今回は、障害を乗り越えて生き抜くために大事なお金(助成金)のお話をします。
子どもが発達障害と診断されると「特別児童扶養手当」の申請が可能となります。
この助成金の使い方次第で、子ども、親御さんの双方が生きやすくなり、子どもの未来に備えることができます。
申請方法、手当の使い方、成人期以降の準備へ向けて何をしたらよいかお伝えします。
発達障害児に未来を見通す支援を
親御さんが一番不安に感じることは、お子さんの未来についてでしょう。
筆者は様々な世代の発達障害児・者への支援経験から、人生のどの段階で躓きが起きやすいかも知っています。
どんな未来を作るにしてもお金が必要ですね。
下記から、支援に使えるお金、「特別児童扶養手当」について詳しくお伝えします。
特別児童扶養手当とは
「特別児童扶養手当等の支給に関する法律」があり、「精神または身体に障害のある児童の福祉を増進するために支給される手当(厚生労働省)」とされています。
障害のある子どもを育てる場合、その子の福祉の向上のために必要な物やサービスを利用するとお金がかかるため、国が手当を払うという制度です。
法律に示されているように手当の受給は国民として当然の権利であるため、発達障害児を育てる親御さんは特別児童扶養手当を受給できる可能性があります。
支給要件
特別児童扶養手当は障害のある子ども自身にではなく、親御さんに支給されます。
さらに、1級と2級に分けられます。
1級は障害が重複している場合や程度が重い子どもに付与されるため、発達障害のみの診断名では2級と判定される可能性が高いです。
また、特別児童扶養手当独自の判定基準があり、身体障害者手帳、療育手帳の判定基準とは異なります。
筆者の自治体では、普通学級に通っている子どもでも申請が通っています。
該当しないと諦めず、申請を出してみてください。
申請の流れと手当の額
申請時役所に持ち込む書類
- 市町村窓口にある認定請求書
- 障害認定診断書
- 戸籍謄本
- 住民票
1)と2)は公的書式になりますので、役所の窓口に取りに行く必要があります。
以上をお住いの市町村の児童福祉担当窓口に出してください。
【注意】添付書類は公布の日から一か月以内のものに限ります。書類が揃い次第申請するのを忘れないでください。
📌申請手続きの流れ
- 役所訪問、「認定請求書」と「障害認定診断書」の書式をもらう
- 児童相談所(かかりつけ医)に障害認定診断書の記入を電話で依頼
- 心理検査と診断書もらうために医療機関(児童相談所)を2度訪問
- 「認定請求書」「障害認定診断書
- を役所に持参、その際戸籍謄本、住民票を交付してもらう。必要書類を窓口へ申請
- 各都道府県で審査
- 判定結果をもとに手当証書が作成
- 手当証書が届く
申請後支給の通知には三ヶ月前後かかります。
申請の際、親御さんに心がけていただきたいのは、市町村担当窓口の職員や医師には、礼儀正しく振舞うことです。
このような申請物は公正なのはもちろんのことですが、診断書の書き方と、市町村の職員が支給に有利に動いてくれるかにもかかっているからです。
手当の額
- 1級…月額51,000円
- 2級…月額34,000円
おおよそ一度に4か月分が支給され、年3回に分け、指定した口座に振り込まれます。
どこの医療機関で診断してもらうか
すでにかかりつけ医がいる人以外は、児童相談所に問い合わせてください。
なぜなら、医療機関は書類作成に1件3,000円程かかりますが、児童相談所は無料だからです。
※注意として、児童相談所によって特別児童扶養手当の診断を受け付けていない場合、療育手帳取得の為の診断書と兼ねて作成してくれる場合と様々ですから、お住まいの児童相談所に確認しておいてくださいね。
特別児童扶養手当の支給が停止される場合
✓所得制限
障害のある子ども自身に一定額以上の収入がある場合と子どもが結婚した場合、その配偶者に一定額以上の収入がある場合、子どもの養育者に一定額以上の収入がある場合には、手当の支給が制限されます。
出典:厚生労働省
扶養する親御さん、または子どもの配偶者の所得が約630万以上(収入にして約830万)あると支給されません。
両方とも扶養する親族の数によって所得額(収入額)が変わります。
また、子どもに収入があるとは考えにくいですが、例えば18歳で就職した会社から年間650万の給与が支払われると支給されません。
✓児童福祉施設入所
