「みんなの学校」が教えてくれたこと 学び合いと育ち合いを見届けた3290日

「みんなの学校」が教えてくれたこと 学び合いと育ち合いを見届けた3290日
【著者】大阪市立大空小学校 初代校長 木村泰子著
【amazon評価】★★★★★★★★

「どんな個性を持った子どもでも、みんなが同じ場で学ぶ」これは、ここ最近推進されているインクルーシブ教育ととても近い概念で、教育現場としてとても理想的なかたちです。

しかし、そのような言葉を校内で使うこともなく、特別な研究指定校というわけでもないのに、その取り組みが大きな話題となった小学校があります。

大阪市住吉区にある公立小学校「大阪市立大空小学校」です。

初代校長を務めた木村泰子さん、教職員が掲げた理念のもと「みんながつくる、みんなの学校」を目指し、公立としてはめずらしい校風で、特別支援学級とされるものはありません。

そして、開校から六年後の在籍児童数220名のうち、特別支援の対象となるはずの30名も、すべて同じ場で学び合うことを実現したと記されています。

この本には、この大空小学校で過ごした子どもと先生の記録が詰まっています。

「支援をすべき子は日々変わる」という意識は教育現場としてごく当たり前に思えますが、実現するのは難しいことです。

その問題意識が全教員にしっかりと貫かれていて、他の地域では厄介者とされていた生徒が自分の力、周りとの関りで変化していく姿には思わず涙がこぼれてしまいました。

「自分がされていやなことは人にしない。言わない」という、たったひとつの約束があるだけで、その他に校則はありません。

この約束を破ると「やり直しの部屋」と呼ばれる校長室に行き、先生と真っ裸の心でぶつかりあって、子どもなりに気づきを得て、またひとつ大きくなって翌日から自分に立ち向かっていくのです。

どことなく、サリバン先生とヘレンケラーを想起させる関係性だと感じました。

たくさんのエピソードを読んでいると、支援のいる子どもでも学ぶ権利や気づき合う力があり、偏見を植え付けているのは一般論にとらわれている大人や世間なのかもしれないと強く思わされます。

しかしながら、他の公立学校でここまで特化した支援が実現できるのかという点はとても難しい課題です。

保護者がいくらこのような教育を望んでも、校長及び教職員が子どもや物事の本質を見抜く力が備わってなければ、オーダーメイドともいえる大空式学校づくりは難しそうです。

特に公立の教職員は四月には他校に赴任してしまう場合もあり、またその異動については実際に四月に入るまで保護者や生徒には伝えられないことが一般的で、どの学校でも一学期の特別支援学級は混乱する傾向があるように思います。

これは、校長が変わることも含め、通常学級でも同じことが言えると感じています。

人員が変わっても新入生が入って校内のバランスが変わっても、教職員の質にどんなばらつきがあっても、この大空式の良い所を小さなことからでも着実に実施していける方法の整理、行政の介入、教育現場の学習…日本の閉ざされた義務教育は、そろそろ変化しなければなりません。

このような子どもの個性を尊重できる学校を作るために必要なことは何なのか?本当に公立学校では実現できないことなのか?学校任せで教育に浸かるのではなく、保護者もともに考え、提案し、より良い育ちを子どもに還元できる環境を作っていく変革段階に入っていかなければいけないのではないかと感じました。

教育者が失敗から学ぶ志も、なかなか長く現場にいたら忘れたり、薄れたりしてしまうものかと思いますが、子どもの権利を守る情熱を持ち続けてくれる教育者が、日本に増えることを願いたいです。

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