害の診断を受けると、親御さんもある程度の特性や傾向を知ることはできます。
しかし、実際には、日常生活での接し方に戸惑ってしまうことも少なくありません。
筆者自身、自閉症スペクトラムの子どもの接し方には、いまでも迷うことも多々あります。
そんな時は療育を見学させてもらって、指導員やスタッフの方が療育中に行っている子どもへの接し方に触れるようにしています。
療育のなかには、話すテンポや声のトーン、言葉の選び方など、日常生活ですぐに実践できる接し方のヒントがたくさん詰まっており、家庭でも子どもと円滑なコミュニケーションを取ることができるようになります。
ただし、療育で行われている接し方を参考にすることは日常生活でも確かに役に立ちますが、あまりにも療育で行われているとおりにしようとすると、日常生活が振り回されてしまうこともあります。
療育での接し方からヒントは、適度に日常に取り入れていくことが大切です。
サポートによって特性や傾向を正しく理解できる
発達障害の診断を受けても、特性や傾向については個人差があるため、日常で一番近くにいる親御さんでも分からないこと、戸惑うことがあります。
そんな時は、療育を通して的確にサポートをしてもらうことで、親御さんも特性や傾向に合った対処方法を正しく理解することができます。
時に、幼稚園や学校などで「問題行動」となる理由や原因を的確に分かってくるので、周囲とトラブルになる前に未然に防ぐ対策を取ることができるようになるのも、療育のサポートがあってこそといえるでしょう。
療育は子どもの発達をサポートする場所
療育は“矯正”ではなく、成長をサポートする場所
療育は、あくまで特性や傾向を持っている子どもの発達や成長をサポートする場所です。
始める前に親御さんにまず心得ておくべき心構えでしょう。
長年療育に通っていると、「療育は、特性や傾向を矯正するトレーニングの場所」として捉えている親御さんに出会うことも少なくありません。
療育を矯正やトレーニングと捉えている限り、つねに結果を求められる子どもにとって辛い場所になってします。
療育は、子どもの成長を約束する場ではなく、成長をサポートする場所であることを踏まえて利用するようにしましょう。
療育には長期で取り組む
療育を受ける期間は、子どもの発達と成長によって一人一人異なります。
発達障害の程度によっては、数ヶ月といった短期間で療育を卒業するケースもありますが、一般的には年単位の長期で療育に通うことになります。
そのため、すぐに子どもの発達や成長が見られなくても、親御さんは焦る必要もガッカリする必要もないのです。
実際に、筆者も子どもと一緒に療育に通い始めて、すでに7年の月日が経ちました。
長期の療育となっていますが、これまでも療育にサポートしてもらいながら、ゆっくりではあっても、子ども自身のペースで成長していることを確かに感じることができています。
急がず、焦らず、療育を続けることが、子どもの成長に繋がっていくのです。
療育で子どもの課題を見つけよう
療育は、特性や傾向を見極めながら発達していくための課題を見出す場でもあります。
課題は発達や成長によって変わりますが、数ヶ月ごとに療育内容やサポートのプランを立てて、その時、その時の課題を見極めながら療育を進めていきます。
療育プランは必ず親御さんにも説明があるので、指導員の先生と一緒に子どもの課題を見つけることができますよ。
もちろん、その課題は、日常生活においても大切なポイントになります。
子どもが悩んでいることや課題をほんの少しだけ先回りして見つけておくだけで、子どもの発達や成長が立ち止まらないように見守ることができるようになるでしょう。
また、その時の課題に合わせてスムーズにサポートすることができるようになるため、親御さんの負担も大きく軽減するはずです。
療育はさまざまな発達障害や特性を知る貴重な機会
様々な特性や傾向を知ることで、子どもの課題を客観的に見ることができる
療育を受けていると、様々な特性の子どもと出会うため、親御さんでも気付きにくかった特性を知ることができることもあります。
発達障害の特性や傾向は、ひとつではありません。
多動など目に見える特性や傾向もあれば、周囲からは目に見えにくい特性や傾向もあります。
- 周囲からは気付かれにくい特性の子どもと出会う ⇒ 「ちょっと元気がいいくらいかな?」と思っていた特性が際立っていることに気付く
- 目に見える特性の子どもと出会う ⇒ 「少し引っ込み思案で、おとなしいだけ」と感じていた自閉傾向が意外にも強かったことが分かる
発達障害の特性や傾向は一人一人異なるため簡単に比較することはできませんが、自分の子とは異なる特性や傾向を持つ子どもと出会うことで、自分の子どもの課題を客観的に見ることができるようになります。
子どもの特性や傾向、課題に向き合う時はつい感情的になってしまうことも多いものです。
もちろん、それだけ一生懸命に向き合おうとしている証ですが、療育を受けながら、子どもから一歩離れて、冷静に、そして客観的に子どもの課題に向き合っていくことも、とても大切なことなのです。
親御さん同士、子ども同士も「おたがいさま」の心が育まれる
複数人で療育を受ける「グループ療育」になると、異なる特性や傾向だからこその衝突やトラブルも起こる可能性があります。
もちろん、親御さんは心配になると思いますが、子どもにとっては大きな学びの場にもなります。
子ども同士、そして親御さん同士も、お互いの特性や傾向を少しずつ理解しながら、「おたがいさま」と思える時が必ず訪れるはずです。
筆者自身も体験してきましたが、「おたがいさま」と思えることこそが、療育のなかで育まれる成長の一部分といえるでしょう。
教育機関との連携ネットワークを早めに作っておく
療育をとおして教育機関で必要なサポートが明確になる
療育を受けていくと、特性や傾向だけでなく、その時の課題が見えてくるようになります。