親御さんに不測の事態が起こり、やむを得ず子どもを児童福祉施設に入所させる際は手当が支給されません。
✓子どもが公的年金を受給する場合
不慮の事故等で親御さんが亡くなると、子どもの障害の有無に関係なく遺族年金が支給されます(遺族年金には各種受給要件があります)。
遺族年金は一般的に子どもが高校を卒業するまで支給されますが、障害がある子どもの場合、20歳になるまで支給されます。
その代わり遺族年金受給に伴い、特別児童扶養手当の支給がされません。
手当の支給決定後必要な事と注意点
✓2年に1度更新が必要
2年に1度、医師の診断書の提出が必要です。
更新手続きの案内が市町村から送付されますので、必ずチェックしておくようにしてくださいね。
更新手続きのための受診は非常に込み合い、また、診断書を手に入れるにはさらに時間がかかります。
早めに医療機関(又は児童相談所)の予約することをおすすめします。
✓毎年所得状況届の提出が必要
「所得状況届」とは、受給する親御さんの所得が一定以下の事を確認するために必要な書類です。
✓子どもと別居しても受給できる
親御さんが転勤で子どもと別居する場合や、子どもが特別支援学校の寄宿舎で生活する場合には「別居監護」の申請をすることで手当の支給を継続できます。
申立書と学校長の在学証明書が必要ですので、確認して提出してくださいね。
✓診断からさかのぼって受給できない
申請日より前の手当を請求することはできません。
発達障害は生まれつきの障害ですが、申請日の翌月からの支給になります。
特別児童扶養手当の今後の見通し
平成29年度の物価水準から、0.5%の引き上げとなりました。
平成30年度の手当支給額に反映されます。
これは物価が反映されただけで、支給額の増額とは厳密には言えません。
社会保障費抑制のため、これらの手当はいつでも減額される可能性があります。
また、成人年齢が18歳に引き下げられることで、手当の支給年齢も引き下げになる可能性があります。
そのため、申請しようと思っている場合はなるべく早めに申請することをおすすめします。
特別児童扶養手当の使い方
支給された助成金の有効的な使い道として発達障害児が過ごしやすくなる道具を紹介します。
✓ノイズキャンセリングヘッドホン
聴覚過敏で乗り物に乗れない、人の多いところに行けないお子さんにオススメです。
聴覚過敏の子どもたちは私たちが気づかない音が聞こえるために、疲れやすく、不安が強くなる傾向が知られています。
気になる音の例として、機械のモーター音、乗り物が空気を切る音、雑踏の中での足音などがありますが、ノイズキャンセリングヘッドフォンによってある程度遮断することができます。
このヘッドフォンを使用することによって飛行機や電車に乗ることができたり、ショッピングモールなどの人の多い場所にも行けたりするのです。
✓縫い目のない肌着
縫い目の感触が苦手で、なかなか肌着を着用できない発達障害児もいます。
パンツを履く、履かないで朝から子どもが騒ぐと親御さんもぐったりとしてしまいますよね。
インターネットショップを上手に利用することで、縫い目がない靴下、肌着など(海外の製品が多いです)を買い揃えることが可能です。
✓シンプルな机
視覚刺激に弱く、注意が散漫になりがちな子もいます。
落ち着いて勉強するためには、何の飾りもないシンプルな机が向いています。
このタイプの子どもに、誘惑の多い場所であるリビングでの学習は向いていません。
子どもが20歳になったら
子どもが20歳になったら特別児童扶養手当の支給は終了します。
発達障害のみの診断で20歳以降受給できる手当はありません。
障害のある人は20歳を過ぎると障害基礎年金が受給できますが、発達障害のみの診断で障害基礎年金の受給は難しいため、幼少期から自立を目指した準備が必要です。
他には特別障害者手当がありますが、常時介護を必要とする重度障害者に限られます。
💡精神障害者保健福祉手帳取得を視野に
発達障害があると、精神障害者保健福祉手帳が取得できます。
年齢に制限はなく、税の減免や交通費の割引があり、また、就労の選択肢(障害者就労の選択肢)が広がります。
一般企業が募集する障害者就労は、精神保健福祉手帳などの手帳の取得を条件にしているところがほとんどです。
手帳の取得は人に知られることはありませんし、就労の選択肢が広がる点にメリットを感じられたら、取得をおすすめします。
自立に向けた準備
自立とはつまり就労です。
義務教育課程を終えると、発達障害児に対する支援はほとんどありません。
そのため、就労に必要なスキルとその身につけ方を、親御さんが家庭で取り入れやすい形で提案します(参考「梅永雄二(2014)発達障害者の就労支援 23号 LD研究)。
身だしなみ
発達障害児は人の気持ちを想像することが難しい為、他人からどう見られているかを考えて整える身だしなみも身につけるのに時間がかかるスキルのひとつです。
親御さんが理屈で説明するよりは、身だしなみのチェックをルーチン化すると楽になりますよ。
「気温20度以下は長袖を着る」「21度以上は半袖を着る」と決めます。
身だしなみのチェックポイント表を作り、鏡の横に張り出すことも有効です。
時間の管理と余暇の使い方
5分前行動を習慣にします。
忘れ物が多い子どもは誰かに借りる、取りに行ける、など、失敗への対処を織り込んだ余裕のあるスケジュールを組みます。
失敗がある前提でスケジュールを組むほうが、子どもと周囲の負担は少なく、本人に余裕が生まれます。
また、昼休みや夕方、土日の使い方を親子で決めておきましょう。
音楽を聴く、映画を見に行くなど、気分転換になる物を準備して実行します。
発達障害児は自分の体調に配慮できないことが多いため、休むこともルーチンにしてしまうことが大切です。
日常的な家事労働を行う
家庭の中で料理、掃除など段取りから教えます。
例えば料理の場合、手を洗う、冷蔵庫から素材を出す、皮を剥く、切る、炒める、水100cc入れる……という具合に、言語化し、メモで可視化できるといいです。
字幕付きの動画を見せて教えると、親御さんの負担も少ないためおすすめです。
対人関係
職場でもっとも必要とされるスキルですので、詳しく紹介します。
- 職場に来た際の「おはようございます」、職場を出る際の「失礼します」の挨拶を行う
- 職場内で上司・同僚にあったときにお辞儀をする、「お疲れ様」と挨拶をする
- 職場で働く上司・同僚に不快感を与えない言葉遣いをする(敬語を含む)
- 行わなければいけない仕事を確認する
- ミスをしたら素直に謝る
- わからないことは質問する
- お礼を言う
- トイレなどに行かなければいけない場合は許可を得る
- やむを得ず遅刻・欠勤をする場合には連絡を入れる
- 職場のマナーやルールに従う
どれも当たり前のことですが、発達障害児は言葉で教えられないとわからないことが多いのです。
紹介したスキルを子どもに教えなかったために、職場で孤立してしまうのはとてももったいないことですよね。
一つ一つ声に出して、文字や絵で表して、子どもに教えていきましょう。
5~8番目のスキルは学校生活でも役立ち、過ごしやすくなります。
金銭管理
決まった額のお金を何に使うか計画を立てます。
レシートを取っておいて家計簿をつけることもよいですし、家計簿アプリの利用もオススメです。
子どもが赤字になってしまう経験を積む事が必要です。
数ヶ月繰り返すと、毎月決まった出費があることに気がついて、未来の出費に備えることができます。
その時初めて貯金の必要性に気がつきます。
性教育
最後は筆者の提案です。
性について学ぶことで以下のトラブルを防ぎます。
- 意味もわからず異性と二人きりで個室へ誘われることを了承してしまう
- 性行為が優しくしてくれることだと思い違いをしてしまう
- 好きな人にしつこく連絡する、つきまとう、接近しすぎる
- 優しくしてくれたことを好意と勘違いする等
これらのトラブルを防ぐために、思春期の身体の変化、生殖機能の違い、触れたり見せたりしてはいけない部位、好意とはどんな行動か、などを出来るだけ具体的に説明します。
その際に、性教育の本を使うこともおすすめです。
まとめ
特別児童扶養手当の申請方法をお伝えしました。
子どもの自立に向けて、今から準備できることはたくさんあります。
一度で身につくことは難しくても、何度も繰り返すうちに習慣化していきます。
後半で紹介した身だしなみ、家事、対人関係のスキルを磨いていくと、就労はもちろん結婚も考えていけますよ。
発達障害だからと諦めず、可能性を広げる支援をしていくことで親子共に豊かな人生にすることができます。
そのために上手に手当を使いましょう。
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