そのうえで、幼稚園や学校などの集団生活の中で、どんなサポートが必要なのかもはっきりしてきます。
保育園、幼稚園、そして学校の先生は忙しいうえに、一人で多くの児童を見なくてはなりません。
時には、「特性や傾向をもつ子どもを、どうサポートしたらいいのか分からない」というジレンマを感じることもあるそうです。
必要なサポートが明確になると、先生も対応がしやすくなりますし、子どもの学校生活も過ごしやすいものになるはずです。
子どもの特性を、いわゆる「問題行動」として注意されてしまう前に、療育をとおして見えてきた必要なサポートの情報をできるだけ教育機関と共有しておくことがおすすめです。
筆者は、新学年が始まると、新しい担任の先生に子どもの特性や課題、必要なサポート、接し方などの情報を簡単にでも伝えるようにしています。
特性上、新しい環境は子どものストレスになるのですが、学校側に事前に伝えておくことで、必要なサポートをしてもらうことができています。
療育から得た対応方法で学校でのトラブルを回避できる
集団生活のなかで体験する最大のハードルのひとつが、学校や幼稚園でのトラブルです。
一度トラブルが起きてしまうと、相手の子どもとの折り合いもあるため、学校や幼稚園の先生も対応にとても悩むそうです。
最終的には、学校から連絡が親に入ることもあります。
そんな時は、療育から得たトラブル対処法や乗り越える方法を把握しておくと、学校からの連絡にも冷静に対応できますし、子どもにもトラブルの乗り越え方を伝えることができます。
事前にトラブル時の対応方法を学校と共有しておくと、トラブルが大きくなる前に回避することができますよ。
教育機関の理解を得ることが療育を長く続けるポイント
療育は福祉サービスのひとつでもある「放課後等デイサービス」として利用できますが、療育を受ける時間帯は必ずしも放課後とは限りません。
そのため、療育の予約時間によっては平日になることもあるので、学校を早退、もしくは休むことも必要になってきます。
療育を始める前に、学校側に事情を説明して理解を得ておくことが、療育を長く続けるための秘訣のひとつと言ってもよいでしょう。
療育施設は信頼できる施設を慎重に選ぶ
療育施設の情報は自治体の福祉課や発達相談センターなどに相談
専門医からの診断があっても、病院などの医療機関で行っている療育をそのまま受けられるわけではありません。
医療機関での療育はすでに定員に達していることも多く、民間の療育施設で療育を受けなくてならない時もあります。
そのため、医療機関で療育を勧められたとしても、親御さんは自分で療育施設の情報収集から始めなくてはならなくなります。
そんな時は、役所の担当課や発達相談センターなどに相談してみましょう。
民間の療育施設の情報を得ることができます。
筆者も、子どもの診断時に病院内での療育と並行して、民間施設での療育も勧められました。
当時はどうやって探したらよいのか分からなかったので、役所で手帳を申請する際に、「療育施設の情報を知りたい」と相談すると、民間療育施設の一覧表を渡してもらえました。
利用したい療育施設は必ず見学して確かめる
利用したい民間療育施設の候補が決まったら、必ず子どもと一緒に療育施設を見学して確かめるようにしましょう。
見学は、療育施設に問い合わせれば可能な日時を案内してもらえます。
療育を始める前の事前確認は、個別療育、グループ療育を問わず、これから療育を続けるためにはとても大切なことです。
実際に療育に通う時間、療育施設の雰囲気や療育スタイル、スタッフの対応、料金などは施設によって違います。
そのため、必ず複数の療育施設を比較しながら、子どもだけでなく、親御さんに必要なサポートを提供してくれる療育施設を選ぶようにしましょう。
特に、子どもと療育施設の相性は、療育を続ける上でとても大切な要素。
療育施設の雰囲気や療育スタイルが子どもに合っていれば楽しく療育を受けることができるので、親御さんにとっても子どもの発達や成長をより実感できるはずです。
療育施設の利用、継続の決定は子どもの成長を見ながら冷静に判断する
放課後等デイサービスを提供する民間の療育施設が急速に増えたため、以前と比べ、療育施設を複数の中から選ぶことができるようになりました。
サポートが必要な子どもや親御さんにとっては、療育を利用できる環境がこれまでより整ってきたと言えるでしょう。
しかし、発達のスピードはゆっくりであっても、子どもは確実に成長をしており、時には、サポートを定期的に受けなくても、日常生活や集団生活にある程度なじめるようになってくる場合もあります。
その時は、療育を終了することも視野に入れることも選択肢のひとつです。
もちろん、療育のスタイルを変えながら、療育を継続することもよいでしょう。
ただし、療育を継続するのも、終了を決めるのも、親御さんの決断によるところが大きくなります。
筆者も、担当医と相談しながら、子どもの発達によって療育スタイルを変え、また利用する施設も都度変えてきました。
おかげで、いまの子どもの成長に合った療育を受け続けることができています。
まとめ
身構えてしまいがちな療育ですが、心構えは大きくわけて下記の5つだけです。
- 療育は発達障害の特性や傾向に向き合えるチャンス
- 療育は子どもの発達をサポートする場所
- 療育はさまざまな発達障害や特性を知る貴重な機会
- 教育機関との連携ネットワークを早めに作っておく
- 療育施設は信頼できる施設を慎重に選ぶ
親御さんがブレない心構えを常に持ち続けることで、いつの日か振り返った時に、「あの時、療育に通って良かった」と思える療育を受けることができます。
悩まずに早期療育をスタートしたら、じっくりと腰を据えて療育を続けることが、なによりも子どもの成長に大切なことなのです。
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